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2025-10-22 06:46

病院薬剤師の深刻な人手不足と診療報酬上の課題【2025年度入院・外来医療等分科会】

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令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会において、病院薬剤師の配置状況と診療報酬上の課題が明らかになりました。病院に勤務する薬剤師は5.66万人ですが、薬剤師偏在指標が全都道府県で1.0を下回り、全国的な不足状態にあります。この不足の背景には、病床機能による配置の偏在と、医師の処方に基づく調剤業務に対する院内処方と院外処方の診療報酬評価の格差という2つの構造的問題が存在します。

分科会の分析により、3つの重要な課題が浮き彫りになりました。第1に、病院薬剤師の77.1%が特定機能病院や高度急性期・急性期病棟に集中し、回復期・慢性期病棟には22.9%しか配置されていません。第2に、回復期・慢性期病棟の薬剤師は調剤室等における対物業務の割合が高く、病棟での対人業務が十分に実施できていません。第3に、調剤業務に対する診療報酬について、院内処方と院外処方を比較すると評価に差があり、この点数差が薬局薬剤師数の大幅な増加と病院薬剤師数の人手不足の一因となっている可能性があります。

全国的な病院薬剤師不足の実態

病院薬剤師の不足は、薬剤師偏在指標という客観的指標で明確に示されています。薬剤師偏在指標は、地域で必要な薬剤師サービスを提供するための業務量に対する、現在提供されている薬剤師の労働量の割合を示す指標です。この指標が1.0を超える都道府県が病院薬剤師ではゼロであるという事実は、全国どの地域でも病院薬剤師が不足していることを意味します。

病院薬剤師の偏在指標の全国値は0.80にとどまっています。一方、薬局薬剤師の偏在指標は全国値が1.08であり、18都道府県で1.0を超えています。この対照的な数値は、薬剤師という職種全体では一定数確保されているにもかかわらず、病院と薬局の間で人材の偏在が生じていることを示しています。

病院薬剤師の不足は、単なる人数の問題だけでなく、医療提供体制全体に影響を及ぼします。病院薬剤師は入院患者への薬学的管理、医師への処方提案、他職種との連携など、病院医療の質を支える重要な役割を担っています。この人材不足により、こうした機能が十分に発揮できない状況が全国的に広がっています。

病床機能による薬剤師配置の著しい偏在

病院薬剤師の配置状況を病床機能別に分析すると、著しい偏在が明らかになります。特定機能病院や高度急性期・急性期病棟には77.1%の薬剤師が配置されている一方、回復期・慢性期病棟には22.9%しか配置されていません。この配置の偏りは、病床機能ごとに求められる薬剤師業務の違いと、診療報酬上の評価の差によって生じています。

回復期・慢性期病棟に従事する薬剤師の業務内容には、特徴的な傾向があります。この病床機能の薬剤師は、中央業務と呼ばれる調剤室等における対物業務に従事する割合が、特定機能病院や高度急性期・急性期病棟に比較して高い状況です。対物業務とは、医師の処方に基づく医薬品の調剤業務を指します。

高度急性期・急性期病棟の薬剤師は、病棟での対人業務により多くの時間を割いています。対人業務には、患者への服薬指導、医師への処方提案、薬物療法のモニタリング、多職種カンファレンスへの参加などが含まれます。回復期・慢性期病棟でもこうした対人業務の重要性は高いにもかかわらず、人員配置の制約から対物業務中心にならざるを得ない実態があります。

病床機能による配置の偏在は、診療報酬上の評価の違いも影響しています。病棟業務実施加算は病棟での対人業務を評価する仕組みですが、対物業務である調剤業務については、後述するように院内処方と院外処方で評価に差があり、この構造が薬剤師の就業先選択に影響を与えている可能性があります。

病棟業務実施加算の届出増加と対人業務の推進

病院薬剤師が行う病棟業務、いわゆる対人業務に対する診療報酬上の評価として、病棟業務実施加算が設けられています。この加算の算定届出医療機関数は年々増加しており、病院薬剤師の対人業務を推進する効果を上げています。病棟業務実施加算の届出医療機関の増加は、薬剤師が病棟で患者に直接関わる業務の重要性が広く認識されてきたことを示しています。

病棟業務実施加算を算定している病棟では、薬剤師による医師の負担軽減効果が確認されています。医師の負担軽減策として最も効果が高いのは「薬剤師による投薬に係る患者への説明」であり、病棟薬剤業務実施加算1算定病棟で51.7%、同加算2算定病棟で48.1%、加算届出なし病棟でも43.3%の医師が負担軽減に寄与していると回答しています。

医師から薬剤師へのタスクシフト・シェアの実施状況としては、「医師への処方提案等の処方支援」が81.8%、「病棟等における薬学的管理等」が74.9%、「薬物療法に関する説明等」が70.9%と高い実施率を示しています。これらの取組は、医師の働き方改革と医療の質向上の両面で重要な役割を果たしています。

病棟薬剤業務実施加算による対人業務の評価は、病院薬剤師の役割を変化させつつあります。調剤室での対物業務中心から、病棟での患者への直接的な薬学的管理へと業務の比重が移行しています。この変化は医療の質の向上に寄与する一方で、対物業務である調剤業務の評価のあり方も改めて問われることになっています。

