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2025-11-06 16:15

#38 宇宙への計算資源展開 ― 「軌道上コンピューティング」時代の幕開け

AIの発展にともない、計算資源やエネルギーの需要が急速に高まる中、地上では限界が見えつつあります。太陽光・冷却効率・環境負荷の観点から、宇宙にデータセンターを構築する構想が現実味を帯びてきました。Googleの「Suncatcher」発表、Starcloud-1の打ち上げ成功、Starlinkの光通信開放、Blue Originの軌道サービス、Axiom Spaceの軌道データセンター。軌道上コンピューティングという新しいクラウドの時代が、いま静かに始まっています。


【参照リンク】


Google Research: ⁠https://research.google/blog/exploring-a-space-based-scalable-ai-infrastructure-system-design/⁠NVIDIA Blog: ⁠https://blogs.nvidia.com/blog/starcloud/⁠Muon Space Press Release: Muon Space to integrate SpaceX’s Starlink mini space lasers — ⁠https://www.prnewswire.com/news-releases/muon-space-to-integrate-spacexs-starlink-mini-space-lasers-into-its-halo-satellite-platform-302589505.html⁠Data Center Dynamics (Blue Origin): ⁠https://www.datacenterdynamics.com/en/news/jeff-bezos-claims-there-will-be-gigawatt-data-centers-in-space-in-10-years/⁠Axiom Space: ⁠https://www.axiomspace.com/release/axiom-space-to-launch-orbital-data-center-nodes-to-support-national-security-commercial-international-customers⁠


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【栗林健太郎とは】

GMOペパボ株式会社取締役CTO、日本CTO協会理事。博士(情報科学、JAIST)。大学卒業後、市役所勤務を経て、2008年よりIT業界へ。2012年よりGMOペパボ株式会社。現在、取締役CTOとして技術経営、新規事業創出に取り組む。2025年3月、博士号取得。インターネット上では「あんちぽ」として知られる。


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サマリー

現代の宇宙における計算資源の展開が探求されています。最近の取り組みとして、Googleリサーチやスタークラウドの衛星が軌道上でAI計算を行うプロジェクトの実証実験に入っており、宇宙での計算基盤の可能性に注目が集まっています。さらに、宇宙におけるデータセンターの構築が現実味を帯びてきており、計算資源の確保やネットワーク構築が進められています。将来的には、宇宙でのAI計算が日常的になる可能性があります。

