狸と獅子の対決
おしゃべり本棚。
この時間は、福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
宮沢賢治作 月夜のけだもの
後編 その時
林の蛇の矢部がカサカサ言いました。
獅子がむっと口を閉じて、また言いました。
誰だ、そこにいるのは、ここへ出て来い。
矢部の中は、浸透してしまいました。
獅子はしばらく鼻をひくひくさせて、また言いました。
狸、狸、こら、隠れてもダメだぞ、出ろ、陰険なやつだ。
狸が、矢部からこそこそ吐い出して、たまって、獅子の前に立ちました。
こら、狸、お前はたちぎきをしていたな。
狸は目をこすって答えました。
そうかなあ、そこで獅子は怒ってしまいました。
そうかなだって、ずるめ、貴様はいつでもそうだ。
張り付けにするぞ、張り付けにしてしまうぞ。
狸は、やはり目をこすりながら、
そうかなあ、と言っています。
狐はきょろきょろ、その顔を盗み見ました。
獅子も少し呆れて言いました。
殺されてもいいのか、のんきなやつだ。
お前は今、立ちぎきしていたろう。
いいや、オランは寝ていた。
寝ていたって、最初から寝ていたのか。
寝ていた。
そして、にわかに耳元でガーッという声がするから、
びっくりして目をさましたのだ。
ああ、そうか、よくわかった。
お前は無罪だ。
あとでごちそうに呼んでやろう。
狐が口を出しました。
大王、こいつは嘘つきです。
立ちぎきをしていたのです。
寝ていたなんて嘘です。
ごちそうなんてとんだ。
狸がやっきとなって、腹づつみをたたいて、
狐をせめました。
なんだい、人を中傷するのか。
お前はいつでもそうだ。
すると、狐もいよいよ本気です。
中傷というのはな、
ありもしないことで人を悪く言うことだ。
お前が立ちぎきをしていたのだから、
その通り正直に言うのは中傷ではない。
狐の介入と裁判ごっこ
裁判というもんだ。
獅子がちょっとステッキを突き出して言いました。
こら、裁判というのはいかん。
裁判というのはもっと偉い人がするのだ。
狐が言いました。
間違えました。裁判ではありません。評判です。
獅子がまるで赤らんだ栗の威我のような顔をして笑いころげました。
ははは、評判ではなんにもならない。
はははは、お前たちにも呆れてしまう。はははは。
それからやっと笑うのをやめて言いました。
よしよし、狸は許してやろう。行け。
そうかな。ではさよなら。
と狸はまた矢部の中に這い込みました。
カサカサカサカサ。音がだんだん遠くなります。
狐の罰と猿の登場
なんでもよほど遠くの方まで行くらしいのです。
獅子はそれをきっと見送って言いました。
狐、どうだ。これからは戒心するか。どうだ。
戒心するなら今度だけ許してやろう。
へへ、それはもう戒心でもなんでもきっといたします。
戒心でもなんでもだと。どんなことだ。
へへ、その戒心やなんかいろいろいろいろなことをみんなしますので。
やっぱりお前はまだだめだ。困ったやつだ。仕方ない。今度は罰しなければならない。
大王様、戒心だけをやります。
いやいや、朝までここにいろ。
夜明けまでに毛をむしる係をよこすから。もし逃げたら承知せんぞ。
今月の毛をむしる係はどなたでございますか。
猿だ。
猿、えい、どうかごめんお願います。あいつは私とはこの間から仲が悪いので、どんなひどいことをするか知れません。
なぜ仲が悪いのだ。お前は何か騙したろう。
いいえ、そうではありません。
そんならどうしたのだ。
猿が私の仕掛けた草罠を壊しましたので。
そうか、その罠は何を取るためだ。
鳥です。
ああ、あきれたやつだ。困ったもんだ。
と、獅子は大きくため息をつきました。
狐もおいおい鳴き出しました。
向こうから白熊が一目散に走ってきます。
獅子は道へステッキを突き出して呼び止めました。
白熊と象の登場
止まれ、白熊、止まれ。どうしたのだ。ひどく慌てているではないか。
はい、象目が私の鼻を伸ばそうとしてあんまり強く引っ張ります。
うん、そうか。けがはないか。
鼻血をたくさん出しました。そして、そっと押しました。
うん、そうか、それくらいならよかろう。
しかしお前は象の弟子になろうと言ったのか。
はい。
そうか、あんなに鼻が伸びるには天才でなくてはだめだ。
引っ張るくらいでできるもんじゃない。
はい、まったくでございます。
あ、追いかけてまいりました。どうかよろしくお願いいたします。
白熊は獅子の影に隠れました。
象が地面をみしみし言わせて走ってきましたので、獅子がまたステッキを突き出して叫びました。
止まれ、象、止まれ。白熊はここにいる。お前は誰を探しているんだ。
白熊です。私の弟子になろうと言います。
うん、そうか、しかし白熊はごくおとなしいからお前の弟子にならなくてもよかろう。
白熊は実に無邪気な君子だ。
それより、この狐を少し教育してやってもらいたいな。せめて嘘をつかないくらいまでな。
そうですか。いや、承知いたしました。
今毛をみんなむしろうと思ったのだが、あんまりかわいそうでな。
教育料はわしから出そう。一か月八百円にまけてくれ。今月ぶんだけはやっておこう。
獅子はちょっきの隠しから大きな釜口を出してせんべいくらいある金貨を八つ取り出して象に渡しました。
象は鼻で受け取って耳の中にしまいました。
さあ行け狐。よく言うことを聞くんだぞ。
それから象、狐は俺から預かったんだから鼻をむやみに引っ張らないでくれ。よし、さあみんな行け。
白熊も、象も、狐も、みんな立ち上がりました。
狐は首をたれて、それでもきょろきょろあちこちをぬすみみながら象について行き、白熊は鼻をおさえて家のほうへ急ぎました。
獅子は葉巻きをくわえ、マッチをすって黒い山へ沈む十日の月をじっとながめました。
そこでみんなは目が覚めました。十日の月は本当に今山へ入るところです。
狐もたくさんくしゃみをして起き上がってうろうろうろうろ檻の中を歩きながら向こうの獅子の檻の中にいる真っ黒な大きな獣を闇をすかしてちょっと見ました。
現実への回帰
バッテン少女隊の春野きいなと、青井リノアです。
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