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2022-04-20 21:44

井上荒野さんの『生皮』を読まなくては。指導者からのセクハラの罪深さ【第105夜】

これはもう今年のベストブック入り間違いなしだと思っています。

今日の勝手に貸出カードは、井上荒野さんの『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』です。


小説講座の人気講師が受講生への性暴力で告発される物語です。指導者からのハラスメントはなぜ起こるのか、被害者の家族、そして加害者の家族はどう受け止めるのか……。


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みもれ真夜中の読書会、おしゃべりな図書室へようこそ。
こんばんは、ナビゲーターの高段者ウェブマガジン、みもれ編集部のバタやんこと川端です。
おしゃべりな図書室では、水曜日の夜にホッとできて明日が楽しみになるをテーマに、皆様からのお便りをもとに、おすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介します。
さて、第105夜をお届けします。
今夜は私の今激推しの小説を勝手におすすめするというパターンのコーナーです。
そして今日ご紹介するこれはもう今年のベストブック入り確定と思っています。
今日の勝手に貸し出しカードは、井上荒野さんの『生皮あるセクシャルハラスメントの光景』にしました。
この小説はですね、小説講座の人気講師が受講生の性暴力で告発されるという物語です。
指導者からその教え声のハラスメントはなぜ起こるのか。
加害者の男性はどんな思考回路でそういうことをしてしまうのか。
そして被害者の女性も、性暴力という表現になっていますが、暴力を振るわれて無理やりという部分もあるんですけれども、
二人きりになってしまう環境に行ってしまってはいるんですよね。
そこはどうして途中で逃げなかったのかとか、拒否できなかったのかとか、よくこういう事件があると言われますけれども、
どんな思いがあったのか、そして告発するまで何年もかかるんですが、その間どんなことを考えて生きているのかといったことだったり。
もう一つこの小説のポイントは、被害者の家族、旦那さんだったりとか、そして加害者の家族が、加害者の男性に妻と娘がいるんですけど、
その人たちがどんな気持ちでいるのかっていうところを井上アレノさんが緊張感を保ちながらも、やや淡々としたような冷静な筆で詳しく生々しく綴っていく小説になっています。
少し淡々としているっていう言い方をしたんですけど、
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この小説のポイントについては、
この小説のポイントは、
感情的な距離をとっているような感じがして、奥の奥にはものすごい激しい怒りみたいなことが感じられますが、
あまり感情的にならずに、わりと淡々と描写していって、
どうしてそういう空気が醸成されてしまうのかっていうのを、
こちらに考えさせるような書き方になっています。
これは言うまでもなく、最近次々と報道された有名監督による出演者のセクハラ性暴力だったりとか、
このところいくつか連続してそういうことが明らかになりましたけれども、それを連想させるわけなんですが、
このテーマが今、タイムリーにっていうとちょっと下世話な感じがしますが、
出されたところが井上さんのすごいところだなと思いましたし、
そのテーマを描ききるだけの出力があって、
このテーマを持て余さないっていうタイミングで書かれているっていうのがすごいなというふうに思いました。
井上アレノさんのこう夫婦のキビみたいなのを書いた作品だったりとか、
ちょっとユーモラスなものだったり、おいしそうな料理が出てくるような小説も大好きなんですけれども、
こういう社会派なテーマに真正面から挑むっていうのはなかなか珍しいなっていうふうに私は勝手に思いまして、
まさに心境地ともいえる渾身の一作だと思いました。
どんな小説か詳しくご紹介していきたいと思います。
井上アレノさんの新刊生川の加害者として告発される男性は月島光一という元文芸の編集担当者で、
今は小説講座の、今は出版社を辞めて小説講座の講師をしているんですけれども、
自分が担当する受講生を実際に作家デビューさせて、作家デビューした人の中には芥川賞とか賞を取ったりした人たちもいて、
月島はマスコミからも注目を集めて、そういうドキュメンタリーみたいなのに出たり、いろんなインタビューに答えたり、
人気の講師としてギラギラとやっていってるんですね。
そんな中、被害を告発することになる女性は、今は小説家をしているわけではなくて、
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動物病院の看護師として働きながら、小説を書くものを書くことが好きで、小説家に憧れて、
この月島先生の小説講座に、教室に入るわけなんですよ。
最初から結構才能を認められて、先生のお気に入り、特別扱いされてまして、もうちょっと2人で話そう、
小説をもっとブラッシュアップしようという個人レッスンというんですかね、2人きりの関係に持ち込まれて、
望まぬ肉体関係を迫られるに至るわけなんです。
