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候補者本人の声は、1.5%しか届かなかった――データで見る沖縄県知事選の情報空間
2026-10-20 1:03:13

候補者本人の声は、1.5%しか届かなかった――データで見る沖縄県知事選の情報空間

沖縄県知事選の取材で、投票を終えた18歳の女性に「何を根拠に投票しましたか」と聞きました。彼女はこう答えました。

流れてくる動画はうさんくさかったのでほとんど見ませんでした。私はそれぞれの候補者のインスタグラムアカウントを見て決めました

— 18歳の有権者(古田の取材から)

9月13日投開票で、古謝氏が初当選した沖縄県知事選の期間中、YouTubeには関連動画が7,819本上がり、総再生は1億8273万回に達しました。

ところが、玉城デニーさんと古謝玄太さん、2人の主要候補者の公式アカウントの再生は、合わせても全体の約1.5%。有権者の目に触れていたのは、候補者本人ではない誰かの声でした。

この調査に協力したのが、東京大学大学院情報学環の准教授、澁谷遊野さんです。

コモンファクトポッドキャスト、今回は澁谷さんと、データで見る情報空間について約1時間話しました。ニュースレターでは、対話の概要を紹介します。本編はぜひ、このレターに埋め込まれている動画か、PodcastやYouTubeで視聴してみてください。

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プラットフォーマーの仕様と情報の流れの変化

澁谷さんは、災害や選挙のたびに情報の流れを記録してきました。コロナ禍のFacebookでは、ごく少数のアカウントが偽・誤情報の発信と拡散の中心にあり、伝統メディア以上の反応を集めていたといいます。

能登半島地震では、Xでほぼ同じ文面の複製投稿が大量に出回り、その9割以上が日本語使用者以外のアカウントからだったと推定されています。インプレゾンビです。

Xの収益化の仕様が変わってから、日本で初めて起きた大規模災害でした。澁谷さんは、因果は断定できないと付け加えたうえで、こう話しました。

プラットフォーマーの仕様が変わるだけで、ここまで情報の流れが変わる可能性があるということの一つの事例だと思っています

— 澁谷遊野

「見たい情報」に応えたのは誰か

2024年の兵庫県知事選と衆院選の分析には、意外な結果がありました。若年層はショート動画を見る、と言われるなかで、再生上位に並んだのは長尺動画でした。

原因として、澁谷さんは「情報の空白」を指摘します。

私も同感です。知りたい情報が伝統メディアから出てこないとき、人はYouTubeで欲しい動画を見つければ、長くても腰を据えて見る。兵庫で人々の関心に応えたのはYouTuberでした。問題は、それらの動画の信頼性は保証されていなかったし、今もそうだということです。

わずかな傾きを、アルゴリズムが増幅する

沖縄県知事選のYouTube動画分析は、琉球新報が呼びかけ、北海道新聞、河北新報、東京新聞、京都新聞、神戸新聞の計6紙が連携しました。

澁谷さんがデータ収集に協力し、再生上位100本を6紙の記者たちが手分けして分析しました。結果は極端なものでした。再生上位100本のうち、玉城さんに否定的な動画は60本で、肯定的な動画はゼロ。古謝さんに否定的な動画はゼロでした。

玉城さんに否定的な動画は約3,500万回、古謝さんに肯定的な動画は終盤に伸びて約2,800万回見られています。

この差はどこから生まれるのか。私の見立ては、針がほんの少しどちらかに揺れただけで、見られたい作り手がそちらに殺到し、アルゴリズムがその流れに乗って差を何倍にも広げる、というものです。石破政権から高市政権に替わったとき、YouTube上の自民党へのポジとネガが一気にひっくり返ったのも、同じ構造だと考えています。

澁谷さんは、伝えたいものより見たい人が見たいものを届ける方向に作り手が振れると、この現象はさらに加速すると話しました。地域外の視聴者にとっては、地元の政策課題より対立的な話題のほうが面白く見えてしまう、という指摘もありました。

研究用アカウントでの観察も、生々しいものでした。

それ(極端な動画)を一回見ると、別に関心もないのに、そういう感じの偏った思想の動画がわーっと出てくる

— 澁谷遊野

研究者が「見られない」という危機

後半は、制度の話です。MetaのCrowdTangle終了や、XのAPIの高額化で、研究者がデータに触れる環境はここ数年で急速に悪化しました。澁谷さんが問題にしたのは、研究のしにくさ以上のことでした。

実際何が起こっているのか誰も把握することができない状態になってしまう、というのが一番問題

— 澁谷遊野

EUにはデジタルサービス法(DSA)の研究者データアクセスの枠組みがあります。日本にはその枠組みもありません。澁谷さんは、公共性のあるデータを第三者機関が使える仕組みを早急に議論すべきだと話しました。

来春の統一地方選から、選挙運動のSNS対策を定めた法改正が適用されます。大規模SNS事業者に偽情報の悪影響を減らす措置を求め、AIで作成・改変した画像や動画を投稿する人には、その旨の表示を義務づけますが、罰則はありません。

澁谷さんは透明性を高める動き自体を評価しつつ、研究チームが日本を含む5カ国で行った実験では、「AIが作った」と伝えても、正しい動画と偽の動画を見分ける力の改善にはなかなかつながらなかった、と紹介しました。AIで作ったから偽とは限らず、表示があるから見抜けるとも限らない。いくつもの対策を同時に重ねる必要がある、というのが澁谷さんの考えです。

一人ひとりに必要な5つの力

最後に、有権者一人ひとりに何ができるかを聞きました。澁谷さんは、社会心理学の研究者との共同研究から、内省、健全な懐疑、自己制御、知的謙虚さ、独立した判断の5つの力が大事になると指摘しました。

最後は自分でしっかりと判断するという力を日頃からつけていくことが、このAI時代〔中略〕ますます重要になっていくんじゃないかなと思います

— 澁谷遊野

アルゴリズムが人を偏らせる方向に働くなら、逆に、こうした力を育てる方向に設計することもできるのではないか。澁谷さんは今、情報環境の設計という観点から、その問いに取り組んでいます。

