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2026-10-11 06:41

費用対効果評価で2品目が「効果同等」判定 中医協651回総会を解説

令和8年6月24日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第651回)で、費用対効果評価専門組織から医薬品2品目の評価案が報告されました。費用対効果評価の結果は、その品目の薬価の価格調整に反映されます。本号では、報告された2品目の評価案について、結果と判断の根拠を整理してお伝えします。

2品目はいずれも、比較対照の薬剤に対して「追加的有用性(上乗せの効果)は示されていない」と評価されました。新型コロナ治療薬「パキロビッドパック」は、比較対照のモルヌピラビルに対して「費用増加」と判定されました。週1回投与のインスリン製剤「アウィクリ注 フレックスタッチ」は、患者集団に応じて「費用増加」または「費用同等」と判定されました。両品目とも企業が不服意見を出しましたが、最終的には公的分析(国側の分析)の結果が妥当とされました。

用語メモ

* 費用対効果評価:新しい医薬品の効果と費用を既存の治療と比べ、価格が見合っているかを評価する仕組みです。結果に応じて、薬価のうち加算部分などが調整されます。

* 追加的有用性:比較対照の治療と比べて、効果がどれだけ上乗せされるかを指します。

* 費用最小化分析:効果が同等と判断された場合に、費用だけを比べる分析です。

* ICER(円/QALY):健康な1年(QALY)を追加で得るのに必要な費用です。効果が同等の場合は算出せず、「費用増加」「費用同等」などの区分で示します。

今回報告された2品目の概要

今回の報告対象は、いずれも市場規模が100億円以上の「H1区分」に指定された2品目です。両品目とも、収載時に有用性系加算率5%を得ています。

① パキロビッドパック

* 一般名:ニルマトレルビル/リトナビル

* 製造販売業者:ファイザー

* 効能・効果:SARS-CoV-2による感染症

* 収載時価格:12,538.60円(300 1シート)、19,805.50円(600 1シート)

* 有用性系加算率:5%

* 市場規模(ピーク時予測):281億円

* 費用対効果評価区分:H1

* 総会での指定日:2023年3月8日

② アウィクリ注 フレックスタッチ

* 一般名:インスリン イコデク

* 製造販売業者:ノボ ノルディスク ファーマ

* 効能・効果:インスリン療法が適応となる糖尿病

* 収載時価格:2,081円(300単位1キット)

* 有用性系加算率:5%

* 市場規模(ピーク時予測):131億円

* 費用対効果評価区分:H1

* 総会での指定日:2024年11月13日

パキロビッドパック:モルヌピラビルに対して「費用増加」

パキロビッドパックは、比較対照のモルヌピラビルに対して追加的有用性が示されず、「費用増加」と判定されました。「費用増加」とは、効果は同等で、費用が増加することを意味します。対象集団は、重症化リスク因子を持つ新型コロナ患者(小児を除く)で、患者割合は100%です。

追加的有用性を否定した根拠:オミクロン株・ワクチン接種下のデータ

公的分析は、オミクロン株流行・ワクチン接種下では追加的有用性が示されていないと判断しました。企業が根拠としたEPIC-HR試験とMOVe-OUT試験は、デルタ株流行以前にワクチン未接種者を対象に行われています。この対象者は、分析で想定する現在の患者像と合致していません。

そこで公的分析は、公的分析期間中に公表されたEPIC-SR試験を用いて評価しました。この試験のうち、デルタ株流行下で重症化リスク因子を持つワクチン接種者の集団では、主要評価項目である症状回復までの時間に、プラセボとの有意差がありませんでした。入院・死亡については、点推定値で改善傾向がみられたものの、有意差はありませんでした。さらにPANORAMIC試験(ワクチン接種・オミクロン株流行下)でも、標準治療群に対する28日以内の入院または死亡の調整オッズ比は1.18(95%信用区間0.55–2.62)で、有意差は認められませんでした。

この判断を受けて、公的分析は費用最小化分析を実施しました。専門組織は、分析中断後の再開であり意思決定が求められる状況から、費用最小化分析を基軸とすることが妥当としました。

