2025-01-14 28:08

隣人/Ene

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隣人


作:Ene@ene_oeuf様

BGM:魔王魂


https://giraffe.noor.jp/sensei.html


お借りしました!


#フリー台本


【活動まとめ】 https://lit.link/azekura

00:06
例えば、ね、変な土地ってあるじゃないですか。
あら、いえ、違うのよ。幽霊が出るとかそういうことじゃなくて。
なんていうのかしら。ほら、田舎だとさ、付き合いっていうのかしら。
コミュニティっていうか、人間関係がね、ちょっと独特な感じで形成されてることあるでしょ。
あそこはそういう土地だったんですよ。だから若い人はみんな出てっちゃうの。
今では限界集落なんて言われちゃってね。
でもね、やっぱり、そうね、今思うと異常だものね。
私も高校出るまであの村で育ったけど、怖いもんでね、最初はおかしいって思わないんですよ。
だって、みんなそうだし、親もそうだから。あれが普通って思っちゃうの。
洗脳みたいなもんよ。
聞きたい?
まあ、聞きたいなら話すけど、胸の悪くなる話ですからね。
コーヒーでいい?
まあ、話半分で聞いてちょうだいよ。
小学校の低学年ぐらいだったから、もう30年ぐらい前だわね。
え?そう、学校はあったんですよ。文校みたいなもんだけど、一応先生も何人かはいてね。
でも、全学年一緒の教室で勉強するのよ。
まあ、先生たちも真面目にやってなかったんじゃないかしらね。
あんなとこで教えてたって先はないものね。
で、ちょうどね、夏休みの直前ぐらいに新しく赴任してきた先生がいたのよね。
それが結構なおじいちゃんだったの。
もう明らかに島流しだなーなんて初日から影口叩かれてさ。
でもそのおじいちゃん、悪い人じゃなくってね。
休み時間にせっせと遊んでくれたり、授業もいろいろ工夫してくれたりしてさ。
そうなると、あたしたちも懐くじゃない?
で、そのうち先生の家にも遊びに行くようになったの。
奥さんと二人暮らしでね。
東京から来たって言うんだけど、奥さんもこれがまたいい人でさ。
田舎暮らしも悪くないなんて言って、縁側で手作りのお菓子食べさせてくれたりしてね。
村の大人たちはさせんだ島流しだってバカにしてたけど、
先生ね、前の学校でも重宝されてた人だったんだって。
定年間際に初心に帰って子供たちと向き合いたいなんて言って校長になるって話を受けて、
03:07
自分からうちの学校に赴任してきたんですって。
そんなのをね、もう頭が下がるわよ。
花から人間の出来が違うじゃない。
あたしたち大人ってのがそういうもんだって初めて知ったんですよ。
だって自分ちの親はそうじゃないからね。
毎日毎日死んだような目で仕事に出てさ。
子供は勉強なんかしないで家の手伝いをやれって言われて、
ちょっとでも口応えしたらぶたれて外に出されてさ。
なんなのかしらね。
土地柄ってやっぱりあるんだと思いますよ。
ずっと同じところで生まれ育って死んでいくから。
要は外の世界を知らない人ばっかりなわけ。
だからなんかこう、どんどん煮詰まっていくのよね。
ほら、なんかあるでしょ?聞いたことない?
毒虫を瓶に集めてさ、最後の一匹になるまで戦わせるみたいな話。
あれ、なんて言うんだったかしらね。
ああいう感じ。
言い過ぎかしら。
まあ他にもそういう土地っていくらでもあるんだと思うけど、
うちのとこだけはなんか違っててさ。
あ、大丈夫?コーヒー冷めちゃった?
熱いのを持ってくるからね。
だって嫌でしょ?こんな寒々しい話。
なんかお腹に入れなきゃ聞いてらんないわよね。
大丈夫?そう、ならいいけど遠慮しないで言ってくださいよね。
それでね。
そのおじいちゃん先生、村の大人たちにあっという間に嫌われちゃったんですよね。
ほら、もうね、どこにでもいるでしょ?
俺が全部牛耳ってやるんだぞ、みたいな偉そうなおじさんって。
その人の鶴の一声。
そこからは悲惨だったわよ。
子供心に見てて悲しくなるぐらいの虫だもの。
