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足利尊氏 夜明けのばさら 第2話 嘉暦の騒動
文法元年6月24日
霜月源氏足利本家の八代御当主、様之助高吉様は、
21歳の若さで亡くなりました。
高吉様のお母上は、釈迦堂殿と申しまして、
足利家の大殿様、佐渡の神佐田氏様の御姓室でございます。
釈迦堂殿の御実家は、北条氏御一門の金沢家。
御当主母方として、金沢家との深い結びつきは、
足利家にとっては大層心強いものでした。
高吉様の死は、足利家にとって、
大変な動揺をもたらしたのです。
それから2年の歳月が流れました。
元王元年10月10日
佐田氏様と私の間に生まれた最初の子、
又太郎殿は、武家の官礼に従い、
時の御執権、皇上高時様を恵母子親として原服、
下巻の儀式を行うことになりました。
御名前の一字を賜り、
高吉を名乗るのはこの時からでございます。
従いの毛を除尺、自分の他優に認感。
私の名から一字を与えて、足利家村源の高吉か。
その本、今日をもって、
鎌倉節、足利高吉となったわけだ。
まずは、めでたいと申しておこう。
誠に、もったいないお言葉に存じます。
よいよい。
ところで、佐田氏入道よ。
足利の家徳はいかがいたすのか?
今しばらくは、このままに。
このまま?
次の主には、高吉を据えるのではないのか?
足利家の着難は、今は亡き、せがれの高吉。
高吉には、維持が二人ございますが、
家を継ぐには、まだ幼い。
孫たちの成長を待ち、
せがれに代わって、足利の家を、
我が手から譲るのが、入道の望みでござる。
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筋から言えば、入道が申す通りだが、
私はてっきり、この度の原服で、
足利の跡継ぎが定まったものと思っておったぞ。
なんだ、つまらんな。
恵母子親になってやった甲斐がないもん。
お、お手を煩わせて、恐れ入ってございます。
病がちで、
一旦は、足利家の主を退いたこの老体。
時と場合によっては、
仮初めの党首を立てるという必要もございましょう。
ただ、今はその時ではない。
高吉は未だ、弱敗者のゆえ。
さようか。
高吉よ、その方はいくつになるのだ?
十五になります。
あ、私と二つしか違わぬのだな。
私は六つで原服したし、
九つで徳相家を継いだ。
執権の任に就いたのは十四の年だったぞ。
十五になって、若すぎるという理屈はないだろう。
恐れながら、高吉様は法上の御本家として、
御一族、御一門の上に立つ徳相家の御尺男。
家徳をお継ぎになり、幕府の養殖にお継ぎになるのに、
どこから意義が持ち上がるでしょうか。
この高吉は違います。
高吉や孫たちとは血筋が違い、身分が違う。
今、次の主として認めたなら、
足利の家は乱れまさる。
生まれつきの日陰者に、大事な家を継がせられぬ。
と、入土は申すのだな。
気狂の多いことだ。
御家人の本分は一生懸命、
家と所領を守り抜き、子孫の代まで残すことが、
御恩と奉公の根本であると、心得てございます。
あ、あ、御家人と明け投げなものよな。
高吉よ、その法は父の言葉に従い、
足利家の後継ぎが育つまで待つと申すのか。
はい、父上のお申し付けのままに。
入土、その法は孝行息子を持ったの。
御失見。勝ち負けは見えたようです。
もうやめさせては。
よいよい、捨ておけ。まだ小競り合いではないか。
しかし、このままでは烈声のあの犬、噛み殺されます。
犬合わせはな、生きるか死ぬか、死に物狂いになってからが面白いのだ。
最後の最後まで、どのような見せ物になるかは分からぬのだからな。
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そして、さらに七年の歳月が過ぎ、
正中三年の春を迎えたのでございました。
妻をもらえ、父上の御家人を守り抜き、
子孫の代まで残すことが、心得てございます。
お前、まさかそのような御指図を王家になったのではございませんな。
恵母子親として、性質の世話をしてやろうとの御失見のお声がかりだ。
当家にとっても損はない。
法上一門との血の繋がり。
後ろ盾があってこその足利の御家。
花嫁選びは御失見にお任せした。
私に相談もせず、話はお勧めになったのですか。
お前の考えなどは初めから尋ねておらん。
受けるか受けないかという話ではない。
これは既に決まったことなのだ。
特診したか。
今日のところは話はここまでだ。
婚礼の件がまとまるまでに、身の回りをきれいに片付けておけよ。
今は万事、滞りなく婚礼を進めることが重大事なのだからな。