院内処方と院外処方の調剤業務に対する診療報酬評価の格差

病院薬剤師不足の構造的要因として、医師の処方に基づく医薬品の調剤業務、いわゆる対物業務について、院内処方と院外処方を比較すると診療報酬上の評価に差があることが指摘されています。調剤業務は院内処方でも院外処方でも同じ内容であるにもかかわらず、診療報酬上の評価には大きな差があります。この評価差が、薬剤師の就業先選択に影響を与え、病院薬剤師不足の一因となっている可能性があります。

具体的な点数差を外来処方の例で見ると、その格差は顕著です。服用時点が異なる内服薬が2種類、28日分処方されている患者の場合、外来院内処方では技術料の合計が32点(320円)です。一方、院外処方では一般的な薬局で調剤した場合、技術料の合計が238点(2,380円)となります。同じ調剤業務に対して、約7.4倍の評価差が存在することになります。

院外処方では、調剤基本料45点、調剤管理料100点、薬剤調製料48点、服薬管理指導料45点など、複数の項目で評価が設定されています。さらに、夜間・休日等加算として40点が追加される仕組みもあります。院内処方では、調剤料と調剤技術基本料のみで、剤数によらず1処方当たりの点数がほぼ固定されています。

分科会では、この評価差について2つの異なる意見が出されました。1つは、院内処方と院外処方との同一業務に対する報酬上の点数差が大きすぎるため、薬局薬剤師数が大幅に増加し、病院薬剤師数が人手不足に陥っていると考えられるので、再度検討すべきではないかという意見です。もう1つは、院内処方の評価を上げることで院内処方の増加につながる恐れがあるので、入院患者の調剤に対する評価を検討してはどうかという意見です。

今後の検討課題と方向性

分科会では、病院薬剤師不足への対応策として、入院患者の調剤に対する評価の検討が提案されました。現在の診療報酬体系では、外来における院内処方と院外処方の評価差が顕著ですが、入院患者に対する調剤業務についても適切な評価を行うことで、病院薬剤師の確保につながる可能性があります。

病院薬剤師の人件費確保の観点からも、診療報酬上の評価は重要です。分科会では、薬剤師の人件費を賄う場合、病棟薬剤業務実施加算により150床程度の算定で得られる診療報酬でようやく1人分となり、小規模病院では当該診療報酬によって薬剤師の人件費が確保できない現状があるとの意見が出されました。

病院薬剤師の配置偏在を解消するためには、回復期・慢性期病棟での薬剤師業務の評価も重要です。現在、これらの病棟では対物業務中心の配置となっていますが、高齢化の進展に伴い、ポリファーマシー対策や退院時の薬剤情報連携など、回復期・慢性期での薬剤師の役割はますます重要になっています。分科会でも、回復期以降の病棟での薬剤情報連携の状況について示してほしいとの意見や、その評価を検討すべきではないかとの意見が出されました。

今後の診療報酬改定においては、病院薬剤師の確保と適正配置を促進するため、対物業務である調剤業務の評価、対人業務である病棟業務の評価、そして病床機能に応じた薬剤師配置の推進という3つの視点から、総合的な検討が求められています。

まとめ

病院薬剤師は全国的に不足しており、薬剤師偏在指標が全都道府県で1.0を下回る深刻な状況にあります。病院薬剤師の77.1%が特定機能病院や高度急性期・急性期病棟に集中し、回復期・慢性期病棟では対物業務中心の配置となっています。病棟業務実施加算の届出医療機関数は増加し、対人業務の推進が図られていますが、医師の処方に基づく調剤業務については、院内処方と院外処方で診療報酬上の評価に差があり、この構造的問題が病院薬剤師不足の一因となっている可能性があります。今後の診療報酬改定において、入院患者の調剤に対する適切な評価を含め、病院薬剤師の確保と適正配置を促進する方策の検討が求められています。



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サマリー

日本の病院では薬剤師の深刻な不足が指摘されており、特に長期的なケアが必要な回復期や慢性期の病棟において人材確保が課題となっています。また、院内処方と院外処方での診療報酬の格差が、薬剤師が病院を離れる要因の一つとなっています。