やだやだ、思い出してもほんと胸が悪いったら。
ああいうの、見せられる子供も傷つくんだってこととか、
本当にあの村の大人たちは誰も考えてくれなかったんだって思うと、
未だに背中のこの辺がスーッと寒くなるのよね。
先生、みるみる元気がなくなっちゃってね。
あたしたちにも何かよそよそしくなっちゃった。
それで悪いことって重なるもんでさ。
まあストレスだと思うんだけど、脳梗塞かな。
頭をやったらしくてね。
さすがにその時は大きな病院に運ばれたから死にはしなかったけど、
手足にちょっと麻痺が残ってさ。
そんなこともあると、もう本当に来たばっかりの頃の
06:01
あのハツラツとしてた先生はもうどこにもいなくなっちゃったんですよね。
なんか急に吹け込んじゃってね。
体もひと回り小さくなったみたいな感じでさ。
あたしたちは先生が好きだったからね。
病気やらいじめやらなんかに負けないでほしかったんだけど、
親が言うなよ。国木先生と仲良くするなって。
それであることないこと吹き込もうとするわけ。
先生は東京の学校でお金を盗んだからこんなところに飛ばされたんだ。
とか雑な嘘ついてさ。
見くびられてたんだよね。
自分たちもそうやって育てられたから、
あたしたちにもそれをしていいと思ってたわけよね。
でもさ、やっぱりあたしたちも子供だったから、
おかしいって思っても親には逆らえなかったのよ。
先生はいつの間にか学校に来なくなっちゃって、
顔を見ることもなくなってね。
家にも近寄るなって言われてたからね。
それが普通だったんですよ。
気に入らないものとか異質なものはとにかく排除なのね、
ああいう土地って。
それしか知らないのよ、あそこの人たちは。
それでさ、あたし一生忘れられないんじゃないかって光景を見たことあるんだけどね。
夏が終わって秋も終わろうってぐらいだったと思うわ。
お使いで千センチの前を通りがかったらさ、
近所のおばさん連中がさんよに家の前で何かやってたわけ。
あたしなんか変な雰囲気だったからちょっと隠れて見てたのよ。
そしたら先生の奥さんがそのおばさん連中にペコペコ頭下げてるの。
どうもありがとうございますとか何とか言ってさ、
村八分にされてんのにありがとうも何もないじゃない?
何かおかしいと思ってさらに見てたらさ、
なんていうのかな。
瓶詰めなのよ。
わかる?瓶詰め。
中身は煮物か何かだったのかな。
なんかそういうの、
インスタントのコーヒーか何かの空き瓶に詰めてお裾分けしてたのよね。
ん?そう、お裾分けなの。
だってあの頃先生食べるものも買えなかったんですもの。
うちの村、店なんて2軒ぐらいしかなくて、
あとは時給自足だもん。
店ったってほんと小さな商店でさ、
何年も前のカップ麺とか埃かぶって売ってるようなもんよ。
でも先生が行くと売ってくれないんだって。
だから先生、家の前でちょっとした畑なんかも始めてたらしいんだけど、
素人じゃうまくいかないでしょ。
それでいつもひもしい思いしてたって。
09:02
あたしほんとに何も知らなくてさ。
で、奥さんがね、そのもらった瓶詰め持って家に戻っていくじゃない。
でもおばさんたちはいつまでも門の外にいるわけよ。
まるで何か待ってるみたいにしてさ。
なんだろうって思ってさ。
ようが済んだらとっとと帰りゃいいのに、
塀の外から庭をこそこそ覗き込むみたいにして。
そんなに高い塀でもなかったからさ、
家の中の様子とか見えるのよね。
なんか帰るタイミングなくしちゃって、
あたしもずっと見てたの。
そしたら意味がわかったの。
先生の家、こう庭に面した縁側があってね。
だからおばさんたちがやってるみたいに塀の外から覗き込んだら、
その縁側が見えるのね。
それであたしもこっそり見てたんですよ、反対側からさ。
そしたら先生がさ、縁側に座り込んでるわけ。
手足が麻痺しちゃってるから、
なんていうのかな、動作の一つ一つがぎこちなくてね。
それを奥さんが一生懸命支えてさ。
それで先生に例の瓶詰めを見せるのよ。
どこそこの奥さんにお裾分けでいただいたのよ、って感じで。
でも二人とも全然嬉しそうじゃないの。
