『コメンテーター』の背景
この番組は、大人の読書教室、Book Bridge Lab代表の古原)がお送りするポッドキャストです。
今回は、奥田英朗コメンテーターの最終回となっております。
このコメンテーターという単行本、ここに至るまでのいろんなお話をしてまいりました。
これは第4作でしたね。最初がインザプール、空中ブランコ、蝶々仙境ときて、今回のコメンテーターです。
ここまでの作品というのは、基本的には2006年までの作品なんですね。
一方の今回のコメンテーターという作品は、2021年からの作品がメインとなっております。
ですから、およそ15年も経っているということになるんですよね。
そんなに経っているイメージはありませんでしたけれども、結構先になっているんです。
なので、このキャラクターとか、伊良部先生なんかもね、だいぶテイストが変わっていたんですね。
その辺りについてお話ししていければと思っております。
このコメンテーターという作品には、5つのお話が入っております。
そのうち最も早く書かれたのが、うっかり億万長者。
こちらだけは2007年に書かれているんですね。
ですから、その前の蝶々仙境が2006年1月。
その約1年後、2007年1月にうっかり億万長者が書かれている。
ですから、ここまでは基本的に同じテイストというか、
この伊良部一郎という人が奇想天外な人物であって、
あまり精神科医らしいところというよりも、
どちらかというとその奇想天外なところに巻き込まれていくうちに、
いつの間にか何か精神障害のようなものが解決していったりとか、
その事態、いろんなトラブルが解決の方向に行ったりするというのが、
大まかな筋だったんですね。
今回もこのうっかり億万長者自体もだいたいそんなテイストなんですよ。
ところがそれ以外の2021年、2022年に書かれたものっていうのが、
またちょっと雰囲気が違うんですね。
まず2021年のコメンテーター。
これ表題作ですけれども、こちらのコメンテーターという作品は、
2021年という年でもお分かりいただける方も多いと思いますが、
新型コロナウイルスによる感染症が非常に流行した時期の直後ということですね。
2019年の12月あたりから、新型コロナウイルスの存在というのがささやかれ始めて、
2020年の3月あたりで大きく流行が広まっていったと。
当時は新型コロナウイルスに対してどう立ち向かっていいのか、
全くわからない状態で、ワクチンどころか対策もねられないという状況だったんですよね。
ですから本当に世界的にパニックになっていた時期でした。
2020年に入って、日本ではまだそれでも爆発的な流行というか、
ちょっとずつ民間の一般の人もかかり始めたのが2020年の初めでしたね。
2020年の3月にはだいぶその流れができてきていて、
学校なんかも一斉休校なんかも、
その後、いろんな飲食店の自粛営業とか、
本当に当時はこの新型コロナウイルスにかかったらもうどうなるかわからない。
命がどうなるかわからないか、営業がどうなるかわからない。
そういう状況だったんですよね。
特に呼吸器の疾患がある人とか、基礎疾患なにかしらある人にとってはもう致命的なものであり、
対処ができない、治療方法がないっていうような時だったんですよ。
今からするとたった5年前ぐらいに、
対処法、効くような薬っていうのも、
あとどういう風に治療していったらいいのかっていうことも、
その後に、本当にいろんな感染症対策っていうものがあって、
その後に、本当にいろんな感染症対策っていうものがあって、
対処法、効くような薬っていうのも、
あとどういう風に治療していったらいいのかっていうことも、
なんとなくようやくわかってきて、
でもその後だいぶ経ってからですよね、ようやくワクチンっていうものも出始めて、
ワクチンが広まったらだいぶ落ち着いてですね、
感染する感染者数も一気に減って、
やっぱり予防が可能で対処もできるっていうことがようやくできたことによって、
なんとか収まってきたっていうところはありますよね。
それが2020年か2021年にかけての激動の時期、
2021年の9月、10月合併後でこちらのコメンテーターっていうのは、
発表されてるんですね。
2021年の9月、10月あたりっていうと、
それでもまだまだコロナの影響下にあったというか、
リモートで何かをするっていうことが非常に推奨されていた時期ですね。
もちろん人っていうものは戻ってきていたし、
いろんなイベントっていうものも開催されていた頃ではありますけれども、
まだまだいろんな余波があったというか、
