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2020-09-17 06:51

ラジオドラマ『東京スカイツリーの伐採』#3

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あらすじ

観光に訪れた男はスカイツリーの根本でチェーンソーを振り回す女に出会い…。


自主制作のラジオドラマシリーズ『私的エクレアイズム』です。

会話劇の形式で不定期に新作を配信しています。

楽しんで頂けたら幸いです。


『東京スカイツリーの伐採』

出演 長谷川 愛悠(女役)/田中 陸(男役)

脚本・スタッフ 村佐木 楓午


(c) 2020 村佐木楓午

00:00
ラジオドラマ、東京スカイツリーの伐採
東京観光に訪れて、僕が最初に目にしたのは、スカイツリーの根元でチェーンソーを振り回す女の人だった。
すごいなぁ、あの人。
わぁわぁ、警察も来た。巻き込まれないうちに離れよう。
あれ?こっち走ってきている。
え、え、ちょっと、こっち来てんだけど。
来ないで、来ないで、来ないで。
あっという間に、僕は人質になった。
それ以上近づいたら、こいつ殺すからな。
私、嘘つかないからね。
え?
殺すって言ったら、殺すからね。
え?
耳腐ってんの?耳かきパーシンか、クソ野郎。
あの。
あ?
助けてください。
いや。
死ぬ時は、自分の生まれ故郷がいいんです。
死に場所選べると思うなよ、下級国民。
下級?
えー、おとなしく武器を捨てて逃亡しなさーい。
おとなしくできる奴が、人質取るか、アホ。
ね?
え、いや、わかりません。
わかれよ。
すいません。
あの、撃たれたりしないですよね?
このエスカレーターの影から飛び出たら、撃たれるでしょ。
助けてください。
チェーンソーで返事しないでください。
ちびりそうなんです。
生理厳守は咎めないよ。
えー、音が聞こえたぞ。
手足切り落としたり、こういう。
あれはやめなさい。
なんなんだよ、あの警察。歯切れ悪いな。な?
あ、おい、何言いようとしてんだよ。
え、四つん這いになっただけです。
何のために?
四つん這いになると落ち着くんです。
手足切り落とされたいか。
すいませんでした。
その後も、警察との交着状態は続き、
辺りは日が落ちて夜になった。
えー、警察一同大変疲れてます。
そろそろ家に帰りたいです。
協力してくださーい。
帰りたいなら勝手に帰れよ。
あの。
ん?
そもそもなんでこんなことになってるんですかね。
お前の悪行の積み重ねだろ。
いや、そうじゃなくて、
なんでチェーンソーを振り回してたんですか。
伐採。
え?
だから、伐採。スカイツリーを切りに来たの。
すいません、おっしゃってる意味が。
いいよ、わかんなくて。
あ、いや、知りたいです。
気に入られようとすんなよ、人質。
してないです。断じてしてないです。
03:01
お前もあの教師たちと一緒だよ。
え、なんですか。
いいよ。
いやいや、聞きます。
時間はたっぷりありますし、ほら、暇つぶしに。
黙れ下級国民。
もう逃げませんから、お願いします。
殺すからな。
え?
全部聞かせたら、殺すからな。
はい、喜んで死にます。
あー、うっさ。
スカイツリーが何メートルあるか知ってる?
え、武蔵って634メートルですよね?
そう、その634がすべての元凶なわけ。
どういうことですか?
あ、だる。
だから、私が高校入った時、ちょうどスカイツリーが完成した春で、
新入生の人数が634人だったの。
へー。
へーじゃねえよ。
あ、すいません。
そのせいでこうなってんだからな。口つづしめよ。
人質としての自覚持てよ、あほくそ。
はい、すいませんでした。
それで、お前みたいな軽薄な教師たちが舞い上がって、
スカイツリーの高さと同じ人数ってことを入学式から強調しまくるわけ。
はい。
一人も欠けてはならない大切なピースなのです、とか言ってさ。
でも、いいことですよね。
ムカつけすぎて逆に冷静になるわ。
え、すいません。
私、学校に馴染めたと思う?
そうやって聞いてくる人は馴染めてない気がします。
けど、けど、馴染めててもおかしくないですよね。
腹立つやつだな、お前は。
馴染めてねえよ。
あ、すいません。
馴染めないから学校行かなくなるだろ。
それで毎日家にいると学校辞めたくなるだろ。
で、辞めようとするだろ。
はい。
そしたら教師たちが必死に言うわけ。
不登校でもいいから辞めないでくれ。
634人を保ちたいからって。
うわぁ。
みんなのためにも卒業まで頑張ろうとかさ。
あたかも生徒たちも634人であることが大事みたいなプレッシャーかけてきて。
同調圧力みたいな。
それ。
そんで無理やり引き止められてたまに通わされたりしてたら
1年のうちにおかしくなって結果病院行きだよ。
つらいですね。
簡単な言葉吐くなよ、人質。
スカイツリーさえ切り倒せば全部うまくいくんだよ。
何年かかっても切り倒してやるから。
あの、そうですかね。
え?
スカイツリーを伐採しても
634という数字はあなたの記憶から消えないんじゃないですか?
ね、きっと違う方法があるはずですよ。
僕、手伝いますから一緒に。
全部聞かせたら殺すって言ったよね。
また聞こえたぞ。
いい加減やめて登校してください。
そんな物騒なものを置いて一緒に向こう行きましょう。
行かねえよ。
06:01
新しい記憶をこれから作っていけばいいじゃないですか。
うっどうしい。
お前もういいよ。わかったって。
え、じゃあ。
私一人で行くから。
え、いや、ちょっとまっ。
待って。
辺りは日が昇って朝になった。
僕はパトカーに乗せられ、
あの女の人について聞かれた。
何も答えなかった。
06:51

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