すっごい暗い顔してるの。
先生なんかもうあからさまにため息ついてるし、奥さんは泣き出しそうなわけ。
で、それ見てババアどもはクスクス笑ってるのよね。
あたしやっとピンときたのよ。
だって先生は手が動かないし、奥さんは見るからに痩せてて非力でさ。
開けられないのよね。
その瓶詰め誰が詰めたのかは知らないけど、
多分ぎっちり閉めてあるんだろうなっていうのはもう見ただけでわかったわよ。
つまりあのおばさんたち開けられない瓶詰めをわざとあげて、
その反応を見てニヤニヤしてたってわけなんですよ。
あたし、あたしさ、人間ってこんなに汚くなれるんだって初めて知った。
あの時のおばさん連中の顔ったらさ、もうなんていうの。
あたしあんまり難しい言葉知らないけどさ、
多分癒やしいとか醜いとかってああいうものを見たときに使う言葉よね。
一生忘れられない。
先生たちお腹は空いてたんだと思うの。
だって食べ物も満足に買えないような暮らしだからね。
12:04
その瓶詰めもさ、開けられるものなら開けたかったんだと思うのよ。
悪意はたっぷり詰まってたでしょうけど、まさか死ぬような毒入りでもあるまいしさ。
でもわかる?
その屈辱っていうかさ、人間やっぱ尊厳みたいなもんがあるじゃない?
前の学校で校長にならないかって話が来るぐらい立派に務め上げた人がさ、
こんな幼稚な嫌がらせされて、しかもそれを食べなきゃならなくてさ、
あれをどんな気持ちで受け取ったんだろうって考えたらさ、
あたしその場で泣いちゃったよね。
先生も奥さんも、その瓶詰めさ、いろんな方法で開けようとするのよ。
だけど全然うまくいかなくて、麻痺した手で一生懸命にさ、
はぁ、やだやだ、思い出しても気分悪いわ。
それで最後どうしたんだと思う?
奥さんが言うのよ。
次にお会いした時、適当な嘘をつくわけにはいかないって、きちんといただかなくちゃって。
先生も泣きながらうなずいてさ、すまない、すまないってさ、
それで二人で瓶詰めをせーのって持ち上げて、
庭のほらあるじゃない、踏み石みたいな、飛び石っていうのかな、
それに向かって投げつけて割るわけ。
その瞬間覗き見してるババアどもは声を殺して大喜びを、
涙流して笑ってやがんの。
奥さんが縁側から庭に降りて、ガラスの破片を一つ一つよけて、
地面に散らばったタケノコだの人参だのを箸で拾い上げてるのを見て、
しんそこ楽しそうに笑うのよ。
そうよね、そういう顔になりますよね。
それが普通なんですよ、だってこんな話あんまりじゃないですか。
コーヒー冷めたでしょ?
新しいの持ってくるから、ちょっと一息入れましょうよね。
ごめんなさいね、変な話聞かせちゃって。
でもね、あそこはそういう土地なんですってこと、わかってほしかったの。
それで先生ね、次の夏にはもういなくなっちゃった。
奥さんと一緒に。
家で亡くなってたらしいけど、死因は教えてもらえなかった。
自殺だったのか、ガシだったのか。
それとも二人揃って病気だったのか。
なんにも国木先生の話はするなって、そればっかり。
15:02
葬式さえ満足にやってあげなくて、身内の人にも知らせないで。
ダビに貸そうってこと。
それだけだったそうよ。
先生の家はね、村の大人たちが勝手に片付けて、
片見分けなんて都合のいいこと言って、いろんなものを持ち出してた。
佐藤にありがたかるみたいに、なんて言うけど、本当にそんな感じよ。
あたしたちも借り出されてさ。
でも子供って間が悪いもんでさ。
あたしの友達の一人が奥の部屋で箱を見つけたんだよね。
ただの箱よ、紙箱。
よくお中元とかお精母のお菓子とかが入ってるような感じのやつ。
それの大きいやつかな。ゼリーとか入ってるような箱よ。
で、それがちょっと不思議なくらい重たくてさ。
しかもガチャガチャ音がするのよ。
またその子もちょっと容量悪くてさ。
馬鹿正直に報告するわけよね。
なんかあったよって。
そしたらまあ、大人たちは目の色変わってさ。
貸しなさい貸しなさいって取り合いよ。
でもその友達の子もさ、先生のこと好きだったし、
大人たちが何を期待しているのかなんとなくわかったんでしょうね。
渡さないわけ。
