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この間の異婚、覚えたるか?
藩主、浅野匠の神の認定事件によって、
生家断絶を余儀なくされた赤穂藩主一堂は、
筆頭賀老、大石倉之助の意見に従い、
4月19日に赤穂城を開け渡した。
城を開け渡す寸前まで、
斬らを討つべしと勇む旧神派が、倉之助に詰め寄った。
が、倉之助はあくまでも、
生家断絶という筋道を主張した。
その上で、倉之助と生死を共にすると誓った藩主、
おおよそ百名が、結般城に名を連ねた。
匠の神説服から一月余り、
赤穂五万国の侍は、あっという間に、
寝なし草の老人になり果てた。
生まれ故郷に営み、
三三五五に堕ちてゆく。
赤穂事件 倉之助の流儀
第2話 山品勧挙
味方に敵あり
母上、この書物はどこにしまったらよろしいですか?
これは、旦那様の水筒帳ですね。
倉之助様ったら、このような大事なものを旦那様に聞いておけれ。
その父上の姿が見つかりません。
一体倉之助様はどこへ行かれたのか。
昨夜、大鷹玄吾様とお話があると出かけたっきり。
まだお戻りではないのですか。
聞きたいのは私の方です。
昨日の昼間は、日柄庭へ出て、牡丹の花を嘆声していらした。
ええ、私も驚きました。
訪ねてもいないのに、牡丹の花の手入れについて、
丁寧に説明してくださいました。
牡丹の花をめでるなど、まるで楽園居の沖縄です。
本人な。
父上は、ここ山支那に越してからというもの、別人になってしまわれたようです。
確かに、これまでも穏やかなお人柄ではありましたが、
あのようにふぬけてはいらっしゃらなかった。
これ、松之助?
山支那があまりに人里離れた田舎だから、
父上は大盲をお忘れになってしまわれたのでしょうか。
大盲?
そうです。殿の御旨を晴らすという大盲です。
常の勝敗は今なり、という教えに照らし合わせれば、
毎日の積み重ねこそが勝利につながるのではないのですか。
松之助。
はい。
お前ももう前髪を落として減腹する年頃ですね。
03:03
はい。これまで早く父上のような立派な大人になれるように、
毎日を生きてきました。
自分で言うのもはばかられますが、
私はもう十分大人だと思います。
昔から父上が大好きな子でした。腹を痛めた我が子。
松之助は気がつけば私の背を越えていました。
同じ頃、旦那様が京の不死身の朱木町で遊んでいるなど、
知る余地もありませんでした。
巷では倉之助は狂和で遊びほうけて、
殿様の仇討ちなど忘れてしまったと噂になっていたようです。
その頃から、朝野の殿様と家来たちの受難は、
あこう事件として町衆の目耳を集めていました。
倉之助をはじめとしたあこう老子たちは、
いつキラを打つのかと、常に後期の目を向けられていたのです。
今帰った。
もう、お帰りなさいませ。
足を洗いたい。
ただいま、桶を持って参ります。
ふらりと出かけた旦那様が山品の詫び妻に戻ったのは、
それから二日過ぎた朝のことでした。
父上、どこへお出かけになっていたのですか。
松之助か。
お宮紙をお出しください。
ああ。
お疲れ様でございました。
大鷹言語と話が弾んでな。
少し遅くなった。
作用でございますか。
とんだ茶番だ。
これ、松之助。
父上、どこへ行っていらしたのですか。
だから、大鷹言語と。
その大鷹様は、父上がご不在の間に、
こちらへおいでになりました。
倉之助様をご在宅か、とのお尋ねでした。
不在だと申し上げると。
それでは、狂わあそびの噂は本当なのですね。
と、肩を落とされていました。
なるほど、そうだったか。
笑い事ではありません。
母上もお気づきでしょう。
この酒臭さは何なのですか。
松之助、もうそのくらいで。
一体どうなされたのですか、父上は。
そうさなあ。
今日の都は、いかにも誘惑が多い。
俺も一階の男児だったということだ。
