00:05
人の一生とは わからないものでございます。
山深い豊川から突入できて15年 この穏やかな海辺の地で生涯を得るものだとばかり思っておりました。
それはもちろん、旦那様も同じことでございましたろう。 その証拠に旦那様は
俺は昼間の星のようなものだと、 よく笑っていらっしゃいました。
旦那様、大石倉之助は、 国がろうというあこう藩を取りしきるお役目でありながら、
周囲に埋もれて目立たない自分を冗談めかして昼間の星に例えていたのでございます。
そう、あの日が来るまでは
時は元禄14年、1701年、弥生3月14日。 江戸城、松野廊下では京都からの来賓をもてなすために多くの大名が行きかっていた。
そんな中、後代将軍綱吉の肝入りで催された幕府と朝廷を結ぶ儀式。 その重要な接待役を任された
あこう藩五万石藩主、朝野匠の神長乃が、 決闘を変えてやってくる。
平光助之助よちいった。 この間の異婚、覚えたるか?
朝野殿、絶頂でござる。 もうひとたち。
誰か、石を。 止めるな、武士の情けだ。せめてもうひとたち。
仁、仁長でござる。 医者じゃ、医者を呼べ。 仁長でござる。朝野匠の神、仁長でござる。
江戸城内で朝野匠の神が突然、幕府高官平光助之助へ斬りかかった。 脇差しを抜いた匠の神は、平の額めがけて一気に振り下ろす。
脇差しの切っ先が、平の絵星に当たる。 平の眉間に血が滲む。
戒律を浴びた匠の神はだが、絵星が盾となり、 僅かに急所を外したことに気がついた。
慌てて背中からもうひとたち浴びせたが、 匠の神自身が抑えつけられた。
えっさ! ほいっさ! えっさ! ほいっさ! 早く、もっと早く!
えっさ! ほいっさ! えっさ! ほいっさ! えっさ! ほいっさ! えっさ! ほいっさ!
御家老様、大石倉之助様は御在宅か。 ただいま、呼んで参ります。
門の前で籠から間延び出て、肩で息をしていたのは、 江戸のあこう屋敷で殿様のお側に仕えていた、
03:01
故障の茅野三平でした。 髪の乱れ、着物の乱れに、ただならぬ気配が漂います。
三平は返事を一刻も早く国元へ伝えるために、 江戸からたった四日で、あこうへたどり着いたのです。
本来、一月はかかる道のりでした。 三平、久方ぶりだのう。
御家老様…
いかがした? 殿は御検証か?
懐かしい国元で、おっとりした倉之助の顔を見て、 緊張の糸が切れたのでしょうか。
三平はあられもなく泣き出しました。
泣いていてはわからぬ。落ち着くのだ。 息を深く吸って、
吐いて、 吸って、吐いて…
殿が、 江戸城松の廊下で、
臨場に及びました。 今度は倉之助が深呼吸をする番でした。
その頃、江戸城内では刀の濃い口を三寸抜いただけで、 その身は切腹、御家は断絶というのが決まりだったのです。
喧嘩の相手は? 皇家御旗元、
喜良光助之助様。 この度のお役目で御指導を賜った御方ではないか。
はい。 盟上の御方と喧嘩したというのだな。
で、仕留めたのか? わかりません。 殿は御無事か?
わかりません。 殿も、盟上に立ち向かったとは立派なお心意気だ。
しかし喧嘩は両成敗であるもの。 もし殿が相手を仕留めたのであれば、
殿の御身も、 もしや…
申し訳ございません。 何もわかりません。
取り急ぎ、殿の弟気味、大学様より命を受け、 国元に第一報をお知らせすべく、 江戸より馳せ三日次第。
ご苦労であった。 まず水でも飲んで。 ただ…
ただ? 聞いたところによると、
殿は刀を抜き放ち、 こう叫んだそうでございます。
うん。 この間の恨みを晴らすぞ!