全編は、ぜひ番組でお聴きください。

タイムスタンプ

 コールドオープン

 オープニング・ゲスト紹介

 なぜこの分野を研究するようになったのか

 コロナ禍:ごく少数のアカウントが中心に

 能登半島地震:インプレゾンビと収益化

 兵庫県知事選・衆院選:再生上位は長尺動画だった

 衆院選のコミュニティノート:「党派対立を映す鏡」

 6紙連携の経緯と、研究者と報道機関が組む意味

 規模の拡大と「2024年」の転換

 玉城氏に否定的、古謝氏に肯定的――差はどこから生まれたか

 候補者本人の声は全体の約1.5%

 2018年の沖縄県知事選から何が変わったか

 研究上の課題:データアクセス

 選挙SNS対策法とAI表示義務

 自治体にできること

 選挙報道をどう変えるか

 リスナー一人ひとりへ:5つの力

 クロージング

この手紙について

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古田大輔

コールドオープン()

澁谷:例えば関心がなかったとしても、「これは誰も知らなかった」とか、それこそ先ほど申し上げたような「テレビが伝えない真実」とかって、やっぱりクリックしたくなっちゃって、それが極端な動画だったとしたら、それを一回見ると、なぜかその後、別に関心もないのに、そういう感じの偏った思想の動画がわーっと出てくる。研究用のアカウントを何個か作ってやっているんですけども、やっぱりそういうことが起こっています。

古田:僕が今回沖縄で取材した中で印象的だったことの一つが、投票後に18歳の女性の有権者に話を聞いたんですよ。何を根拠に投票しましたかと聞いたら、インスタグラムって言うんですよね。インスタグラムで何を見たんですかと聞いたら、「流れてくる動画はうさんくさかったのでほとんど見ませんでした。私はそれぞれの候補者のインスタグラムアカウントを見て決めました」と言っていて、こういう若い有権者は今後ものすごく増えていくだろうなと思ったんですよ。

0. オープニング()

古田:COMMON FACT、古田大輔です。こんにちは。今日は、沖縄県知事選の期間中にYouTubeに上がった関連動画が7,819本、総再生は1億8000万回以上だったんですけれども、この分析にも協力されていた東京大学の澁谷遊野さんをゲストにお招きして、データで見る情報空間について話していきたいと思います。澁谷さん、よろしくお願いいたします。

澁谷:よろしくお願いいたします。

古田:まずは自己紹介からお願いします。

澁谷:澁谷と申します。お呼びいただき、本当にありがとうございます。私は東京大学大学院情報学環というところで准教授をしております。研究としても偽・誤情報に大変関心を持って取り組んでいるということで、今回お招きいただきました。よろしくお願いいたします。

古田:よろしくお願いします。僕が澁谷さんと初めて直接お会いしたのは、自民党の委員会でしたかね。

澁谷:多分そうですね。古田さんのお名前はずっと知っていたんですけど、オンラインではその前にもお会いしたことがあって、対面はおっしゃる通りです。

古田:そうですよね。お互いに有識者として、ソーシャルメディア上の情報、特に偽・誤情報の流通について自民党の方々にお話をするという場でお会いしたんですけれども、その後に澁谷さんに言われてびっくりしたのが、高校生の頃に、僕が新聞記者時代に書いた記事を読んだことがあると。

澁谷:高校か大学か忘れたんですけど、古田さんが多分海外特派員として駐在されていた時の記事を、毎週のように読んでいて、お名前をずっと拝見して、よく覚えています。

古田:そういうの、記者として本当に嬉しいんですよ。ありがとうございます。

1. なぜこの分野を研究するようになったのか()

古田:そんな澁谷さんですが、まず最初に、なぜこの分野を研究するようになったのか、背景からお話を聞いていきたいと思います。もともと学部は文学部哲学専攻で、そこから社会情報学、データ分析の世界へ。そのきっかけは何だったんでしょうか。

澁谷:学部はおっしゃるように哲学を専攻していて、とても関心があってそのコースを選んだんですけれども、その後一旦社会に出て、地元の宮城県で4年間働いていました。その間に東日本大震災を経験しました。もともと大学院に戻って研究をしたいという気持ちはずっとあったんですけれども、震災を契機に大学院で研究を志そうと思いました。

その時に、哲学ももちろん関心がありましたけれども、もうちょっと実学に近いもの、例えば情報の届き方ですとか、東日本大震災の時は復興の格差などもありましたので、そういった日常に落ちている疑問をもう少し深掘りしたいということで、社会情報学を選んで学び始めたという感じです。

古田:その社会情報学の中で、情報の流れの中でも偽情報や誤情報を本格的に扱うようになったのは、何かきっかけがあったんでしょうか。

澁谷:もともとは、さっき申し上げた背景もあったので、災害時のコミュニケーションにも関心がありました。それこそ東日本大震災は、当時のツイッターが非常に使われる契機になった出来事の一つでしたけれども、そのデータを見ている中で、偽・誤情報っぽいものや、明らかに誘導しようとするようなものが結構目につくようになりまして、そこから少しずつ情報の偏りといったものに関心が移っていったという背景があります。

2. これまでの研究

コロナ禍:ごく少数のアカウントが中心に()

古田:災害や大きな出来事が起こった時の情報の流れは、その後も研究されています。例えばコロナ禍、Facebook上で新型コロナ関連の偽情報がどのように広がっているのかという研究で、国内の主要アクターを分析されています。偽情報については世界では結構いろいろな研究があるんですけど、日本ではまだそんなに研究が進んでいなかったと思います。調べてみて、どういう特徴を感じられましたか。

