NC装置の内製化を考える
こんにちは、常蔵です。
Design Review FM第78回目始めていきます。
このDesign Review FMは、世の中の様々なもの、主に工業製品について、私の主観で勝手にデザインレビューをしていこうという番組です。
今回はですね、一つ頂いたお便りがありまして、そちらについてちょっと考えてみようかなと思います。
リスナーネームが斎藤さんですね。
工作機械の研究をしている院生です。いつも勉強に聞かせて頂いています。
ありがとうございます。
工作機械業界の再編が進んでおり、企業グループが隣立しているとのことですが、依然として各社はファナックやシーメンスのNC装置を使用しているかと思います。
量産効果やコスト面を考えれば、内製化も選択肢に入ると思いますが、いかがなのでしょうか。
ニデックの昨日に対するTOBの話題では、OSPを有するオークマを選ばなかったのが気になりました。よろしくお願いします。
ということで、ちょっと私もですね、このNCの内製化とか、ファナック、シーメンス、それぞれの戦略なんてところはあまり詳しくないんですけれども、
こういうお便りを頂きましたので、NC装置の内製化についてちょっと調べながら考えてみようかなと思います。
OSPの開発と特徴
まず、そもそもNC装置とはですね、工作機械のNC装置とは何か。
NC、Numerical Controlですね。NCはNumerical Controlの略なんですけれども、
NC装置というのは、数値やコードを用いて工作機械を自動的に制御する装置のことです。
NC装置を用いることで、手動では困難な複雑な加工を正確かつ効率的に行うことが可能となります。
主な特徴として、プログラムによる制御。加工の内容はGコードやMコードなどと呼ばれる数値制御言語を用いてプログラムします。
このプログラムをNC装置で読み込むことで加工が行われます。
そしてその人の手による操作よりも精密な加工が可能となって、繰り返し作業でも同じ作業をしてくれるので品質を維持できますと。
その作業が自動化されるので加工の効率が向上し、人為的ミスを削減できますと。
そういう特徴があるのがNC装置ということですね。
このNC装置メーカーとしては大きなメーカーが4つありまして、日本のファナック、三菱電機、ドイツのシーメンス、そしてハイデンハイですね。
世界中の多くの工作機械メーカーはこれらのNC装置をこのNCの専業メーカーから購入して、NC装置、サーボモーター、モータードライブするモーターアンプなどを購入して使用しています。
NC装置の操作する画面というのは、各NC装置メーカーの標準のものをそのまま使うメーカーもありますし、標準のものの上に各社オリジナルの画面を作っているというメーカーもあります。
ただ、これら4大NC装置メーカー、NC専業メーカーのNCを使っていない工作機械メーカーもありまして、例えば日本の大隈さんですね。
大隈さんはOSPという独自に内製したNC装置を使用しています。
OSPというのは、大隈サンプリングパスの略ですね。
この大隈さんのOSPの歴史をちょっと見てみようかなと思います。
OSPの歴史ですけれども、まず1963年、昭和38年に内製したNC装置、OSP-3を開発しました。
開発するのであれば、絶対位置検出機が必要と大隈は考えて、この絶対位置検出機というのは、電源を切っても今の軸の位置がわかる、失わない、そういう検出機ですね。
そういうものは必要だろうと考えて、まずはその絶対位置をギア結合のメカニズムで検出する、そういう装置、検出機を開発して、
その後はリニアのスケールと呼ばれるものですけど、リニアの絶対位置検出を開発したと。
大隈ではそのNC装置、OSPだけではなくて、サーボモーターも、そのサーボモーターのドライブユニットも、
先ほどの絶対位置検出機であるアブソリュートのリニアスケールだったり、ロータリースケールというものも、そういう制御に必要な部品すべてを大隈自社で開発して内製しています。
その機械も制御もあるということで、機電一体ですね。機械と電気一体の機電一体として知られていますね。
内製化のメリットと課題
この大隈のNC内製化について、機械技術という雑誌があるんですけども、この機械技術の昭和61年の記事で、昭和の工作機械人烈伝というものがありまして、
この記事をですね、国会図書館から前にコピーを取ったものがありました。持っているんですけれども、そこの中で大隈の、当時は大隈鉄工所ですね。大隈鉄工所の大隈光一氏、長岡不力氏の2人へのインタビューの記事が載っていました。
その中で大隈の内製化について話している部分がありましたので、ちょっと読み上げる形で紹介しようかなと思います。
はい。2、NC装置内製。日本、いな、世界の工作機械メーカーで得意な存在とされるのは、この大隈鉄工所のNC制御装置の内製である。
ほとんどの工作機械メーカーが自社では作れないとして、電子機器メーカーからモーター同様購入しているのに、大隈鉄工所は画然として自社製工作機械の制御を最適の状態とするための装置を実製している。
