クリスマスの準備
金の首飾り 尾野ひろし
よしこさんのお家も、あすはクリスマスです。
毛並みのツヤツヤした真っ黒い猫は、夜通し、煙突のてっぺんに座って、
サンタクローズのおじいさんが、このお家を間違いなく見つけてくれればいいがと、黄色い目を光らせて見つめていました。
よしこさんは今夜は、きっとおじいさんが私の欲しくて欲しくてたまらない、
小さな金の首飾りを持ってきてくれるに違いないと言って、おねんねをしました。
犬は、うちの中の煙突の下を、ふさふさしたしっぽできれいにお掃除をしました。
せっかくサンタおじいさんが金の首飾りを持って煙突から降りてきても、
そこがあまりきれいでなくてはいやな気持になって帰ってしまうかもしれないからです。
オウムさん、あなたはこのクリスマスによしこさんには何をしてあげるの?
と、犬はかごの中のオウムに声をかけました。
あたしは、おめざめのうたをうたってあげるわ、とオウムは言いました。
それは毎朝のことで、別にめずらしくもないじゃないな。
でもいつものうたとはちがうのよ。
あたしがさっきつくったばかりの、それはいいうたなんですの、とオウムは言いました。
ふんふん、うたなんかうたったってクリスマスのやくにはたたないや。
ごらんよ、ぼくたちのやってることを。
ねこがこのうえにいて、めをひからせていなかったら、このうちはそらからみえないし、
ぼくがここをきれいにしておかなければ、おじいさんははいってきやしないよ。
ぼくたちのすることはこんなものだ。
犬はしっぽをふっておおいばりにいばりました。
あたしだってなにかしたいのだけれど、
でもかごの中にいるんですもの、あたしにはうたをうたうことしかできないわ。
いまにいいふしがつくんだけれど、
オウムはさびしそうにちいさなこえでこういいました。
犬はそれにはへんじもしないで、
ではぼくはおじいさんがくるまでひとねいりするんだ。
こういってごろりとよこになってしまいました。
おへやのなかはしいいんとして、よるがだんだんふけていきました。
金の首飾りの行方
しばらくすると、やねのうえにみしみしというあしおとがきこえました。
犬ははっとめをさましてききみみをたてました。
オウムはずっとねないでまっていたのです。
そうじはきれいにできたかな。
サンタクローズのおじいさんはこういいながらえんとつのうえにいたねこをせなかにしょって、
すらりとおへやへおりてきました。
そしてポケットからかきつけをだして、
えっと、やしこさんはなにがほしいのだったかな、
といいいよみかえしました。
あたしのあるきにんぎょうにはおくつをふたつ、
しろいくまちゃんにはけがわのぼうしを、
ねこにはちりちりとなるすずを、
いぬにはぴかぴかしたおもちゃを、
いぬにはぴかぴかひかるくびわをひとつ、
オウムにはあたらしいうたのふしを、
それからあたしには、
サンタおじいさんはそこでつまってしまいました。
くらくてじがよくみえないのでかきつけをめのそばによせて、
あてな、やしこさんのほしいものはなんだったけな、
とおじいさんはかんがいこみました。
ちいさなきんのくびかざりです、
といぬとねことオウムとがいちどにいいました。
ちいさなきんのくびかざり、
おお、そうだった、ゆうべちゃんとつくって、
それからどうしたっけな、
おじいさんはすこしあわてて、
ポケットというポケット、
まるいポケット、しかくなポケット、
うえのポケット、したのポケットをさがしまわしました。
でもくびかざりはどこにもみつかりません。
おやおや、どうしたんだろう、
もってこないはずはないのだが、
はてな、はてな、
おじいさんはしきりにくびをひねりました。
いぬとねこはしんぱいしてかおをみあわせました。
じぶんたちのもらうものはどうでもいいけれど、
だいじなおじょうさまがあれほどほしがっていらっしゃるくびかざりですから、
どうしてもさがしだしてもらわなければなりません。
おじいさんはぼうしもとってみました。
くつもぬいでみました。
しかし、どこにもありません。
ねこやいぬやおおむは、
