1. 朗読 de ポッドキャスト
  2. #218【青空文庫】茶話・ネクタイ
2025-10-27 02:59

#218【青空文庫】茶話・ネクタイ

spotify

薄田泣菫「茶話・ネクタイ」

---------------------------------

Susukida Kyukin title:A necktie

サマリー

マーク・トウェインはストー夫人を訪れる際、ネクタイをつけずにいき、妻に叱責されています。

マーク・トウェインとストー夫人
茶話・ネクタイ、ススキダ・キューキン。マーク・トウェインといえば、米国の名高い国家作家だが、この小説家が女流作家のストー夫人と隣り合わせに住んでいたことがあった。
ストー夫人というのは、人も知るアンクル・トム・スケビンの作者として名高くなった夫人である。
マーク・トウェインは、暇さえあればストー夫人のところへ出かけて行って、夫人と娘さんを相手におしゃべりにふけったものだが、
一向無頓着な男だけに、どうかすると根巻きのまま飛び出したりするので、その都度妻君の不機嫌を買ったものだ。
あなた、その身なりは何ですね。シャツのほころびからおへそが覗いているじゃありませんか。するとこの小説家は、小娘のように顔をあからめながら、
いやとんでもないこっちゃ。わしは何だってこんなにそそっかしゃなんだろう。
とひどくしょげ返ったものだそうだ。ある朝もいつものようにストー夫人をたずねておしゃべりをした。
そして上機嫌になって口笛を吹き吹き返ってきた。
すると、入口に妻君が突っ立っていて、邸主の姿を見るなり、ガチョウのようにがなり立てた。
あなた、そんな身なりをしてお隣屋へ行ってらしたんですか。ネクタイもつけないで。ま、なんて礼儀を知らない方なんでしょう。
小説家はちょっと立ち止まって情けない顔をしたが、そのまま一言も言わないで書斎に入って行った。
そして、二三分すると、女中を呼んで小さな箱を隣のストー夫人のところまで持たせてやった。
夫人は不思議そうに箱を開けてみた。
中には黒いネクタイに手紙が一本添えてあった。
これが私のネクタイです。どうぞ手に取ってご覧ください。
私は今朝三十分ばかしお邪魔をしたと思いますから、三十分程度ご覧になったらすぐお返しを願います。
実はネクタイといってはこれ一つなんですから。
ストー夫人は言いつけ通り三十分ほどネクタイを見ていた。
その間に煮物が焦げ付いたかどうかは私の知ったことではない。
02:59

コメント

スクロール