ローテーターカフの問題
みなさんこんにちは。この番組では通常、割と最近の研究論文を、私が一人で紹介するということをしているんですけれども、時々その後に、また別の研究を、葵さんと会話をしながら紹介するということをしています。
今日はその2本立てになります。今回は両方とも、葵さんが選んだ論文で、人間が技術のために生物を模倣するっていう内容になります。では、この後その本編が始まります。ぜひお聞きください。
こんにちは、葵さん。
こんにちは、さとしさん。
突然ですが、ローテーターカフという言葉を聞いて、どこの筋肉のことかわかりますか?
あ、だいたいいつもこのコーナーって、僕が葵さんの質問にわかんないって答えるところから始まってるじゃないですか。でも、今日のは知ってますよ。肩ですよね。腕を上げたり回したりする筋肉です。
そうです。なんでローテーターカフのことを知ってるんですか?
僕、野球、メジャーリーグが好きで、そういうポッドキャストをよく聞いてたんですけど、ローテーターカフってピッチャーがよく故障する場所なんですよ。それで。
ああ、そうなんですね。
ピッチャーってよく故障するんですけど、そもそもボールを投げるっていう行為が人間にとっては自然ではないっていう説があって、それでピッチャーみたいにありえないようなスピードで投げていると、肘とか肩を故障するっていうことで、よくニュースになるんです。
私はあんまり詳しくないんですけど、大谷翔平選手も怪我されてませんでしたっけ?
そうそうそうなんですよ。大谷選手は肘ですね。
昔は肘も肩も怪我すると生死生命に関わってたんですけど、肘はトミージョン手術っていうのが開発されて復帰できる確率がだいぶ上がったんですね。
投げることのストレスで肘のUCLっていう人体が損傷するんですけど、体の別の場所から剣を取ってきて肘に移植するっていう手術なんです。
9割以上のピッチャーが怪我する前のパフォーマンスに戻ることができるっていう効果の高い手術なんです。
大谷も2018年だったかな?この手術を受けて、さらに去年にも似たような手術を受けてるんです。
でも成功率は高いので、きっと大丈夫っていうところなんですが、この手術リハビリに1年以上かかるんで、今年は投げてないっていうことなんです。
それで今年は打ったっていう話しか聞かなかったわけなんですね。
肘ってこんな風に成功率高いんですけど、肩はそうでもなくて手術後でも元のレベルに戻れないことが多いんですよ。
損傷が多いのが、1つがレイブラムっていう骨と骨の間にある軟骨なんですけど、ローテーター下腹の故障っていうのも深刻で、これで先取生命が断たれるピッチャーが未だに多いんですね。
でもところで、なんでいきなりローテーター下腹の話だったんですか?
ローテーター下腹っていうのが肩関節周辺にある小さな筋肉の集まりのことなんですけど、ここって野球選手にかかわらず日常生活の動作の中でも断裂しやすい部位なんです。
ここが大きく裂けてしまうと、縫合が難しい上にまた断裂することが多くて、その修復手術の失敗率がなかなか高いっていうことで有名なんですけれども、
今日は面白いアイディアでこの問題に取り組んだ論文を見つけたので紹介したいなと思いました。
はい、お願いします。
ローテーター下腹は断裂をすると肩の力が出なくなるし、痛みもあるのですが、アメリカでは年間200万人がこの部位の損傷に悩まされています。
でも、修復手術を受ける人はそのうちの60万人程度なんです。
その理由ですが、手術をしても再度避ける確率が高く、若者でも20%、高齢者だと94%とも言われていて、再発してしまう可能性が高いので、医師が手術を見送ることもあるみたいなんです。
じゃあ野球のピッチャーに限らず、一般的にもここを怪我する人が多くて、しかもなかなかうまくいかないものなんですね。
でも、なんで手術してもまた断裂してしまうんですか?
ニシキヘビの牙の応用
ローテーター下腹が肩甲骨の上にあって、腕の骨とつながっていて、腕を持ち上げたり回転させる筋肉なので、断裂するときは腕の骨とつながっている部分が損傷するんですね。
手術では糸を使って、骨とローテーター下腹の肩の部分を固定します。
でも、手術後に肩を動かすうちに、糸が腱を切ってしまって、また断裂が起きてしまうんです。
縫合に使った糸という狭い場所に力がかかって、腱を切ってしまうんです。
この問題を解決するために、この論文の研究グループは、ニシキヘビの牙にヒントを得ました。
ニシキヘビですか?