それこそがっかりしてしまいました。
とふいに、
おお、そうだ、
とおじいさんはむねをたたきました。
おもいだしたよ。
あれはわしのうちのこうのとりのくびにかけてある。
かけたままわすれてでてきたんだよ。
いぬとねこはためいきをついて、
おじいさんのかおをみつめました。
これからとりにかえっては、
ほかのこどものところへまわれないし、
さて、どうしたらいいだろうなあ。
ぼくがとりにいきましょうか、
といぬがいいました。
ぼくもねこもはやいよんほんあしがありますよ。
だめだだめだ。
わしのうちはとういとういそらのうえなんだから、
よんほんあしだろうがろっぽんあしだろうが、
これからいってあけがたまでにかえってくることはとてもできない。
特別な贈り物
では、あたしがとんでまいりましては、
とおおむがかごのなかからはばたきをしていいました。
なるほど。
おじいさんはにこにこうなずきました。
おまえならまにあうかもしれないね。
おじいさんはさっそくおおむをかぶって、
おじいさんはさっそくおおむをかごのなかからだしました。
そしてみんなといっしょにかどぐちにでておおむにおしえました。
ほらごらん、ずっとむこうにおおきなほしがみっつひかってるだろう。
わしのうちはそのいちばんひだりのほしのすぐうしろにあたるんだよ。
おおむはさっととびたちました。
こんなにしてちからいっぱいつばさをのばしてとぶのはなんねんぶりでしょう。
おおむはいっきにたかくとびあがってやのようにかけだしました。
はてしもなくとおいながいながいつめたいみちでしたけれど、
おおむはとうとうまよいもしないでサンタクローズのおうちにつきました。
そのおうちのふわふわしたしろいけがわのやねのうえに
あかいきれいなえんとつがにょきりとたっていました。
おはいんなさいとまどにまたたいているあかりがいいました。
おへやのなかはあったかいよ。
おおむはへとへとにつかれきっていました。
でもよがあけないうちによしこさんがめをさまさないうちに
かえらなければならないのでちっとでもぐずぐずしてはいられません。
おうちのこうのとりさんはどこにおいでです。
おじいさんのおつかいでくびかざりをいただきにまいりました。
といいました。
ああ、くびかざりってこれでしょう。
とやねのてっぺんからこえがして
おじいさんにかわいがられているこうのとりが
くびにきらきらしたきんのくさりをさげてでてきました。
さあもっていらっしゃい。
おじいさんがわすれていったのですよ。
とこうのとりはにこにこしてくさりをはずしておおむのくびにかけてくれました。
おおむはおおよろこびでおじぎをして
さようならあかりさんにもさようならといってどんどんかけてかえりました。
よしこさんはまだおめざめじゃないでしょうね。
とおおむはおうちへかえるなりいきをはずませてききました。
ああまだだよもらってきた。
といぬとねこがめをひからせてききました。
ごらんなさいよ。
とおおむはくびのくさりをみせました。
おおえらいえらいああよかった。
といぬとねこはかわりがわりいいました。
ぼくなんかもうおおむさんのまえではいばれないよ。
といぬはさっきおおむをばかにしたのをあやまるようにいいました。
おおむはにこにこわらいながらよしこさんのまくらもとへくびかざりをそっとおいときました。
いぬやねこやあるきにんぎょうやしろくまへのおくりものは
おじいさんがちゃんとそろえてよしこさんのおねだいのしたへおいていったのです。
さあもうおめざめのおうたをうたってもいいじかんね。
とおおむはそういってうつくしいこえでよなかにつくったあたらしいあさのおうたをうたいました。
ひとりでにながれてでてくるあかるいほがらかなそのうたのふしは
サンタクローズのおじいさんからのおくりものでした。
よしこさんはそのおうたでめをさましました。
よしこさんがまくらもとにちいさなきんのくびかざりをみつけて
おどりあがってよろこびました。
よしこさんにもいぬにもねこにもおおむにも
それはそれはたのしいクリスマスでした。