まずは物語の核となるあの5人のキャラクターから紐解いていきましょうか。
怪盗アルセーヌ・ルパンの孫であるルパン三世、0.3秒の早打ちを誇る天才岩満、次元大助、そして斬鉄拳を振るう13代、石川ゴエモン、謎多き美女ミネフジ子、
最後に先祖にゼニ型兵士を持つICPOの専任捜査官ゼニ型警部です。
この5人の座組は何というか、日本のエンターテイメントにおける一つの到達点とも言えますよね。
本当にそうですね。
ただ今回の資料の中で特に目を引いたのが海外ファンが集まるレディットで交わされていた議論なんです。
彼らはルパンのアイデンティティがどこにあるのかを、ジャケットの色という非常に分かりやすい指標で分析していました。
ああ、ジャケットの色?
よく緑ルパンとか赤ルパンって言いますけど、あれってただのファッションのマイナーチェンジじゃないんですか?
全く違うんです。
実はジャケットの色ごとにルパンのパーソナリティそのものが書き換えられているんですよ。
え、性格ごと変わってるんですか?
ええ、例えば1971年に始まった初期の緑ジャケット。
この時代のルパンは非常にクールで大人向けのアウトローとして描かれています。
ニヒリズムが漂っていて、平気で銃の引き金も引くんです。
なかなかハードボイルドですね。
当時のアニメは子供向けだという常識を打ち破ろうとした野心がそこに色濃く現れていますね。
なるほど。でも私たちが一番よく知っているのって多分赤ジャケットですよね?
そうですね。第二シリーズから定着した赤ジャケットはテレビのゴールデンタイムに合わせたいわゆるお茶の間の人気ものです。
コミカルで強欲でちょっとスケベな。
はいはい。世界中を飛び回るエンターテイナーって感じの。
そうです。さらに80年代に入ると今度はピンクジャケットの時代がきます。
ピンクですか?
ええ。これは当時のバブル期の競争とかMTV文化を反映したようなドタバタ感満載で奇抜な何でもありの時代なんです。
へー。
そして近年描かれている青ジャケットはデジタル社会に適用した非常にスマートで計画的なルパンになっています。
ちょっと待ってください。時代に合わせて性格もなんなら道徳感すら変えているってことですよね?
そういうことになります。
普通主人公の性格がそこまでブレたらファンはこんなの私の好きなルパンじゃないって怒って離れてしまうんじゃないですか?
例えるならあの長く続く劇団が時代に合わせて同じ演目のジャンルをシリアスからコメディにいきなり変えて上演し続けているみたいで。
まさにその例えの通りです。通常のドラマや漫画なら間違いなくファンは離れるでしょうね。
ですよね。
しかしルパンの場合、その多層性が逆に作品の寿命を半世紀にまで引き延ばす最強の武器になったんです。彼は固定されたキャラクターというより神話に近い存在なんですよ。
神話ですか?
ええ。時代ごとに人々が求める自由の形って変わりますよね。制作人は権威に縛られず自由に生きるという真の部分だけは絶対に守り抜いて、その見せ方だけを時代の空気に合わせてジューニングしているわけです。
なるほど。自由という真さえあれば側はどう変わってもルパンであると。
その通りです。
なるほど。アイデンティティが流動的で、生態すらも時代と共に変化していく。でも、これだけ人間の顔が変化し続ける中で、ルパンという存在を現実につなぎ止めている強力なアンカーがあるんですよね。
ええ。次のセクションのテーマである車ですね。
はい。自動車メディアの考察記事が非常に示唆に富んでいました。ルパンの世界において、車は単なる移動手段でもアクションの道具でもないんですよね。
キャラクターの哲学を欧弁に語る名誉として機能しています。
ルパンの車といえば、誰もが思い浮かべるのがあの黄色いフィアット500ですよね。これ、スペックを改めて確認したんですが、全長約3メートル、重量わずか500キロですよ。
非常にコンパクトです。
現代の軽自動車よりも遥かに小さくて、飛力な改修車じゃないですか。
オリジナルのエンジン出力はたったの13馬力から18馬力程度ですからね。しかしルパンは、この可愛らしい車に100馬力近いスーパーカー並みのエンジンを積み込むという魔改造を施しています。
そこでちょっと疑問に思ったんです。私がもし、現代の凄腕の泥棒なら、無音で加速できる最新のEV、つまり電気自動車を選ぶか、超ハイテクなスーパーカーに乗りますよ。
まあ実用面を考えればそうでしょうね。
わざわざあんな小さな古い車にダマンみたいなエンジンを無理矢理積んで狭い路地をガタガタと爆走するなんて。
例えるなら最新のスマートフォンを買わずに、わざわざ古いタイプライターを改造してWi-Fiに繋いでいるような変態的なこだわりを感じます。
これってルパンのどんな美学なんでしょうか。
タイプライターの例え面白いですね。EVの方が忍び込むには圧倒的に有利だというのは非常に合理的な視点です。
しかし、都合でのハッカーでもあるルパンからすれば、最新のEVやハイテクカーは走るコンピューターなんですよ。
ああ、なるほど。
外部からハッキングされたり、メーカーや警察に遠隔でロックアウトされたりするリスクが常にありますからね。
ということはシステムに依存している限り、本当の意味での自由はないと。
その通りです。
完全に電子制御から切り離されたアナログなクラシックカーのキャブレターを自分の手で調整し、物理的なエンジンの鼓動を自らの技術だけでねじ伏せる。