企業の主張と不服意見:モルヌピラビルとの比較で評価すべき

企業は、比較対照はモルヌピラビルであり、モルヌピラビルに対する追加的有用性を評価すべきと主張しました。企業は、モルヌピラビルに対して有意性を示した観察研究のネットワークメタ解析・メタ解析が存在することも根拠に挙げました。専門組織がこの主張を退けたのち、企業は不服意見として、標準治療との比較試験ではなく、モルヌピラビルとの間接比較で評価すべきと改めて主張しました。

専門組織は、この不服意見を踏まえても公的分析の結果が妥当と結論づけました。主な理由は次のとおりです。

* 報告時期が遅れることを踏まえると、追加分析は不要である

* 現在の患者は大部分がワクチン接種者・既感染者であり、オミクロン株では肺炎の発症も減っている

* PANORAMIC試験では、入院・死亡に対する効果が示されていない

* 令和8年4月23日にNEJM誌で公表された同試験の論文では、ウイルス減少や症状改善の速さに傾向はあるものの、臨床現場での使い方は変わらない

一方で専門組織は、ワクチン未接種者や免疫抑制患者などには有用な薬剤であることも認めています。評価結果によって、臨床での位置づけは変わらないという見解も示されました。

アウィクリ注:1型などは「費用増加」、2型の多くは「費用同等」

アウィクリ注は、4つの患者集団すべてで比較対照と効果が同等とされ、集団ごとに「費用増加」または「費用同等」と判定されました。「費用同等」とは、効果も費用も同等であることを意味します。患者割合の大きい2型糖尿病の(b)(c)が「費用同等」、残る(a)(d)が「費用増加」です。

* (a) 1型糖尿病:比較対照はグラルギンU300+追加インスリン、区分は「費用増加」、患者割合は5.0%

* (b) 2型・インスリン治療歴なし:比較対照はグラルギンU300、区分は「費用同等」、患者割合は71.4%

* (c) 2型・基礎インスリン治療歴あり:比較対照はグラルギンU300、区分は「費用同等」、患者割合は16.9%

* (d) 2型・基礎-追加インスリン治療歴あり:比較対照はグラルギンU300+追加インスリン、区分は「費用増加」、患者割合は6.7%

追加的有用性を否定した根拠:HbA1cの差と低血糖の増加

公的分析は、(a)(b)(c)について、HbA1cの差が臨床的に意味のある大きさではないと判断しました。グラルギンU300との直接比較試験がないため、企業はインスリン デグルデクとの比較試験(ONWARDS 2・3・6)を用いて評価しました。そのうえで企業は、(b)(c)では統計的な優越性が示されたと主張しました。しかし、これらは非劣性試験であり、群間差の点推定値は非劣性マージン0.3%を下回っています。臨床専門家への意見聴取でも、この差を臨床的に意味のある差とはみなせないとされました。

低血糖の発現も、公的分析の判断を後押ししました。臨床的に重要または重大な低血糖(レベル2・3)は、(a)(b)(c)のいずれでもインスリン イコデクで多い傾向がみられました。

* (a) 1型:発現率比1.89(26週時点)、1.80(57週時点)で、統計的に有意に多い

* (b) 2型・治療歴なし:発現率比3.12(26週時点まで)、1.82(31週時点まで)で、多い傾向

* (c) 2型・基礎インスリン歴あり:発現率比1.93で、有意差はないが多い傾向

これらを踏まえて、公的分析は(a)(b)(c)で費用最小化分析を実施しました。あわせて、併用するSGLT2阻害薬の薬価を2025年8月1日の改定後の価格に更新しました。併用薬の使用割合も、両群で同じ割合に設定し直しました。

企業の不服意見:利便性・HbA1c 7%未満達成率・QOLの反映を主張

企業は、週1回投与の利便性やHbA1c 7%未満達成率、QOLの改善を評価に反映すべきと主張しました。企業は、高齢者や訪問診療の患者で、家族や介護者の負担が軽くなる点も強調しました。

専門組織は、利便性の価値に一定の理解を示しつつも、企業の主張を退けました。主な理由は次のとおりです。

* 企業が根拠としたDTSQは治療満足度の尺度であり、費用対効果評価に使えるQOL尺度ではない

* 利便性による継続率の向上が、費用対効果の良さに直結するとは限らない

* 高齢者ではHbA1c 8%未満を目標とすることも多く、7%未満達成率では有用性を示しにくい

ただし専門組織は、費用最小化分析の前提について公的分析に追加分析を求めました。対象は、訪問看護を受ける患者の割合と、血糖自己測定の回数の設定です。企業は全患者が訪問看護を受ける前提を置いていましたが、専門組織はこれを臨床の実感と乖離していると指摘しました。追加分析の結果、訪問看護を受ける患者割合と「訪問看護が月1~2回減少する」という推定は、実態に沿ったものとして妥当とされました。