恨みを晴らす? はい。
殿の叫び声は、松の廊下に轟いたそうでございます。 しかしながら、殿とキラ殿の間にどのような意困があったのか、
その理由は、 誰もわからないのでございます。
恨みを晴らす。
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倉之助はもう一度、同じ言葉を繰り返しました。 そして、それこそが、
倉之助の仕事になっていくのです。
あこうじけん 倉之助の流儀
第1話 匠の神切腹
筋道を通す。 倉之助はその日のうちに、あこう藩士全員を召し出した。
そのうち江戸より第2第3の使者がつき、 朝の匠の神の即日切腹を知らせた。
匠の神の死により、朝の家五万国の取り潰しは決定的となった。 にわかには信じがたい知らせに、城内は、
揺れる。 何にせよ、
松の廊下での喧嘩とは、いかにもまずい。 わが殿、足様にもすか。 頭を冷やされよ。
わが殿は、 朝廷の使者がいる城で刀を抜いたのだ。
対面をお問じる上様は、さぞご立腹されたであろう。 この上、上様のご命令に背けば、
死死存存にまで類が及ぶ。 ここはおとなしく、
阿公城を明け渡すしかあるまい。 生ぬるい!すでに阿公に隣接する領地の境には、兵が詰めかけている!
こうなったら、城を枕に討ち死にしかあるまい! 牢場すべす!牢場だ!はい牢場だ!戦う!
おのおのがた、
本当に道はその二つしかないのでしょうか。 すなわち、城を明け渡すか、
あるいは牢場して、徹底抗戦するかは。 おおい四殿!
悪いことは言わぬ。城は明け渡すがよろしかろう。 会場だ!否!牢場するしか道はありませんぞ!
五殻!牢場だ!牢場! そも、
私には下せぬことがあるのです。 殿が切腹を仰せ使ったということは、
殿の敵であるキラ殿は、 わが殿が討ち取ったのですか?
それは、わからない。 まだ江戸表よりの知らせがない。
キラ殿の生死がわからぬうちに、 藩の方針を決めてもよいものだろうか。
五殻!悠長に構えている時ではない! すでに他藩の兵が、寮内に攻め込んで来ようとしているのですぞ!
よいか、大石殿。 お家が断絶したら、我ら阿光家鎮団は、
家族を含めれば2,000人余りが流浪の民となる。 一刻も早く手を打たねばならば。
牢場だ! 城を明け渡すのが筋でござろう。
阿光城は、さながら嵐に揺れる小舟のような騒ぎとなっていました。 けれども、この時倉之助の胸中にあったのは、
おじゆめ。 倉之助の心にあったのは、倉之助の大王子、
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田野物助でした。 実は我が殿が朝廷からの使者をもてなす
強王役を拝命したのは、こたびが初めてではありません。 一度目は、今から20年近くも前のことでした。
まだ前髪が取れたばかりの幼い殿を補佐したのが、倉之助の大王子、田野物助でした。 倉之助にとって田野物助は、
過労として、そして、 男として、
手本となる人物だったのです。 倉之助は、息子が生まれた頃を思い出していました。
よく聞けよ、松野女王。 常の勝敗は今なり、だぞ。
生まれたばかりの赤子に、そのような難しいことを。 この子はやがて、1500国の過労職を継ぐ大石家の男子だ。
心得を教えるのに、早すぎるということはない。 作用でございますか。
俺の子供の頃、偉い併学の先生が、あこうに来てくださり、 殿様以下、班を挙げて先生にご指導をいただいた。
大王子の田野物助など、先生に浸水して、毎日野菜をお届けしていたぐらいだ。 田野物助様が?
それでは、偉い併学の先生というのは、 山賀祖皇先生のことでしょうか。
そうだ。常の勝敗は今なりは、山賀先生のお言葉だ。 もっとも俺は、この山賀先生のお言葉を、王子から聞かされたのだがな。
山賀先生もお偉い方だったでしょうが、 田野物助様も、ご立派な方でしたね。
そうよな。 朝のけ三代の殿様にお仕えなされたのだからな。
中でも、今の殿様が若干十七歳で、 強王役を拝命した時に、陰ながらお支え申した時のことは、 今も語り草だ。
殿様より、時々に賜ったお言葉が、 田野物助、そなたがいたからこそ、朝廷の使者をお招きするという、 大役を務めることができた。
何だ。 旦那様から繰り返し聞かされているうちに、すっかり覚えてしまいました。
左様か。 左様でございます。
私が大石家に嫁いだのは、五代将軍 徳川綱吉公が、生類哀れみの霊を出された年でした。
その翌年、元禄元年に生まれたのが、 松野城でございます。
早いもので、元禄も今年で十四年。 松野城も、そろそろ元服を迎える年頃となりました。
かつて倉之助の口癖であった、常の勝敗は今なりは、 すっかり松野城に受け継がれています。
12:04
城は明け渡す。
牢状だ!牢状だ!
なんと!
はい、城だ!
城は明け渡した方が良いに言う。
いや落ち着いた方がいい。
殺さないか。
牢状だ。
城は明け渡す。
常の勝敗は、今なり、
大石殿、何かおっしゃいましたか。
思い出しました。 今この時、何をするかが、全ての勝ち負けを決める、ということ。
何?