澁谷:当時はコロナ禍なので、今から4、5年前になりますけれども、非常に少数のアカウントが偽・誤情報の生成や拡散で中心的な役割を担っているということがデータから見えてきました。当時は主流メディアもFacebookのアカウントを持っていましたけれども、主流メディア、伝統メディアと同程度、あるいはそれ以上の反応を集めているものもあって、こんなにインパクトがあるんだと驚いたのを覚えています。

古田:こういう研究は当時海外でいっぱい出ていて、「ディスインフォメーション・スプレッダー」といって、本当にごく限られたアカウントが世界中の偽情報の核になっていると。私自身もこんなに集中するものなのかと驚いたんですけど、その後澁谷さんの研究を見て、同じ状況が本当に各国で起こるものなんだというのが、すごく印象的な研究だったんですよね。

能登半島地震:インプレゾンビと収益化()

古田:その後も、能登半島地震の時には、Xでほぼ同じ文面の複製投稿が大量に拡散していて、しかもその大半、90%以上は日本語使用者以外と推定されるアカウントからだった。いわゆるインプレゾンビ問題ですよね。これについても研究されていて、このインプレゾンビには収益化の問題が絡んでいると思うんですけど、どう見られましたか。

澁谷:能登半島地震は、本当に私自身も見ていてびっくりしたんですけれども、TwitterからXに変わって、しかもXの収益化の仕様が変わった後に起こった、日本では初めての大きな災害でした。もちろん小さい災害はありましたが、こういう大規模な災害としては初めてだったので、プラットフォーマーの仕様が変わるだけで、ここまで情報の流れが変わる可能性があるということの一つの事例だと思っています。

収益化との因果はなかなか見ることはできないですし、収益化が意図なのか、単純に面白がってやっているのかなど、いろいろな意図があると思うんですけど、その意図は発信者に聞かないとわからないので、あくまで推測ではあるんですけれども、おっしゃるように収益化に関する仕様が変わったということが、少なくとも背景としてはあるんじゃないかと考えております。

古田:僕はこういう研究は本当に重要だなと思っていて、例えば10年前の熊本地震では、偽の救助要請なんてほとんどなかったわけですよね。それが能登半島地震ではすごくいっぱい出てきて、しかもそれが拡散する。じゃあその間に変わったものは何かというと、一つ大きく推定されるのはこの収益化だろうな、というのが、こういうふうにデータから見て取れる。

今まさに、意図は本人に聞かないとわからないという話がありましたけれども、ファクトチェックを10年ぐらいやってきて感じるのは、本人に聞いてもわからないんですよね。

澁谷:なるほど。

古田:「私はお金を稼ぐ目的で嘘をつきました」と言ってくれる人もたまにはいます。例えばNHKさんがまさにこの時パキスタンで取材をして、本人が収益化目的だと喋ったという事例もあるけれども、本当に本気でお金を稼いでいる人は、まず取材に応じてくれないし、応じたとしても嘘をつく可能性が非常に高いんですよね。なので、意図を確認するよりも、こういうふうにデータで追い詰めていくことが非常に重要なのではないかと思います。

兵庫県知事選・衆院選:再生上位は長尺動画だった()

古田:今日ぜひ伺いたいのは、つい最近の沖縄県知事選なんですけれども、その前に、大きな選挙として兵庫県知事選と衆院選がありました。こちらもYouTubeなどを分析されていて、ちょっとマニアックな話になるかもしれないんですけど、僕が澁谷さんの当時の発表の中でびっくりしたのが、再生上位はショート動画ではなく長尺動画だったという結果なんですよね。

僕たちが普段調べていると、どうしても全体の数字よりも、自分が今目にしているものを見てしまうところがあるので、印象論的に「ショート動画がいっぱい見られているな」という印象を持っていた。でもきちんとデータを持って調べると、実は長尺動画が見られていた。これはとても意外だったんですけれども、何を意味しているんでしょう。

澁谷:これは私たちも同じ意識から調べたんですよね。ショートが結構見られているっぽいと。兵庫県知事選は特に若年層からも関心があるようだという報道もありましたし、若年層はショートを見る傾向があるという話もありますので、おそらくショートが結構見られているんだろうなと。

古田:そういう報道も多かったですよね。

澁谷:再生数上位を並べてみたんですけれども、おっしゃられたように意外と、というかむしろ長尺の方がしっかりと見られていました。これは何だろうなと思っていたんですけれども、推察するに、おそらくいわゆる「情報の空白」、つまり見たい人が知りたい情報が、通常の伝統メディアからなかなか発信されない中で、YouTubeに自分が欲しい動画があるとなったら、それはショートでなく長くても、関心があるのでしっかり腰を据えて見ていた、という可能性が示唆されるのではないかと思っております。

古田:本当に僕もあの時、Googleトレンドなどを見ていたんですが、兵庫県の方々の検索数が告示日以降に一気にガーッと上がっていくわけですよね。検索数が上がっているのに、例えばYouTubeでは、それまで散々「おねだり」「パワハラ疑惑」みたいな感じで民放の方々がガンガン流していたものがパタリと止まる。そこにやってきたのが立花さんなどの動画で、「実はこれはマスゴミの陰謀である」みたいなものを見ると、みんなやはり関心があるわけですよね。その時にその関心に応えていたのは、実は伝統メディアではなくYouTuberであったと。残念ながら。

でも、そのYouTuberが提供していたものは、関心には応えていたかもしれないけれども、情報の質として高かったのかというところに、やっぱり大きな問題があると思うんですよね。

衆院選のコミュニティノート:「党派対立を映す鏡」()

古田:そこでもう一つ、これも澁谷さんが研究の中で書いていらっしゃったことで、コミュニティノートです。世間一般では、伝統メディアの信頼性が落ちていく中でコミュニティノートに頼る人も増えてきている。日本ファクトチェックセンターなんかよりコミュニティノートの方が信頼性が高い、みたいなことを言う人も結構いっぱいいて、私自身もコミュニティノートにはいい面もたくさんあると思っているんですけれども、ただ衆院選に関して言うと、中立的なファクトチェックというよりは、党派対立を映す鏡として働いていたのではないかと分析されていました。これは具体的にはどういう現象だったんでしょうか。

