2023-10-12 10:35

【朗読】#14 遠征メシ

週も後半。ちょっと疲れたなあ、そんなときこそひとやすみ。喫茶クロスロードでは毎週木曜日、月ごとのテーマに沿ったエッセイ朗読をお届けしています。/今月のテーマは「食欲の秋」腹が減っては推し活もできぬ。今日は、趣味を支える大切なごはんの話「遠征メシ」/ 書き手:かおりくん/語り:虹

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スピーカー 1
カランコローン、いらっしゃいませ。
喫茶クロスロードへようこそ。
いよいよ週も後半。
ちょっと疲れたなぁ。
今週もなんだかバタバタしていたなぁ。
スピーカー 2
そんな気持ちが膨らんでくるころではないでしょうか。
スピーカー 1
そんなときこそ、ひと休み。
スピーカー 2
ここでのんびりしていきませんか。
スピーカー 1
喫茶クロスロードでは、毎週木曜日、
スピーカー 2
月ごとのテーマに沿ったエッセイ朗読をお届けしています。
スピーカー 1
今月のテーマは、【食欲の秋】
腹が減っては、おしかつもできぬ。
今日は、かおりくんの趣味を支える大切なご飯の話を、
私、にじがお届けします。
それでは、どうぞ。
スピーカー 2
遠征飯
スピーカー 1
かおりくん、私はフィギュアスケートを見るのが大好きで、
海上に足を運んで、現地観戦するのを何よりの楽しみとしている。
日本全国どこまでも、ときには海を越えて海外まで遠征することもある。
そして、遠征先では、その土地でしか味わえないお酒や食事を、
遠征飯と名付け、観戦と同様に楽しんでいる。
そんな私の遠征飯を紹介する前に、
ここで、フィギュアスケート観戦時における個人的な夕食事情を説明したい。
テレビ中継を見てもらえればわかると思うが、
スピーカー 2
観客は8割以上が女性である。
スピーカー 1
制標時間にみんなが一斉にトイレに向かうため、
トイレに並んでいる間に試合が再開してしまうこともザラだ。
私は、すべてのスケーターの演技を堪能したいタイプのスケートオタクなので、
スピーカー 2
トイレに並ばずに済むように、朝から水分摂取を最小限に控えている。
スピーカー 1
合間に軽食でカロリーを補給するが、会場を後にする頃には、
喉の渇きと空腹は限界ギリギリ。
03:01
スピーカー 1
その分、夕食への期待値は普段の比ではない。
グルメサイトで評判のお店もいいが、遠征飯では、
なるべく地元の人が通っていそうな個人経営へのお店を探し、
カウンターに一人で座るようにしている。
そこで料理人さんや隣に居合わせた地元の人に
おすすめの地酒や地魚などを教えてもらい、会話と一緒に食事を楽しむ。
料理や人の偶然の出会いも遠征飯の醍醐味だ。
私が遠征飯を楽しむようになったきっかけは、
札幌の歓楽街、鈴木野にある小さなお寿司屋さんだ。
その日は長年応援してきた選手が初めて日本一になった記念すべき日でもあったので、
スピーカー 2
お寿司で祝賞会をすることにした。
お寿司屋さんで食事をするときは、最初にお刺身を食べながら生ビールを飲むのが好きだ。
スピーカー 1
その日は好物である白身魚や貝のお刺身を出してもらったのだが、
スピーカー 2
この上なく美味しかった。
スピーカー 1
ボーナス支給後に銀座の寿司屋で奮発したときより美味しかった。
スピーカー 2
長時間にわたるスケート観戦で心身ともに冷え切っていた私は、次に厚缶を注文した。
スピーカー 1
甘くて歯ごたえのあるホッキ貝をあてに飲む厚缶は最高だった。
スピーカー 2
ますます気分がよくなった私は、生まれて初めて板前さんにおまかせして思う存分お寿司を食べた。
スピーカー 1
甘くとろけるウニ、
驚くほどみずみずしいホタテ、
見たことがないサイズの小餅ボタンエビ。
ボタンエビの頭は焼いてもらったのだが、これも厚缶のいいお友となった。
マグロは銀座に一番いいものが集まるから東京で食べたほうがいいという板前さんの助言を受けて、
大トロを除く高級なネタを片っ端から食べつくした。
スピーカー 2
しかしこの日一番の衝撃は贅沢の限りをつくした晩餐が想定していた金額の半分ほどで済んだことだった。
いろいろな意味で幸せな一日となった。
スピーカー 1
北海道での遠征飯に味をしめた私は、その後も行く先々でさまざまな出会いを楽しんだ。
06:08
スピーカー 1
福岡ではカウンター席で隣に座ったおっちゃんとその隣のお姉さんと息統合して三人でイカ刺しを食べに行った。
名古屋ではカレーうどん屋で隣り合ったサラリーマンと会話が弾み、おごってもらった。
中国では地下鉄の改札口から出られず立ち往生していたところを学生さんに助けてもらい、無事にシャンハイガニを食べることができた。
スピーカー 2
スペインではふらっと立ち寄ったスイーツ店でドラゴンボール好きの店員さんとカメハメハを打ち合って遊んだりもした。
遠征飯の楽しくもおいしい思い出は数多あるけれど、その中で一番思い出深いものを問われたら間違いなく韓国で食べたコンビニ弁当だと答えたい。
スピーカー 1
その日は昼前から試合が始まり、終わったのは夕方ごろ。
スピーカー 2
休憩する間もなくメダルジオセレモニーを見に行くためにバスに飛び乗った。
バスは同じ目的地に向かう車両の波にのみこまれてしまい、ほとんど身動きがとれなくなった。
スピーカー 1
このままでは間に合わないと判断し、最後はバスを降りて会場まで走って駆けつけた。
セレモニーを見届けて無事にホテルの自室に戻った頃にはすでに夜9時過ぎ。
体力を使い果たした私はホテルのそばにあるコンビニでお弁当と缶ビールを購入した。
2018年2月17日。
長きにわたって応援し続けていた選手がオリンピックでの2連覇という偉業を達成した日。
私はヤンニョムチキンを頬張りながら10年もの間彼の活躍を見届けることができた幸運をかみしめていた。
スピーカー 2
金メダリストになる瞬間を二度もこの瞳に焼き付けることができたという事実に酔いしれながら飲むビールも今までに味わったことのない特別なものだった。
子供を産んでからはフィギュアスケート観戦時代から遠ざかっているが、いずれ子供が成長したら遠征飯の新しい思い出を増やしに行くつもりだ。
09:09
スピーカー 1
長いブランクはきっと最高のスパイスになる。
これまでとは一味違う遠征飯に出会える日が今から待ち遠しい。いかがでしたか?
さて、名残惜しいですが閉店のお時間です。
今後も喫茶クロスロードはあなたがほっこりした時間を過ごせるよう、毎週月曜日と木曜日、夜21時よりゆるゆる営業していきます。
スピーカー 2
それでは本日はお越しいただきありがとうございました。またお待ちしております。
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