父上は、あこう五万国の筆頭家老であらせられた。
あこう藩士、そしてその家族も含めれば、
二千人の暮らしを守る立派なお仕事をされていた。
06:01
それが、今や死がない浪人暮らしよ。
父上、だからこそ、殿の仇を討って。
母上、おけがありませんか。
おけが顔に当たったのではないですか。
大丈夫です。
父上、何をなされる。
なぜおけを蹴った。
湯がぬるい。
これでは足が冷えてしまうわ。
松之助、いい加減になさい。
母上。
もう寝る。
はい。
父上。
常の勝敗は今なり。
父上、常の勝敗は今なりという教えはどこへ行ったのです。
今の父上の日常はあまりにも無様です。
松之助、大きくなったの。
からかうのをやめてください。
私はもう大人です。
このような父には失望したであろう。
はい。
もはや利縁しかあるまい。
旦那様。
とりあえず、寝る。
松之助、言いたいことをすべて吐き出して気が済みましたか。
私は。
わかっていますよ。
母をかばってくださったのですね。
ありがとう。
父上は本気であのようなことを大勢になったのでしょうか。
利縁ですか。
あなたの父、大石倉之助殿はすでに覚悟をお決めになっているのでしょう。
覚悟。
私には倉之助の堕落が本心からとは思えませんでした。
利縁はいざという時に私や子供たちに類が及ばないための偽装ではないでしょうか。
町の衆が赤尾郎氏に注目している今、大仕事を成し遂げるために、敵ばかりでなく身内さえも欺くおつもりだったのでしょう。
それこそ、これは身内利益の見方かもしれません。
でも、私には覚悟を秘めているからこその本当に思えました。
少なくとも、これまでの倉之助は山賀祖皇先生の教えを一日たりとも忘れるような人物ではありませんでした。
母上、お願いがあります。
はい。
私を厳復させてください。一刻も早く大人になって父上を超えてみせます。
この年の暮れ、松之助はついに前髪を落としました。
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名も力と改め、以後、明日ともに大人になったのです。
元禄十四年、十月。倉之助は数名の同志とともに江戸へ向かう。
赤穂城会場後、江戸で暮らす赤穂老子の中に旧神派がいた。
一刻も早くキラを打ち取るべし、と怪奇縁を挙げる老子たちは、
匠の神の弟を立てて、お家最高を探願するという倉之助の、まどろっこしい筋の立て方に腹を立てている。
倉之助はこの旧神派を説得し、匠の神未亡人、陽全院に挨拶をするため江戸へ下った。
なるほど、神方には神方の、江戸には江戸のにぎわいがある。相当なものだな。
五辛。
これはこれは高田殿、迎えに来てくださったのか。
高田軍兵、赤穂藩江戸屋敷において殿の返事を知り、江戸旧神派の最後欲として、たびたび倉之助に文を送り続けている。
五辛、私の文はお手元に届いておりますか。
もう五辛ではない、気軽に倉之助とでもお呼びくだされ。
文の内容についてはまだお返事をいただいてない。
もちろん配読しております。
ご老人が本庄へ移ったという知らせ、朗報ですな。
平光助之助はこの夏、屋敷の移転を命じられていた。
江戸城外堀の五福町から本庄へ、江戸城から離れた本庄なら打ち入れがしやすくなる。
高田軍兵はこれを機に、一気に本庄の斬裸邸を襲撃すべし、という文を倉之助に送っていたのである。
して、結婚の日はいつ。
ああ、待たれよ高田殿。
立ち話もなんだから、ひとまずお住まいへご案内いただければと思う。
その前にまず返答を。
なぜ刀に手をかける?
返答によっては抜かざるを得まい。
なぜ笑う倉之助。
抜いたな。
抜いたが悪いか。今の話で笑うところなどひとつもない。不謹慎だ。
やはり堕落したという噂は本当だったのだ。
このようなシチューで物騒なものを出すな。
抜け。侍らしく尋常に勝負しろ。
高田、何をしている?