澁谷:ありがとうございます。衆院選の時のコミュニティノートを見たんですけれども、問題意識としては、Xがこれまでコンテンツモデレーション、つまり人手でちゃんと読んで内容を確認するといったことをやってきたわけですけれども、そうではなくて、これからはコミュニティノートにもっとどんどん移行しますよという発表をして、あたかもそれで代替できる、それで大丈夫なんだというようにも読めるわけです。本当に果たしていわゆるファクトチェック的な機能を有しているのか、という問題意識で見たんですけれども、実際には、ファクトチェックとはそもそも違う、というところが一番の結果かなと思っております。

つまり、ノートを書く人が基本的には、中立というよりは特定の政党、あるいは特定の主張に偏って関心を持って、どのポストに注釈を入れるかを決めますし、どういったコミュニティノートを書くのかも決まりますので、誰が書くのかというところで、そもそもかなりのバイアスがあった可能性があると思っています。

古田:コミュニティノートって、僕自身は本当にいい面もいっぱいあると思っているんですよね。何といっても素早い。素早くパッと書いて、これのここが問題だ、みたいなことを書いてくれる。X自身がコミュニティノートの説明として、これは情報を付け加えるための機能です、つまりファクトチェックではないですよと言っているので、まさにファクトチェックではないという前提条件の下で、僕はすごく役に立つ機能だなと思っています。

僕が問題だと思うのは、まず第一に、あれをファクトチェックだと思っている人が多いところ。もともと提供されている機能と、人々が求めている役割にズレがあるところが大きな問題だなと思います。

もう一つは、我々研究したり取材したりしている立場の人は、公開されていないコミュニティノートも全部見ているわけですけれども、一般の人たちが見る公開されているコミュニティノートは、実は全体の中で本当にごく一部しかないので、実効力は実はそんなに高くないというところ。

さらにもう一つは、おっしゃる通り、中にはもう完全に党派的な、与党支持者は野党を攻撃するためにコミュニティノートを使うし、その逆もある、というところ。これは大きな問題としてあるんですけど、せっかくのこの機能をよりよく活かしていくための方策、何かアイデアはあるでしょうか。

澁谷:そうですね……ありますかね。私も基本的には、コミュニティノートはすごくいい仕組みだと思っていて、偏ったノートがつくこと自体も、それも含めていいことだと思うんですよね。多様な意見が出るということは。ただ、今の段階だとノートを書く人がまだまだ限定的なのかなというところは感じていて、もっと本当に一人一人が意識を持ってコミュニケーションに関わっていく、参加していくようなインセンティブが何かあれば少し変わるのかなと思いつつ、それも含めてどうなのか。どうでしょう、何かいい方法ありますかね。

古田:僕がコミュニティノートでいいなと思うのは、分析に使えることだと思うんですよね。今、Code for Japanさんなどはコミュニティノートの分析を非常に積極的にされていて、そこで出てくるデータが私たちにとってもすごく参考になる。XのAPIの問題で——後ほどAPIの話もしたいんですけれども——なかなかデータが取りにくくなってきた中で、結構たくさんデータが取れて全体の傾向が分かる。今澁谷さんもおっしゃっていただいたように、偏っているコミュニティノートも、偏っているなりに状況分析に役に立つ。そういう使い方としては、僕はすごくいいと思うんですよ。

ただ悩ましいなと思うのは、そういう調査研究のためではなく、普通にXを使う一般の人たちに役に立つ形で、コミュニティノートが今後進化していくためにはどうなったらいいのか。アメリカでは今、AIにコミュニティノートを書かせるようになっていますよね。人間のコミュニティノートがAIによるコミュニティノートにどんどん置き換わっていく。これはどう思われますか。

澁谷:それも一つの方法としてはいいとは思うんですよね。やっぱり即効性というか、AIが大量のデータを読み込んで、ちょっと違うものに関しては注釈を加える、ということがすぐにできますので、即時性がすごくあるということ。あとは大量の情報を読むので、元ソースとなるデータがある程度あるトピックに関しては、ある程度機能する可能性はあると思います。ただ、ローカルなトピックになればなるほど、あるいは賛否両論があるもの、判断が難しいものに関しては、まだまだ難しい点もあるんじゃないかなと思っております。

古田:僕はAIをすごく使っていて、本当に性能がどんどん良くなっていくし、2年前のハルシネーションの量と比べたら、今は本当に精度が上がってきているなと思います。ただ同時に、やっぱり間違いがあるというのと、今まさに澁谷さんも指摘していただいたような、そもそもネット上の公開情報が少ないものに関してはとことん弱い。となってくると、例えば統一地方選の時に、AIがどれだけ情報を参照して答えを返してくれるのかというと、かなり厳しいんじゃないのかな、というのは僕自身も感じているところです。

3. 沖縄県知事選

6紙連携の経緯と、研究者と報道機関が組む意味()

古田:というところで、沖縄県知事選の話に進んでいきたいんですけれども、まだ見ていない方もいらっしゃると思うのでぜひ読んでいただきたいのが、琉球新報さんが北海道新聞、河北新報、東京新聞、京都新聞、神戸新聞と連携して出した大きな記事です。10月11日付で出ています。これが非常に面白い記事で、冒頭で申し上げたように、YouTube上の沖縄県知事選の関連動画7,819本、総再生数1億8000万回以上を分析したと。

これは澁谷さんが調査に協力されているわけですけれども、実は経緯として、僕が琉球新報の南さんと澁谷さんのお二人を紹介したというのもあるんですけれども、そもそもなぜこういう調査をしようという話になったのか。そして、研究者と報道機関が組む意味についてどうお考えですか。

