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2023-12-14 10:22

【朗読】#22 贈り物は魔法の杖

週も後半。ちょっと疲れたなあ、そんなときこそひとやすみ。喫茶クロスロードでは毎週木曜日、月ごとのテーマに沿ったエッセイ朗読をお届けしています。/今月のテーマは「おくりもの」。今日はクリスマスプレゼントにまつわるエッセイ「贈り物は魔法の杖」/ 書き手:翠/語り:セイ

00:04
スピーカー 1
カランコローン
いらっしゃいませ。喫茶クロスロードへようこそ。
スピーカー 2
いよいよ週も後半。ちょっと疲れたなぁ。
今週もなんだかバタバタしていたなぁ。
そんな気持ちが膨らんでくる頃ではないでしょうか。
そんな時こそ一休み。ここでのんびりしていきませんか。
スピーカー 1
喫茶クロスロードでは、毎週木曜日、月ごとのテーマに沿ったエッセイ朗読をお届けしています。
今月のテーマは【贈り物】
今日は、12月のとっておきの贈り物にまつわる推のエッセイを、私、SEIがお届けします。
それでは、どうぞ。
贈り物は魔法の杖。
12月25日の朝、小学生の私はプレゼントを見て、ごっそり泣いた。
スピーカー 2
将来の夢は魔女だったあの頃。
魔女図鑑という本を読み込んで、魔女に本気でなろうとしていた。
だから、どこにも売っていない、どうやっても手に入れられない魔法の杖をサンタさんにお願いしたのだ。
朝早く起きると、プレゼントが置いてあった。
サンタさん、来たんだ。
スピーカー 1
そのプレゼントの山に放送された長細いものを見つけた。
スピーカー 2
本当にサンタさんに手紙は届いたのかな。
本物か偽物か。
少し中身を見るのが怖いような、早く見たいような、そんな興奮。
スピーカー 1
家族は誰も起きてきていない。
スピーカー 2
縦長のプレゼントにかかるリボンをそっとほどいて放送紙を開けると、
出てきたのはオレンジ色のプラスチックケースに入った細くて白い棒。
端にはコルクの持ち手がついている。
スピーカー 1
なんだこれ。
スピーカー 2
もし偽物なら、おもちゃの魔法の杖が来ると思っていた。
スピーカー 1
それこそアニメに出てくるような。
スピーカー 2
今目の前にあるこれは子供向けのおもちゃではなさそうだけど、
スピーカー 1
見た目は本物の魔法の杖っぽくはない。
一緒に入っていた手紙には英語の筆記体で何やら書かれていた。
03:05
スピーカー 2
起きてきた父に手紙に何と書いてあるのかを聞いた。
これは式棒です。
魔法をかけるようにこれで音楽を紡いでくださいね。
音楽は時に魔法ですから。
サンタより。
その時の父の顔は覚えていない。
父の台読を聞いて私は、
これ式棒なんや。初めて本物さわったわ。
と明るく言ったけれど、
本物の魔法の杖が届かなくてしんそこかっかりしていた。
魔法の杖ならぬ式棒と、
サンタからの読めない英語の手紙を握ったまま、
私は一人部屋の隅でこっそり泣いた。
サンタさんでも本物が届かないということは、
魔法の杖はやっぱりないんだ。
嘘なんだ。
魔女になりたいのに式棒なんて何の役にも立たないじゃないか。
魔女になってきっとなれないんだ。
こんなんだったら何もないほうがよかった。
いや、やっぱり普通におもちゃを頼めばよかった。
大人になった私が唯一覚えているサンタさんからのプレゼントは、
この式棒。
いや、魔法の杖だ。
私は今、5歳の子を持つ親になった。
サンタさんの存在なんて知らずにクリスマスを過ごしていた息子は、
暇や年がら年中サンタさんを待ちあび、
欲しいものを見つけるとすぐ、
サンタさんにお願いしようと言い出す。
リクエストをもらって贈る。
スピーカー 1
相手にサプライズで選んで贈る。
スピーカー 2
どちらにせよ、プレゼントを選び贈るほうは大変だ。
贈り物を準備しなければいけないし、
知恵を絞って、想像力を働かせて、
一番喜んでくれるだろうと思うものを選んで贈るのだから、
私に魔法の杖をリクエストされたサンタは、
さどかし困り果てただろう。
音楽は魔法のようなものだと気づいたとき、
スピーカー 1
これだと思ったに違いない。
スピーカー 2
まさか贈ったことで泣かれるなんて思わずに、
あの日クリスマスプレゼントは、
スピーカー 1
サンタさんからの色望だけではなかった。
06:00
スピーカー 2
私の両親からのギフトとして、
本が一つサンタさんからのプレゼントの横に置かれていた。
私の両親からのクリスマスプレゼントはいつも本と決まっていて、
誕生日もクリスマスも必ず本が一冊以上は贈られた。
そうして節目で贈られた本は、
裏拍子の内側に日付と私の名前、
何のタイミングで贈った本なのかがマジックで書いてある。
親から節目で贈られる本について、
当時の私はメインのプレゼントのおまけのように思っていて、
もらった本は読むけれど、特に気にも止めていなかった。
正直、自分では選ばない本ばかりで、
お気に入りの一冊になったものはあったっけ?
何の本をもらったのかほとんど覚えていない。
今、子供の絵本を選ぶ立場になって、
スピーカー 1
実家のその絵本ギフト習慣を思い出した。
スピーカー 2
贈る側になって、きっとあの節目で贈られていた本たちには、
両親、特に母のいろいろな思いが詰まっていたんだろうなと想像する。
たくさんの本をもらったけれど、
なぜその本を選んだのかを親には一度も聞いたことがなかった。
きっと多かれ少なかれ、それを選んだ理由、贈る理由があったはず。
それを聞いたら、もっと特別な一冊になったかもしれないな。
うーん、でも贈る理由をいちいち言われるのも、
贈られる側にとっては鬱陶しいと思うかも。
贈る理由は、きっと贈る側の中でこそ価値があって、
贈られる側には知ったことじゃない。
そういうことなんだろう。
知恵を絞って、想像力を働かせて、
スピーカー 1
相手が一番喜んでくれるだろうと思うものを選んで贈る。
スピーカー 2
大変だけど、そのプロセスが贈る側にとっての醍醐味で、
スピーカー 1
贈る理由を持ってプレゼントができる相手がいるって幸せなことだ。
スピーカー 2
私が1歳の息子に贈ったクリスマスプレゼントの絵本。
スピーカー 1
この絵本に出てきた一節は真理だ。
スピーカー 2
プレゼントをもらうのも、プレゼントをあげるのも、
スピーカー 1
どちらも嬉しいクリスマス。
09:24
スピーカー 1
いかがでしたか?
スピーカー 2
さて、名残惜しいですが閉店のお時間です。
今後も喫茶クロスロードは、あなたがほっこりした時間を過ごせるよう、
スピーカー 1
毎週月曜日と木曜日、夜21時よりゆるゆる営業していきます。
スピーカー 2
それでは本日はお越しいただきありがとうございました。
またお待ちしております。
10:22

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