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2025-12-29 04:52

2040年を見据えた医療保険制度改革の全体像|5つの柱と今後の方向性

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社会保障審議会医療保険部会は、2025年9月から12回の議論を重ね、医療保険制度改革の方向性を「議論の整理(案)」としてまとめました。この改革は、2040年頃に現役世代が急速に減少し高齢者数がピークを迎えることを見据え、全世代で支え合う持続可能な医療保険制度の構築を目指すものです。

今回の改革は、セーフティネット機能の確保、現役世代・次世代への支援強化、世代間の公平確保、効率的な給付の推進、国民健康保険制度改革の5つの柱で構成されています。出産費用の現物給付化による妊婦負担の軽減、高額療養費制度の見直し、後期高齢者医療制度への金融所得の勘案、OTC類似薬の薬剤自己負担の見直しなど、幅広い施策が総合的なパッケージとして提案されています。本記事では、各改革の背景と具体的な内容を解説します。

改革の背景と4つの視点

今回の医療保険制度改革は、人口構造の変化と経済情勢の変化という2つの大きな背景を踏まえて検討されました。

人口構造については、2025年までに団塊の世代全員が75歳以上となり、その後は生産年齢人口の減少が加速します。現役世代の保険料負担の上昇を放置することは、医療保険制度の持続可能性の観点から適切ではありません。経済情勢については、物価や賃金の上昇により、日本経済が新たなステージに移行しつつあることへの対応が求められています。

これらの背景を踏まえ、医療保険部会は4つの視点から議論を進めました。第1の視点は、高度な医療を取り入れつつセーフティネット機能を確保し、命を守る仕組みを持続可能とすることです。第2の視点は、現役世代からの予防・健康づくりや出産等の次世代支援を進めることです。第3の視点は、世代内・世代間の公平をより確保し、全世代型社会保障の構築を一層進めることです。第4の視点は、患者にとって必要な医療を提供しつつ、より効率的な給付とすることです。

セーフティネット機能の確保|高額療養費制度の見直し

高額療養費制度の在り方については、医療保険部会の下に設置された「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」において、計8回にわたり多様な議論が行われました。

専門委員会には、保険者や労使団体、学識経験者に加え、患者団体の方など当事者やその声を伝える立場の方が参画しました。検討に当たっては、患者団体、保険者、医療関係者、学識経験者からのヒアリングを実施しています。複数の事例に基づく経済的影響のイメージやデータを踏まえた多角的かつ定量的な視点での議論も行われました。

専門委員会では「高額療養費制度の見直しを行っていく場合の基本的な考え方」がとりまとめられました。高齢者からのヒアリングでは、外来特例を利用する当事者から「この制度は絶対に廃止しないでほしい」という声が届いていること、制度の周知や説明の改善が強く求められていること、高額療養費制度は高齢者の生活を支える大切な仕組みであり今後も継続してほしいことなどの意見がありました。

現役世代及び次世代の支援強化|出産支援と子育て世代支援

現役世代及び次世代の支援強化として、出産に対する支援の強化、国民健康保険制度における子育て世代への支援拡充、協会けんぽにおける予防・健康づくりの取組の3つの施策が提案されています。

出産に対する新たな給付体系

出産費用については、少子化の進行や物価・賃金の上昇等を背景に、令和5年度に出産育児一時金が原則42万円から原則50万円に引き上げられた後も上昇し、妊産婦の経済的負担が増加しています。現行の出産育児一時金という給付方式では、出産に伴う経済的負担軽減の目的が十分に達せられなくなりつつあると考えられます。

新たな給付体系では、現行の出産育児一時金に代えて、保険診療以外の分娩対応に要する費用について、全国一律の水準で保険者から分娩取扱施設に対して直接支給する現物給付化を図ります。分娩を取り扱う病院、診療所及び助産所における分娩を対象に、出産独自の給付類型を設けた上で、妊婦に負担を求めず、設定した費用の10割を保険給付とします。

分娩1件当たりの基本単価を国が設定し、手厚い人員体制を講じている場合やハイリスク妊婦を積極的に受け入れる体制を整備している場合など、施設の体制・役割等を評価して加算を設けることが適当とされました。また、全ての妊婦を対象とした現金給付を設けることで、保険診療が行われた際の一部負担金など、それ以外に生じる費用についても一定の負担軽減が図られます。

新たな給付体系への移行時期については、当分の間、施設単位で現行の出産育児一時金の仕組みも併存し、可能な施設から新制度に移行していくことが適当とされました。

国民健康保険制度における子育て世代への支援拡充

国民健康保険では、令和4年4月から、未就学児に係る均等割保険料について、その5割を公費により軽減する措置が講じられています。この軽減措置の対象を高校生年代まで拡充することについて、国と地方の間で調整が行われ、法改正を含め対応する方向性が示されました。