日本の病院薬剤師の不足
こんにちは。今回はですね、日本の病院で薬剤師さんがかなり不足しているという問題について、共有いただいた資料、主に国の文化会の報告をもとに、ちょっと深く見ていきたいと思います。
なぜ病院で薬剤師さんが足りないのか。で、それがあなたが将来受けるかもしれない医療の質にどう関わってくるのか。
特に薬剤師さんの配置の偏りですね。それと院内処方と院外処方のお薬代、技術量の格差、これが結構大きいという点に注目していきます。
はい。まず現状なんですけど、薬剤師偏在指標っていうのがありますね。
偏在指標、はい。
これで見ていくと、病院の薬剤師さんというのは、実は全国すべての都道府県で、出用数を満たしていない。指標が1.0未満でして。
すべての都道府県でですか。
そうなんです。全国平均で見ると、わずか0.80。
0.80。
つまり、必要とされる人数の8割しかいない。そういう計算になりますね。
8割ですか。いや、それはかなり深刻ですね。一方でその薬局の薬剤師さんの方はどうなんですか。
そちらはですね、全国平均で見ると1.08と。
1.08。
ええ。なので、充足している地域も結構多いんです。この病院と薬局の対比が問題をより複雑に見せている面がありますね。
なるほど。資料を見ると、その病院の中でも偏りがあると。病院薬剤師の77%以上が大学病院みたいな特定機能病院とか、
重症患者さんを多く見る高度急性期、急性期の病棟に集中しているということですね。
ええ、そうなんです。そうした急性期の病院ですと、患者さんへの服薬指導であるとか、医師への処方提案とか、いわゆる対人業務、人と直接関わる業務に比較的時間を避けれている傾向があります。
ふむふむ。対人業務。
ええ。でも対象的にその回復期とか慢性期の病棟、つまり長期的なケアが必要になるような場所ですね。
はい。
ここではやはり人手不足というのもあって、調剤室で薬を準備する、いわゆる対物業務、ものに対する業務が中心にこうなりがちだと。
ああ。
もちろん回復期とか慢性期でも対人業務はものすごく重要なんですけど、なかなか手が回らないという実情があるようです。
その手が回らないというのは、やっぱり少ない人数でたくさんの調剤をこなさなければいけない、そういうことなんでしょうか。
まさにおっしゃる通りだと思います。
その結果として、どうしても患者さん一人一人と向き合う時間が十分に取りにくい、そういう状況が生まれている可能性はありますね。
うーん、なるほど。ただ少し明るいというか、良い動きもあるんですね。
病棟での対人業務を評価する病棟業務実施加算という仕組み、これの利用が増えているとか。
はい、そうですね。例えば薬剤資産による患者さんへのお薬の説明ですね。これが医師の負担軽減に一番効果的だと。
へー。
半数近くの医師がそう感じているというデータもありますし、処方提案なんかも8割以上で実施されているようです。
それは良い流れですよね。
ええ。これは医療の質を上げたり、医師の働き方改革にももちろんつながる非常に大切な動きだと思います。
でもその根本的な人手不足自体は解消されていないと。
診療報酬の格差の影響
そうなんです。そこが問題で、そしてここからが非常に大きな論点になるかと思うんですが、同じ薬を準備するという調剤の業務ですね。
これに対する評価、つまり国が定める価格、診療報酬が病院の中で行うか院内処方ですね。
それと病院の外の薬局で行うか院外処方、これで驚くほど違うんですよ。
どれくらい違うんですか、それは。
資料に挙げられている例ですと、ある処方の場合、院内だと32点。
32点、はい。320円。
ええ。ところが院外の薬局だと、これが238点。
えっと、238点。
ええ。2,380円ですね。
ちょっと待ってください。それって7.4倍?同じ調剤という行為に対してですよね。
そうなんです。
そんなに評価額が違うというのは、ちょっとにわかには信じがたいというか。
ええ。この格差がですね、やはり薬剤師さんが働く場所として、薬局を選びやすくさせて、病院から離れてしまう。
その大きな要因の一つになっているんじゃないかと。
ああ、なるほど。
文化界でもそういう議論がされています。
ただ一方で、じゃあ院内の評価を上げればいいかというと、今度は院内処方じゃなくて、院内処方が増えすぎちゃうんじゃないか。
うーん。
そういう懸念の声もあって、単純に解決できる問題でもないという。
なるほど。構造的なジレンマがそこにあるわけですね。
まとめますと、全国的に病院、特に長期的なケアを担う回復期、慢性期で薬剤師さんが足りていないと。
はい。
で、対人業務の価値は認められつつあるんだけれども、その長剤という基本的な業務の評価。
これが院内と院外で大きく異なっていることが、人材確保のまったべになっている可能性があるということですね。
まさにそういうことですね。
ですから対策としては、やはり入院患者さんの長剤業務に対する評価をまず見直すこと。
ええ。
それから回復期、慢性期での薬剤師さんの重要な役割。
例えば多くの薬を飲んでいる方への対応、いわゆるポリハーマシー対策とか。
ああ、はい。
あるいは退院時に他の医療機関とか薬局に情報をしっかりつなぐといった働きですね。
これをもっと適切に評価していくべきじゃないかと、そういう方向で議論が進んでいます。
うんうん。
まあ初規模な病院でもちゃんと薬剤師さんの人件費を賄えるような、そういう評価体系が必要だというこれは強いですね。
いやこれは本当に将来の私たちの医療、特に長く病院にお世話になる場合のケアの質に直結する問題ですね。
最後にこれはあなたにも少し考えてみてほしい問いなんですけれども、患者さんと向き合う対人業務の価値、これはもちろん重要です。
でもその一方で薬を正確に準備するという大仏業務の価値は、提供される場所によってこれほどまでに違うべきものなんでしょうか。
患者さんがどこにいても必要な薬学的サポートを受けられる、そういう体制のためにこの評価の格差と私たちはどう向き合っていくべきなのか、少し立ち止まって考えてみる価値がありそうですね。
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