シネマグラフのアート表現
いちです。おはようございます。
今回のエピソードでは、動く写真「シネマグラフ」とデジタル時計についてお届けします。
このポッドキャストは、僕が毎週お送りしているニュースレター、スティームニュースの音声版です。
スティームニュースでは、科学、技術、工学、アート、数学に関する話題をお届けしています。
スティームニュースは、スティームウォーとのりくみのご協力でお送りしています。
改めまして、いちです。このエピソードは、2024年5月30日に収録しています。
このエピソードでは、スティームニュース第182号から、動く写真「シネマグラフ」とデジタル時計というテーマでお送りをします。
写真でもなく、映画でもない、シネマグラフというアート表現があるんですね。
これについて、本編の中で詳しくお話をしていきたいと思います。
そして、このシネマグラフと皆さんおなじみのデジタル時計、実は共通点があるんですね。
そのお話も、詳しくお送りしていきたいと思います。
メールでお送りしているニュースレター、スティームニュースの第182号は、冒頭で映画2001年宇宙の旅のワンシーンをお届けしています。
この映画は、1968年スタンリー・キューブリック監督による映画なのですが、
この中で、宇宙船ディスカバリー号のクルーがデジタル腕時計をはめているのです。
正確に言うと、時刻と分はアナログの針の時計なのですが、
世界時、グリニッチ標準時ですね。この時代は1968年なので、現在では協定世界時、UTCと呼ぶのですが、
当時はグリニッチ標準時、GMTですね。このGMTを表示する窓がデジタル表示だったのですね。
これが世界で最初のデジタル腕時計と言われています。
残念なことに、映画の小道具で実際には動かなかったのですが、
この小道具を開発したのは、本当の腕時計会社、ハミルトン時計会社でした。
そして、その2年後に、このハミルトン時計会社は、本物のデジタル時計を開発、発表します。
これが世界で初めてのデジタル腕時計、パルサということになるのですね。
そのさらに2年後、ごめんなさい、4年後ですね。
1970年にハミルトン社がこのパルサ、デジタル腕時計、当時はデジタルコンピューター、クロックコンピューターですかね、
コンピューターという名前をつけて発表したのですが、市販されたのが1972年、
そしてそれをキャッチアップしたのが日本のカシオですね。
1974年に、カシオトロンというデジタル時計を発表します。発売もします。
このカシオトロンでとある問題が生じて、エンジニアたちがデザインの力を使って見事に解決するというね、このもう胸熱エピソードがあるのですが、
その前に、まずはシネマグラフというアート表現についてね、お話をしておこうと思います。
写真、フォトグラフでも映画、フィルムでもない、その中間のような動く写真、シネマグラフというアート表現があります。
これね、もしね、皆さんがある程度、ある程度といっても、そうですね、20歳以上であれば見たこと、ウェブで見たことはね、あるんじゃないかなと思います。
これどんな表現かというと、写真の一部が動いているもの、そうですね、4年ぐらい前、このね、ポッドキャストをお届けしているのが2024年なんですが、
2020年ごろはまだウェブにいくつかアップされていたような気がします。
日本でのね、ピークは2017年ごろというふうに、Googleトレンドサーチで探したところ、分かってはいるんですが、
そのぐらいですね、今から4年から7年前に流行したアート表現です。
メールでお送りしているニュースレター、スティームニュースの方では、このシネマグラフの具体例をご紹介しています。
デジタル時計の起源と発展
具体的に言うと、ワインが注がれているグラスの写真なんですが、この注がれているワインが動画になっている、その部分だけが動画になっているというね、シネマグラフです。
ぜひね、これ音声でお伝えするのは僕にはちょっと難しいので、ぜひ実物で見ていただければなと思うんですが、
こういった動く写真というふうに呼ばれているもの、これがね、シネマグラフです。
英語圏ではですね、シネマグラフの初登場を2011年とする記述が、
あちこちのニュースサイトのアーカイブ、あるいはウィキペディアなんかで見受けられるのですが、
僕の記憶が確かなら少なくとも2006年に東京都写真美術館でシネマグラフの展示がありました。
ただ、Googleトレンドなんかで調べていくと、この時代ひょっとしたらシネマグラフという言葉ではなくて、別の名前で呼ばれていた可能性はあります。
ここら辺を追って、また資料を探して皆様にご報告をしたいと思います。
このシネマグラフなんですが、先ほどお話をした通り、2006年、2007年から2020年頃まではあったんじゃないかなと思っているんですが、
どうでしょう、最近全く見なくなったような気がしませんかね。
やはり面白い表現ではあるんですが、アートの手法というのは、その方法でなければダメだという強い理由がなければ消えていくものなのかもしれません。
実はシネマグラフのように静止しているものの一部をあえて動かすという表現手法は、工学の分野、エンジニアリングの分野にもあるんです。
こちらは強い存在理由とともに発明され、その存在理由が失われたと同時に消えていったり、あるいは新たな存在理由を求めるようにもなっていきました。