まとめ:2品目とも追加的有用性は示されず、公的分析が採用された

今回の報告では、2品目とも比較対照に対する追加的有用性が示されず、公的分析の結果が採用されました。パキロビッドパックは、現在の流行状況・ワクチン接種状況では追加的有用性が示されないとして、「費用増加」と判定されました。アウィクリ注は、HbA1cの差が小さく低血糖も多い傾向から、集団ごとに「費用増加」または「費用同等」と判定されました。両品目とも、追加的有用性に関する企業の主張は認められませんでした。ただしアウィクリ注では、不服意見を受けて、訪問看護などの前提について追加分析が行われました。

今回の評価案は、今後の価格調整の根拠となります。評価の詳細は、国立保健医療科学院から公表される報告書で確認できます。

参考資料:中央社会保険医療協議会 総会(第651回)資料「総-2 費用対効果評価専門組織からの報告について」(令和8年6月24日)



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サマリー

新薬の費用対効果評価をめぐり、パキロビッドパックとアウィクリ注の判定を解説する。パキロビッドパックは、現在のオミクロン株流行・ワクチン接種下では入院や死亡を防ぐ有意な差が確認できず、モルヌピラビルに対して「費用増」とされた。アウィクリ注は週1回投与が特徴だが、HbA1cの差が臨床的に意味のある大きさでなく、低血糖の増加傾向もあり、「費用同等」または「費用増加」と判定された。企業が利便性や生活の質の向上を訴えた一方、DTSQは厳格な費用対効果評価の共通指標として認められなかった。ただし、注射回数の減少に伴う訪問看護の減少など、実生活に即した前提は再評価に反映された。最後に、客観的指標に現れにくい患者や家族の利便性・安心感を、社会がどう医療価格に反映するかという課題を提示する。

