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カランコローン、いらっしゃいませ。喫茶クロスロードへようこそ。
いよいよ週も後半。ちょっと疲れたなぁ。今週もなんだかバタバタしていたなぁ。
そんな気持ちが膨らんでくる頃ではないでしょうか。
そんな時こそ、ひと休み。ここでのんびりしていきませんか?
喫茶クロスロードでは、毎週木曜日、月ごとのテーマに沿ったエッセイ朗読をお届けしています。
今月のテーマは、【スイート&ビター】
今日は、ゆきの中国の出張先で味わった甘くて苦い経験を、私、虹がお届けします。
それでは、どうぞ。
甘い小籠包
ゆきの中国出張
ゆき、社会人三年目のとき、はじめて海外出張に行った。
行き先は、中国の上海郊外のとある町。
私は大学で中国語を学んでいたので、会社に入ってからも、「中国語を使う仕事をしたい。」と周りにアピールし続けていたのだ。
上海の空港に降り立つと、独特の匂いがした。
目に映る何もかもが新鮮で、今の私なら撮らないであろう様々な風景が写真に残っている。
路上の物売りや、公園や広場でダンスしている中高年。
埃っぽい街並み。
現地に到着した日は、お客様が出迎えてくれて、日本料理屋でお寿司を食べさせてもらった。
海外でお寿司を食べるのは初めてだった。
ガイドブックには、「海外で生物を食べてはいけません。」と書いてあるのをよく見かけるのに、普通に食べている人を目の当たりにして驚いた。
それ以上に、お寿司がおいしくて驚いた。
二次会は激しい飲み会で、一緒に出張に来ていたリーダーが酔いつぶれてしまい、初日から不安になった。
翌日からは普通に仕事をして、夜はお客様が気をつかってご飯に連れて行ってくれた。
ご飯なんだけど飲みの量もすごくて、リーダーは毎回つぶれる寸前でかわいそうだった。
さすがに私まで飲まされることはなかったのだけど、出張中にお腹をこわしたり風邪をひいたりはした。
仕事はチャレンジングだった。
お客様先に上昼するという状況なので、常に気を張っている。
工場の稼働日に合わせて土曜日に出勤することもあった。
十分に中国語を勉強して行ったつもりだったのに、現地に行ったら通じないこともあった。
話すことを整理して、使う単語はすべて調べて行って、事前に練習もしていたのだけど、プレゼンが通じず。
あなたが言っていることがわからないので日本語で話してくださいと言われたときにはさすがにへこんだ。
向うも悪気があるわけではないとわかっていたし、私が中国語を使うことが仕事の目的ではないので、どの言語で話をしてもいい。
それでも中国語ができる人材としてわざわざ出張に来ている身なのに、プレゼンがうまくできなかったというのが悔しくてならなかった。
日本に一度も行ったことがないのに、日本語がぺらぺらだという中国人がごろごろいて、語学力だけではとてもかなわないと悟った。
私には知らないこと、できないことがたくさんあった。
それでも周りの人に教えてもらいながら、できることをこつこつとふやしていった。
仕事面では成長できたという実感を持てた。しかし恋愛面はさっぱりだった。
現地に友達がいるわけでもなく、仕事終わりに一緒に食事に行く相手は出張仲間か駐在員。
たいていは四十代、五十代のおじさまだ。
週末に町をぶらついて、鼻毛がぼうぼう出ている中国人大生に声をかけられることはあったが、射程圏外だった。
日本にいる友人たちは、彼氏ができたとか結婚するとかいうステージにいるのに、私はここで仕事だけしている。
人生の階段を着実に登っていく友人たちと自分を比べてしまい、むなしくなることもあった。
そんなある日、リーダーを誘ってガイドブックに乗っている地元の名店に行くことにした。
甘い小籠包
仕事終わりにタクシーでお店に向かい、名物の小籠包とワンタンを注文した。
料理が出てきて、わくわくしながら食べてみると、
え?あれ?甘い。小籠包が甘い。
世の中にはあんこやチョコレートが入っているスイーツ系の小籠包もあるらしいが、そういうものではない。
肉が入っているごくごくふつうの小籠包なのだが、甘いのだ。
はっきり言って、おいしくない。
関係者の方がこのポッドキャストを聞いていたら申し訳ないが、小籠包は甘くないほうがいい。
しばらく無言で咀嚼したあと、
小籠包よりワンタンのほうがおいしいね、とリーダーがぼそっとつぶやいた。
同感だった。
でもなんやかんやと文句を言いながらもおのかがすいていたので結局は全部食べた。
お店のまわりはちょっとした繁華街でライトアップされたお寺がきれいだった。
ガイドブックにのっているお店で食事をしてまわりの景色を楽しむ。
仕事の苦労をいっとき忘れ観光客になったかのような平和な時間だった。
ここで外国語を使って海外で仕事をしている人が書いた本を紹介したい。
伊藤雄馬さんの村振り
吉岡昇さんの現地嫌いなフィールド学者各語りき
お二人とも消滅しそうな言語の調査をしているフィールド言語学者だ。
外国語を勉強していた私にとって言語学者というのは憧れの存在だ。
二冊とも一風変わった旅行記のようでもあり楽しく読ませていただいた。
敵地に赴いて言語のデータを集めて論文にまとめる。
現地ではさまざまなトラブルににまわれる。
彼らの苦労話を読んでいると私が経験したことは、
所詮はオビスという整えられた空間で起きた小さな出来事なのだと感じる。
そしてこれくらいはがんばろうと思える。
こんなふうに本に励まされることも多い。
いかがでしたか。
さて名残惜しいですが閉店のお時間です。
今後も喫茶クロスロードはあなたがほっこりした時間を過ごせるよう、
毎週月曜日と木曜日夜21時よりゆるゆる営業していきます。
それでは本日はお越しいただきありがとうございました。
またお待ちしております。
ご視聴ありがとうございました。