不必要な部分は一切排除し、ブラックボックス扱いを行わない最適操作のNC制御装置である。
このNC装置の自作については必然性があったという。
1960年、昭和35年のシカゴ賞で多くのNC機を見て、NC実用化の手始めにボール盤用のポイントツーポイント、P2P NCを考えたが、NCメーカーでは安いP2Pより高価な輪郭制御などコントロール面に傾注しており、自営の手段として自作に踏み切ることになったのである。
機械原点は工作機械メーカーが定めるものである。これが鍛冶屋にできないわけがない。しかもモーターと異なり、大量生産の必要がなく自社製の工作機械を制御するのだ。
この前提で昭和35年、研究開発に着手し、昭和36年から位置決め用を制作。さらに進んで昭和42年から輪郭制御用も商品化し、適用機種はボール盤、中栗盤、検索盤、旋盤と全製品機種をカバーした。
はじめは機械技術者が担当し、徐々に電機の若手を加え、機械と電気の融合部隊、すなわち工作機械の加工を熟知している技術者。もうそれは機械出身、電気出身と色分けできない形で進められ、今日の内製化に成功したのである。
長岡市の言葉で表現すれば、大隈NCは鍛冶屋のセンスで、機械や電気屋の差別なく、皆が工作機械製作の技術者として働いてくれたもので、スケールには数字が刻まれ、機械の原点は固定され、停電仕様が手動でサドルを動かしても原点を忘れないのが特徴であり、作業原点の指定によってプログラムは図面上にある数字をそのまま打ち込めるように配慮されている。誰もが気軽に使えるよう。
もちろん、この間の苦労、試行錯誤は必死に尽くしがたいものであるが、大隈康一社長、長岡研究部長、かっこいずれも当時のコンビで、推進、飛躍が実現、大成功を収めたのである。分析力と専権性に富んだ経営者と、がむしゃらともいえる実行型技術者のコンビによる成果とも言えよう。
大隈さんが内製化を踏み切ったきっかけは、当時NCを開発し始めていたファナック、富士電機のことか、ファナックになる前だと思いますが、NCメーカーでは安い装置よりも少し高価な装置を発売していた。
大隈には必要ない機能もあったので、自営の手段として自作に踏み切ることになった。
ちなみにこの昭和30年代、どういう時代だったかというと、ファナックとマキノフライスが国産、最初のNCフライス版を完成させたのが昭和33年、1958年ですね。
そしてマキノフライスが国産第1号のマシニングセンターを工作機械日本一に出展したのが昭和41年という時代です。
何が違うかというと、マシニングセンターというのはATC、工具交換装置が付いているか付いていないかというところで、NCフライス版にATCを付けたというものがマシニングセンターですね。そんな時代でありました。
さわいみのる氏のマザーマシンの夢という本があるんですけども、このマザーマシンの夢によれば、1969年から1975年、ちょうどこの昭和30年くらいのNC装置の出荷台数の累計で言うと、NC装置を内製していたのはオオクマとワシの機械などで、それで合計12%台数の12%がNCを内製していたと。
たった12%に過ぎず、残りはファナックですね。ファナックが73%を占めていたそうですね。ほぼ7割がファナック。12%が内製しているということなんで、あと20%くらいは他のNCメーカーということですかね。
オオクマのようにNCを内製化するメリットは当然ありまして、まず自分たちの機械を作っているメーカーが内製するというところなので、自分たちの機械に適した最適なNCを作ることができるというところで、他社との差別化ができるでしょうというところと、外へお金を出さないというところでメリットがあるというところですね。
ただ、量産効果がNCの専業メーカーに比べると、数の効果というか量産の効果がやっぱり小さいんじゃないかなと思うので、そこのトレードオフ的なところはコストの面ではあると思いますね。
そういうメリットがあるんですけれども、やっぱり内製化というのは諸刃の剣だと思っていまして、公文写真書の柴田智篤さんによるファナックとインテルの戦略という本があるんですけれども、この本によるとこのNCの内製化というのがアメリカの工作機械メーカーが衰退した原因ではないかと指摘しています。
ちょうどこのNC化が始まった1960年ぐらいのお話なんですけれども、当時の日本の工作機械メーカーというのはまだ技術力も財政基盤も弱くて、NC装置を自社で開発するというのは荷が重かったというところで、他のNC専業メーカーに頼らざるを得なかったという状態だったんですね。
アメリカ工作機械メーカーの衰退
このアメリカの工作機械メーカーというのは当時まだ強かったですので、自社でNC装置の開発を行うことができたと、NC装置の開発に耐えることができた。
なのでアメリカの工作機械メーカーというのは自社の機械の特性に合った最適な切削性能と機能を持つNCというものをそれぞれのメーカーでNC装置を開発していたと。
