00:04
みもれ真夜中の読書会、おしゃべりな図書室へようこそ。
こんばんは、KODANSHAウェブマガジンみもれ編集部のバタやんこと河童です。
おしゃべりな図書室では、水曜日の夜にホッとできて明日が楽しみになる大テーマに、皆様からのお便りをもとに、おすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介します。
さて、第62夜となりました。
私ごとなんですけど、昨日6月15日に誕生日を迎えまして、自分の誕生日が来ると、ああ1年も半分来たかーっていつも思うんですね。
本当は1年の半分は7月2日か3日かならしいんですけど、今日はそんなわけで2021年の前半を振り返ってみようということで、
2021年上半期、この小説がすごかったベスト3を発表して参りたいと思います。
2021年の1月から6月まで、今年刊行された新刊小説に限定して選んでみました。
さて、まず第3位です。3位はアサイリョウさんの「聖翼」にしました。
こちらは今年の3月25日書き下ろし長編として刊行されているんですね。
書き下ろしっていうのは、ちなみにどっかの文芸誌とか新聞で連載されていたわけではなくて、
単行本や文庫としていきなり書籍の形で世に出る小説のことですね。
こちらはアサイリョウさんの作家生活10周年記念作品と書かれています。
アサイリョウさんに実は少し前にインタビューをさせていただいたんです。
世にも奇妙な気味物語という作品で、その時に僕は小説を書いているのではなくて水を指しているのかもしれないということをおっしゃってたんですね。
世の中のワーッと盛り上がっていることに水を指すっていうことだと思うんですけど、
みんなが同じ方向に向かってこれいいよね、あの人いいよねってなったり、逆にひどいひどい絶対反対とかってなった時に、
それって本当にそうなの?って水を指すようなイメージでしょうか。
その時分かるような分からないようなというふうに思いながら伺ってたんですけど、
その話を聞いた時は性欲がまだ出版されていなかったか、私がちょっとまだ読んでなかったんですが、
この本を読んで、あ、このことを言ってたのかというふうに楽天が言った小説でした。
03:03
さてどんな小説なのか、そしてこれはすごいなと思ったのはどこなのかご紹介していきます。
西梁さんの性欲という小説は正しい欲と書くんですけれども、
最近ダイバーシティとか多様性、多様性を認める社会へ向かっていこうって言っているけど、
それって本気でそうなのかなというふうに水を指している、そんな小説です。
世間で言われている多様性はおめでたいという表現が出てくるんですけど、
想像を絶するほど理解しがたい嫌悪感を抱く者には蓋をしているんじゃないかと、
認められる範囲の、受け入れられる範囲の多様性だけ認めていこうというのが本音じゃないかという指摘があったりするんですが、
そんなふうにドッキリとさせられる、自分の中の偽善を指摘されるがキュッとなる小説です。
とても端的に現れていると思うのが、大学の学祭でダイバーシティフェスをやろうっていう実行員になった女の子と、
その周りの若者たちが出てくるんですけど、あるあるな感じなんですよね。
私も大学生、今大学生だったらダイバーシティフェスとかやったり、ミスコン、大学のミスコンをやめようよみたいなこと言ってたかもしれないなぁと思ったりして、
ざわざわしますが、そのちょっと考えの浅さと言いますか、いいことやってる風だけど流行りに乗ってるだけだよねっていう感じがするといいですね。
正しい欲とは何だろうという考えさせられる小説でもあります。
この小説の中に出てくるのは、性的マイノリティとかLGBTとかセクシャリティの話だけではなくて、何に性的興奮を覚えるのか、フェチズムの話だったり、
小児性愛者も出てくるんですけど、何々フェチって変わった趣味のものから割と普遍的なものまであると思うんですが、
この欲は正しくて、この欲はありえちゃいけないとか正しくないとかって決めることできるんだろうか、受け入れられるんだろうか、みたいなことを考えられますね。
食事系のユーチューバーの話とか、おじこいっていうドラマがヒットしてて、そのおじこいプロデューサーに話を聞きに行こうみたいなくだりがあるんですけど、
おじこいってオッサンズラブのことやろって思うんですね。
ジジネタモチーフが散りばめられていて、ちょっとクスッとしちゃうところもあって、そのあたりも浅井亮さんはさすがだなぁと思いました。
06:05
心して読まねばならぬ小説という感じでした。
続いて第2位をご紹介していきます。
第2位は尾田陸さんの灰の劇場です。
灰の劇場は一度このポッドキャストでもご紹介しているので、詳しいあらすじなどはそちらをぜひ聞いていただけたらと思います。
今年1番って言っちゃってたじゃんね。あれ2位なのかって思いました。
今日紹介する3冊は同率1位って感じです。
