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2020-08-12 11:41

【第21夜】「やっぱヤメトク」ほど切ない日本語ってあるかしら

今夜は「凪良ゆうさんの『流浪の月』の家族でも恋人でもないけれどただ一緒にいたい、という愛し方にとても感銘を受けました。バタやんさんが今まで出会った本の中でこんな愛し方もあるんだ、と感じた作品があれば教えて」というリクエストにお答えして、李琴峰(り ことみ)さんの『星月夜』をご紹介します。生まれた国を離れて日本に住む、女性二人の愛の物語。日本語の難しさと、胸がギュッとなる切なさを感じたシーンとは?

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みもれ真夜中の読書会、おしゃべりな図書室へようこそ。
こんばんは、KODANSHAウェブマガジンみもれ編集部のバタやんこと川端です。
おしゃべりな図書室では、水曜日の夜にホッとできて明日が楽しみになるおテーマに、
皆様からのお便りをもとに、おすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介します。
さて、世の中はお盆でしょうか。いかがお過ごしですか。
第21夜となりました。今夜のお便りご紹介します。
高知県にお住まいのあんこさん。学生の方からいただきました。
最近、なぎらゆうさんの【るろうの月】を読ませていただき、
家族でも恋人でもないけれど、ただただ一緒にいたいという愛し方にとても感銘を受けました。
バタやんさんが今まで出会った本の中で、こんな愛し方もあるんだと感じた作品があれば教えていただきたいです。
といただきました。ありがとうございます。
最近、学生の方からもお便りいただくようになって嬉しいです。
どうやってたどり着いてくださったんだろう。
さて、なぎらゆうさんの【るろうの月】、いいですよね。
本屋大賞も取った作品なので、読まれた方も多いかもしれません。
私も読んで、今年一かもっていうぐらいスピード感を持って引き込まれて、
久しぶりに恋愛小説にどっぷりできたなぁと思えた作品で、
身漏れで渚先生にもインタビューをさせていただきました。
簡単にあらすじをご紹介すると、
主人公のサラさんは小学生の時に大学生の青年フミという男性に誘拐されて、
2ヶ月間監禁されていたっていう過去を持つんですね。
世間的には2人は事件の被害者とか害者なんですけど、
大人になった2人は再会して、惹かれ合ってっていうお話なんですよ。
あんこさんのおっしゃる通り、家族でも恋人でもないけど、
ただ一緒にいたいっていう2人の思いが非常にギュッとなるお話なんですね。
そんな【るろうの月】に惹かれたあんこさんに、
次にお勧めできる、その愛を感じる作品はってすごい悩んだんですけど、
つい先日出たばかりの新刊ホヤホヤの
リ・コトミさんの【星月夜】っていう小説を読んだら、
これはと思って、これはあんこちゃんに言わなくちゃと思って、
急に友達みたいに言ったりなんですけど、
LINEしなきゃみたいな気持ちで、今日ここにご紹介したいと思います。
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作者のリ・コトミさんは1989年、平成元年かな、生まれの台湾籍の台湾人の方で、
日本で作家として日中翻訳家としても活躍されているんですね。
【星月夜】はそんなリーさんならではといった小説で、
出てくるのは日本の大学で日本語を教える台湾人の先生と、
新居ウイグル自治区出身で、日本の大学院を目指す生徒の2人なんですよ。
2人とも家族の反対とかもありつつ、日本に住んでいて、
そのアジア人の女性2人が出会って、お互いに惹かれ合うという話なんですけど、
様々な障壁があって、
これがなんでルローの月がグッと来た方にオススメなのかというと、
共通点がいくつかあると思っていて、
まず周囲から理解されにくい関係なんですよね。
ルローの月の場合は監禁者と監禁されてた女の子なわけで、
外の人から見ると2人が惹かれ合うとか意味がわかんないっていうか、
さらに言うとロリコン監禁とかっていうと、
いかがわしいことを世間は想像すると思うんですけど、
2人には2人にしかわからない明るい思い出だったりする部分はあるわけなんですよ。
作者の渚雄先生は元々はBLの小説で人気のある方で、
BLの関係の描き方がこの作品に活かされていると思うんですが、
私はこの美しくて少しフェミニンで性欲の感じのしない文君と
さらさの関係が女同士というかユリカップルのようなそんな印象を受けました。
性的に気着しない、ただ一緒にいたいっていう関係もそうですかね。
星月夜は周りから理解されづらい関係という意味では、
2人のセクシャリティのこともあるし、
ユリトゥズという学生の方の女の子が新疆ウイグル自治区出身という複雑な政治情勢を背負うものの重さがあるんですよね。
