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見慣れない場所
私は、東京の八王子に住んでいて、地元の高校に行っています。
その時、友達にバイクをスクーター借りていて、
そのスクーターを友達の家に返しに行って、
帰りに川沿いを帰って、家の近道だったので歩いて帰るところだったんですね。
そこの浅川という八王子にある川なんですけども、
そこの川自体も何回も歩いてるところで、
本当に普通のただの河川敷、遊歩道ですよね。
川沿いの遊歩道なんですけども、
暑い日で、いやもう暑いなーと思って歩いてたら、
急に目の前のところに西洋の庭園に入るときの木戸みたいなものがありまして、
だからこんなのあったかなと思って、
とりあえず道が続いてたんでそのまま入って行ったんですね、その木戸の中に。
そうするとまた道が続いてるんですけども、
景色が急に変わったというか森の中みたいな感じになりまして、
だから川沿いにこんなとこあったかなと思いながらしばらくてくてく歩いてたら、
左側に建物がありまして、
ぱっと見学校みたいな建物で4階建てぐらいで、
窓が低等間隔でいっぱい、同じような窓がいっぱいあるっていうような建物で、
この建物も見たことないのはなんだろうなーと思いながら見てたら、
窓に鉄格子が全部はまってるなーと思ったんですね。
うわ、やだなこれ。ちょっとそういう精神的な人の病院なのかなと思って、
怖いな、早く河原に戻りたいなーと思いながら歩いてたら、
最初に見たときは窓のところ誰もいなかったんです。全部の窓に。
誰もいないなーと思って、早く行こうって歩いてたところで、
なんか視線というか気配をすごく感じまして、
うわーってちょっと寒気しながら左のほうをちらってみたら、
全部の窓にソバ汁みたいなパーマがかかった長い髪の毛の女の人が、
本当に無表情な女の人がすべての窓にいたんですね。
うわ、これはダメだと思って、とりあえず目合わせたりしたらいけないと思って、
だと気づいたっていうので急に走ったりしてもいけないってそのときは思いまして、
それで見てませんよみたいな感じでまた前を見て、
そしらぬ顔で歩いて、しばらく歩いてたらまた入り口と同じような軌道があって、
その軌道を出たら、まったくいつも通ってるような河原の道に戻ってたっていう話なんですね。
家からちょっと離れてるんですけど同じ市内のところなんで、
何回もその後も通ってるんですけど、やっぱりそんな病院とかもないし、
そもそも河川時期なんでそんな森っていうか林みたいになってるところもないんですよね。
突然の異世界
今でも私そこの地元住んでるんですけど、昔からやっぱりそんなのないよねっていう、
昔からの友達とかも話してるっていう、ちょっと不思議な体験をしたっていう話です。
いつも通る道、いつも行く場所、そんな馴染みのあるよく知るところを歩いているはずなのに、
いつの間にか全く知らない場所に出てしまっている。
そんな話は昔から数多くあり、現在では異教訪問壇と呼ばれています。
例えば有名なところでは浦島太郎や下斬雀がそれに該当するでしょう。
物語の主人公はふとしたことから竜宮城や雀のお宿といったこの世ならざる場所に足を踏み入れることになります。
日本神話にもイザナギの御事のよもつ国訪問神話や大名持の神のねの国訪問壇などがあります。
このような異世界を訪れ、また帰ってくる話は世界各地に伝わっており、
この手の話はどの文化圏においてもどの時代においても人々の興味を引きつけてやまないのかもしれません。
現在、ライトノベルやアニメ、ゲームなどで人気の異世界系と呼ばれるジャンルは異教訪問壇の系譜だと言えるでしょう。
さて、浦島太郎や下斬雀が完全な実話かというと、もちろんそうではありません。
元になった出来事はあるでしょうが、今一般的に知られている昔話の形そのままではないのです。
ただし、実話として文献に残っている異教訪問壇もあります。
例えば、最近話題にもなった平田敦種の専業遺文。
これは江戸時代後期、国学者で思想家でもある平田敦種が天狗にさらわれて修行し、異世界に行ったと主張する少年寅吉から、異世界の様子やそこに住む者たちの暮らしぶりや文化を詳しく聞いてまとめたものです。
寅吉が語る体験談は、大変に詳細で具体的であり、敦種だけではなく、他の当時の学者らも興味深く聞きました。
見えない世界に対する関心が、当時から高かった様子が伺えます。
今回お送りしたMさんの体験談も、そんな異教訪問壇の一つと言っていいでしょう。