片付ける、とは。
私が知らんとでも思っておったか。
高氏、お前は過去家の娘のところへ通っているという話だな。
そ、それは。
こう儲けたのだろう。男がおるはずだ。
竹若丸と申します。
不憫ではあるが、母子共々寺へ入れろ。
別にもう一人、忍びで通っている女があったな。
越前のことまで、ご承知でしたか。
身分の癒やしき女だ。二度と通うな縁を切れ。
そんな、ご無態を。越前は、子を払んでおるのです。
誰の子なのか知れたものではない。
不平を申してやかましいなら、善意を与えて追い払え。
よいな。しかと申し付けたぞ。
かしこまってござる。
御権人のせがれとは誠に情けないものだな。
惚れ合った女たちや、血を分けた我が子ですら、望むようにならないのか。
それに、誰を妻に迎えようが、父上が御家を譲りたいのは御着村。
亡き高吉兄上のお子たちではないか。
今のままでは家を出ることも許されず、買い殺しもなし。
これが御権人の本分だと申すのか。
その後、高吉殿の婚礼は守備よくお話がまとまり、
赤橋家から御聖室を迎えることになりました。
赤橋家と申しましたら、
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法上司の御一門にあって、価格の高さは本家筋の徳相家に次ぐという名下。
足利家もまた、長年にわたって法上司の風下に立たされてきたとは申すものの、
御権人中有数の価格を誇っております。
足利、赤橋、両家の婚礼は、それは盛大に取り行われました。
兄上、おめでたい婚礼の席なのですよ。
そのようなむすっと恐ろしげな顔はおやめください。
花嫁が怯えてしまいます。
面白くないのだ、私は。
なぜなのです。御権人の御聖室として、
もうこの上は望めないというほどの名下の姫気味をお迎えするのではございませんか。
釈迦堂殿の御実家と比較しても、尊色はない。
どんな不足があると申すのですか。
不足も何も、私は花嫁の顔すら目にしたことはない。
大層、美しいお方です。
御権人中有数の価格を誇っております。
花嫁の顔すら目にしたことはない。
大層、美しいお方です。
兄上には勿体ない。
忠義よ、実際にお前はその目で見てきたのか。
町の評判です。
ああ、赤橋家の御当事がお見えになった。
ごめん、武蔵の神森時である。
こうして高橋殿と向かい合い、間近で話をする機会は初めてでしたな。
本日をもって、足利と赤橋は縁続きの家になった。
以後、御抗議を何卒願いたい。
御執権の御声がかりとはいえ、まさか赤橋家から妻をいただくことになり、
この高橋、己の耳を疑いました。
失礼を承知でお尋ねしたいが、赤橋の方では縁組の相手が私で誠に良いとお考えなのですか。
ははは、高橋殿は実直なお方だ。
生来のへそ曲がりなのです。
明家明家と誇ったところで、価格が高いばかりで、
今の世では大して力を持たないお飾りのようなもの。
足利の方こそ、赤橋の仮名に大きな期待をかけると、
当てが外れてがっかりということになる。
今のうちに断っておきますぞ。
はあ、我が父にはそのように伝えておきましょう。
ご出見のお考えならまず察しがつく。
お気を悪くされては困るが、
足利の跡月には亡き高橋殿を維持があり、
将来御着村を差し置いて、高橋殿が家を継ぐ見込みは薄い。
婚礼は家と家と血の絆で結ぶもの。
賢能な相手に力をつけさせぬうちに、
赤橋家の娘を片付ける先には、ちょうど良いとお目をつけたのだろう。
なんと、それでは体裁の良い厄介払いではござらんか。
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いや、考え違いをなさるな。
御出見の目論みが何にせよ、
この婚礼がまとまったことを私は嘘偽りなく歓迎しておるのだ。
誠でございますか。
私は兄として、
俗世の醜い企みや争い事から妹を遠ざけておきたかった。
高橋殿、等このことよろしく頼みたい。
やがて、貝添えの老女に手を引かれて、
微々しく化粧した花嫁が婚礼の場に現れました。
これは驚いた。
美しいとは聞いておりましたが、まさかここまでとは。
いや、まさに聞き死にまさる。
いかがか、兄上。
ああ、ああ。
姫、今私を見つけたのか。
姫、今私を見て、確かに笑いましたな。
そんなにおかしな顔でしたか。
いいえ、お殿様が私が頭の中で勝手に考えていたような恐ろしいお姿ではなかったと知って、
何やら拍子抜けするような思い出して、おかしくなったのでございます。
鬼の鼻むことでもお考えでしたか。
お殿様のお噂はかねがね聞き伝えに存じておりました。
ほう、私の噂とは一体どのような。
ばさら。
え?
