静かなドライブ
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主人の車を出してもらって、三重県にまで虫を取りに行ったんですね。
いっぱい取れて、その帰りなんですけど、道が混んでた。
それぐらいの程度のことだったんですけど、
後部座席に乗った息子の友達2人が、疲れて眠ってしまって、
これは起こしてあげるのかわいそうやなと思って、
運転している主人も私も一切しゃべらなかったんですよ。
そういうちょっと静かにしてあげようと思っているところに、
助手席から、私の左側にある歩道の向かいから、人が歩いてくるのが見えたんですよ。
50メートルぐらいかな。
まだまだ時間は明るくて、
その人が少し小太りなおばさんであるということが認識できるぐらいまで近づいてきたんです。
こちらも車、ずっと止まりっぱなしじゃなくて、ゆっくりゆっくりではあるんですけど、
ちょっとずつ進んでいるので、そのおばさんがこちらに向かって歩いてくるのがよく見えたんですね。
そのおばさんはこっちに向かって歩いてきながら、車道側におばさまがよく持っているキャスターのバッグを持ってたんですよ。
青い色で。
それが私から見えて、
そのキャスターの蓋の部分から茶色いものが出ているんですけど、
それが中型犬群ぐらいの大きさの犬の頭だったんですよ。
おばっちゃん、カバンの中に犬を入れて散歩しているのかな。
これは散歩ということになるんだろうか、みたいな感じで。
なんとなくそのおばさんをずっと見続けていたんですよね。
しゃべることもないし。
そのおばさんがこちらも前に動く、そのおばさんもこっちに向かっているというのでどんどん近づいてきて、
犬が口を開けて舌を出してすごく苦しそうにしているのがだんだんわかってきたんですよ。
これちょっと虐待っぽいなと、嫌な気持ちになりつつ、そのままどんどん気になって見ていったんですね。
どんどん近づいてくるにつれ、その犬がいかに苦しそうかというのがわかったんですよ。
歩道のおばさん
もう首をすごく絞められているかのように、上下に首を振りながら、
はぁはぁと舌を出してすごくつらそうに呼吸をしているんですね。
えーってだんだんちょっとドキドキしてきて、おばちゃん何してるんやろうって。
でもおばちゃんは何も、その犬を見ることもなく、
その小松木のカバンをガラガラと左手で引きながら、どんどんどんどんこちらに近づいていって、
ほぼ目の前に来たときに、ちょうどその歩道に内側に入る道があって、
そのおばちゃんがそっちの方に曲がっていったんですよね。
それってカバンがすごくよく見えることになったんですよ。
そこでうわってなったんですけど、カバンから犬が首を出しているんじゃなくて、
犬の頭部だけが、そのおばさんの持っているキャスター付きの入れ物の横を上下に揺れながらついていってただけだったんです。
私は大声を上げそうになったんですけど、
とっさにやっぱり親の心みたいなアカンを起こしてしまうっていう気持ちがあって、
夫にもちょっとって言えず、はっ!ってなっただけで、何にも言えなくて、
そのままおばちゃんは道に入っていってしまって、見えなくなったんですよ。
その子らが起きても、こんなんあってんとか余裕がなくて、
ずっと帰るまで黙っていて、帰ってから夫に話をしたら、すごいもん見たなと言われました。
犬神の存在
どこにでもいそうな女性。しかし、彼女の横には宙に浮かぶ犬の生首が上下に揺れながらつきまとっています。
それに気づくまでの経緯も含めて想像すると、
その光景を見たKさんの驚きがいかほどのものだったのか理解できるでしょう。
その女性はなぜそのようなマガマガしい存在にまとわりつかれていたのでしょうか。
彼女自身が飼い犬を虐待していたのか、
それともこの世をさまよう無惨な死に方をした犬の霊にたまたま気に入られついてこられたのか、
真相はわかりません。ひょっとすると誰かに呪われているということも考えられます。
犬神というのをご存知でしょうか。犬神とは徳島県や高知県を中心に、
中国地方や九州地方にわたって広く伝わる民間信仰です。
犬神信仰はそもそも人を呪うための呪術である孤独に源流を見ることができます。
孤独とは、まじないをして災いをこうむらせるという意味のまじくるという漢字に
独訳の独と書く古代中国の呪術です。
古術、古道ともいい、動物を殺してその死体を祀ることにより願望成就を図ります。
一方犬神信仰では犬を用います。まず犬を生きたまま地面に埋め、
頭だけを出してそのまま放置します。空腹になってきたところで目の前の
ギリギリ届かない位置に食べ物を置きます。犬は何とかそれを食べようとしますが届きません。
そのうちに半狂乱になり、空腹にもがき苦しみながらやがて餓死してしまいます。
その餓死する直前に首を切り落として殺します。そしてその首を焼いて骨だけにし、
それを祀ることで犬神が完成するのです。
つまり犬が何とか生きようとするその気力、精神力、生命力が最大限に高まったところで殺すことにより、
その頭部にそれらの力が残り、それを術者自身の願望成就に利用しようということなのでしょう。