澁谷:経緯については、古田さんにご紹介いただいて、琉球新報さんが非常に関心があって、ただ琉球新報さんの方でデータを集めたり分析したりというところがなかなか難しいということで、一緒に共同でやりましょうというところで始まりました。それから他の各紙さんも参画されたということなんですけれども、私はあまり分からないんですが、こういうふうに地方紙さんが連携して記事を書くこと自体、結構珍しいんじゃないかなと思うんですけど。

古田:めちゃくちゃ珍しいです。少ないながらも事例はあるんですよ。例えば西日本新聞さんが、読者からの質問を受け付けてそれをもとに記事を書く「あなたの特命取材班」という企画をされていて、それで各地の地方紙の方々と組んで合同取材をする、みたいな事例はちょこちょこ出てきたんですけれども、これだけ大規模にやるのは本当に珍しいです。

澁谷:なるほど。私自身も、こんなに関心を持ってくださるんだということでとても感銘を受けたんですけれども、やっぱり情報空間に目を向けると、県境も、国境すらも関係ないような情報の流れになっているので、いろいろな枠を超えて連携するというのはますます重要です。古田さんも含めて私もいろいろなところで申し上げてきていますし、いろんな方が言っていらっしゃいますけれども、こういった連携は、特にオンライン空間の情報流通を見ていく上ではとても大事だと思っています。

古田:今回僕が感銘を受けたことの一つが、この7,800本以上の動画を、記者の人たちがみんなで手分けして、ずっと一つ一つ見ていったということ(注:記者が視聴・分析したのは再生上位100本)。めちゃくちゃ面倒くさくて、意味のある仕事だなと。これは研究室などでやろうと思っても、なかなか大変なんじゃないかと思うんですけど、いかがでしょう。

澁谷:おっしゃる通りです。本当に大変で、本当に頭が上がらないんですけれども、しかも今回はほとんど記者の皆さんですので、事情や背景、どの辺を見たらいいのかというところも、しっかりと経験や知識をお持ちの方が、コーディングを、一つずつのデータを見ているので、大変貴重な結果になっていると思っています。

古田:これはすごく良かったなと思うことの一つが、神戸新聞さんと河北新報さんも加わっていること。神戸新聞さんは兵庫県知事選で、河北新報さんは宮城県知事選で、それぞれ偽・誤情報への対応に苦しんだ新聞社です。そういう社が入ることで、YouTubeのいろいろなアカウントに関する知見もある程度ある。それを地方紙連携で共同できたというのが本当に素晴らしかったんじゃないかと思うんですけれども、澁谷さんから見て、この動きから学びになったところは何かありますか。

澁谷:当たり前かもしれないですけど、研究者のタイムラインって、結構しっかり腰を据えてみんなでデータを見ようとか、長くじっくりと研究するのは得意なんですけど、やると決めたらカーッと締め切りに向かってやる、というのは、そこは感動しました。

古田:いやー本当に、この短期間でこれだけのものを見るというのは、世界的に見てもそんなに前例は少ないんじゃないかと思えるぐらいの規模で、素晴らしかったなと思います。

規模の拡大と「2024年」の転換()

古田:ちょっと中身にも入っていきたいんですけれども、沖縄県知事選の告示日から投票終了までで、関連動画7,819本、総再生1億8273万回。これはデータを取得した9月16日時点ということになりますけれども、この規模感は、これまで澁谷さんが分析された兵庫県知事選や衆院選と比べてどうでしょう。

澁谷:体感としては、こんなに規模が大きいんだという印象です。ただ、絶対数でこれくらい増えていますというのは、集めるキーワードやどういう設定で集めるかでだいぶ条件が変わりますので、単純な比較はどうしても難しいです。もちろん選挙それぞれに違う特性があるというのもありますので難しいんですけど、ただ、規模がどんどん大きくなっているんじゃないかという印象はあります。

古田:これは僕も数値的な裏打ちがないんですけど、感覚的に言うとですね、日本ファクトチェックセンターが立ち上がった2022年って、検証の大体4割が医療・健康問題だったんですよ。やっぱり新型コロナの影響で、ワクチンに関する検証が非常に多かった。当時は、政治や選挙に関する検証は2割弱だったんですよね。

それが2024年から増え始めて、東京都知事選、総選挙、兵庫県知事選。東京都知事選だと石丸伸二さんがYouTubeを非常に有効活用した。総選挙だと国民民主党の玉木さんが非常に有効活用して、兵庫県知事選は極めつけですよね。2024年で明らかにモードが変わったなと感じています。

それまでYouTubeで政治や選挙の動画を見る人って、ごく一部に限られていた印象があるんですよね。それが本当に一般化した。YouTubeでやっぱり選挙や政治の話がいっぱい出ているじゃん、と見る人が増えた。見る人が増えると作る人が増える。作る人が増えると見る人が増える。それをアルゴリズムが後押しして、完全にもう閾値を超えたなという感覚があるんですけれども、澁谷さんから見てどうでしょう。この10年近くを見てきた中で。

澁谷:おっしゃる通りですね。先ほど単純な比較は難しいと申し上げましたけれども、とはいうものの、例えば災害の時のデータや選挙の時のデータなど、イベントの度に集めたりするんですけれども、明らかにヒット数が変わってきていますし、ここ最近だと明らかにAIで作ったと思われるような動画もかなり増えてきています。どういうレベルでAIを使うかは別としても、関心があって発信したければ、政治に関するものであっても誰でも簡単に作って投稿できる、という背景も合わせてあるんじゃないかなと考えています。

古田:僕が本当に世の中変わったなと思うのが、例えばインスタグラムで、料理のアカウントっていっぱいありますよね。綺麗な料理の写真がいっぱい並んでいる。でもそのアカウントのリール動画やストーリーズを見てみると、ものすごく過激な政治の動画が流れていたりする。なので本当に、政治系動画に手を出す人たちがとんでもなく広がっているなと感じます。しかもその多くは、客観的な分析などではない、かなり極端な、完全にオピニオン系というのが目立つのかなと思います。