かっこいいですね。
これこそが、どんな巨大な権力にも縛られないルパンのオフザグリッドな美学なんです。
最新スペックや金銭的価値ではなく、歴史や愛着のある古いものに自分だけの技術を詰め込むレトロモダン。
これが彼のロアンなんですよ。
それを聞くと、緑ジャケット時代にルパンが乗っていたメルセデス・ベンツSSKの異常さも腑に落ちます。
世界で33台しか作られなかった幻のクラシックカーに、なんとフェラリのV12エンジンを積んで時速300キロで走らせていたんですよね。
ええ、とんでもない改造です。
最新鋭のマシンを買う金はいくらでもあるのに、あえて貴族的なアウトローとしてのスタイルを貫いているわけですね。
車がキャラクターの分身になっている良い例ですね。
その意味で、ゼニ型警部の愛車であるゼニブル、つまり日産4日型ブルーバードのパトカーの演出も見事です。
ゼニブル、あれは本当に凄まじいですよね。
崖から落ちようが爆発に巻き込まれようが、次のシーンではボロボロのまま煙を吹きながらルパンを追いかけてくる。
どんなに大破しても絶対に止まらない。
あの泥臭い頑丈さは、何度ルパンに逃げられても血の果てまで執念深く追い続けるゼニ型警部の不屈の精神の完璧なメタファーです。
車を見れば、そのキャラクターの生き様が分かるんです。
さて、キャラクターの流動的アイデンティティと、それを支える声優たちの魂、そして彼らの美学を体現する名写たち。
ルパンの世界を構成するメカニズムが見えてきたところで、今回の最大のミッションに移りましょう。
はい、視聴ルートですね。
これを聞いているあなたが、「じゃあ今夜どれから見ればいいの?」という疑問に対する明確な答え、完璧なロードマップです。
まず、レディットのコミュニティでも完全に一致していた前提からお伝えしますね。
ルパン先生は基本的に1話完結、あるいは1作品完結のスタイルをとっているため、第1話から順番に見なければストーリーがわからないという縛りが一切ありません。
それは安心ですね。
どこからでも飛び込めるのが最大の強みです。
MCU、マーベルシネマティックユニバースみたいに、過去20作を見ていないと最新作の人間関係がわからないみたいな重たさがないのは本当にありがたいです。
とはいえ、無数にある扉の中から、今回はあなたのために3つの最適な入り口を用意しました。
まず1つ目、王堂の入り口。これは間違いなく映画カリオストルの城です。
宮崎駿が映画初監督を務めた記念碑的作品ですね。
この作品のルパンは泥棒というよりも心優しき騎士として描かれています。
そうですね、すごくロマンチックで。
ヒロインのクラリスに見けるおじさまとしての優しさ、そして次元大助との茨の道も2人で渡るような言葉のいらない圧倒的なバディーシップ。
アニメーションとしての面白さが極限まで詰まった、万人に愛される入り口です。
家族で見ても恋人と見ても絶対に外さない最高傑作ですよね。
そして2つ目は、現代の入り口。ここからは3DCG映画のルパン3世THE FIRST、もしくはテレビシリーズのパート4やパート5をお勧めします。
こちらは非常に現代的なチューニングが施されています。青ジャケットを着たルパンがデジタル社会やネット犯罪、ダークウェブといった現代特有のテーマとどう対峙するのかを描いていて。
今の私たちの感覚からスッと世界観に入り込めるのが特徴ですよね。映像の洗練度も抜群ですし。
ええ、その通りです。
そして3つ目。個人的に一番興味を惹かれているのが、大人の入り口として紹介されているルパンTHE IIRDシリーズです。
小池健監督によるスピンオフシリーズですね。先ほどのカリオストロの城とは対極にあると言っていいでしょう。
対極ですか?
ええ。ルパンたちがまだ完成されたプロのチームになる前のヒリヒリとした若き日を描いたハードボイルド作品です。
流血もしさない濃厚な世界線で、フジゴのしたたかさや石川豪門の狂気に見た急動心が非常にシリアスかつソリッドに深掘りされています。
ここでちょっと戸惑うのが、そのギャップなんですよ。
初心者がもしカリオストロの城の心優しい宮崎駿版ルパンから入ってすっかりファンになり、次にルパンTHEIIRDの血生臭い世界を見たらパニックになりませんか?
まあ驚くでしょうね。
例えるなら、同じ銘柄のコーヒーを注文したのに、一方は甘いキャラメルラテで、もう一方は胃に穴が空きそうなほど強烈なエスプレッソだった、くらいの衝撃ですよ。
初心者はこの振り幅をどう受け止めればいいんでしょうか?
確かに最初は戸惑うかもしれません。しかしその味の違いを楽しむことこそが、ルパン三世というコンテンツを100%味わい尽くす秘訣なんです。
味の違いを楽しむ。
アメリカンコミックスのバットマンや映画の007シリーズを思い浮かべてみてください。監督や次第によって主人公の解釈は全く変わりますよね。
ああ、なるほど。確かに役者も雰囲気も毎回違いますね。
ルパンも同じなんです。今回のシェフ、つまり監督は、ルパンという曲上の素材を使ってどんな料理を出してくるのかというメタ的な視点を持つんです。
宮崎駿の描くロマンチストなルパンも、小池健の描く危険なルパンも、全てが正解なんですよ。
正義はどれかを探すんじゃなくて、解釈の違いそのものを楽しむ大人の遊びなんですね。
そう考えると、どんな味付けが来ても、お、今回はこう来たかとワクワクしながら見られそうです。