その結果何が起きたかというと、確かに高性能なハイエンドなNC装置を各社作って、そういうハイエンドな機械にはなったんですけれども、NC装置と工作機械とのインターフェースとかユーザーインターフェースというものはメーカーごとに独自のものになってしまったと。
プログラムの仕方というのもアメリカの工作機械メーカーはそれぞれバラバラなものになってしまって、産業全体で見るとメーカーごとにバラバラで一貫性がないような状態になってしまったそうです。
さっき言ったように加工条件を記載するNCプログラムも工作機械メーカーごとにバラバラで、他社のプログラムを違う機械に持ってきて動かすとか、そういうことが全然できない。プログラム作成するのも各社ごとに考えないといけないし、プログラムを流用することもできない。
そういう状況になってしまったのがアメリカの工作機械産業発展の障害になったのではないかと指摘しています。
アメリカの工作機械メーカーはそういうふうにハイエンドな各社それぞれNCを作っていたのですが、それは巨大企業をお客様として高価なハイエンドな機械を売ることに固執していたという状況があるわけです。
逆に日本の工作機械メーカーはNC専業メーカーからそのNCを調達するということを選びました。
選ぶしかなかったとも言えるのですが、日本のNC専業メーカーは自社のNCをできるだけ多くの工作機械メーカーに売りたいので、なるべく汎用性の高い、どんな工作機械メーカーでも使える、どんなお客様でも使える、そういう汎用性の高いNC装置を開発しようとしていました。
なので、特殊なアメリカのNCのような、アメリカの工作機械メーカーが作っていたNCのように特殊な用途でしか使われないような高度な機能を実現するよりも、より汎用的な性能機能をリーズナブルに提供するような流れに日本のNC専業メーカーはなっていったということですね。
なので、数少ない巨大企業を相手にするよりも、できるだけ多くの中小企業とかジョブショップと呼ばれるような、そういう比較的小さい企業向けの汎用性の高い標準的なNCをたくさん提供するという目標になっていたということですね。
なので、そういう汎用的なNCを載せた日本の工作機械というものも必然的に、そういうパイの大きい中小企業に向けた汎用性の高い工作機械となるわけですね。
なので、その日本の工作機械メーカーというのは、そういうNC専業メーカーの規模の経済のメリットですね。規模の経済のメリットを受けることができましたし、それぞれ互換性も当時みんなファナックを載せていると。
違う会社でもファナックを載せているというそういう互換性もありまして、そういうプログラムの流用性とか部品の流用性とかそういう互換性を維持することができたというところで競争力を高めることができたのではないかと。
日本の中でもそうですし、アメリカに対する輸出機関に対しても、そういうアメリカの中の中小企業から広まっていって、信頼を得ていって、だんだんそういう上のハイエンドな方にも広まっていくと。そういうところで逆にアメリカの工作機械メーカーというのは衰退していったんじゃないかということですね。
ではなぜそういう事情があったにも関わらず日本のメーカーである大隈がNCO内製化できて、なおかつアメリカの工作機械メーカーのように衰退することがなかったのか。
日本の大隈の成長
個人的な意見になるんですけども、まず当時大隈が当時の大手工作機械メーカー5社の一つであり、比較的財政基盤とか会社の開発する人材の規模とかそういうところで強い部分があってNCO開発できる力があったのではないかというのが一つ考えられると思います。
この1960年代の5大メーカーというと、日立製機、池貝鉄工、トヨタ工機、東芝機械、そして大隈鉄工銃ですね。現在の大隈の5社のうちの一つだったのでそういう開発する力があったと。
そしてその大隈が内製化したNCOというのは、アメリカのメーカーのような高機能、ハイエンドなものを目指したものではなくて、インタビューの記事にあったように使いやすい最低限機能というところから始めていたので、そういうところでもNCO装置の内容としてはNCO専業メーカーと近いところがあるというところから、その2つを追ってメーカーというところで開発する力があった。
そして作ろうとしたNCOが汎用的なものに近いものだったというところで、大隈のNCO内製化が成功したんじゃないかと考えられるかなと思います。詳しいところは正直わかりません。
このNCOは工作機械メーカーの中でも得意的な存在と言えるのではないでしょうかね。あとヨーロッパの話も出てきてないですけれども、ヨーロッパにもハイデンハインとシーメンスのようなNCO専業メーカーがありますので、ある意味日本と同様な状況だったのかなと思っています。
ということでちょっとまとまりのないような話になってしまいましたけれども、NCOの内製化について考えてみました。ということで今回はここまでとします。
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