って苦しい言い訳。
尾田陸さんの灰の劇場は尾田陸さんにはまだまだ新しい扉というか、新しい書き方があるのかとびっくりした小説でして、
なので尾田陸さんファンの方はもちろん楽しめると思うんですけど、
今まで尾田陸さんって名前は知ってたけど、読んだことないよっていう人にぜひ読んでもらいたいと思っています。
さて第1位を発表していきますね。
1位は市穂道さんのスモールワールズです。
これね、もっと早く紹介しておけばよかったと思ってるんですよ。
今年の今度の直木賞候補に選ばれたんですよね。
選ばれる前に紹介しておけばほら見たことかって、
またあのポッドキャスト聞く価値ありだよって言えたのに。
いやでもスモールワールズは本当に直木賞を取るかもしれません。
市穂道さんはBL小説界ではすでに有名な人気作家さんで、
今回は一般文芸、BL小説に対して一般文芸って言い方もどうかねと思うんですけど、
そのあたり再量産に突っ込んでもらいたいところですが、
一般文芸は市穂さんとしては初ではないけれども、
今回の作品スモールワールズで一躍注目を集めたわけですね。
この作家さん誰だって新人じゃないぞってザワザワしております。
BL界ではすでに人気があって一般文芸で賞を受賞されたといえば、
ルローの月のなぎらゆうさんがパッと思い浮かぶ方もいらっしゃるかもしれません。
本月のここのリスナーの皆さんの中には。
なぎらゆうさんにも以前インタビューさせていただいたときに、
BLより一般文芸の方が自由度が高いということをおっしゃっていて、
BLはある程度型があるのかな?
そんな風にBLの形式美の技術力というか、形式美で技がピシッと決まるような人は、
自由演技になった時の飛躍力、跳躍力もあるのかもしれませんね。
09:04
スモールワールズは短編小説集なんですけど、
あらすじを説明しにくい小説で、
いずれも簡単に言うとちょっとうまくいっていない家族の話でしょうか。
それぞれが別の作家さんが書いたのかなと思うぐらい文体も提出も違っていて、
しかし一冊にまとまると一個の短編集としてまとまりがあり、
ある仕掛けがあるので最後まで読み終わると最初に戻って、
あーってなりますから、これ以上は言わんときます。
気になった方は直木賞発表っていつでしたっけ?
ぜひそれまでに読んでいただけたらと思います。
今夜の神フレーズは最初にご紹介した浅井亮さんの性欲からお届けしたいと思います。
多様性って言いながら一つの方向に俺らを導こうとするなよ。
自分は偏った考え方の人とは違って、
いろんな立場の人をバランスよく理解してますみたいな顔してるけど、
お前はあくまでいろいろ理解してますに偏ったたった一人の人間なんだよ。
目に見えるゴミ捨てて綺麗な花飾ってわーい時代のアップデートだって喜んでる極端な一人なんだよ。
チリン。厳しいでしょ。
浅井亮さんはこういう正しさの皮をかぶった暴力性みたいなのを描くのが甘いなぁと思います。
意識高く高学歴な若い人の無邪気ゆえの刃みたいな感じでしょうか。
これを読んで少し前にノートというサイトで若いインフルエンサーの女の人が
大阪新今宮で出会ったホームレスとの交流を綴って、
それが大阪市のPR記事だったことも発覚して炎上したっていう一件がありました。
そのことをちょっと一緒に思い出したりしました。
なんで炎上したかというと、ホームレスの男性との交流をタイトルからティファニーで朝食王に引っ掛けてデートと表現したり、
大阪の新今宮って柄が悪い地域なんですけど、
自分は絶対そっち側にならないっていう前提だからのお楽しみですよね。
コンテンツとして楽しんでいるところの気持ち悪さと言いますか、
イイネがつきやすい写真、イイネがつきやすいパンケーキの写真とかと同等に扱っている無神経さというか怖さですよね。
12:03
その書いた人だけが悪いってことじゃなくて、そういうPRの設計にしたこと自体が気持ち悪いなと思うんですけど、
そういう良いことを言っている風味で、エモいという言葉でくくってズカズカと入り込んでいくような無神経さ、暴力性みたいなのを
浅井さんはちょっと軽妙なタッチながら鋭く描いたりする人だなぁと思いました。
そうか、これが水を指すっていうことだったのかと思いました。
さて、3冊の中で気になったものはあったでしょうか。
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
さて、そろそろお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりな図書室はこんな感じで皆さんからのお便りをもとにしながら、いろいろなテーマでお話ししたり本を紹介したりしています。
みもれのサイトからお便り募集しているので、ぜひご投稿ください。
また来週水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。おやすみ。