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2021-09-22 13:28

山本文緒さんの新刊『ばにらさま』は心して読むべし!【第76夜】

今夜は、山本文緒さんの最新短編小説集『ばにらさま』をご紹介します。「短編なら読みやすそう」と思ったら大間違い。気軽に読むと心をえぐられるやつです。可愛らしい表紙から想像がつかない、ボディブローのように効いてくる重ためのパンチをぜひご堪能ください。

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みもれ真夜中の読書会、おしゃべりな図書室へようこそ。
こんばんは、KODANSHAウェブマガジンみもれ編集部のバタやんこと川端です。
おしゃべりな図書室では、水曜日の夜にホッとできて明日が楽しみになるおテーマに、皆様からのお便りをもとに、おすすめの本やマンガ、紙フレーズをご紹介します。
さて第76夜を迎えました、今夜のお便りをご紹介します。
ペンネームまゆパンダさんからいただきました。
バタやんさんのポッドキャストで紹介されていた山本文夫さんの自転しながら好転するを読みました。
こんなに長い小説を読み切ったのは久しぶりですごく面白くて一気に読んじゃいました。
しばらく離れてしまっていた読書熱が再燃していろいろ読みたい気分です。
またおすすめがあれば教えてくださいといただきました。
ありがとうございます。
読みました面白かったですって言っていただけるのがこのポッドキャストやってて一番嬉しいですね。
そんなまゆパンダさんに今日の勝手に貸し出しカードは山本文夫さんの最新刊バニラ様にしました。
山本さんの自転しながら好転するで読書熱が再燃したと言っているのに山本さんの新刊をおすすめするのもどうかな、芸がないかなって思ったんですけど。
そうしてもう読んでたらどうしようかなと思いつつも、
しかし山本さんの自転しながら好転するはこのポッドキャストで2回ほど紹介してどちらもとても反響があった回だったので、
同じように自転しながら好転するで久しぶりに長編を読み切ったぞっていう方にまたこの最新刊バニラ様もぜひ読んでほしいなと思って今日ご紹介します。
この9月10日に発売になったばかりなんですね。
ちょっと発売前から私は予約をしていて、先週から夏休みにとったって話をしましたけれども、
夏休みに読もうと思って買ったんですけど、結局夏休みに入る前に全部待ちきれず読んでしまったという本なんですが。
これはですね短編集なんですね。
先ほどご紹介した自転しながら好転するはかなり長い長編だったので、
短編集なら読みやすそうだぞって思われた方もいらっしゃるかもなんですが、
読みやすそうだろうぞって気軽に読むとちょっと大怪我をするっていうか心をえぐられるような短編集です。
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可愛らしい表紙からは想像がつかない、なかなかパンチ力の重たいパンチの効いた作品集になっています。
どんなお話かご紹介していきたいと思います。
この短編集はバニラ様という表題作のほか、私は大丈夫、歌詞園、バイオリン真珠、20×20、子供おばさんという6つの短編集からなっております。
表題作のバニラ様からご紹介していきましょうか。
バニラ様っていうのは主人公のドコノコの彼女のあだ名なんですね。
表だって呼んでるあだ名じゃなくて、影で男同士、友達と言ってるあだ名なんですけど、
なんでバニラ様かっていうと、白くてふわふわっとした色白な可愛らしい彼女なので、バニラ様っていう名前なんですけど、
もう一つ、バニラアイスクリームって冷たいっていう部分があるじゃないですか、その冷たさがこの物語はキーになってるのかなと思ったんですけど、
この女の子はふわふわと可愛い、なんで僕なんかと付き合ってくれてるんだろうっていうような感じと、
本音の部分っていうのの冷たさがちょっと別の人格があるみたいなところが話のキーになっています。
この彼の方が主人公になっているっていうところがまたちょっとこう面白いかなと思いました。
これ女性目線で書くこともできると思うんですけど、
彼から見てちょっと本音がわかんないような女の子を、私たちもどうなんだろうって思って読んでいく面白さがあります。
なんかこの、ふわっと可愛い感じだし優しいんだけど、本当は冷たい人なんじゃないかって思う瞬間って、
怖いっていうのもあるけど、そういう女の子ってちょっと魅力的だなって思う部分は私もあるんですよ。
なんかアイドルの子たちのショールームとかね、結構インスタライブとか見るんですけど、すごいなんかみんな聞いてくれてありがとうみたいな感じでふわふわ喋ってて可愛いのに、
途中でお母さんがガタとか言ったりした時に、すごい冷たい顔になったりとか、ちょっとこう素の部分の真顔が出たりする瞬間が、何とも言えず私は割と魅力的だなと思ったりするんですけど、
この中ではね、ブログの文章と本人が喋ってるのっていう2つの一面というか、世界が行ったり来たりするところなんかも、そういうショールームで見かけるアイドルの子たちの二面性みたいなのと重ね合わせて面白いなと思いました。