足利の子輩は手のつけられない暴れん坊。
はねっかりで怖いもの知らず。
弓も馬も殺者で誰にも負けたことがないと。
いつの話なのだ。
その自分と申したら、私がまだ原復する前。
それどころか、高吉兄上がまだお元気だった。
子供たちはみんな噂好きなのです。
鎌倉中の出来事が噂話になって、赤橋の屋敷には聞こえてきます。
あの頃の鎌倉の子供たちはみんな足利家の又太郎様に憧れてきました。
まさか、そんなことは。
子供たちは誰だって強いお方が好き。
私も強いお方が大好きです。
なるほど。あなたは変わったお人だ。
弱いお方は嫌いです。
育児のないお方は大嫌いです。
では、これからは陶子殿から嫌われない男として振る舞えるように、せいぜい心がけるとしよう。
高内殿と陶子殿の婚礼からしばらくして、鎌倉中を騒がせる出来事がございました。
やれやれ、これだけの人数をよくもかき集めたものだ。
蟻の這い出る隙間もないというやつかね。
親疾犬が襲われるという風説が、鎌倉中に広がってますからね。
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金沢様が恐れて、お味方を集めるのは仕方がないでしょう。
執権職を任されなかった、おれきれきの払い瀬だろう。
もとはといえば先の御執権、高時様のわがままから始まった騒動のはず。
執権の任を別の者に押し付けたお方でなく、執権の任を押し付けられたお方が恨まれるというのは、少々筋が通らないではないか。
まさか、徳相家に逆らうわけには。
法上一問の御本家です。
いずれにせよ、御身内同士の内輪揉めには違いない。
他の家の喧嘩の巻き添えは御免庫をむりたい。
我らまで、こうして金沢様をお守りするために、繰り出される羽目になった。
他の家の喧嘩ではありません。
茶化堂殿の御実家です。
金沢様が、もしも本当に襲われて、
それが元で没落することにでもなったら、
足利家まで大きな傷がついてしまう。
この年の3月13日、徳相家の御当主、
法上貴時様は、執権の任を突然投げ出し、
その日のうちに御出家を遂げたのです。
直ちに御一問を始め、徳相家の御家来衆、
御外責、有力な御家人などを巻き込み、
御公認はどなたを立てるのがよろしいか、
執権職争いが始まりました。
そんな中で、高時様は御家来衆とはかり、
執権職への就任を金沢貞明様に命じられたのでございます。
この御妻家を遂げた後、
金沢貞明様に命じられたのでございます。
この御妻家をよしとしない者は数多く、
時を置かず、公義の意思を表して、
大勢が御出家なさいました。
森林の御執権が襲われるという風説が、
鎌倉中に広まったのは、その直後からでした。
兄貴、大変です。大変なことになりました。
どうした、忠義。どこぞから兵が押し寄せてきたか。
金沢様が御執権から降りてしまいました。
地表は既に鎮り裂いたという話です。
何だって?