パキロビッドパックの費用増判定
新薬が開発されたっていうニュースを聞くと、それだけで何かこう、画期的な効果があって、世界が変わる、なんて思いがちですよね。
本当にそうですよね。すごく期待しちゃいます。 でも実は、その新薬の凄さに対して、国がいくら支払うかを決めるときって、私たちが想像する以上に、
かなりシビアな判断が下されているんです。 今回は中立的な立場から、その裏側をじっくり分析していきましょう。
このテーマ、本当に奥が深くて面白いんですよ。 今回はですね、中医協という国の専門組織が行った費用対効果評価の解説記事を情報源として読み取っていきます。
リスナーのあなたも、毎月医療保険料を納めていますよね。 だから決して他人事じゃないんです。
はい。実は最近、市場規模が100億円を超えるような注目の新薬に品目が、既存の薬に対して追加的な有用性はない。
つまり、上乗せの価値はないと判定されてしまったんです。 100億円規模なのに、上乗せの価値なしですか?
製薬企業と国が真っ向から対立する中で、新薬の価格が本当にその価値に見合っているかを、国がどう見極めているのか。
まずは一つ目のケースについて教えてもらえますか? まずは新型コロナ治療薬のパキロビットパックという薬のケースですね。
結論から言いますと、モルムピラビルという比較対象の既存薬に対して、効果は同等なのに値段が高い。
費用増という厳しい判定が下されました。 費用増ってことは、つまりコストパフォーマンスが悪いってことですかね?
まさにそういうことです。 企業側は有用性の根拠として、エピックHR試験というデータを提出したんですが、このデータの中身が議論の的になったんですよ。
なるほど。そのデータに何か問題があったんでしょうか? 企業が提出したのはですね、デルタ株が流行する前で、しかもワクチンをまだ打っていない人たちを対象にしたデータだったんです。
ちょっと待ってください。それって、例えるなら、最新スマホのセキュリティ性能をアピールするのに、ガラケー時代の古いウイルスを持ち出して、ほらこんなに防げますって言っているようなものじゃないですか?
その例え、すごくわかりやすいですね。まさにその通りです。 ですよね。
ウイルスの変異とか、ワクチンの普及といった外的要因によって、評価の前提が完全に変わってしまっていたんです。 なるほど。
そのため、国側はオミクロン株が流行していて、ワクチン接種も進んでいる現在の状況下で実施されたパノラミックっていう最新のデータを採用しました。
つまり、今現在のリアルな患者さんの状況に合わせたわけですね。 そうなんです。
で、この最新データで分析し直すと、入院や死亡を防ぐ効果に有意な差は認められませんでした。 そうなんですか?
統計学的な調整オッツ比という数値で1.18だったんですが、これは簡単に言うと標準的な治療と比べて効果の差が小さすぎて、客観的に意味のある違いとは言えないレベルだったということです。
へー、データは鮮度が命だっていうことがよくわかる事例ですね。 本当にそうですね。
アウィクリ注の週1回投与と評価
じゃあ、データが古かったというケースからちょっと視点を変えまして、もしデータ自体は正確でも、企業と国とでそもそも何が患者にとっての価値なのかっていう根本的な考え方が食い違ったらどうなるんですか?
そこがまさに2つ目の新薬、アオイクリチューで起きた議論なんです。 アオイクリチューですか?
はい。これは糖尿病の治療に使われるインスリン洗剤なんですが、最大の特徴は毎日打っていた注射が週1回で済むようになるという点なんですね。
おー、それはすごい。
なんですけど、こちらもHBA1Cという糖尿病の指標となる血糖値の差が臨床的に意味を持つほどの大きさではないと判断されてしまって、
さらに低血糖の増加傾向も見られたため、最終的に費用同等や費用増加と判定されました。
いや、ちょっと待ってくださいよ。毎日自分に注射を打たなきゃいけないのが週1回で済むって、患者さん本人とか介護するご家族にとってめちゃくちゃ価値があるはずですよね。
利便性・満足度をどう評価するか
そう思いますよね。
日々の生活の負担が激減するのに、なぜそれが評価に直結しないんですか?
企業側も全く同じ主張をしたんですよ。糖尿回数が減ることで生活の質が改善するとして、DTSQという指標を提出しました。
はいはい。
ただですね、これは平たく言えば治療に対する患者さんの満足度アンケートのようなものでして、国はこれを厳格な費用対効果の評価には使えないと判断したんです。
えー、患者の満足度が高くてもダメなんですか?
なぜかというと、国は限られた医療予算を配分するために、あらゆる病気の薬を公平に比較しなければならないからです。
なるほど。
例えば、この糖尿病の薬の価値と全く別のがん治療薬の価値を同じ天秤にかけるためには、単なる満足度ではなくて、命の長さと質を掛け合わせた共通の厳密なもの指しが必要になります。
病気ごとに異なる満足度の指標を使ってしまうと、客観的な比較ができなくなってしまうんですよ。
なるほど。経済的な価値として、国全体で予算を割り振るためには、もっと普遍的な基準が必要だということですね。
いやー、かなりシビアな世界です。
ただ、国も医療現場の実態を完全に無視しているわけではないんです。
あ、そうなんですか?
企業の反論を受けた再評価で、注射の回数が減ることで、訪問看護の回数が月に1回か2回減るだろうといった、実際の生活に即した前提条件の修正はしっかりと行われました。
よかったです。今回の2つの薬を通して見えてきたのは、国側がいかに冷静に、ある意味で冷酷なまでに厳格な分析をしているかということですね。
そうですね。でも、この厳格なプロセスは、決して針薬をいじめているわけではないんです。
と言いますと?
これをお聞きのあなたが毎月払っている医療保険という、社会全体の大切な資源をどう守り、未来へ繋いでいくかという、非常に重要なシステムそのものなんですよ。
本当にその通りですね。ただ、ここで一つ考えさせられます。
見えにくい医療価値と社会的な価格評価
まず、ヘモグロビンA1Cの数値とか、入院率といった客観的なデータや共通の物差しには、どうしても現れにくい。
患者や家族の利便性とか、日々の安心感。
今後私たちは、こういった目に見えない価値を、どうやって社会全体で評価して、適正な価格として、医療に反映していくべきなのでしょうか。
ぜひ、あなたもこの問いについて、少し時間をとって考えてみてください。
今回も深い分析でしたね。
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