犬神を祀る者は犬神を使役することができ、彼らは犬神を操って、
敵となる者を呪い殺したり、失却させることができると信じられていました。
犬神に取り憑かれると精神疾患になったり、様々な難病にかかるというのです。
そうやって邪魔になる者を葬り、犬神使いは私福を肥やし、裕福になるのです。
このように恐ろしい犬神信仰ですが、今回のお話でKさんが目撃したその女性は犬神使いだったのか。
いや、どちらかというと犬神の信仰者によって呪われ、犬神に取り憑かれてしまった哀れな被害者と見るのが自然のようにも思えます。
だとすれば、現在でも犬神信仰が残る地域があり、そこでは人知れず呪いの儀式が行われているのかもしれません。
Kさんに確認すると、その女性を見たのは奈良県ということでした。
奈良県は犬神信仰が色濃く残る地域ではありませんが、インターネットが普及して地域差が急速になくなりつつある現代、
犬神信仰はもはや四国地方だけのものではなくなっているとしても不思議ではありません。
またKさんは、その時に見た犬の特徴について、茶色くて小狐みたいな顔をしていたともおっしゃっていました。
この小狐のようだったという点は重要です。
犬神が主に信仰されている地域は四国地方を中心として南の方へと広がっていると述べました。
一方、犬神ではないにしろ、動物の霊を使役するという事例は全国各地にあります。
術者によって使役される動物霊は、人に取り付くので好き者と呼ばれ、犬神以外では狐、蛇、狸などがあります。
狐餅と思われた犬神使いの体験談
特に狐がつくとされる地域は多く、それぞれの地域によってヤコ、クダ、オサキなどと呼ばれ、そのような狐を使役するものは狐餅と呼ばれます。
以上のことを考慮に入れて改めてKさんの体験談を聞くと、そこで彼女が見た犬の頭部は実は犬ではなく、狐だったのではないかとさえ思えます。
ご存知の通り、狐と犬はよく似ています。
同じ根こもく犬科に属しており、違いは犬若か犬俗科の違いのみ。
Kさんは初め、ペットを散歩させていると勘違いしていたとのことなので、まさか狐だとは思わず、遠目に犬だと判断したのかもしれません。
いずれにせよ、現代でも孤独を源流とする事実が行われているのかもしれないと思うと、うすら寒くなります。
さて、ここまでは民間に留守されるつきもの信仰という視点からKさんの体験談を見てきましたが、
ここからはもっと現実に即した別の視点からのつきもの信仰を紹介したいと思います。
先に説明した通り、犬神使いは人々から恐れられるとともに意味嫌われてきました。
徳島では犬神を使う者を捕まえて処罰せよという内容の無業人から出されたおふれ書きが残っており、
信仰が盛んな地域では現実問題として社会的に取り扱われていたようです。
このような風潮は近世になってからさらにつきもの筋という考えを生みます。
つきもの信仰と差別の問題
つきもの筋とは犬神をはじめとしたつきものを刺激する者の家系のことです。
つきものを刺激する人が一人いれば、その家系の人全員が意図的かあるいは無意識のうちに動物霊を刺激していると他人から見られます。
つきもの筋とは特定の家系を指して言われる言葉なのです。
過去に一人でもつきものを刺激する人が出れば、その家の親族一同は全員がつきもの筋とみなされました。
つきもの筋とされる家の出の人は、結婚を断られたり、言われのない誹謗中傷を受けたりしました。
つきもの筋の人間は他人に不幸をもたらすと考えられていたからです。
そしてそれは、世代が変わってもなくなることはありません。
つきもの筋とはその一族に代々ついて回るレッテルであり、つまりこれは差別です。
つきもの筋の楽園を押された家系は強い差別を受け続けるのです。
ある調査によると、このような差別は少なくとも平成に入ってからも一部地域で確認されているそうです。
差別である以上、これは社会問題として捉えるべきでしょう。
つきもの筋とされる家系は往々にして裕福である場合が多く、
差別する者からはつきものの力を借りて罪を成したと説明されます。
それは正当なやり方ではなく、他人を不幸にして得た罪だという認識につながります。
これは共同体の中での貧富の格差の理由づきになると同時に、
止める家系への恐れと憎しみを育みます。
その家がつきもの筋であるとして差別の対象とするのは、
妬みが根底にあるのです。
この差別は島国根性とも言うべき、日本人の持つ閉鎖的で排他的な性質に起因しているようです。
いかなる背景があろうとも、差別は許されるものではありません。
特にこのような旧兵的な考えに端を発する時代錯誤な差別は改めなくてはなりません。
誰かを貶めることで得られる優越感に浸ることで、
事情を心静かに送るという生き方の不自然さに気づき、
感情に流されるのではなく、公平で冷静な視点に立って、
人や物事を見、自分と他人との違いを受け入れ、互いに理解に努める必要がある。
私はそう考えます。
すべての差別が世界からなくなることを願ってやみません。
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