ワクチンは少なくともその頃は確かまだまだいろいろ開発途上というか、
少なくとも日本の独自開発っていうものは、
今でもそうですけどね、なかなか難しいというような状況ではありましたよね。
そんな困難な2021年に発表されたコメンテーター、
こちらはまさにそのコロナ禍において、
そのコロナの影響下においてイラブ一動がどう活躍するか。
まさにここではその感染症対策に対して、
いろんな専門家がコメンテーターとして招かれて、
特にお医者さんなんかも招かれたりしたけれども、
お医者さんもわからなかったり、専門医が限られていたりとか、
いろいろ専門家というのもいろんな方がいらっしゃるんですよね。
感染症対策の専門家の方もいらっしゃれば、
統計的に見ている方の専門家もいたりとか、
いろんな医療の中でもいろんな専門家が本来いるわけでして、
そこの情報発信をどうするかというのも
非常に難しい時期が2020年か2021年というのはあった時期ですね。
その過渾というか、いろんなパッシングだとか問題点というのも、
いまだに検証はまだまだされていないところがあるような、
そういうようなことを覚えていますね。
伊良部一郎のキャラクターの変化
そんな中において、このコメンテーター、
イラブ一動というのは精神科医なわけですね。
本来あんまり関係ないと言えば関係ないんですけれども、
多分ね、この奥田さんもですね、
この中において、医療従事者、
特にお医者さんという肩書を持った人が出ることということとか、
あとはそれに対していろんな人がどんな反響を持つかとか、
一般の人がどういう影響を受けるかとかね、
そういうところから少なからずいろんな発想をめぐらせたんじゃないかな
ということは考えられるんじゃないかなと思いますね。
今回もまさにイラブ一動がこういう発言をしてみたらみたいなね、
まさにコロナ禍において感染症とかについてのコメントを求められるとかね、
そういうところも描かれているんですね。
それをある種面白おかしくというか、
イラブ一動というキャラクターを持ちながら描いているというところで、
やっぱり時期的にも若干のこの知りやすさというか、
コロナ禍においての精神科医療の話もやっぱりちょっと出てきますしね、
報道のあり方っていうところも何となく考えられるようなところもありましたね。
報道に関してはその前のですね、
庁長選挙の中にあったオーナーとかアンポンマンというところでも、
カリスマ科医療もそういうところもありますけれども、
結構描かれていたところでもあるんですが、
そういう背景もありつつコメンテーターというものを描かれていた。
まさにコロナ禍というものを表した作品ということで、
このイラブ一動シリーズの中では特徴的な作品と言っていいんじゃないでしょうかね。
さてその次に描かれるのが、その翌年2020年の22年の7月に再び連載が始まります。
2022年の7月のラジオ体操第2、
2022年の9月10月合併号のピアノレッスン、
そして2022年の11月号のパレードという3つの作品が入っております。
これらの作品が非常に驚いたというか面白いなと思ったのが、
イラブ一動がですね、精神会議になっているなと思ったんですよ。
治療しているんですね、ちゃんと。
イラブ一動っていうのはここまでは本当にイラブ一動というキャラクターがどこかとんでもない人物として描かれていたんですが、
コメンテーターあたりからやや精神会の意図としてのキャラ設定が増すというか、
それまでも一応精神会的な発言、精神会らしい精神疾患に関わるお話とかはちょこちょこは出てくるんですよ。
ただコメンテーターあたりからより少しちょっとだけそれが増して、
伊良部一郎の治療方法
さらにこのラジオ体操第2からはかなり意識的に治療をしているように見えるんですね。
具体的に患者に対してこういうことをしましょうというような治療行為をするんですよ。
具体的な提案をして一緒に治療していくっていうのが描かれているんですね。
これで私はこれを読んで、こんな人だったっけ、イラブ一郎って思ったんですよ。
まさにこの3つの作品で治療をしているんですよ、イラブ一郎が。
すっかり精神会議なんですね。
もちろんとんでもない感じを受けるんですよ。
こんなことをやるの?みたいなところはあるんだけれども、
それはイラブ一郎がかなり自覚的に、しかもかなり治療的な対応を続けているんですね。
まさにその対応方法っていうのは精神科医療の対応そのものというか、
こういうような支援ってやるよなとか、こういうような対応ってあるよなってことを思わせられます。
思わせられたんですね。