それで引っ張り合いになって、
まあ、ぶちまけるじゃない。
そりゃそうよね。
何が出てきたと思う?
骨よ。骨。
もう時間経ってカサカサの。
大小様々。骨が山ほど。
動物の骨だったんじゃないかな。
猫とか犬とか鳥とかイタチとかタヌキもいたかもね。
あの辺動物いっぱいいたから。
先生何でか知らないけどそんなもの箱いっぱいに集めてたの。
結構な量よ。本当に。
それでちょっと怖いのはさ、
その骨に一つ一つ、何て言うんだろう、文字が書いてあるんですよ。
意味わかる?
あんな小動物のちっちゃい骨にちまちま書き込んである。
よく見ると私たちの名前もあって、生徒の名前かと思ったら違うの。
大人たちの名前もあるのよ。
それこそいつだか開けられない瓶詰めをおすそ分けしてたあのおばさんたちの名前もさ。
村人全員の名前だって気づくまで時間はかかんなかった。
で、その瞬間水が引くみたいに全員黙っちゃってさ。
18:02
だって気味悪いじゃない。
私たちだって引いたわよ。
ありみたいに細かい字でびっしり書き込んであるのよ。
名前とか一人一人の特徴とかさ。
好きなもの嫌いなものとかさ。
いつ何を話したとかさ。
動物の骨によ。
ねえ、わかる?
恨み事とかじゃないのよ。
ただ本当に全部書いてあるだけなの。
濃厚促の好意性でさ。
人の顔がわかりにくくなったとか、
記憶が時々飛ぶことがあるとか、
そういう話はちょっと聞いたことあったからさ。
忘れないように書いてたのかなって。
正直ちょっと怖かったよね。
だって紙とかノートに書けばいいのにさ。
骨だもん。
もう意味わかんないでしょうよ。
もしかしたらノートも売ってもらえなかったのかもしれないけど、
それにしたって何もさ、
骨に書かなくたっていいじゃない。
そのためにいちいち動物を殺してたのか、
死骸を探してたのかは知らないけどさ。
今みたいにほら、
ネットで注文してすぐ届くなんてこともない時代だもの。
先生、おかしくなってたんじゃないか、
なんて大人たちは口元ゆがめてさ、
言うしさ。
ああ、ごめんなさいね。
気味悪いわよね。
コーヒー飲んでちょうだい。
また冷めちゃったかしら。
あとこれ、うちの旦那が漬けた野菜だけどよかったら。
こういうの案外お茶受けにいいもんなのよ。
ごめんなさいね。
うち甘いもの食べないから置いてなくて、
娘が虫歯になっちゃってさ。
ん?
あ、そう、そういうことなんですよ。
先生、あんだけひどい目に合わされててもさ、
出ていく気がなかったってことじゃない?
ここでまだやっていこうとしてたわけじゃない。
あたし、なんだか知らないけど、
それが一番怖かったんだよね。
村八分にされて、
あることないことを陰口叩かれて、
無視されて、
食べ物も売ってもらえなくて、
挙句の果てには死んじゃってさ。
恨み骨髄ってなもんじゃない?普通はさ。
ちょっと考えたらさ、
何もさ、出ていけばよかったんだよね。
村にいることなかったんじゃない?
でも先生、そうしなかったのよ。
こんなことしてでも村でやってく気だったのよ。
そう思ったらさ、なんかかえって恐ろしくなったんだよね。
あたしたちが見てた先生って人はさ、
21:00
なんだったんだろうって、
急に知らない人みたいに思えてさ、
結局その骨は大人たちが引き取っていって、
それきり。
どこに行ったのか、捨てられたのか、
それもわかんない。
でも供養ぐらいしてもらったのかしらね。
あの骨さ、あたしもらおうかと思ったんですよ。
自分の名前が書いてるやつだけでもさ。
でも大人たちが真剣な顔をして止めるんですよ。
こういうのは良くないから手元に置くなって。
あの時だけは言うこと聞かなきゃいけないような気がしてね。
でもさ、君は悪いけどやっぱり片身じゃないですか。
あたし先生のこと好きだったし、
先生の自貴筆なんてもうそれしか残ってないし、
誰かが何か持っててあげないと
先生も浮かばれないんじゃないかなんて子供なりに考えてたからさ。
それでね、何年か経った頃に娘が小学校に上がってたから
10年も経ってたのかしら。
孫の顔見せに里帰りした時にさ、聞いてみたんですよ。
あの骨どうしたのって。