澁谷:まさにアルゴリズムですね。「マスコミが言わない」とか「隠している」みたいなものや、過激な発言が結構受けるというか、見られがちだというところを、作る側もかなり意識しているというのもあるかもしれないですよね。

古田:僕はこのポッドキャストを、ビデオポッドキャストとして動画も撮っていて、YouTubeでも流すんですよね。でも一番見られているのはニュースレターに載せている動画で、メール上で見られるので、それで見る人が圧倒的に多いんですよ。僕は見出しに「速報」とか「真相」とか入れないようにしているし、サムネイルもあえて、いわゆるYouTube系サムネイル——人の顔がドカーンと出てきて、印象的な一言が赤い文字でドーンとある、みたいなもの——はやらないようにしているんです。やった方がいいのかもしれないんですけど、これ以上こういうアルゴリズム至上主義的な発信の仕方が増えるのは、結局大局的には良くないんじゃないのかな、というのはすごく感じています。

玉城氏に否定的、古謝氏に肯定的——差はどこから生まれたか()

古田:そんな中で、これもまさにアルゴリズムの話だと思うんですけれども、現職だった玉城デニーさんに否定的な動画は、よく見られた上位100本中60本で、約3500万回見られている。一方で、古謝玄太さんに否定的な動画は上位100本の中にゼロ本で、肯定的な動画が終盤にグワーッと伸びていって、約2800万回見られている。なので、デニーさんは圧倒的に否定的な動画が見られ、古謝さんは圧倒的に肯定的な動画が見られるという、かなり極端な結果が出ています。この差って何から生まれてくると思われますか。

澁谷:私もこれはすごく気になっていて、ここはまだ全然見られていないところなんですけど、どんな背景があると思いますか。どうでしょう。

古田:これはですね、僕もずっと見ていて、選挙ドットコムさんの分析などで取材もさせてもらったんですけれども、すごく興味深いのが、ここ数年の変化で、石破さんの時はYouTube上の動画は、圧倒的に石破さんを中心とする自民党に否定的な動画の方が見られていたんですよね。それが高市さんになるや否や、完全にポジネガがひっくり返って、高市さんにポジティブな動画ばかりが大量に見られるようになる。

これを単純に、石破さんがそれだけ人気がない、高市さんがそれだけ人気があるという差と比例しているとは思わないんですよ。むしろ本当に、針がほんのちょびっとだけどっち側に揺れるかで、ポジとネガが決まる。ちょっとでも古謝さん側に揺れたら、古謝さんにポジティブな動画を作った方が、デニーさんにポジティブな動画を作るより見られる可能性が増えますよね。なので、とにかく見られたい人はみんなそれを作る。そうすると流れが生まれ始める。

アルゴリズムが怖いところは、一旦流れが生まれると、それを調整しようとするのではなく、それに乗っかるのがアルゴリズムの元々の特性なので、こういうことになってしまう。本当はそんなに差がないはずなのに、とんでもない差を生み出してしまうところが、このアルゴリズムのレバレッジの怖さなのかなと思っているんですけど。

澁谷:おっしゃる通りだと思います。やっぱり作る側としても、それこそアルゴリズムや収益化の話にもなりますけれども、基本的にはより多く見てほしいということで、伝えたいものを伝えるというよりは、見たい人が見たいものを届けるという方に振った方が動画が届く、ということになると、先ほどおっしゃったような現象がさらに加速します。

あとは今回、沖縄県知事選なので、基本的には沖縄の有権者の方にとって役に立つものが届くといいわけですけれども、おそらく地域外の視聴者もかなりいたと思われますし、地域の政策課題以上に、対立的な話題が、外から見た人からだとある種面白く感じられてしまったりすることもありますので、そういった対立的な話題がそもそも好まれるということもあるのかなと思います。

古田:僕もYouTubeが好きでよく見るんですけれども、僕の場合だと、例えばトレーニングやランニングが好き、格闘技が好きだから、僕のタイムラインには格闘技やトレーニングの動画がいっぱい流れてくる。すごく参考になるし面白い。趣味の世界の話であれば、自分の好きなものがどんどん流れてくるというのは非常にいいことだと思うんですけれども、これが社会的問題や政治的な話になると、それは全然いい機能じゃないなと感じるんですよね。これはどうしたらいいんですかね。

澁谷:私も、例えば関心がなかったとしても、「これは誰も知らなかった」とか、それこそ先ほど申し上げたような「テレビが伝えない真実」とかって、やっぱりクリックしたくなっちゃって、それが極端な動画だったとしたら、それを一回見ると、なぜかその後、別に関心もないのに、そういう感じの偏った思想の動画がわーっと出てくる。研究用のアカウントを何個か作ってやっているんですけども、やっぱりそういうことが起こっています。

おっしゃるように、それが趣味の世界だったら、ある程度はいいのかもしれないですし、ユーザーにとっても自分が欲しい動画が出てくるのでとても嬉しいと思うんですけれども、やっぱり選挙となった時は、そういうレコメンデーションや並べる順番が、その人の意識にものすごく影響を与える可能性があるということを加味すると、あまり良くないなと思っております。

候補者本人の声は全体の約1.5%()

古田:それで、このアルゴリズムの特性もあると思うんですけど、悲しいなと思うのが、一方で玉城さんや古謝さんの公式アカウントの再生数で見ると、玉城さんが約166万回、古謝さんが約117万回なので、関連動画全体の視聴で言うと1%ぐらいなんですよね(注:正確には約1.5%)。候補者本人がせっかく発信しているのに、それは実はあまり見られていない。そうではない人たち、今回で言うと、これも琉球新報さんが書いていましたけれども、実はほぼ県外の発信者の人たち、もしくは県内か県外かわからない発信者の人たちのもので、肝心の候補者自身の声は届きにくい。この現象はどう見られますか。