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そしてもう一つ、私がこの短編集の中で一番好きなのが一番最後の子供おばさんっていう作品なんですけど、タイトルからして結構グッとくるじゃないですか。
子供おばさんがどんな小説か紹介していきたいと思います。
この子供おばさんという章の書き出しからすごいんですよ。これちょっと読みますね。
おつやの後、中学時代の同級生3人ともふくのまま喫茶店に入った。っていう一文から始まるんですけど、もうその世界にワッて入っていけるような感じがしません。
中学校の同級生が急に亡くなってしまって、おつやに出て、懐かしい3人ともふくのまま喫茶店に行っているっていうシーンなんですよね。
自分が4人目としてそこに喫茶店に座っているような感覚になるんですが、それは彼女たちが若い頃と違って太ったわけじゃないんだけど、量感が増しているっていう描写があって、
かつて少女たちが小枝のように細かったわけでも、今目の前にいる中年女たちが樽のように太っているわけでもないのに、
黒ストッキングに黒パンプス、河川の真っ黒な服を着込んだ我々の量感たるや黒山のようですらあるっていう描写がまた見事だなぁと思って、ちょっと笑ってしまうところでもありますが、
年を重ねると、もしかしたら高校生の時の方がパツパツと太ってたかもしれないけど、今の方が量感があるって言えて妙ですね。
かさばってきちゃうんですよね。なんかいろんなものを着込んでしまって。
この3人で集まって、痩せねばって主人公は思っているんだけど、結局パフェとか頼んじゃうわけ。
このパフェがやたら甘くて強烈な甘みが舌を痺れさせるっていう描写が出てくるんですけど、
この悲しいシーンというか、何を喋っていいかわからない状況の中で、甘いパフェを長いスプーンでつつきながら、強烈な甘みが舌を痺れさせる、ちょっと不快な甘みがあるっていうところがね、グッと引き込まれる出だしでした。
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この最初にご紹介したバニラ様は、アイスクリームがモチーフなわけじゃないですか。
この一番最後の子供おばさんは、甘みがちょっと不快なパフェから始まるっていうところがね、またつながっているような感じがしていいなって思いました。
連作短編集というわけではないので、別につながってはいないんですけど、全体としてはそうですね、私はこれはホラーかなって思いました。
何か世にも奇妙な物語みたいに、短い中にオチというか、どんでん返しだったり、驚かされる。
えー、そういうことだったの?っていうのが、一個に一箇所入っているっていう感じの短編集になっています。
リクエストをくださったマユーパンダさんも、ぜひ楽しく読んでもらえたらいいなと思ってご紹介しました。
今日はこの本から紙フレーズをご紹介して終わりたいと思います。
でも本当に気が合っていたのかというと、よくわからない。
表面上はお互い尊重し合って、不公平にならないよう、わがままにならないよう気をつけてはいた。
どちらかが仕事の愚痴を漏らせば、つらいよね、大変だよねと相槌を打ち、
どちらかが睡眠不足でだるいと言えば、それは大変ゆっくり休んでねと思いあった。
とあります。この主人公と亡くなってしまった女性が、すごく仲が良かった時もあったけれども、
ちょっとある理由でやや疎遠になってしまった。
共感ごっこがうまく回らなくなったっていう表現のされ方をしてますけれども、
そういう時期があって、
でもこのおつやの後にね、
遺品をもらってほしいっていうふうに頼まれるんですよ。
主人公は着物かなんかかなと思うんですけど、
それが実は、犬なんですね。飼ってた犬。びっくりするでしょ、そんなもの。
片身にもらうとかっていうものじゃないよねって思うんですけど、
その犬を片身にもらってほしいって言われて、
さあ彼女はどうするっていうところは、ぜひ読んでいただきたいんですけど、
そういう関係ってありますよね。
ある時すごく密月な時間を過ごしたりしたんだけど、
本当にすごい仲良かったかって言うとどうなんだろうみたいな、
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お互いに相手に気を使ってわがままになりすぎないようにしていたけれども、
じゃあ亡くなった後に一番の親友だったって言うほど、
親友だったと言えるんだろうかって思うような関係って、
誰にしもあるんじゃないかなと思いました。
この子供おばさんっていうタイトルがどういう意味かというのも、なかなか胸に刺さるものがありますので、
そのあたりはぜひ読んでいただけたらと思います。
まゆパンダさん、リクエストありがとうございました。
そしてポッドキャストで読んでくださってありがとうございます。
さて、そろそろお時間になってしまいました。
今夜中の読書会おしゃべりな図書室はこんな感じで、
皆さんからのお便りをもとにしながら、いろいろなテーマでお話ししたり、本を紹介したりしています。
MIMOREのサイトからお便り募集しているので、ぜひご投稿ください。
また来週水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。おやすみ。
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