宇宙での計算基盤の必要性
こんにちは、栗林健太郎です。
このポッドキャスト、情報科学のまわり道では、
情報科学の博士号を持つソフトウェアエンジニアの栗林健太郎が、
好奇心の赴くままにまわり道をした中で見えてきた風景や考えについて語っていきます。
今日のテーマは、宇宙への計算資源展開 ― 軌道上コンヒューティング時代の幕開け、です。
AIの発展に伴って、計算資源やエネルギーの増強がこれまで以上に求められています。
一方で、環境問題や土地利用の制約などから、地上で好き勝手に計算資源やエネルギーの増強、
つまりデータセンターを建てたりとか、発電所をぼこぼこ建てたりするみたいなことは、
なかなか難しいというか、限界があるというのは自明だろうと思います。
併せて、熱制御とか、あるいはエネルギーの生産の効率の面で、
宇宙にコンヒューティング基盤を構築するというのは、合理的なメリットがあり得るわけです。
つまり、地上のデータセンターというのは、排熱の問題とか、あるいは冷却の問題とか、
そういったところで非常に苦労しているわけですし、
あるいは、地上で、例えば太陽光パネルとかで電気を作るにしても、
宇宙で太陽光を使った電力発電みたいなことをする方が効率がいいわけですよね。
そういう限界であるとか、あるいは効率の良さみたいなところから、
宇宙でコンピューティング基盤を作ればいいんじゃないの、みたいな発想というのは、
割と自然に出てくることなのかなというふうに思います。
もちろん、簡単なことではないんですけれども、
もし可能だったらすごくいいよね、みたいな発想は普通にあり得るなと思うわけです。
この一月ほどの間で、
そういった宇宙にコンピューティング基盤を作っていけばいいんじゃないの、みたいなことが、
実際に実証実験とか、あるいは具体的な取り組みのロードマップみたいな形で、
いろんなプレイヤーがやっていくぞ、みたいなことを言い出して、
バタバタという感じで、実現に向けての動きが始まりつつあるのかなというふうに思っております。
Googleリサーチとスタークラウドの取り組み
そんなわけで、そういう宇宙への計算資源、コンピューティング基盤の取り組みについて、
簡単にまとめてご紹介をしたいと思っております。
まずはGoogleリサーチが出したプロジェクトスパンキャッチャーというプロジェクトが先日発表されたんですけど、
これはGoogleの開発しているAIの計算をするためのチップであるTPUというものを積んだ衛星を飛ばして、
それで宇宙上で計算を行わせようと、AIに関する計算だと思いますけど、
そういったことをできるといいんじゃないの、みたいな構想が語られております。
その最初のステップとして、2027年の初頭までに衛星を2機打ち上げて実証実験をするぞというようなニュースがありました。
これはつい先日という感じのニュースです。
さらに、これはこれから飛ばすよって話だったんですけど、
既に打ち上げが終わっている取り組みもありまして、これはスタークラウドというスタートアップがあるんですけど、
そのスタートアップがスタークラウド1っていう衛星を先日打ち上げ成功しまして、
それはどういうものかというと、NVIDIAのH100みたいなデータセンターとかで使うような非常にハイパワーなGPUがあるんですけど、
そのH100っていうのを乗せた人工衛星を実際に打ち上げましたよってニュースがこの間流れてきました。
もちろんその後のロードマップってもあるんでしょうけど、実際に打ち上げちゃったよっていうところまで進んでいるという内容になります。
Blue Originのデータセンター構想
それで実際に宇宙上で計算なんかをさせてみて、
実際に冒頭で言ったような冷却とかエネルギー効率とかそういったものが実際に思ったようにうまくいくのかとか、
それでちゃんと計算して意味のあることができるのかみたいなことを実証するみたいですね。
なのでこのミッションがこれからそういう実証実験みたいなところを動いていくんでしょうけど、
実際に地上のデータセンターでやるような計算っていうのが、
実際に我々がAIとかを使うときに動いているようなGPUに基づいて計算ができるんであれば、
それをどんどんスケールしていけばデータセンターみたいなのができるんじゃないのみたいな感じなんだと思います。
ちょっと変わったところでは、スペースXがスターリンクっていう衛星通信のサービスをやってますよね。
今すごいたくさんの数の衛星が実際に飛んでいて、通信ネットワークを形成していて、
スターリンクって四角いやつがあって、あれで衛星を使った通信ができるよっていうのがありますよね。
その衛星が1万機ぐらいだったかな、すごい数飛んでるんで、その衛星の間を光通信でつないであげることによって、
地上のどこにいてもその衛星がどこにいても地上との通信っていう、地上会社内で衛星同士で通信することによって非常に早い通信。
一回地上行ってまた戻るとかすると遅くなっちゃうんで、そういったネットワークを実現しつつあるんですけど、
それをスターリンクだけが使うわけじゃなくて、他の会社に対しても使わせてあげるよみたいな取り組みを開始したっていうニュースがありました。
これなんかも計算事例の話ではないんですけど、宇宙で何かしら計算をしましたって言ったら、
その計算結果に基づいて通信を行って、地上での何か役に立てるとか、あるいはもう地上に降ろすまでもなく、
宇宙にあるコンピューター同士が計算をしてやり取りをしてみたいなことでもいいのかもしれないですし、
そういったことに役立つような基盤になっていくのかなというふうに思います。
そういう意味では、宇宙上のコンピューティング資源の基盤になるような、そういったことが実現されつつあるというところで、
こちらはもうだいぶ実用化が近いんじゃないかなというふうに思っております。
