00:02
おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶應義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
winterの多様な意味
今回取り上げる話題は、winter は「冬」だけでなく「年」を表す、という話題ですね。
このwinter、季節の一つであるこの四季の一つである冬ということを表すというのは、当然知られているわけなんですが、実はマイナーな用法として
1年、year の意味を表す、こういう用法があるということなんですね。
これは意外かもしれませんが、実は非常に古くからある伝統的な用法というか、語彙なんですね。
大学の授業で、小英語を読解していく、講読していくという授業があるんですが、小英語ではこのwinter というのが、もちろん冬という意味も当時からあるんですけれども、
この年、year の意味で使われることが結構多いんですね。
これを述べると、結構いろいろ反響、反応があってですね、多くの学生からですね、「詩的な表現だ」とかでですね、「風情ありすぎ」なんていうリアクションがあったりするんですね。
これについて、今日は少し解説したいと思います。
例えばですね、一つ小英語からの例を挙げたいと思うんですね。
Anglo-Saxon Chronicle と呼ばれる年代記、一種の歴史書というか、年表みたいな文章ですね。
これが小英語の時期からあるんですが、こんな下りがあるんですね。
449年の記述なんですが、マルティアーヌスアンドワレンティーヌス、リクソドン、セルボンウインテル。
これ小英語なので、わけがわからないかもしれませんが、言ってることは簡単なんです。
マルティアーヌスアンドワレンティーヌスっていうのは、これそれぞれロマ教皇の時のロマ教皇の名前で、この二人がリクソドンというのは、
リックの部分がですね、Rule、現代英語の支配するっていうRuleという動詞と語源的にはつながって、それの過去形です。
つまりRuledで、セルボンウインテル。ここがポイントなんですが、これがSeven Wintersということなんですね。
セルボンウインテル。なんとなくわかるかと思いますね。Seven Winters。
このウインテルっていうのは、たまたま名詞としてはですね、中世名詞なんです。
中世名詞はですね、実は複数形の形がですね、単数形と同じ形、単複動形なので、現代英語で言うSeven Wintersのようなズがつかないんですね。
セルボンウインテルという形です。ですがまあこれ一応複数形なんです。
現代で言えばSeven Wintersに当たるわけですね。
でこれ、つまりマルティアナスとワレンティーヌスが7年間統治したということを言いたいわけですね。
で、ここの7年間という年、Seven Yearsっていうことなんですが、ここにWinterが使われていると。
小英語にもYearっていう言い方あるんですよ。普通に使われたりはするんですが、この箇所ではSeven Wintersのような言い方をして、
7年間、つまり7冬支配したという意味ではなくてですね、あくまで7年間、7年統治したという意味なんですね。
じゃあなんでこの冬という表現をもって年を表すのかということですね。
ある意味ではこれ、メトニミというやつで、1冬越したらある意味では1年越したっていうことになる。
ただ冬じゃなくてもいいわけで、1春越したでも1夏越したでも1秋越した、なんでもいいと言えばいいんですけれども、
やはりですね、これは寒冷な北ヨーロッパ、イギリスも含めてゲルマン人の居住していた北ヨーロッパの地ではですね、
やはり生き延びるのにクリティカルな季節っていうのがあって、それが冬、Winterだったんだと思うんですね。
これは人だけではなく家畜も一緒です。ここを乗り切れば、次の1年が迎えられると。
逆に言えば1年の始まりっていうのが春になるわけですよね。非常に重要な、越さなければいけない峠はWinterである。
ということで、これが1年の象徴、メトニミとなってですね、Winterと言ってGearの意味を表すようになったということです。
メトニミーの理解
これは英語にとどまらずですね、例えば北欧の言語、コーノルド語、北欧語の起源ですね、何かにもこの表現、WinterでGearを意味するというのがですね、やはりあります。
英語ではこういうふうにごく普通にGearの意味でWinterが使われていたわけなんですが、中英語記になるとですね、少しやはり詩的な響きを帯びると言いますかね、
普通の都市というとGearを使うようになってきたので、Winterを用いた表現というのは、多少古風な雰囲気を醸し始めましたが、表現としては残りました。
例えばですね、そして現代にも残っているわけなんですが、Many Winters Agoっていうね、これ何年も前にっていうことです。
このMany Years Agoというよりも、何か素敵な響きがありますよね。
それから、An Old Man of Eighty Wintersっていうと、80の老人、80歳の老人っていうことですが、An Old Man of Eighty YearsではなくWintersというところに、何とも詩的な響きが感じられるわけですよね。
それから、これもやはり詩的ですが、Past Two Winters Abroad。
外国で2年過ごすなんていうときに、あえてですね、Two Yearsと言わずにTwo Wintersという表現があったりします。
現代で古風ではあります。普通は使わないと言えば使わないんですが、少しレトリカルな表現では、こういうものが残っているっていうことなんですね。
これと関連してですね、WintersとEDを付けて形容したもので、
これは現在では使われないかなと思うんですが、中英語ぐらいでは年老いたという意味で、つまりOldの意味でWinterという表現が使われているんですね。
これは人生の冬という言い方ですね。あまり好ましくないかもしれませんが、こういうような発想でOldの意味で使われていたっていう例もありますし、
例えば今もですね、方言なんかには残っているんですけれども、動物、家畜ですね、牛とか馬とか羊の2歳の個体を指してTwinter、つまりTwo Winter、
Twinterっていうのがそのまま名詞として使われて、2歳馬とか2歳牛みたいな意味で使われているものもあったりします。
日本語でもですね、季節によって年を表すっていうのは一種のメトニミーですから、これ広くいろんな言語に見られてもおかしくないなと思うんですが、
近いものを挙げれば、イクセイソウなんてありますね。イク、星の霜って書きますね。霜、冬の象徴ですね。
これイクセイソウ、霜の降りる冬にひっかけた歳月の数え方っていうのがあります。
一方、日本語ではイク春秋を経るっていうふうに、春秋、春、秋を経るっていうことで1年を経るっていう、いろんな表現がありますね。
このようなメトニミーっていうのは英語にも日本語にも、そして通言語的に普通に見られるものなのだろうと思います。
ただ、とりわけ英語ではこのWinterというのがどうもフォーカスされてきたっていうところがあるんですね。
このようにWinterがギラギラとして使われる伝統っていうのは、今は非常に詩的で限られた文脈でしか使われないかもしれませんが、
実は小英語から続く、そしておそらくさらに遡って、ゲルマン英語の時代から伝わるような一つの発想だったというところが面白いですね。
さらに、老年、つまり非常に年老いたであるとか、弱いを重ねたというのがWinterであれば、そこからアンチとして若年、若いのはSummerで表されるだろうと。
SpringとかSummerっていう発想ですね。
これは一種のメタファーなんですが、これもまたあるんですね。
これは、どうも後期中英語あたりからあるんですが、若いっていうことを象徴させるSummerの使い方ですね。
現代でも、a girl of 18 summers、18歳の少女っていうことで、後期18歳の娘なんて言い方ですね。
それから、a child of 10 summers、10歳の子供、a youth of 20 summers、20歳の青年のような表現もあります。
それではまた。