映画監督スタンリー・キューブリックは、1968年の映画、2001年宇宙の旅の中で、このハミルトン時計会社に依頼をして、近未来的なデザインの腕時計、デジタル腕時計を制作させたわけですね。
その後、このハミルトン時計会社は1970年にパルサというデジタル時計を発表し、1972年には一般発売をします。
この1972年のテレビCMが残っているんですね。YouTubeなんかでハミルトンパルサ1972というふうに検索してもらうと見ることができるんですが、
これですね、一時期の常時点灯機能を実装する前のApple Watchと似ているんですね。どういうことかというと、横のボタンをプッシュすると画面がつくというものですね。
Apple Watchもシリーズ6から7から常時点灯機能があって、バッテリーの持ちが非常に短いので、電池を節約するために画面をオフにする機能が初代からずっとあったんですが、
途中からバッテリーコントロールあるいは画面表示のエネルギーを小さくすることができるようになって、常時点灯するようになったんですが、もともとは横のボタンをプッシュするか画面をタッチするか、あるいは腕を傾けるかという何かイベントを起こさないと点灯しなかったんですね。
1972年のハミルトンパルサという市販された世界初のデジタル時計なんですが、こちらも電力・電池を節約するために横のボタンを押さないと点灯しなかったんです。
点灯は発光ダイオードLEDでした。赤色LEDです。赤く光ったので一周回って今見るとかっこいいんですが、当時は赤色LEDしか手に入らなかったので仕方なく赤く光らせていたわけですね。
ボタンを押すと光る。時刻がわかる。これ何の問題もないように見えますよね。もちろんボタンを押さないといけないという一手間はかかるんですが、当時時計といえば手巻きの貼り式の時計、クォーツは当然貼りましたけれども、まだまだ手巻きが使われていた時代で、何が画期的だったかというと、
まずデジタル表示、そして自分から光る。もうまるで近未来という感じがしたわけですね。その2年後、1974年に日本のカシオがついにやりました。常時点灯するデジタル時計ですね。
消費電力が大きかったLEDに変えて、当時まだ最先端の技術だった気象ディスプレイ、LCDを使ったんですね。これによって常に時刻を表示できるようになったんです。
ところがここで新しい問題が生じました。ハミルトンパルサーはボタンを押すと時刻が光る。何時何分で光る。問題ないですよね。
カシオのカシオトロンという腕時計。常時液晶で時刻を表示している。何時何分。例えば10時45分としましょうか。10時45分という点灯している。これ動いているかどうかというのは分からないですよね。
当時手巻き時計がまだ使われていた時代ですから、手巻き時計って巻き忘れると止まっちゃいます。当時の人はこう思いました。10時45分って表示されているけれども、これちゃんと巻き上がっているんだろうか、動いているんだろうか。もしこれがこのハミルトンパルサーであればボタンを押せば光るわけですから、動いていることが分かるわけです。
しかも光っているわけですからね、これなんかエネルギー供給されている感があるわけですね。動いてるなって感じがする。だけどカシオトロンが採用した液晶ディスプレイ、LCDというのは光らないんです。これは太陽光であるとか室内の明かりを受けて黒い文字が見えるわけですから、何か書いてあるように見えるわけですね。
10時45分って書いてあるんだけれども、これ動いてるんだろうかどうなんだろうかって当時の方不安に思ったわけです。じゃあ10時45分、10秒、11秒、12秒という風に秒を表示すれば解決しそうなところなのですが、ここはですね、当時液晶ディスプレイというのは非常に高価だったんですね。
6桁、何時何分何秒という風に6桁の表示をする大きさのLCDはまだまだ高価だったんです。そしてカシオといえばやはり庶民の味方ですよね。安く買える時計を作りたかったというわけでカシオは秒を表示するスペースを節約しました。
何時何分という時刻までしか表示をしないようにしてお値段を安くしました。ということはこの時計動いてるんだろうかという不安がユーザーに残ってしまうということで、カシオのデザイナーたちエンジニアたちは頭を抱えました。
カシオトロンの挑戦と解決
そこで大発明です。どうしたか。10時45分というデジタル時計、どういう風に表現されるかというのを想像してみてください。10コロン45。10と45の間にコロンが表示されていますよね。コロンというのは点々ですね。
この点々を1秒に1回点滅させれば動いているかどうかすぐわかるという風にカシオは考えたんです。これ天才ですよね。というわけでカシオトロンという腕時計は10時45分のような時と分の間のコロンを点滅させたんです。しかもこれ特許を取ったそうです。
というわけで当時カシオの腕時計だけがその1秒を見れば動いているということがわかったという画期的なデザインを採用できたわけです。現在ではこの特許は切れているようで、他社でもこのコロンを点滅させるという機能は持っているんですが、当時はカシオだけの技術だったようです。