つまらん。まことにつまらん。
騒ぐだけ騒いで、さっさと兵を引き寄って。
どいつもこいつも意気地がないわ。
執権の座が欲しくはないのか。
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これが犬なら、ためらわずに噛みつき、
力づくで奪い取ろうとするもの。
酒だ。もっと酒を運んでまいれ。
3月26日、金沢貞明様は襲撃を恐れるあまり、
在職10日にして執権職を御辞任。
そのまま御出家を遂げました。
幕府の執権職は、こうして席が空いたのでしたが、
先のような騒ぎがあった後ですから、
引き受けるというものが一向に出てまいりません。
執権職不在のまま一月近くがたち、
4月24日に至って、
14代高時様、15代貞明様に代わる新しい御執権が、
ようやく就任の運びとなったのでございます。
まさか、このような次第になるとは思わなかったな。
16代執権職の御就任、森時様におかれましては、
誠にめでたきこととお祝い申し上げまする。
めでたくはないだろう、高内殿。
無益な争いに巻き込まれることをあやぶみ、
どなたにも苦味せずに様子をうこがっておったが、
おかげで貧乏くじをひかされた思いがするわ。
いつまでも明けてはおけぬからと、
執権職をこうしてお引き受けをしたが、
どれだけのことが私にできるのか。
何を心細いことを。
心細くもなるというもの。
今や幕府は形ばかりで、実験はほとんどない。
かの現行の戦役以来、
徳相家の御当主に権力が集中するようになったからだ。
さきのいざこざで、御一門、御外籍、御家人の多くが
高時様の周りを離れていった。
これからは一層あのお方の戦後に歯止めがかからなくなるぞ。
それにしても、高時様は執権職をどうしておやめに。
執権職に誰がつくかで、
徳相家の相続をどうするかはだいだい定まってくるだろう。
高時様の御子には若御前様があるが、
御性質との間に生まれた御子ではないのだ。
後継ぎに立てるとなると、
これをよく思わない者たちはこぞって悲観の声をあげる。
今にして思えばあのお方は、
御辞任によって執権職争いの騒動を引き起こし、
煙たい者たちをまとめて周りから追い払ったのだな。
さような企みのために皆が振り回されたのですか。
私どて、若御前様が厳復するまでの中継ぎ、
綱木というだけの執権のお役だ。
さきの金沢様の一事でも明らかな通り、
どこで足元を救われるか知れた者ではない。
森時様のお力ではどうにもならないとおっしゃるのか。
これからは高口殿、
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あなたは当代の執権の縁続きという立場になるが、
果たして足利家家にとってはよかったかどうか。
だが、たとえどんなことがあっても、妹をくれぐれも頼むぞ。
受けたまわってござる。
この四年後、高口殿と桃子殿の間に、
それは珠のように愛らしい赤子が生まれたのでした。
おお、これは元気の良い赤子ではないか。
母上によく似て、
負けん気が強そうだな。
いいえ、お殿様に似たのでございます。
男の子ですよ。
そうか、男の子か。
桃子、よく産んでくれた。
立派な名前を考えて差し上げましょう。
このお子のために。
それはもう決めてある。
男が生まれたら、
千住王と名付けようと考えておった。
どうだ。
千住王、とても良いお名前でございます。
それでは私は、
必ずやこのお子をお名前に見劣りすることのない、
お殿様の後継として恥ずかしくのない武者に育ててみせます。
後継か。
そうだな。
私にも後を継がせる男の子ができたのだな。
後継はこうして生まれてきたが、
私には後を継がせるような家のほうがない。
それを考えると情けなくなってな。
何をおっしゃるのですか。
お家がないなら、
でしたら、お殿様が手塚らを作りしたらよろしいではありませんか。
私の手で、
私の手で、
私の手で、
私の手で、
私の手で、
私の手で、
家を作る。
そうです。
このお子に継いていただくために、
新しいこれまでにないような、
お立派なお家を作ってください。
お殿様と、
私と、
それからこのお子の将来のために。
私の家、
わが子に継がせるための新しいお家、
か。
それは玄徳三年の夏、
3年の夏 千住王殿のご誕生から1年が経つ頃の出来事でございました
天下の安寧を打ち破る途方もない異変の一方が鎌倉に伝えられたのです
まさか 桃源の御門のゴム本だと
作 高井忍
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演出 岡田康史
出演 足利隆氏平塚蓮
赤橋桃子 井上あすか
足利忠義 三尾
赤橋森時 忠勇気
足利貞氏 田岳豊氏
菊川秀樹 西木浩二殿
菓子谷翔子 北条貴時
小磯勝也 スタジオ協力
スタッフアネックス 選曲 高華
金 優太 音楽協力 h mix ギャラリー
甘茶 プロデューサー
富山正明 製作
株式会社ピトパ