はい。ニシキヘビにはたくさんの牙があるのですが、牙の先が曲がっていて、抵抗する獲物に深く刺さる構造になっています。
この構造のおかげで、力を分散させることができて、柔らかい組織を損傷せずに、しっかりと掴む特性があります。
そうすると、切れて獲物に逃げられることがないわけなんです。
この論文では、この原理を利用したデバイスの開発に取り組みました。
このデバイスには、小さな曲がった牙のような突起がついていて、剣にしっかりとくっつくように設計されています。
これにより、損傷した組織にかかる力が分散され、再度避けるのを防ぐことができるのではという考えなんですね。
研究チームは、まず計算とコンピューターシミュレーションで、突起のサイズや形状を最適化し、3Dプリンティングでデバイスを制作しました。
いや、とりあえずどんどん作ってみて試すとかだと最適化が難しそうだなと思ったんですけど、まず計算したっていうわけなんですね。
はい、そうなんです。その結果、シミュレーションと実験の両方で突起の形状がすごく重要であることが示されました。
シミュレーションでは、突起の曲がり具合が高いほど、剣との接触面積が増え、そこにかかる力がより均等に分配されることが確認されました。
実験でもこの予測が一致し、曲がった突起が剣をしっかりとつかみ、修復強度を大幅に向上させることが確認されました。
さらに、このデバイスでは牙のような突起をたくさん並べているのですが、突起の配置とその間隔が非常に重要なことも示しています。
突起の間隔が広いほど力が均等に分配され、修復の強度が向上するということが示されました。
ただ、間隔を広げすぎると修復部位のサイズに制約が生じるので、一人一人に合わせた最適な間隔の設定というのが必要になるみたいです。
バイオミミクリの可能性
でも、このデバイスは3Dプリンターで作っているので、個人ごとに作るというのも可能ということでした。
なるほど。一人一人に合わせたものを作るって結構大変そうだなと思ったんですけど、それを3Dプリンターでやっているからそんなに大変ではないということですね。
はい。このデバイスですが、最適化されたものでは、ローテーターカフの修復手術において標準的な方法だけの修復に比べて強い保持力を持っていることが分かりました。
5体の型の解剖モデルで行った比較実験では、デバイスを使用した修復が最大83%の強度向上を示し、そこにかかる力の吸収も顕著に向上しました。
デバイスが骨にしっかりと取り付けられることも確認されています。
それは素晴らしいですね。今後の課題や展望についても教えてもらえますか?
はい。現行のデバイスは生態適合性のある樹脂で3Dプリントされていますが、将来的には生態吸収性の材料を使用することで長期的な治癒を促進し、関節の中に異物が残ることのリスクを減少させることができるということが書かれていました。
これまでの研究でのデータを基に、デバイスの強度は確認されていますが、実際に人間に使用する前には、さらに動物実験を行って、安全性と長期的な機能を確認する必要があります。
ところで、ちょっと聞いてて疑問だったんですけど、解剖モデルって言ってたんですけど、今回の実験は何を対象に行ったんですか?実験動物ですか?
いえ、検体と言って、人が亡くなった後に、自身の体を医学研究や教育のために提供する制度があるのですが、そこから提供された組織で行われました。
なるほど。医学研究って、そういった人の善意に支えられて前進するというところがありますもんね。これがローテータ株手術の改善につながるといいですよね。
ちなみにこれはどこの研究ですか?
この研究はコロンビア大学のアイデン・クルタリアイラによる研究で、2024年にサイエンス・アドバンシーズ氏に掲載されたものです。
先ほどの研究では、ニシキヘビの牙の形状を医療用デバイスに応用していましたが、このように自然界の生物やその機能を模倣して人間の技術やデザインに活かすことを、バイオミミクリ、もしくは生物模倣と言います。
自然界に存在するデザインを参考にして、それを私たちの技術に取り入れるわけです。
他にもバイオミミクリの例としては、鳥のくちばしの構造が新幹線の先端部分のデザインに活用されていたり、蜂の巣の構造を利用した集合住宅が設計されたりしています。
蚊の針の研究
今日は、蚊の針に関する面白い研究を見つけたので、その話をしたいと思います。
蚊の針って、チュオスかモスキートの針ってことですよね?