これですね。もうすぐパクられるんですね。もちろん特許ですから丸パクリはできないんですが、アメリカの半導体メーカフェアチャイルドが時計用の半導体時計チップを作った時にコロンの代わりにピリオドにしたんですね。もうそんなんで回避できるんかいという感じなんですけれども、コロンの代わりにピリオドを採用しました。
10時45分を10コロン45って書くんじゃなくて10ピリオド45って書いたんです。ありえなくはないですよね。
これはフェアラチャイルドの半導体は腕時計用ではなくて置き時計用だったので、置き時計に関してあるいは壁時計に関してはこのコロンの代わりにピリオドが使われたものもいくつかとか結構あったようです。
現在ではこのデジタル時計、秒針がついているものがほとんどです。腕時計であっても置き時計であっても秒針がついています。針式でも秒針がついているものがほとんどだと思うんですが、デジタルについても秒針がついています。
デジタルの場合は秒針まで読む必要性があるかというよりは、この時計が動いていますよというアピールのためにこの秒針が動くという仕組みになっています。
というわけでですね、現在ではこのコロンを点滅させるという必要はなくなったのですが、当時本来は動く必要のなかったコロンを点滅させることで、これまさにシネマグラフの技法ですね。
どちらかというと、順番で言うとこのカシオトロン、カシオの時計の方が先なのですが、動く必要のないものを動かすことによって動いているようアピールをしたというのが、このデジタル時計の一つの発明だったわけです。
改めてですね、過去のウェブ検索の結果をご紹介すると、Googleトレンドなんかで検索すると、2017年頃にシネマグラフという単語の検索ピークがあります。
またその頃の記事を調べると、シネマグラフはウェブ広告に有利ですよという言葉が踊っています。
とはいえですね、現在は2024年のウェブ広告ではもちろんのこと、美術展示でもシネマグラフを見かけることが少なくなったことを考えると、
シネマグラフは下火と言っても差し支えないんじゃないかなと思います。
シネマグラフとメディアアートの問い
ここからは僕個人の感想であり、ちょっと上から目線で申し訳ないなと思う気持ちもありながらお話をさせていただくのですが、
一人のマイナーなメディアアーティストとしていつも考えていることがあるので、ご紹介したいと思います。
アート制作というのはいろんな形態があります。アートにはいろんな形があります。
まさにイタリア系フランス人、リチョット・カニュードが伝えたように、現実にはこれは20世紀初頭の話ですが、7つの形態がある。
第一芸術から第七芸術まであるという話があるのですが、実際その20世紀、21世紀にかけてもっと多くの形態が生まれています。
僕も関わっているメディアアートというのは第十一芸術と呼ばれることもあるのですが、
ということはその前に10種類の芸術表現の形態があるわけですね。もちろん文学もそうだし、写真もそうだし、映像もそうなんですね。
そういったいろんな芸術表現の手法がある中でなぜメディアアートを選ぶのかというのは、いつも自分自身に問いかけることでもあります。
このシネマグラフの制作者たちももちろんその問いを避けることはできなくて、
それは文字ではいけなかったのか、音楽ではいけなかったのか、写真ではいけなかったのかということを常に問いかけられていたと思うんですね。
僕たちはメディアアートというのはコンピューターを使ったアート作品のことを指すのですが、
それはコンピューターでしか表現できないメッセージなのか、あるいはコンピューターを使わなければ制作できなかった作品なのかということを問われるわけです。
もしそれが言葉であるいは映像で伝えられるのであれば、今の時代ですね、わざわざコンピューターを使う意味はないんですね。
もちろん1980年代にコンピューターを使いましたといえば、コンピューターを使ったということ自体がメッセージ性を持った可能性はあるのですが、
現在どこ行ってもコンピューターがあるわけで、みんなが例えばスマホを持っている、それからひょっとしたらスマートウォッチを持っている時代にコンピューターを使うのが何かメッセージを持つかというとそんなことはないので、
じゃあそのメディアートにする理由は何なのか、シネマグラフにする理由は何なのかと問われた時に、
ちゃんと答えが用意できない場合はやはり問わされていくんだろうなと、僕自身は考えるわけです。
シネマグラフというのも、それでしか伝えられないメッセージを込めた作品というものが生まれなかった、恵まれなかったことが、
衰退の原因になっていったのかもしれないなというふうに、僕個人は思っています。
ここらへんは、ぜひ皆様のご意見も頂戴できればと思います。ぜひコメントを寄せくださいませ。
というわけで、今回のエピソードも最後まで聞いてくださってありがとうございました。
より詳しくは、メールでお送りしているニュースレタースティームニュースの方でお話ししていますので、こちらもご登録いただければ幸いです。
お相手はSteamFMのいちでした。
スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ・スティーブ
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