先生の骨どこにやっちゃったのってさ。
そしたらさ、親がいきなり真面目な顔になってさ、変なこと言うの。
あんたたち、あたしたちのこと恨んでたんだよねって。
あたしたちって、つまりうちの母親たちのことよ。
村の大人たちってこと。
ややこしいわよね。ごめんなさいね。
あたし話が下手でさ。
まあそうやってさ、言うのよ。
あんたたちは子供だったからって。
見えなかったんだよね。
どういう意味かわかんなくて聞いたらさ、近いと見えないもんなんだよって。
それで、あれ、ナナちゃんだったよって言うんだよね。
うちの母がさ。
ナナちゃんって、うちの隣の意地悪ばあさんが飼ってた猫の名前なのね。
それが少し前からいなくなってたんだって。
もともとああいう田舎ってさ、室内街なんて気の利いたことしないからさ。
半野良みたいなもんなのよ。
それで、まあどこかで死んじゃってたのかなって。
飼い主さんもあんまり気にしてなかったみたいなんだけど。
うちの母がさ。
いやーな顔をしてさ。
あれはナナちゃんだったって言うの。
24:02
先生の箱から出てきた骨がさ。
なんでも下の方にナナちゃんのリボンの切れっぱしがあったんだって。
首輪はかわいそうだってんで、ナナちゃんリボンつけてもらってたからさ。
それが入ってたんだって。
そのリボンにもびっしり書き込まれてたらしいけど、
なんて書いてあったかはお母さんどう頼んでも教えてくれなかったわ。
それでさ、ナナちゃんだけじゃないって。
他の人が飼ってた動物の骨もいっぱい混じってたって。
確かにあの頃さ、ペットやら家畜やらが行方不明になるみたいなことをちょくちょくあったんだよね。
でも山奥の村だし、珍しいことじゃなかったからさ。
あたしたちあんまり気にしてなかったのに。
でも、ねえ、コーヒー飲んでくださいよ。
嫌だったら言ってくださいよ。
あたしわかんないのよ、おもてなしとかそういうの。
だって誰にも教えてもらってないからさ。
高校卒業して逃げるようにこっち出てきて、すぐ結婚して子供産んだけど、
人との接し方とか、常識とか、いまだに自信がないんですよ。
正解がわかんないんです。
どうしたらいいのか、何が普通なのか。
普通じゃない世界で生きてきたからね。
わかんないんですよ。
あたしきっとおかしいんですよね。
大人たちはさ、見たんだよね。
たぶん知ってたんだよね。
先生が動物を殺すところ。
だからあの人をムラハチブにしてたんだよね。
もしかしたら逆だったかもしれないよ。
ムラハチブにされたからハライセに殺してたのかもしれないわよ。
どっちにしろあたしたちには見えてなかった。
子供の目には見えないところでそれらが起きてたってことなのよ。
あたしたちが知ってる先生は優しくて、面白くて、いろんなことを教えてくれて、そういうおじいちゃんだった。
でも大人たちに見えてたのは全然違う人だったのかもしれないんだよね。
人ってさ、自分に見えてるものしか見えないんだよね。
長くなっちゃったわよね。
ごめんなさいね。バスがあるうちに帰んなさいな。
この辺交通が悪いのよ。
今日の話はさ、忘れちゃったほうがいいわよ。
あたしも久しぶりに思い出したから長々と喋っちゃったけどさ。
こんな話覚えてたっていいことないんだから。
27:02
あたしはもう里帰りはしないって決めてるし、母も帰ってくるなって言うからね。
母のことは今はもう嫌いじゃないけど、あの村に行くと人間ちょっとおかしくなるみたいだから。
別に構わないけど、もしホンダのネットだのに載せるなら、地名とかはごまかしといてくださいよ。
あたしの名前も出さないで。
それだけ約束してちょうだいね。
あんたも変わった仕事してるのね。
こんな話ばっかり集めて聞いてたら、そのうちおかしくなっちゃうだろうに。
それだけ気をつけなさいよね。
いや、本当なのよ。こういうのって毒なのよ。
雨に濡れた後に風邪ひく、みたいにさ、体にじわじわ染み入ってくるの。
だから気をつけて。
本当に気をつけなさいよね。
28:08

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