協会けんぽにおける予防・健康づくりの取組

協会けんぽでは、医療費の適正化及び加入者の健康の保持増進を一層推進するため、健診体系の見直しや重症化予防対策の充実に取り組んでいます。「加入者の年齢・性別・健康状態等の特性に応じたきめ細かい予防・健康づくり」を適切かつ有効に実施していくことを法令上明確化していくことが提案されました。

世代内、世代間の公平の確保|高齢者医療と金融所得の勘案

世代内・世代間の公平の確保として、高齢者医療における負担の在り方と、医療保険における金融所得の勘案について議論が行われました。

高齢者医療における負担の在り方

高齢者の受診の状況や所得の状況について確認したところ、高齢者の受診率や受診日数は改善傾向にあり、医療費水準は5歳程度若返っていることが分かりました。高齢者の就業率・平均所得は上昇傾向にあり、所得や年金収入の分布の推移を見ても「所得なし」の者や低年金の者の割合は減少傾向にあります。

年齢階級別の一人当たり医療費と一人当たり自己負担額をみると、高齢になるにつれ一人当たり医療費は高くなりますが、一人当たり自己負担額のピークは60代後半です。70代前半は60代後半より、70代後半は70代前半より自己負担額が低くなり、一人当たり医療費と自己負担額の逆転が生じています。

高齢者の窓口負担割合の在り方については、経済対策において「医療費窓口負担に関する年齢によらない真に公平な応能負担の実現」について「令和7年度中に具体的な骨子について合意し、令和8年度中に具体的な制度設計を行い、順次実施する」項目とされており、引き続き検討されます。

医療保険における金融所得の勘案

上場株式の配当などの金融所得については、確定申告を行う場合は保険料や窓口負担等の算定において所得として勘案されますが、確定申告を行わない場合は勘案されない不公平な取扱いとなっています。

金融所得の把握方法については、本人の確定申告の有無に関わらず、金融機関等に対し所得税法などの規定により税務署に提出が義務付けられている法定調書を活用することが提案されました。対象となる医療制度としては、まずは後期高齢者医療制度から金融所得を勘案することとされています。

必要な医療の提供と効率的な給付の推進|薬剤費と入院費用の見直し

必要な医療の提供と効率的な給付の推進として、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し、長期収載品の選定療養の見直し、入院時の食費・光熱水費の引上げなどが議論されました。

OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し

医療機関における必要な受診を確保しつつ、OTC医薬品で対応している患者とOTC医薬品で対応できる症状であるにもかかわらず医療用医薬品の給付を受ける患者との公平性を確保する観点から、薬剤を保険適用としつつ、薬剤費の一部を保険給付の対象外とし、患者に「特別の料金」を求める新たな仕組みを創設することが提案されました。

こども、がん患者や難病患者など配慮が必要な慢性疾患を抱えている方、入院患者や処置等の一環でOTC類似薬の処方が必要な方、医師が対象医薬品の長期使用等が医療上必要と考える方については、特別の料金を徴収しない方向で検討が進められます。

長期収載品の選定療養の見直し

令和6年度診療報酬改定において、長期収載品を選定療養の対象とし、患者の希望により長期収載品を使用する場合には、長期収載品と後発医薬品の価格差の1/4相当を患者負担としました。施行後、後発医薬品の数量ベースでの使用割合は約4ポイント上昇し90%以上になっており、一定の効果があったと言えます。

後発医薬品の安定供給の確保に取り組むとともに、供給状況や患者負担の変化にも配慮しつつ、患者負担の水準を価格差の1/2以上へと引き上げる方向で検討することが提案されました。

入院時の食費・光熱水費

入院時の食費については、食材料費等の高騰を踏まえ、標準負担額について引上げの方向で見直しを行うとともに、所得区分等に応じて一定の配慮を行うことが提案されました。入院時の光熱水費についても同様に、近年の光熱・水道費の上昇を踏まえ、標準負担額について引上げの方向で見直しを行うことが提案されています。

国民健康保険制度改革の推進

国民健康保険制度については、被保険者の年齢構成が高く医療費水準が高いこと、被保険者の所得水準が低いこと、小規模保険者が多く財政運営が不安定になるリスクが高いことなどの課題があります。

具体的な改革として、子どもに係る均等割保険料の軽減措置の対象を高校生年代まで拡充すること、保険料水準統一加速化プランの改定について検討し目標年度の設定や前倒しの検討を含め統一に向けた議論を積極的に行うこと、財政安定化基金の使途を拡充することなどが提案されました。

国民健康保険組合については、負担能力に応じた負担等を進める観点から、定率補助の補助率の見直しが検討されています。財政力及び被保険者の健康の保持増進等の取組の実施状況が一定の水準に該当する国保組合のみ、例外的に新たな補助率を適用することが提案されました。

まとめ

今回の医療保険制度改革は、2040年頃を見据えた中長期的な時間軸で、現役世代の負担を軽減しつつ、年齢に関わりなく能力に応じて負担し支え合う「全世代型社会保障」の構築を目指すものです。改革は、セーフティネット機能の確保、現役世代・次世代への支援強化、世代間の公平確保、効率的な給付の推進、国民健康保険制度改革の5つの柱で構成されています。

