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おはようございます。英語の歴史を研究しています、慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも、辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
今回取り上げる話題は、動物を意味した、deer, beast, animalという、産語にまつわる話題です。
連日お伝えしていますが、語の意味変化ということを扱っているんですね。
今回の、このdeer, beast, animal、現在の意味としては、deerというのは鹿ですよね。
beastというのは獣、獣ということですね。
このanimalというのは、普通の動物という意味のわけですが、
これはですね、いずれもかつて動物ということを意味した単語なんですね。
今、普通に動物というとanimalのわけですが、
この普通に動物を表す感覚というのが、今でこそanimalだったんですが、ある時にはbeastだったり、
さらに昔にはdeerがその役割を果たしていたんですね。
つまりそれぞれどうも意味が変わってきたということなんですね。
この辺りを今日はお話したいと思います。
まずですね、一番古い時代、古英語の時代に遡りますね。
この時代には、現代のdeer、鹿を意味するdeerなんですが、
これがですね、古英語ではdeerという形で存在していました。
そしてその時の意味がですね、鹿ではなく動物という、
一般に今で言うanimalに相当するような動物という普通の意味を表していたんですね。
このdeerに相当するものですか。
第二語彙として鹿という意味もなくはなかったんですけれども、
通常ですね、deerというと動物ということで使われたんですね。
同じゲルマン語系の言語であるドイツ語では、
英語のDはドイツ語のTに大体相当することが多いわけなんですが、
この英語のdeer、今のdeerですが、これに対応して、
ドイツ語では今でもdeerと言って、これが動物という意味なんですね、普通の。
つまりアニマル的な意味なわけです。
小英語のこのdeerとドイツ語、今のdeerというのは全く語源が同一で、
動物を意味している。
ところが英語の場合deer、小英語でこそ確かに動物ということだったんですが、
その後ですね、意味が非常に狭まって、つまり動物の中でも、
ある一種の特定の動物に過ぎない鹿という意味に意味が限定されてきたんですね。
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こういうのは意味の限定化とか、意味が狭まったというような意味変化として
よく言及されるわけなんですけれども、
なんでこのような意味の狭めが起こったかというのは、
いろいろ議論はあるんですけれども、
当時の貴族にとって、the animal、
一番最も重要な動物といえば何かというと、
貴族の趣味としての狩り、狩猟というのがあるんですね。
その時に捕まえるターゲットとなるのは鹿なわけですよ。
鹿を追うということなので、the animalという言い方をすると、
それが何を指すかというと、
自動的に事実上貴族にとってはこれが鹿になるということで、
animalといえば鹿を指すようになったというような議論がありますね。
ただ元々は本当に一般的に動物って意味だったんです。
それが後の時代にどんどん狭まって、
鹿という意味に限定されることになったという話なんですね。
なぜ狭まったかということなんですが、
貴族はthe animalといえばこれは鹿なんだ、
つまりthe deerといえば一般の動物のつもりで、
人々は受け取るかもしれないけれども、
貴族にとってはthe animalみたいな言い方、
the deerみたいな言い方をすると、
これは鹿なんだよということだということを述べたんですが、
それだけではないんですね。
もしそうなったら、
じゃあ一般の動物を表す語というのは別に設けなければいけない、
別にないと混乱するっていうことになりますが、
それが中英語の時代にはフランス語であるとかラテン語であるとか、
外の言語からの影響が非常に強かったので、
たくさん語が供給されるわけですね。
そこでフランス語で一般に動物を意味するbeastという単語が入ってきました。
こうして英語にbeastが入ってくるに及んで、
この外からのbeastが普通の動物を表す、
一般に動物を表す語になって、
そしてdeerはさっき言ったような事情で、
もともと動物一般だったんですけれども、
非常に特殊化された貴族にとってのthe動物、
つまり鹿ということで限定されることになったわけですね。
こうして中英語期にはフランス語からbeastが入ってきて、
このbeastこそが動物を意味する単語になりました。
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これは非常によく使われた単語なんですね。
1200年ぐらいに入ってきて、
広く使えるようになりました。
ところがここで話は終わらないんですね。
今度は近代英語期にかけて、
ラテン語由来のanimalという単語が一般の動物、
普通の意味での動物を意味する単語としてまた入ってきたんです。
そうすると中英語期中、
動物という普通の意味を担っていたbeastというのが
押されるわけですよね、animalによって。
どうなったかというと、
動物は動物なんですけれども、
下等な動物、つまり人は上等であると。
これに対して人以外は下等であるという分類があって、
その下等な部分を担う語としてbeastは、
ある意味価値が下がってですね。
人間も動物という言い方すれば動物なわけですよ、明らかに。
ですけれども、やっぱり人は自分たちと
他の動物と区別したいという発想が
常に人間主義的な発想であって、
その下等な、人間以外のより低い動物に対して
どうもラベルを張りたいんですね。
それが本来は一般的な、人間も含めて一般的だった動物を意味したbeast、
によって担われるようになったということなんですね。
こうしてbeastは人間以外の動物、
とりわけ下等な動物を意味する単語になり下がっていったということですね。
このきっかけは外から、ラテン語からanimaoという
また別の一般的な単語が入ってきたからということです。
つまり、どんどん押し出してるんですね。
これdeerから考えても、deerが普通の動物だった。
それがフランス語のbeastに追いやられて、
deerは鹿という意味になり下がった。
で、beastが一世を風靡した。
ところが次の時代に、今度はanimalという
ラテン語から一般的な用語が入ってきて、
beastはもともとの一般的な動物という意味を担うという、
その座を追われて、下等な動物という意味になり下がった。
そして今や結局、広い意味で動物を表す単語がanimalとなったわけですね。
このように、本来一般的な動物という意味を表す単語は、
古英語ではdeerだった。中英語ではbeastだった。
そして近代英語以降、animalとなってきたというような変歴を辿っているわけですね。
こうして今は、animalが一番普通の動物という意味で使われて、
我々も一番馴染みが深いと思うんですけれども、
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面白いのはdeerとかbeast、かつてはこのanimal的な意味を持つ、
非常に一番普通の動物という意味を持ってきたんですが、
時代の変わり目でそれぞれ押されて、非常に賄賞化された意味といいますかね、
詐欺すまされた意味で生き残ってきたんですが、
普通であればですね、新しく入ってきた子に追われるのであれば、
追い落とされて死んでいくはずなんですよ。
つまり、そもそも残っていない。
ところが意味を変えて、そして意味を賄賞化した形で生き残っているというのは、
ある意味しぶどいということもできるんですね。
これが非常に語の面白いところなんではないかと思います。
それではまた。