ですから、奇妙なキャラクターとして描かれていったここまでの作品に対して、
一気に精神科医としてのイラブ一郎が描かれていく。
まさに精神科医療が描かれていると言ってもいいんじゃないでしょうかね。
なので今回のこの作品の中に、この冊子の中に描かれているコメンテーター、
ラジオ体操台にピアノレッスンパレード、そしてうっかり億万長者っていうものは、
さらっと読むとどれも楽しく読めるんですけれども、
うっかり億万長者はやっぱりパニック超対策というか、
このイラブ一郎とんでもない人物っていうのがまゆみちゃんも含めて描かれているのに対して、
コメンテーターはコロナかっていうのが描かれているし、
残りの3つは医療ドラマ的な展開というか、
なんとなく精神科医療っていうものに親しみのある人からすると、
なんかわかるかもというか、SF小説っていうよりは医療小説に近いようなテイストっていうものを感じたんですね。
ある意味現代的ですよね。
ここまでの作品群っていうのが、ある種精神科医療の謎めいた、
どこかうさんくささっていうものを感じさせるものであったのに対して、
それが精神科医療っていうのがどこかもう医療として認識されるようになってきた。
一般の人たちにとっても親しみのある、信頼の受けるものとして描かれるようになってきたっていうのが背景にはあるのかなという気もいたします。
作品の出版とデザイン
とはいえ2022年で、これは終わらず終わっているんですかね。
この後、最新作があるのかっていうのは確認できていないんですけれども、
単行本が翌年2023年の5月に出ておりまして、この度2025年の9月に文庫化されたということです。
この文庫化にあたりまして、ここまでの未産作、インザプール、空中ブランコ、蝶々選挙に対して島田孝寛さんという方のオリジナルのダブルカバー。
ダブルカバーっていうのは、文庫の本の本にはカバーがありますよね。
そのカバーの上にさらにカバーが重なっているダブルカバーっていう仕様になってまして、
こういうのよくあるんですけれど、何か映画化されたりとかアニメ化されたりとか、
そうした時にその映画やアニメのデザインがされたカバーを上にかぶせるっていうデザインが文庫ってよくされるんですけどね。
そうすると売れやすいじゃないですか。
少し前に出た作品でも新しい感覚で、中身は変わらないんですよ。
ですけど表向きは新しいものとして出されたり、映画化、ノベライズ、原作ボンダーとかそういうのがわかりやすいですからね。
今回はおそらくそのコメンテーターが出されたっていうこともありまして、そこまでの3作についてダブルカバーになっていて、
もうすごく可愛らしいイラストが描かれています。
これが目的というところもあって、ついつい第一作を購入したっていうところもあります。
ただ今回のポッドキャストを撮りたいと思った時にもやっぱり前作読み直したいなっていうのもあったし、
あとはやっぱりこの4作を読み直してみたことで改めてわかる面白さっていうか、
特に今回のコメンテーターという作品の得意性っていうのを見えてきたのは面白かったなと思っております。
ですので今購入いただくと、この今オリジナルのダブルカバーのデザインも手に入ると思いますので、
非常に可愛らしいデザインなのでこれはおすすめですね。
いっそのことコメンテーターのデザインも欲しいかと思ったけど、これはきっとまた今度第5作とかが出た時に、
オリジナルデザインがまたされて復刊されるんじゃないかと思うんですけどね。
シリーズ累計300万部突破ってことですか。
300万部ってこの出版業界不況の中、大変なことですからね。
すごいことでございます。
ということで数回にわたってお送りしてきました、奥田秀夫のコメンテーターという本のご紹介でございました。
あんまりこの何回にもわたって紹介するっていうのはやらない方向ではいるんですけれどもね。
ちょっと長すぎるしね、と思うんですけれども、基本的には1回完結でご紹介していけたらなと思っているんですけれども、
第1作というか最初の紹介したいの何がいいかなと思った時にやっぱりちょっと気合いの入ったというか、
好きな作品を出したいなっていうこともあったし、非常に衝撃的というか最近読んで、これは紹介したいなと思ったこともありまして、
いざ話そうと思ったら背景となるところとかもどんどんお話ししたくなっちゃって、こんな長丁場になってしまいましたけれども、
お楽しみいただけていたら幸いでございます。
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ではまた次回もお楽しみに。
ご案内は小原大輝でした。