出産費用の現物給付化による妊婦負担の軽減、後期高齢者医療制度への金融所得の勘案、OTC類似薬の薬剤自己負担の見直しなど、幅広い施策が総合的なパッケージとして提案されています。厚生労働省においては、十分な準備期間や国による支援・丁寧な周知を行いながら、改革を進めていくことが求められています。



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サマリー

2040年に向けて、日本の医療保険制度改革が進んでおり、全世代型社会保障の構築を目指しています。この改革には出産支援の拡充や高齢者負担の見直しが含まれ、根底には公平性の確保があります。

医療保険制度の改革
2040年の日本。現役世代がぐっと減って、高齢者人口がピークを迎える時代です。 その未来に向けて、私たちの医療保険制度が今、大きく変わろうとしています。
今回は、厚生労働省の審議会資料をもとに、この改革が目指す公平性、 これが一体何なのか、あなたに直接関わるポイントを深掘りしていきましょう。
はい。この改革の根底にあるのは、もう待ったなしの人口構造の変化なんですよね。 支える側が減って、支えられる側が増える中で、今の制度を持続させるための大きな見直しが必要になっていると。
目指すのは、年齢や所得に関わらず、能力に応じて負担して、みんなで支え合う、 全世代型社会保障の構築ですね。
では早速、具体的な変更点を見ていきましょうか。 まずは、これから子どもを持つ世代には、これは朗報ですね。
出産費用に関する大きな変更です。 はい。これまでは、出産した後に一時金をもらう形でしたけど、今後は保険者から直接病院に費用が支払われる
現物給付化が提案されています。 これによって、退院時に週10万円という大金を立て替える必要がなくなるわけです。
それは大きいですね。 さらに全ての妊婦さんへの現金給付も検討されていて、経済的な不安を和らげる狙いがあります。
出産世代へのサポートは手厚くなる一方、やはり気になるのはその財源です。 これ他の世代、特に高齢者の負担が増えるという話にどうしても繋がってきますよね。
まさにそこがポイントです。 世代間の公平性を考える上で非常に興味深いデータがありまして、今の制度だと一人あたりの医療費は当然高齢になるほど高くなります。
ですが窓口での自己負担額のピークは実は60代後半で、70歳を過ぎると逆に下がるという逆転現象が起きてるんですよ。
え、そうなんですか?普通に考えたら逆ですよね。 健康リスクが高まる70代の方が60代より自己負担が軽いっていうのはどうしてそんな構造に?
はい、大きな理由の一つが金融所得の扱いなんです。 金融所得ですか?
ええ、株の配当なんかで多くの収入があっても確定申告をしない限り、その所得は保険料に反映されてこなかったんです。
なるほど。 今回の改革案では後期高齢者医療制度において、本人の申告の有無に関わらずこの金融所得を保険料に反映させる方向です。
ということは働いて得たお給料よりも金融所得で生活している、ある意味で富裕層の方が保険料で優遇されていたっていう不公平感を是正するわけですね?
ええ、おっしゃる通りです。能力に応じた負担をより徹底していく、そういう動きと言えます。
そしてもう一つ、私たちの普段の通院にも関わるちょっと面白い提案があるんです。 市販薬、いわゆるOTC医薬品に関する話です。
ああ、風邪薬とか身近な話ですね。
はい。市販薬で対応できるような軽い症状で病院にかかり薬を処方してもらった場合、その薬剤費の一部を保険給付から外してですね。
え、外すんですか?
ええ、患者さんが特別料金として追加で自己負担するという新しい仕組みです。
でもその市販薬で対応できるかどうかの判断は誰がするんでしょう? 患者自身では難しいですし、お医者さんによって基準がバラバラになるみたいな心配はありませんか?
非常に重要なご指摘です。そこは間違いなく今後の大きな論点になります。
もちろん子どもや難病患者さんなど、配慮が必要な場合は対象外とする方向で検討はされています。
あくまで市販薬を買う人との公平性を保って医療費を適正化しようというのが目的ですからね。
なるほど。まとめると、出産支援の拡充、所得に応じた高齢者負担の見直し、そして身近な薬の処方ルールまで、全てが公平性という一つのキーワードでつながっていると、2040年を見据えた本当に大きなパッケージ改革なんですね。
その通りです。個々の施策はバラバラに見えても、ゴールは一つで持続可能な制度なんです。現役世代の負担が再現なく上がるのを抑えつつ、本当に必要な医療は守る。そのための総合的な見直しということですね。
では最後に、あなたに一つ考えてみてほしい問いがあります。この限られた財源の中で、今後登場するであろう高額な新薬や最先端の治療を、私たちはどこまで公的な保険でカバーするべきなのか。この選択が未来の医療の質そのものを決めることになるかもしれません。
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