いつも使っている道を普段通り歩いていると、見慣れない扉に突き当たります。
そこを開けて中に入ると、見知らぬ場所に出、そこで彼は奇妙な体験をするのです。
昔話や神話ほどのドラマティックな展開こそありませんが、それでもどこか薄気味悪さが漂います。
異教訪問壇の話
まず、そこで見た無機質な建物は精神病院を思わせます。
現在の日本の精神病院の外観は見た目に明るいものもあるようですが、
かつては風雨にさらされて薄汚れた白い壁に格子のついた四角い窓が等間隔に並ぶ、
どこか不気味で寒々しい建物といった印象がありました。
Mさんが見たのはまさにそんな建物であり、彼自身もその建物を精神病院かと思ったそうです。
しかも、最初見た時は誰もいなかったはずが、一瞬目をそらしてからもう一度見ると、
全ての窓という窓から髪の長い白人と模式女性が外を眺めており、
その女性はどれも全く同じ顔をしていたというのです。
どこか異国を思わせる状況ですが、いずれにせよ、そこは現実のものではありません。
異郷訪問壇で登場人物が訪れる世界は私たちの世界とは全く異なります。
竜宮城は乙姫様を中心に魚たちが住む海底の城でした。
スズメのお宿は建物自体は普通の大きな宿なのですが、そこで働く者たちはことごとくスズメです。
その世界では私たちの世界の理が通じないのです。
こういった異界に足を踏み入れてしまった人の話は現代でも聞くことができます。
有名なところでは杉沢村や木更木駅の話があります。
どちらもインターネットで広まった都市伝説ですが、大変よくできた話であり、
真実味があることからも今でも多くの人たちの好奇心をかきたて続けています。
私が今まで取材した話の中にもこういった話はいくつかあります。
夏のお祭りの夜、神社の境内でふと踏み入った細い路地から異様な世界に入り込んでしまい、
異界への入り口の発見
そこで恐ろしい体験をした人の話。
友達と二人で話に夢中になりながら渡った組切りの向こう側に見た夕日が沈む荒野。
海外旅行の際、飛行機の乗り継ぎのために真夜中の空港で過ごすことになった人が
トイレの壁の隙間から迷い込んでしまった異様な世界。
過去や未来と模式光景を見た人もいます。
現代にもこのような体験談はあふれているのです。
このような話を聞いていると気づくことがあります。
現代の体験談の場合、異界へと足を踏み入れる際に、その入り口乏しきものがあるということです。
杉沢村の場合は、ここから先へ立ち入る者には命の保障はないと書かれた看板のある脇道がそれに当たりますし、
木更木駅の場合は電車になります。
先に紹介した私の取材した話でも、踏切、路地、壁と壁の隙間が入り口に当たります。
こちらの世界と異界との境界線が存在するようなのです。
そして、その入り口は、実体験ではほとんどの場合、出口にもなります。
異界への迷い込みと行方不明
異界に足を踏み入れてしまった人たちは、同じ境界線を通ってこちらの世界へと戻ってくるのです。
そういった点からすると、入り口と出口が別々なMさんの体験は珍しいかもしれません。
何にせよ、異界というのは無数にあり、そこへ通じる穴はこの世界の至るところにあるようです。
おそらくは、そこに行けば常に異界への入り口が存在しているわけではなさそうなのですが、何かのタイミングでぽっかりとそれは口を開くのかもしれません。
現代の実体験としての異境訪問団は、必ず異界に入り込んだ人は静観します。
なぜなら、静観しないと、その体験談を他の人に伝えることができないからです。
ということは、異界に迷い込んで帰ってくることができず、誰もその人の身に何が起きたのかを知ることがないということもあるでしょう。
日本では、毎年8万人以上の人が行方不明になっているそうです。
単純計算で、毎日200人が行方不明になっているということになります。
行方不明の真相は、自殺や何かの事件に巻き込まれた、あるいは何らかの事情で自ら身を隠しているなどといったことがほとんどだと思います。
しかし、その中には、異界に迷い込んでしまって戻ってこれなくなってしまったという人もいるのかもしれません。
もしも、目の前に異界へと通じる入り口がぽっかりと開いたら、そこを通りますか?
戻ってこられる保証はどこにもありません。
もし、自ら進んでそこに行きたいと思わないのであれば、今通ろうとしているその扉には気をつけた方がいいのかもしれません。
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