またまたあって、Amazonのファウンダーのジェフ・ベドスさんが率いるBlue Originという会社があります。
この会社でも、そういうデータセンターを宇宙に作るぞみたいなビジョンが示されていまして、
今後10年から20年でギガワット級の宇宙のデータセンター、
要するに地上のデータセンターと同じ規模ぐらいのデータセンターを作るぞというような構想が発表されております。
そういうものを作ったら、Blue OriginってもともとAmazonのジェフ・ベドスさんの会社なんで、
AWSっていうパブリッククラウドがありますよね。
ああいう感じで、宇宙でお金を払えば誰でも計算資源が得られるぞみたいな、
そういうプラットフォームを作っていくんじゃないかなと思われるわけなんですけれども、
そういうところに対して、Blue Originっていうのは自分たちでロケットを飛ばしてますから、
より宇宙に直接的にアクセスを持つ企業がそういう構想を発表したというところで、
これはかなり実現可能性という意味では非常に高いのかなというふうに思われます。
ただ10年から20年でって言ってるんで、
その辺はまだそんなに何年後かにできるっていうよりはだいぶ先の話になるのかなとは思うんですけど、
そんな話が具体的な方法とともに語られたりしているわけです。
他にもアクシウムスペースって呼ぶのかな、
宇宙における計算資源の拡充
そういう会社が宇宙でデータセンターを作るぞみたいな発表を他にもしていたりして、
宇宙上に計算資源を作ったりあるいはネットワークを構築したりして、
そういう熱効率とかあるいはエネルギーの発電効率であるとかいうものを高めつつ、
地上の制約っていうのを逃れて、宇宙広いですからね、
そういうところで計算資源をたくさん確保していこうみたいな、
そういうことが現実に行われつつある。
しかもそれがこのニュースは結構この1月ぐらいでドドドッと出てきたんで、
そんな将来の道筋みたいなのが急速に動いてきたなという感じで思っております。
まとめると、計算レイヤーとネットワークレイヤーとプラットフォームレイヤーって
3つのレイヤーが今回紹介してきた事例の中であるのかなと思うんですけど、
計算レイヤーという意味ではGoogleのTPUを打ち上げますよとか、
あるいはスタークラウドがH100を実際打ち上げましたよみたいな、
そういう計算資源をまず実証実験として打ち上げるよっていう話。
次がネットワークレイヤーとしてはスターリンクが自前で持っている衛星コンステレーションを使って、
他のプレイヤーにもそういうネットワークを開放していきましょうとか、
あるいはちょっと長期的な目線になりますけど、
Blue OriginとかAxiom Spaceみたいなところが宇宙でのデータセンターを作って、
それを開放していくよみたいな、
そういう3つのレイヤーに分かれた上でそれぞれがどんどん動き出している、
そういう情勢なのかなというふうに思います。
未来の展望
またBlue Originのところで10年20年っていうことが語られていましたけど、
実際それぐらいかかるんじゃないかなとは思いますね。
宇宙にデータセンター、地上で考えているようなデータセンター、
ギガワット単位の電力を使うようなデータセンターを作るとしたら、
かなり大きい構造物になるはずなわけですよね。
ISS国際宇宙ステーションは10何年ぐらいかけて、
いっぱい宇宙にスペースシャトルとかばんばん飛ばして頑張って作ったわけですけど、
なのでデータセンターを作るぞってなったら、
少なくとも地上におけるデータセンターと同じような規模感で作るとなれば、
当然かなり大きい構造物になるんで、
打ち上げだけでも何百回みたいな、
1個作るのに何百回打ち上げるみたいな感じになるのかなと思いますし、
今世界でロケットって200何十回ぐらいかな、
年間に200何十回ぐらい打ち上げがあって、
そのうちSpaceXが130とか40とかそれぐらい打ち上げてるんですよね。
なので全部を本当にデータセンターのためだけに使ったとしても、
データセンター1個売れるかどうかみたいな、
あとは物を運ぶだけですけどね、そこから組み立てとかしなきゃいけないんで、
物を運ぶだけでも損ぐらいかかるし、
じゃあそれをどうやってそこで宇宙で建設するのかみたいな問題とかもあったりするんで、
なかなかそんなに簡単にはいかないというか、
いろんな会社が自分も作りたいですって言ったら、
当然今のロケット打ち上げのペースだと全く間に合わないと思いますんで、
全部を一気に実現するのは不可能なんじゃないかなというふうに思うわけですけど、
何にせよ10年20年だか30年40年だかわからないですけど、
長い目で見ればそういうことって普通に行われるような状況になるのは間違いないのかなというふうに思ったりはします。
自分が生きてる間に宇宙データセンターが当たり前になって、
そこでAIが計算してそれを自分が使うみたいなことがあるのかどうかってわからないぐらいの先の話なんじゃないかなという気はしますけど、
面白いな夢があるなと思って見ていたりしました。
そんなわけで衛星を飛ばしたりとかそこでGPUが動いたりとか、
あるいはデータセンターを作るぞみたいな感じで次のインターネットの基盤コンピューティングリソースを宇宙上に作るぞっていうのが具体的に動き始めてきていて、
少なくともその実証実験を行われるとかそういう意味では現実味が出てきたなという昨今です。
非常に夢がある話なんで、継続的に見守っていきたいなというふうに思っております。
今回も情報科学の回り道をお聞きいただきありがとうございました。
感想やご質問、次に取り上げてほしいテーマなど、概要欄のフォームやXDiscordまでお気軽にお寄せください。
それではまた次のマーリンピンチでお会いしましょう。
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