今回絶対覚えてほしいのが、どれだけ技術が進歩しても災害の可能性はゼロにならないということです。
それは工学的にリスクゼロ、つまり絶対安全なんてものは存在しないからなんです。
少しだけ教科書的な話をしますね。
リスクは掛け算で決まります。
ハザードかける発生確率。
ハザードっていうのは危険の大きさを表します。
どれくらい危険なことがどれくらいの確率で発生するのかという計算でリスクが求められます。
唯一リスクがなくせるのは発生確率をゼロにするということです。
身近な車を例に挙げてみましょう。
車の交通事故をなくしたいと思ったら、そもそも車自体をなくしたらいいんですよね。
当たり前の話なんですけど、当然そんなことできないですよね。便利ですから。
じゃあ車に遭遇しなければいいってことで、家から出ないっていう考え方もあります。
いろいろ支障は出ますけど、これで車の事故がなくなったって思ったら、
実は家に車が突っ込んでくるなんていうシチュエーションもありますよね。
リスクゼロじゃないんです。イチャモンつけてるように聞こえるかもしれないですけど、
リスクゼロっていうのは本当に難しいんです。
いろんなシチュエーションがある状態で、絶対に安全ですっていうのはありえないんです。
だから車自体を世の中からなくすしかありません。
科学メーカーの場合を考えてみましょう。
科学メーカーっていうのは科学品を作っています。
ガソリンみたいな火災につながる危険物とか、
硫酸みたいな体にダメージを与える激物といったハザードそのものを扱って商売しています。
例えば、ハザードをなくしましょう、ゼロにしましょうとした場合、売り物自体がなくなっちゃうんですよね。
だからこそ技術者として絶対に安全、ゼロリスクっていうことは言えなくて、
代わりにリスクがとっても低いですよっていう言い方をするんです。
リスクがとっても低いっていうのがどういうことなのか、もう少し詳しく話をします。
実は安全にも定義があります。
それは許容できないリスクがない状態っていう意味合いなんです。
許容できないリスク。もう一度考え方を振り返ります。
計算式はハザード×発生確率がリスクでした。
発生したら被害は大きい。
つまり、ハザードが大きいけど発生確率が低いからリスクとしては許容できる範囲内っていう言い方をしたりします。
さっき例に挙げた自動車事故なんかもそうです。
事故を起こしたら被害が大きい、ハザードが大きいですけど、誰も運転ってやめないですよね。
それは道路交通法とか各自の安全運転とか、車の自動ブレーキシステムとかを使って発生確率を下げているんです。
計算上はリスクが小さくなっていて、許容できるレベルにまで落としているということなんです。
こんな感じで製造業でゼロ災、つまり災害ゼロとは言いながら、目指しているのは許容できないリスクをなくした状態だったんです。
このリスクはゼロにならないという理論は、実際のデータにも残酷なほど現れています。
化学プラントにおいては各社が安全に対して熱心に取り組んでいるんですけど、やっぱり災害がなくなってはないんです。
実は科学業界っていうのは、全産業の中で見ると労働災害、怪我の頻度っていうのは低い方なんです。
装置産業なので、そもそも人が危険な場所に近づく頻度が少ないっていうのも理由にあると思います。
その一方で消防庁のデータを見ると、火災や漏洩事故の件数っていうのは、最近だと横ばいか微増の傾向にあります。
設備の老朽化とか、ベテランの引退で技術伝承できてないっていう課題とか、いろんな理由があるんですけど、現実は災害ゼロにはまだ遠い状態です。
つまりは、人は怪我してないけど、プラントは悲鳴を上げているっていうのが化学プラントのリアルな姿なんです。
ここまで少し重たい話をしちゃったんですけど、最後にポップな話題をお届けします。
現場猫ってご存知でしょうか。
工事用ヘルメットをかぶった猫が、「よし!」って指差し確認している姿が特徴的です。
SNSでとっても話題ですよね。
個人的に二次創作を描かれている唐揚げのるつぼさんっていう方の作品が、現場の人間だったら、「あーわかるなー」っていう内容ばっかりなんですよね。
一つ好きな内容を紹介しますと、組織の闇をなんか完璧に封死したようなトリプルチェックの話ってご存知でしょうか。
トリプルチェックっていうのは書類にミスがないか調べるために、2人目3人目ってチェック体制を設けてミスを防止するような取り組みなんです。
3匹の猫が一列に並んでチェックしているシーンなんですけど、それぞれの頭の中が書かれています。
1人目の猫が後の2人がちゃんと見てくれるからよしって言って、
2人目の猫は1人目が合格にしてるし、3人目も見てくれるからよしって言って、
3人目の猫が前の2人が合格してるんだから絶対よしって言って、
それで誰も中身を見てなくてそのまま合格になってしまうっていうオチなんですけど、
これなかなかいいですよね。
リンゲルマン効果って言われる現象なんですけど、
自分一人くらい手抜いても大丈夫って思って、集団だと生産性が落ちてしまうような話でして、
承認の数が増えるほど誰も見なくなるっていう企業のあるあるを表していて個人的に好きなんです。
この現場猫の話を知っているんで、会社でダブルチェック体制敷きましょうって話が出た時に、
結局次の人当てにするんだから別の仕組み作った方がいいんじゃないですかっていうような言い方を私はしたりしますね。
こんな感じでミスから事故につながりそうな内容がカラオケのるつぼさんのSNSでたくさん見られるんです。
楽しみながら事故とかミスについて考えることができるんで、ぜひフォローしてみてください。
生産現場に近いほどあるあるってなると思います。
人は自然とリスクをゼロに従います。
ただリスクはゼロにならないから許容できるとこまで落としましょうということだけでも覚えて帰ってください。
今回は科学系ポッドキャストの日のホストを担当しました。
共通テーマは悩みましたね。
悩んだ挙句ゼロっていうテーマを決めたわけなんですけど、いくつか意図はあります。
やっぱり科学系じゃない方も参加できるようにはしたかったですね。
そしてせっかくなので12月っていう感じも意識したくて、
なんとかひねり出して年末だからカウントダウンゼロっていう話ができるようにしています。
もう一つ、科学系じゃない方でもゼロサイズの話だったらできるかなっていうことでゼロにしています。
その一方で絶対0度とか無重力みたいな科学的な内容にも広げられる個人的に好きなテーマです。
このテーマゼロに関するSpotifyのプレイリストもあります。
12月10日頃まで各番組さんが配信していますので、概要欄のリンクから随時お聞きください。
今回はここまでです。
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