告発するんですけど、彼から性的被害を受けたという人は、
佐紀穂さんだけじゃなくて、もう1人いまして、陽子さんっていう、彼女は小説家として活躍してまして、
芥川賞だったかな、とって、注目も集めているんですけれども、
彼女が結果的には月島の息の根を止めるくらいの告発をするんですが、
そこのシーンがすごい本当に、クライマックスとっても衝撃的なので、
ちょっとネタバレになってしまいますが、そこをご紹介したいなと思うんですけど、
対談をしようということになるんですね。
マスコミがセクハラ疑惑で騒がれている月島浩一と、
芥川賞を取って人気作家の陽子さんを直接対談させてしまおうというふうに、
マスコミがセッティングをするわけですよ。
それで、月島浩一はまた子ずるいから、事前に電話して寝回しをしようとするんですね。
そこがまたすごい嫌な感じなんで、ちょっと読みたいと思うんですけど、
つまり、俺たちが一時的にそういう関係だったことを、君の口から話した方がいいんじゃないかと思うんだよ。
恋愛だったのか、そうでなかったのかわからないけど、とにかく俺たちはそうしたくてそうなった。
そういうことを君の言葉でさ、大人の関係、小説的関係、そういう言葉を使ってもいいと思う。
大人の関係よりは小説的関係の方がいいかなとか言って、もうすっごいムカつく。
ヘドが出るような男だなとここで思ったんですけれども、その話もあえて自分たちから振って、
特に陽子の方から振ってくれたら、苦笑しながら、君から話題を振ってほしいんだ。
私たち何もなかったわけじゃないですよね、とか何とかちょっと笑い混じりに。
そしたら俺も苦笑しながら受けるから、っていうようなことを言ってくるわけなんですよ。
そして陽子さんは何て答えるのかなって思ったら、分かりました、やってみますって言うんですね。
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そっか、やっぱそうなっちゃうよね。先生にこんな風に言われたらって、ここの私的にはああって思ったんですけど、
この先ちょっとネタバレになっちゃうけど言っちゃうんですが、
その取材の対談の現場で、そういうことをされましたっていうのを告発するんです、いきなり。
先生がどうやってなってテープを止めろ、撮影は中止だ、みたいになるんですけど、
その後出て行っちゃって、陽子さんの独白っていう形式となって記事になり、
そして本当にマスコミも世間も含めて大騒ぎになるっていうシーンなんですけれども、
ここを読んだだけでもクズだなって思うんですが、この小説で本当に面白いと思ったのは、
本当にクズな男だったらただただその人を憎めばいいと思うんですけど、
そうじゃないところが厄介なんだなって思ったんですよね。
この築島っていう男も本当にただただ悪いやつなわけじゃなくて、
ちょっと別な若い時には他の若い編集者の女の子がセクハラに合いそうになったのを助けたりとか、
人格者っぽい一面もあるんですよ。
小説に対して教えたりしているので言っていることとかも真っ当だし、
ある種ちゃんとした人である部分もあって、
その人気作家を次々生み出しているんだからきっとメソッドもちゃんとしているんだと思うんですよね。
お気に入りの何人かの生徒たちに手を出していく過程でも、
君はちょっとこういうところがあるねとか言ったりすることが大抵あっているというか、
鋭い指摘、真っ当な指摘だったり、よく見抜いているという部分があって、
ただのクズ男じゃないところが逆に厄介だなって思ったんですよ。
本当に憎たらしい酷い男だっていうだけだったら、
まだもうちょっと気持ちの整理がつけやすいのかなと思うんですけど、
やっぱり尊敬できる部分とか圧倒的才能みたいなのもあるし、
ある種外の人から見るととっても真っ当な人で人格者に見えたりするところが、
余計に彼女たちにとっては厄介で、
告発もしにくいし、自分の中でも整理がつけられない、認めきれないところがあるのかななんていうことを考えました。
ちょっと現在の話と、7年前に最初に告発する先方が先生と出会う7年前の話と、
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それから先生がすごく元編集者として活躍していた若かった頃と、
時間が行ったり来たりしながら進んでいくので、
語る人の語り手も変わっていく感じもあって、
一概に悪と被害者っていうだけじゃない、いろんな側面があるから、
この問題って表に出にくくって、
そして辛さを消し去ることができないんだろうなっていうことを考えさせられました。
今日はこの井上アレノさんの生川から紙フレーズをご紹介して終わりたいと思います。
恋愛なんかであったはずない 小説を書くために必要なことなんかじゃなかった
小説を書くためだって他のどんなことのためだって
あんな思いをさせられることを正当化なんてできないのよ
というセリフが終盤の終盤最後の方に出てくるんですけれども、
男性側が彼の側が正当化するっていうのは分かると思うんですよ。
あれは気持ちがあったとか、君が次のステップに進むのに必要だったとか、
二人ともそういう気持ちがあっただろうみたいなことを言って正当化するっていうのは分かるんですけど、
同時に女性の側も自分のやったことを、あれは次のステップに進むために必要だった、
小説を書くために必要だったとか、尊敬の気持ちがあったからしょうがないことだったんだっていう風に正当化して上書きしていく。