はい。関西大学の青柳聖次らの研究では、蚊がチュオスをするときにほとんど痛みを感じさせない理由を解明し、そのメカニズムを模倣して医療用の針を改良しています。
この研究チームは高速カメラを使って、蚊が皮膚に針を刺す様子を詳細に観察しました。
その結果、蚊の口に含まれる3本の針が強調して、皮膚を貫通する仕組みを解明したんです。
蚊の口って3本も針があるんですか?
そうなんです。真ん中に穴の開いた注射針みたいな針があって、その両脇を魚の寮で使う森みたいにギザギザがついた針、2本が覆うような形になっているんです。
しかも、この3本の針は、ただ一瞬に皮膚に突き刺さるのではなくて、針を前後に往復運動しながら皮膚に入っていくことを明らかにしました。
だから、ギザギザの針は進んで、少し戻って、進んで、高速に繰り返しながら皮膚に入っていきます。
さらに、内側の針は外側のギザギザの針と逆のタイミングで動いているんですね。
だから、外側が進んでいるときは内側は戻って、外側が戻っているときには内側が進んでいるんです。
はあ、なるほど。なんかに似てますよね。
あの、なんか手漕ぎボートのオールとボートそのものの動きみたいな感じですかね。
そうですね。確かに似てますね。
でも、このような形状だったり動きをするっていうことが、蚊に刺されても痛みを感じない理由なのかはわからないので、
研究者たちは蚊の針の形状を精密に模倣し、マイクロマシニング技術、小さいものを作る技術ですね。
を使って人工の針を作って、同じように動かしてどうなるかっていうのを試してみたんです。
その結果、3本の針が強調して動くことによって、刺すときの抵抗が3分の1から4分の1に低下させることが示されました。
その後、このグループは注射や医療処置の際の痛みを軽減できる針の開発を行っています。
すごいですね。蚊の針がこんな形で医療技術に役立つとは面白いですね。
バイオミミクリの重要性
そうですよね。さらに最近の研究では、同じようなアイディアで聖剣用の針の改良も進められています。
聖剣バイオプシーでは、ガンなどの検査のために病気の人から注射を使って組織を採取するのですが、
注射針を刺すときに抵抗で組織が変形して移動することがあるので、狙った場所から取れないことがあるんですね。
それで、ミシガン大学のリーラは同じように蚊の針にヒントを得て、ギザギザの森型の聖剣用の針を作りました。
これにより、抵抗が減って内部の変形が小さいものができたということでした。
なるほど。だから、これでより正確な検査が可能になるかもしれないということですね。
なんか、動物の構造っていうのは別に誰かが考えたわけではなくて、自然選択でたまたまできるわけですよね。
人間はいろいろ考えることができるんだけど、それでも自然界のものの方が効率が良かったりして、
だから膨大な時間による進化の力ってすごいなっていうのをこういうの見てると思いますね。
本当にそうですよね。自然界っていうのは驚くほどのデザインの方向だと思います。
バイオミミクリは自然界の成功した機能を理解し、それを現代の技術に応用することで、より良い未来を作る手助けをしてくれます。
これからもこのような革新的なアプローチに注目していきたいですね。
そうですね。
あおいさん、今日はバイオミミクリの話2つだったんですけれども、もともとバイオミミクリって知ってたんですか?
はい。中学生の時に最初にバイオミミクリっていう言葉は聞いたんですけれども、
アメリカの大学院ではバイオミミクリの学位を取れるところがあるっていうのを聞いて、
一時期そこを目指してたことがありました。
へえ、そうなんですね。じゃあバイオミミクリに前から興味あったんですね。
でもなんで特にこれなんですか?
昔から動物が大好きで、それで動物に関連してバイオミミクリをしたんですけど、
同じ時期に私は獣医師を目指してたんです。
あ、そうなんですね。でも今は別に獣医のコースに変わってるとかじゃないんですよね?
猫アレルギーだっていうことが判明したので、ちょっと諦めちゃいました。
あ、そうなんですか。それは残念でしたね。
猫可愛いんですけどね。
そっかそっか。犬は好きなんですよね?
はい。犬は大好きですね。犬はアレルギーないので存分触りますね。
そっかそっか。じゃあ今日はこの辺で終わりにしましょうか。
そうしましょう。
今日も最後までお聞きいただきありがとうございました。
ありがとうございました。