ウイグル族に対する中国政府の弾圧とかって、私もあまり知識がなくてこの本で知ったぐらいなんですけど、
周りからは理解されづらいっていうのは、逆に言うと2人にしかわからない親密さがあって、
それがルローの月にはあるわけなんですけど、
星月夜の場合には2人にしかわからない親密さがすごくいいんですよ。
胸がキュッとなるところがいっぱいあって、
時々2人が中国語で喋るシーンがあって、周りはもちろん日本人ばっかりだし、
その2人にしか通じない言葉で喋る瞬間とかもそうですし、
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後半はそんな星月夜の2人の関係のギュンってする、ギュンはちょっと軽いかな、ギュンみたいなシーンをご紹介したいと思います。
小説の冒頭で日本語の試験が出てきます。
本が大きくて鞄にとあって、
入りますか入りませんか、入れますか入れませんか、4つの選択肢があるんですよ。
入りますと入れますはどう使い分けるのか、
主語が人か物かで分けると言い切れるのかとか、
日本語でも難しいし、今聞いてどれが入るかちょっと一瞬わからなかったでしょ。
お風呂に入りますとお風呂に入れますとか両方使いますもんね。
そんな風に言われてみれば難しいなと思う日本語がいっぱい出てきて、
それもまたこの作品の魅力の一つだなと思っています。
主人公の一人、日本語の先生であるリュウ先生という女性は、もちろん日本語が完璧なんですけど、
留学生のユルトゥズの方は日本語が勉強中なので、
会話が聞き取れなかったり意味がわからない単語が時々あって、
その日本語、言語の不自由さがまた物語の切なさを盛り上げるアクセントになっています。
ユルトゥズは家賃を節約するためにルームシェアするルームメイトを探していて、
バイト先のコンビニで一緒に働いている日本人の女の子、エミちゃんを誘うんですよ。
結局エミちゃんからは、ごめんやっぱやめとくって断られちゃうんですが、
ユルトゥズはやっぱやめとくっていう日本語が聞き取れなくて、意味がわからないんだけど、
ダメってことだ、はっきり断られたってことを仕草で察知するシーンがあるんですね。
あんまり言うとネタバレになっちゃうんですけど、
エミはユルトゥズに惹かれている恋心的に、
でもユルトゥズにはリュウ先生がいるっていう状況なんですよ。
それでやっぱやめとくって言ったエミちゃんも切ないし、
なんて言ったかわかんないけど断られたってわかってるユルトゥズも切ないっていう。
このユルトゥズとリュウ先生とエミちゃんが勝ち合うシーンがあって、
これがすごい名シーンだと思っているので、
今日はこのシーンから紙フレーズをご紹介して終わりたいと思います。
私は女の子を観察した。
彼女の顔には二人きりの時以外のユルトゥズにとても似ている強がりの色が浮かんでいた。
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他人に弱さを決して見せないと思うような強がり。
それなりに苦労した人が苦労した記憶をまだ乗り越えられずにいるうちによく見せる種類の強がりだ。
これはユルトゥズが在留カードを持ち歩くのを忘れて警察に拘留されてしまうっていう事件があって、
リュウ先生は出張先から戻ってきて慌てて飛んでくるんですよね。
するとユルトゥズの隣にはエミちゃんが寄り添っていたっていう。
リュウ先生からするとこの女誰だよっていう。
この女の子誰なんだろうって感じで身を見て、それで表現した言葉なんですよ。
二人には二人にしかわからない何かがあるってリュウ先生がなんか感じ取っているんですけど、
でもリュウ先生とユルトゥズが中国語でこの時バーってやり取りするのを見て、
エミはエミで二人には二人にしかわからない世界や親密さがあるって身を引いてしまうんですね。
その後のやっぱやめとくなんですよ。
いっぱい喋っちゃいましたけど、
ルローの月っていうところの二人にしかわかんない親密さみたいなのが散りばめられた作品なんですね。
タイトルが星月夜。
星月夜じゃなくて星月夜って読むっていうところにもちょっと深い意味がありまして、
そんな感じで今日はちょっと長い第21夜をお伝えしました。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
さてそろそろお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりな図書室はこんな感じで皆さんからのお便りをもとにしながら、
いろんなテーマでお話ししたり本をご紹介したり緩やかにやっていきたいと思います。
また来週水曜日の夜にお会いしましょう。
今日は最後までお付き合いいただきありがとうございました。
おやすみなさい。
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