澁谷:これは結構最近の特徴かなと思っていまして、いろいろな方が本当に簡単に編集できるようになったので、切り抜きも含めて発信することができるようになった。絶対数として、本人のアカウントの発信よりも、その他いろいろな方々の解説や論評、切り抜きなどが大量に出てきているというのがあると思います。

それ自体は、別に「切り抜き=間違った情報」でもないので、いい感じで欲しい情報を抜き取ってやっている場合もありますし、必ず悪だというわけではないわけです。むしろいろいろな情報発信をして、さらに有権者に届けやすくしているという面からは、いい側面もかなりあると思います。ただ、全然違う文脈でつなげて、本人や公式の方が意図しないような伝わり方をしてしまう、みたいなことがあったら非常に問題だと思っていますし、そもそもなぜそういうのが届きやすいかというと、見る人にとってはそういう方が面白かったりする、というところが結構あるんじゃないかなと思います。

古田:実際その切り抜き動画についても、最近すごく多いのが、すごく一方的で偏った、根拠に乏しい発信をYouTubeでしている人の動画を切り抜いて、さらにショートでTikTokなどで流す。しかも僕がその手法を見ていて思ったのが、根拠のないことを勢いよく短いフレーズで言っている人たちの方が、ショート動画に切り抜きしやすいんですよね。

ちゃんと根拠を持って論理的に喋ろうと思ったら、一つのことを喋るのに2、3分かかってしまう。でも根拠なしに適当なことを勢いよく言う人の言葉って、40秒ぐらいで切れてしまう。なので、ここでも客観的で冷静な議論がソーシャルメディア上でやりにくい、というのが出てきているのかなと思います。

2018年の沖縄県知事選から何が変わったか()

古田:僕らはBuzzFeed Japanの編集長時代の沖縄県知事選から、沖縄に関してはファクトチェックをやっているんですけれども、当時は、候補者を批判する真偽不明の情報が、ニュースサイトを装ったサイトから広がる、みたいな感じで、僕らがそれを報じたらそのサイトが消える、みたいなことがあったんですけれども、当時は今ほどソーシャルメディア、特に動画の影響はなかったと思うんですよ。これまで澁谷さんが研究してきた中で、この2020年代に何が変わってきていると思うのか。少しでも改善しているところはあるのか。どうでしょう。

澁谷:これは本当に、何が変わっているのかと言われたら、体感的にはかなり変わっていますよね。ただ、その要素としてどことどこが、というのは、この質問をいただくまであまりじっくり考えたことがなかったので、ぜひ古田さんのお考えも聞きたいんですけれども、まず何となくですけれども、やっぱりYouTubeに限らずどのプラットフォームでも、動画を介した情報の提供が圧倒的に増えている、というのは、ずっとデータを集める中で変わってきているところかなと思います。それはやはり動画の方が訴えやすいというのもありますけれども、AIやいろいろなツールも含めて制作コストがかなり下がってきている、というところはあるんじゃないかなと思っております。

古田:僕が感じるのは、もう一つ、この3、4年でのすごく大きな変化で言うと、政治家や候補者の方々自身の動画の使い方もうまくなった。実はこれを僕が一番感じるのは自民党の方々なんですよね。今回の古謝さんもそうですけど、インスタグラムの発信がすごく上手だったんですよ。あれはもう完全に自民党の方々がテコ入れをしていて、自民党の方々ってやっぱり、2024年に国民民主党が動画をうまく使っているのを見て学んでるんですよね。それですごく発信をするようになってる。

僕が今回沖縄で取材した中で印象的だったことの一つが、18歳の女性の有権者に投票後に話を聞いたんですよ。何を根拠に投票しましたかと聞いたら、インスタグラムって言うんですよね。インスタグラムで何を見たんですかと聞いたら、「流れてくる動画はうさんくさかったのでほとんど見ませんでした。私はそれぞれの候補者のインスタグラムアカウントを見て決めました」と言っていて、こういう若い有権者は今後ものすごく増えていくだろうなと思ったんですよ。

となった時に、党を挙げてそういう発信の仕方を研究して練り上げてきている自民党さんは、他の党より明らかに有利になると思うんですよね。なので、人々に自分たちの声をよく届けたいということ自体は素晴らしいことなんだけど、同時に、発信の仕方がうまいことが票につながる傾向がどんどん強化されていくことが、果たして本当に民主主義にとっていいことなのか、というのは悩ましいなと感じています。

澁谷:私たちの研究室のメンバーでも、この切り抜き動画——いわゆるいろいろなものを切り取って貼り付けてつなげているものですけれども——その内容を見て研究してくれたメンバーがいるんですけれども、面白かったことがいくつかあって、一つが、候補者自身が「自分の動画をどんどん切り抜いてください」と言っている方もいて、そうすると自分の発信力を上げるという、まさに古田さんが今おっしゃった一つの構図ですよね。あとは周りの多数の人たちを動員して、どんどん切り抜いて、どんどん動画を作ってくださいと、動画をどんどんプラットフォーム上に流していく。そうやって動かして、まさにアルゴリズムの力を使って、どんどん自分の影響力を拡大させようとする動きもあるようです。

古田さんがおっしゃったように、アルゴリズムに乗っかって情報を伝えることが民主主義的にいいのかというのはまた別の話で、今の現状だと、そういうのを使いこなせると届けられる範囲が広がってしまう、あるいは使いこなせないと狭まってしまう、というのは課題だと思っています。

4. 研究上の課題:データアクセス()

古田:ここで研究上の課題も伺っていきたいんですけれども、MetaがCrowdTangleというサービスを終了するとか、XのAPIがめちゃくちゃ高額化して、なかなか簡単に研究で使えなくなってきたとか。ソーシャルメディアの影響力が高まっていて、規制をどうしようか、ルール作りしないといけないねと言われている中で、その基礎になるはずの研究環境はどんどん悪くなっている。ずっと研究をされてきて、プラットフォームごとの研究しやすさ、データの入手しやすさってどう感じていらっしゃいますか。