おのおの方、ここは筋道を正していこうではないか
事実と噂話を切り分けるためにも、まずはキラ殿の生死を明らかにするのだ
我が殿と同じように切腹めされたのか、あるいは殿に斬り倒されたのか
そこを正しく押し量る必要がある
今さらキラ殿の生死がわかったところで、おいえ断絶は変わるまい
いや変わるぞ、我が殿は弟の大学様を後取りとして養子に迎えていらっしゃるではないか
だからこそ、大学様を立てておいえを再行するのが筋であろう
生ぬるいぞ栗太郎
事態は差し迫っているのだ
今さら筋道などという切れ言を言っても
人情事件を起こした当日に、我が園い切腹を仰せつけた上様に筋など通して何になる
おいえを通すのは決して奇情の論ではない
至って現実的なものだ
また、上様のためでもない
ただ、我らのためである
我らのため?
そうだ、我らの願いを叶えるためだ
おいえ再行を叶えるために、下神一堂あこう城の大手門に居並み
揃って切腹をするのだ
我らの首をもって決死の覚悟をお伝えしようではないか
いつもは穏やかな倉之助の想像を絶する激しい口調に
藩士たちは静まり返った
おいえ再行のために切腹する
それしか我らの筋道を見せる手立てはない
共に覚悟のある者は、この血パン城に署名なされ
この時の倉之助には悔やみきれない思いがあったように思います
我が殿が初めて教皇役を任された時
倉之助の大王子が補佐をしたにもかかわらず
なぜ自分はお手伝いしなかったのか
倉之助は寝ても覚めてもその思いに囚われておりました
自分が江戸まで出向いて殿様をお支えすれば
このような事件は起こらなかった
その強烈な懺悔が倉之助を突き動かしていたのです
15:02
ただいま江戸よりまかり越しました
恐れながら申し上げます
待ちかねたぞ
我が殿、浅野巧の神と切り結んだ
喜良光月之助は、眉間に傷を負ったのみで
命の滅亡はなく生きております
そればかりか
そればかりか
そればかりか
喜良光には何らお咎めなし殿よし
我が殿だけが一方的に即日
切腹を仰せつかったのでございます
献下両成敗という原則に則れば
両者同じ刑罰を与えるのが筋である
にもかかわらず浅野巧の神は即日切腹
お家断絶を言い渡されたのに対して
喜良の命に別情はなく
お家にも何ら影響がなかった
この裁きの不当さを指摘された幕府は
松野廊下において
喜良は一切手向かいをしなかったため
この事件を献下とは捉えない
と応じた
巧の神の声に一切耳を貸さず
すべての責任を巧の神一人にかぶせたのである
我が殿は忍状の際恨みを晴らすぞ
とおっしゃったそうだが
献下の理由は明らかになったのか
いえ
喜良殿は
黙して語らず
喜良が語らずなら
もはやその理由は未来永劫を分かりますまい
困った
なぜ
忍状沙汰になった因果が分からなければ
我が殿と喜良殿
本来はどちらが正義なのか分からん
喜良
やはり我が殿疑っておられるのか
そうではない
理由が分からなければ
お家最高にせよ何にせよ
戦いようがないと申しているまでだ
恨みを晴らすぞ
殿はそうおっしゃったのであろう
いかにも
であれば
大切なのは喧嘩の理由ではなく
殿の思いかと存じる
倉之助にとって
朝の匠の神長典様は
八歳年下の殿様でした
倉之助と同じように
幼くしてお父上を亡くされましたが
山賀祖公先生に支持し
大名美化師としても活躍し
正義感あふれる
凛々しい殿様に成長されました
私は倉之助が
18:02
まるで弟を見るかのような眼差しで
殿様を見つめていた日のことを覚えています
倉之助は
この若き藩主を救えなかったという
強い思いから
殿の無念を晴らすという
大仕事へ挑んでいくことになるのです
作 斉藤智子
演出 岡田康史
出演 大石倉之介 田辺雅貴
大石 陸 貸谷翔子
武田出雲 菊川秀樹
茅野三平 秋谷桃也
浅野長典 武士 平塚蓮
梶川よそべ 狭間中二郎 三尾
大野黒兵衛 浜崎忍
籠垣 代藤秀文
選曲効果 松坂
音楽協力 HMIXギャラリー
アマチャ
スタジオ協力 スタッフアネックス
プロデューサー 富山正明
制作 株式会社ピトパ