そうやって傷をどうだろう、蓋をするみたいなことなのかな、そういうこともあるんだなってすごくこの小説を読んで気づかされましたね。
この小説を読みながらずっと考えてたことがあって、私もwebで文章術の連載を書いてたりとか、
オンライン講義の講師をやってたりするので、どちらかというと月島先生の月島浩一側の立場なんですよ。
文章を教えている生徒さんと直接会って飲みに行ったりとかする機会は今はないんですけど、
もし会ったとしたら、もうちょっと相談したいんですって言われて、その人が目をかけてるっていうか見込みあるなって思ってる人だったら、
2人でご飯に行ったりしたかもしれないなと思うし、断る理由もないというか、逆もしっかりで私の方から、
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君は見込みがあるからもうちょっと今後のことを話してみようとか言って誘ったら向こうは断らないと思うんですよね。
もちろん女同士だからそんな警戒もされないだろうっていうのはあるんですけど、
そういう関係性って何か勘違いを生むよなっていうところはちょっと自分にも照らし合わせて納得してしまう部分もあって、
っていうのは向こうからしたら憧れたり尊敬したりするのは、立場に対しての憧れだったり尊敬だったりもするじゃないですか。
あとは作ったり教えたりしてる内容に対しての経緯っていうのはもちろんあると思うんですけど、
むき出しの尊敬とか憧れみたいな感情を表現されたときに、それを自分自身の人間としての魅力をそう思われてるって勘違いしちゃうよなと思って、
ただその映画を撮ってるとか人気の作品を生み出してるとか、今編集者という立場でどっちかっていうと発注者側であるっていう立場に対しての憧れだったり経緯だったりっていうのを自分自身の魅力っていう風に捉えたら、
お互い気持ちがあっただろう、2人っきりになったんだからそういうことになるって思ってたらだろうって思う、勘違いしちゃう人も結構いるだろうなって、
それは分からんではないって言うとなんですけど、そんなことを自分の立場でも勘違いしないようにしようって思ったっていうか、そんなことも考えてました。
あとは女性誌だと割と女の人たち、今をときめく若い女優さんとか元アイドルの人だったりとか話題の人を関東で少しセクシーな衣装で撮影したりすることも結構あったんですね。
皆さんも想像つくと思うんですけど、ボディ特集とか愛されボディみたいなタイトルで関東は今をときめくなんとかさんが割と露出の高いお洋服だったり、少し濡れ髪だったりベッドに怠ったり若干セクシーな写真を撮ったりすることがあるんですよね。
それはもちろん女性向けのメディアで女の人が綺麗になりたいっていうボディケアを紹介するっていう名目の下そういう写真を撮るんですけど、もちろん大胆なバックショットとか言って話題になるといいなっていう下心というか雑誌が売れるためにっていう意味もあるし、男性のファンの方が買うっていうことだって本当は想定してるんだけど、
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でも現場ではもちろんそんなことはお首にも出さないというか、女性ばっかりの現場だったりすることが多いんですけどね、一緒に衣装を選んだりとかポージングだって相談しながら決めてはいるけれども、
もしちょっとこんなに短いパンツ履くの嫌だなとか肌も荒々な格好するの嫌だなって思ってたとしても嫌ですとは言えないだろうなっていうのをまたこの本を読みながらそんな撮影のことも思い出したりなんかして、
やっぱり作品を作るためっていうか綺麗に撮ってもらうし、いいものを作るっていうことにみんなで向かっている現場で自分だけやらしい感じに見えたら嫌だみたいなことを言いづらいっていうのもあると思うんですよ。
自分だけやらして振り返ってみようかとか、少し髪濡れた感じにしてみるとか、足ライターに組んでちょっと膝立てたりしてみてとか、なんか言ったりすることも昔ですけどあったなぁと思ったりして、そういうのだって今だとあっという間に雑誌の写真もネット上にばら撒かれてしまうし、文脈と関係なくそれがずっと残るっていう感じとかも怖いなって思ったので、
同意を得るって非常に難しいこと、その現場で嫌って言ってなかったから同意だろうっていうのは簡単ですけれども、丁寧に同意を得るっていうのがこの先もっともっと大切にされるべきなんだろうなぁなんてことも考えたりしました。
はい、井上アレノさんの生川、ぜひ皆さんも読んでみてください。
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今日も最後までお付き合いいただきありがとうございます。
さて、そろそろお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりな図書室は皆様からのお便りをもとに、いろいろなテーマでお話したり、本を紹介したりしております。
みもれのサイトからお便り募集していますので、ぜひご投稿ください。
また水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。おやすみー。
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