澁谷:ここ数年、ガクッとデータの取得のしやすさが落ちていますし、実際に見られるデータはかなり限られてしまっています。これは研究者だけじゃなくて、例えばマスコミもそうですし、第三者機関ですよね。プラットフォーマー以外の第三者が、今プラットフォーム上でどういうふうに情報が流れているのかを見ようと思った時に、検証ができない、というのが一番問題だと思っています。どんなにプラットフォーマーが、透明性の観点からこういう取り組みをしていますと言っても、本当にどのくらいその取り組みがなされていて、どの程度効果があったのかを検証しようがない。そこがとても課題だと思っています。

私たちも研究したいので、もちろんデータが欲しいというのはありますけれども、それ以上に、実際何が起こっているのか誰も把握することができない状態になってしまう、というのが一番問題だと思っていまして、その観点からは、どの大きなプラットフォーマーも現在なかなか、我々が必要としているデータ全てを提供してくれていない、というのが現状だと思っています。

古田:EUだとデジタルサービス法(DSA)の中に研究者のデータアクセスの仕組みがあって、実際はあまりうまくいっていないという話も聞こえてきていますけれども、少なくとも枠組みは存在する。でも日本はその枠組みも存在しない。今後どうしていくべきだとお考えですか。僕はもう本当にすぐに、日本でもこういうことの法制化が必要なんじゃないかと思うんですけれども。

澁谷:やはり日本はこれまで、基本的には事業者の自主的な取り組みに任せるという方針をずっととってきたわけですけれども、今の現状を見ると、そうも言っていられないところもあるかなと思っておりまして、私自身もやはり、ある程度公共性のあるデータに関しては、公共性のある第三者機関、研究機関やその他の機関にデータを提供できる、アクセスできるような仕組みを早急に議論することが重要だと思います。そうしないと現状も把握できないので、こうすべきだとか、今これが足りないとか、むしろこれが多いとか、そういう話すらデータに基づいてなかなかできない、という状況がどんどん生まれてしまうと考えております。

5. 日本で情報環境を改善していくために

選挙SNS対策法とAI表示義務()

古田:法的な規制の話で言うと、選挙運動におけるSNS対策ということで、公職選挙法や情プラ法の改正が成立して、来春の統一地方選から適用されるわけですけれども、法律の中では、大規模SNS事業者に偽情報の悪影響を低減するような措置を義務付けている。AIで作成・改変した画像や動画には表示義務を付ける。ただし罰則はない。ここら辺は、各国の状況なども見つつ、比較しつつ、どのように評価されていますか。

澁谷:まずは、こういった動きが少しずつ出てきているということ自体は非常に意義があると思っていますし、AIで作成あるいは改変したことの透明性を高めようとする動き自体は大変意義があると思います。

ただ、AIで作ったから偽・誤情報とも限らないですし、表示があるから真偽を適切に判断できるようになるとも限らないわけです。これは私たちの研究で、日本を含めて5カ国で実際に実験をしまして、ソーシャルメディアのプラットフォームの中で「AIが作った」ということを視聴者に伝えることで、誤った情報を含む偽の動画と、正しい情報を含む動画を、どのくらい見分けることができるようになるのかを見たんですけれども、簡単に結論を言うと、基本的には正しい動画と偽の動画を見分ける力の改善にはなかなかつながらない、という結果です。

もちろん、AI表示をしたから偽・誤情報対策をしています、とプラットフォーム事業者が言っているわけではないので、そこに直接アプローチしているものではないんですけれども、このAI表示義務だけでは、やっぱりいろいろな問題の解決はなかなか難しいのかなと思います。あとは個人差ですね。AIに対してそのユーザーがどういうふうに感じているのかとか、その人の性格とか、いろいろなものが影響するということが分かっていますので、今回の表示義務だけではなくて、本当にいろいろな対策を同時並行で取っていくことが求められるんじゃないかなと思っています。

古田:僕がこのAI表示義務で思うのは、僕はよく新聞やテレビから取材を受けるんですよね。最近はAIディープフェイクに関する取材も多くて、どうやったら見分けられるんですかと聞かれるので、まず最初に「AIで作ったかどうかのラベルやマークを見てください。これがまず基本です。それがあるから偽物とは限らないけれども、まずそれは確認しましょう」と言ったら、結構多くの記者の方が「こんなものがあったんですね」と。記者が、ですよ。なので、AI表示をつけたとしても、AI表示というものが世の中にあるんですよということを人々が知らないと、なかなか実効性は担保できないのかなと感じています。

澁谷:おっしゃる通り、申し訳程度にすごく小さくラベルがついていたりするので、ほとんど気づかない人も多いんじゃないかと思います。

自治体にできること()

古田:我々は実は宮城県の検討会にそれぞれ有識者として参加させていただいていますけれども、自治体はどういうことができると思われますか。

澁谷:これは検討会の中でもかなり議論があったところですけれども、やっぱり基本的には、選挙の時だけじゃなくて、常に日頃から、いかに一次情報をしっかりと分かりやすく、そして探しやすく、場合によってはAIに読み込んでもらいやすく、素早く提供できるか、というところが一番だと思っています。何かあった時に遡れるような情報を常に準備しておく、公表しておく、というところが本当に大切なところかなと思っています。

古田:それは本当におっしゃる通りなんですよね。自治体の方々は「いや、でも私たちが発信してもなかなか届かないんですよね」と言うんですけど、僕はよく、いや違います、と申し上げるんです。自治体の方々の発信力はものすごく強いし、さらに、自治体がそういう情報を発信しておくことで、メディアが引用できるんですよね。ファクトチェックセンターとしても、検証する時に「自治体にはこう書いてありますよ」という引用ができるから、二次的・三次的な効果がある。そういった意味でも、やっぱり公的機関の方々、企業もそうですけれども、できるだけ一次情報をたくさんサイト上に発表しておいてもらいたいなと思います。

選挙報道をどう変えるか()

古田:だんだん最後の質

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