堀辺殿。
あ、御過労。
いいところに御座った。ただ、俺はもう過労ではないがな。
申し訳ありません。
ああ、よいよい。この度は皆と腹を割って話をするために下校したのだ。
12:02
おかげで皆の熱き思いがよくわかった。
高田、なんてことを。刀をしまえ。
お主はどうして短両で短気で短細胞なんだ。
まあまあ。
ごめん。狭いところですが。
邪魔をする。
安倍はわびしい長屋で倉之助を精一杯もてなした。
あの者も根は悪いやつではないのです。どうぞお許しを。
わかっておりまする。堀辺殿。
率直に申し上げます。江戸の悪御老子が仇討ちを急ぐ理由を。
受け賜る。
一刻も早く斬らを討ちたい。暗殺でもいいから斬らを殺してしまいたいという老子たちの思いは、残念ながら殿への忠義からではありません。
うん。
お恥ずかしながら、生活のためです。
さようであろうの。
殿が切腹をされてから半年以上が過ぎました。この間、運よく多景士官がかなった者はごくわずか。
多くの者たちは、食うや食わずの浪人生活を強いられておりまする。
さもありなん。
城を分け渡すとき、倉之助様が藩の金を分け与えてくださり、当分はそれで生計を立てることができました。
しかし半年が過ぎ、その金もそろそろそこを尽きます。
このまま暮らしに困窮して疲弊するのであれば、ここは悪行武士らしく、敵の首を上げて死にたいというのが本心なのです。
堀辺殿、よく打ち明けてくれた。
それでは、仇討ちを。
それでも、俺は朝野家の老いへ最高にこだわりたい。
それが亡き殿の面目を保つ道だと思うからだ。面目とはすなわち、殿の恥を注ぐということだ。
はい。私も貝をすすっても、武士の意地は貫きます。
いずれにせよ、この話、預からせてほしい。
かたじけない。
数日後、倉之助は赤坂今井町で暮らす養全院のもとを訪れた。
朝野匠の神に救済でとついできたあぐりは、匠の神切腹の後、すぐさま神を下ろして、名前を養全院と改めた。
倉之助は、任状事件以来初めて養全院にお目見えすることになった。
大変ご無沙汰しております、あぐり様。
15:01
いえ、養全院様にはお変わりなく。
大いに変わりましたよ、この半年で。
それはあなたも同じことでしょ、倉之助。
はい。
養全院は、自分がとついできたときに持参した化粧料、およそ三百両を倉之助に託した。
お化粧料の義、誠にかたじけなく。
これで旧赤尾藩士たちも、どうにか命を流らえることが叶います。
何よりじゃ。
ところで倉之助は、京の山支那というところで何をして暮らしている?
牡丹など育てておりまする。
夏に大輪の花を咲かせる牡丹でございます。
それは良き楽しみを見つけたものや。
来年の夏は、牡丹の花を見られるでしょうか。
そして、その翌年の牡丹は、果たして見ることが叶いましょうや。
今は弟気味、大学様の御家最高の文を、久保様にお送りしています。
それが叶わなかったときは。
そのときは、倉之助は知っていたのか。
何をでございましょう。
亡き殿が、牡丹の花を大葬を好きだったことを。
はい、よく存じておりまする。
やはりそうか。
殿は、よく旺盛になっていました。
牡丹の花が開いた様子は、まるであぐりが笑っているようだと。
倉之助、嬉しく思います。
殿を忘れずにいてくれて。
陽前院様。
あれ以来、殿のことを思わぬ日は一日たりとてありません。
倉之助は。
よい、皆まで言うな。
今日会ったら渡そうと思っていた。
これは、一体。
頭巾じゃ。万が一のときに、倉之助を守ってくれることでしょう。
ありがたき、幸せ。
陽前院様が下されたのは、茶色の散り綿の頭巾でした。
倉之助は牡丹の花で、陽前院様は頭巾で。
それぞれの秘めたる思いを伝えました。
すなわち、いずれ仇討ちを、という決意です。
倉之助が陽前院様にお目にかかったのは、この日が生涯最後となりました。
18:05
けれども倉之助は、この日のことを決して忘れず、
翌年の討ち入りの際、その頭巾をかぶって出陣しました。
倉之助が京に戻った頃、堀部康兵衛から下級の不眠が届いた。
それは、平耕之助が陰虚願いを出したという知らせだった。
この年の夏、耕之助の屋敷が本城へ蔵返したところまでは掴んでいたが、
陰虚届けとは思いもしなかった。
家督を譲り、陰虚してしまえば江戸を離れて、雪深い上杉寮へ逃げ込むかもしれない。
そうなったらもはや、仇討ちは果たせなくなる。
万事、急がねばなるまい。
朝野巧の神が切腹した元禄十四年が、もうすぐ暮れようとしていた。
作・斉藤智子
演出・岡田康史
出演・大石倉之助、田辺雅樹
大石陸、貸谷翔子
武田出雲、菊川秀樹
大石松之助、改め力、大内裕
堀部康兵衛、本山武康
養成院、織田光
高田軍兵衛、浜崎忍
選曲・効果、翔佐子
音楽協力、HMIXギャラリー
アマチャ
スタジオ協力、スタッフアネックス
プロデューサー、富山正明
制作、株式会社、ピトパ