何ですか。
もし契約期間を1年未満、例えば6ヶ月や11ヶ月などで契約した場合、
法律上それは強制的に期間の定めのない契約とみなされてしまうんです。
え、期間の定めのない契約ってことは、つまり自動的にエンドレスな契約に切り替わってしまうということですか。
その通りです。
短い期間で追い出そうとするのは借り手にとってあまりにも不安定で酷であるという法律の判断ですね。
なるほど、それはすごいですね。
そしてですね、ここからがさらなるポイントです。
はい。
期間の定めのない契約になった後、大屋さん側からやっぱり出て行ってほしいと
解約を申し入れるためにはですね、とてつもなく高いハードルを超えなければならないんです。
どんなハードルですか。
正当自由と6ヶ月の予告期間、この両方が絶対に必要になります。
正当自由ですか。
はい。どうしても建物を返してほしいという誰が見ても納得できるような正当な理由ですね。
それと退去までの半年間の猶予です。
最低でも半年間は住み続けられるし、そもそも正当な理由がないと追い出せないわけですね。
ええ、そういうことになります。
これって言い換えると、一度契約して鍵を受け取ったら、サービス提供者である大屋さん側からは
そう簡単には解約できない最強のサブスクリプションみたいなものですよね。
ああ、素晴らしい例えですね。まさに借り手にとっての最強のサブスクリプションです。
そこでちょっとドラマみたいな状況を想像してしまったんですが。
はい、何でしょう。
よく、仕上げ屋や大屋さんが双束を積んでこれで出て行ってくれと住人を立ち退かせるシーンがありますよね。
ええ、ドラマでよく見かけますね。
あれって、立ちのき料さえ払えば、それがそのまま正当自由として認められるんですか。
それはですね、実務でも非常によくある誤解なんですよ。
あ、違うんですか。
結論から言うと、立ちのき料、法律用語では財産上の給付と言いますが、
これはあくまで正当自由を保管する要素の一つに過ぎないんです。
保管する要素ですか。お金さえあれば解決できるというわけではないんですね。
はい、お金を払ったからといって即座に正当自由になるわけではありません。
なるほど。
まず、大屋さんがどうしてもその建物を必要とする事情と、借り手がどうしてもそこに住み続けなければならない事情を天秤にかけます。
はい、事情を比較するわけですね。
そして、大屋さん側の事情だけでは少し説得力が足りないという時にですね、
初めて立ちのき料を払うなら正当自由として認めてもいいですよ、と不足分を補う役割を果たすんです。
徹底していますね。まさに恐るべき借り手保護の法律です。
ええ、本当に強力に守られていますよ。
でも、ここまで手厚く守られていると、逆にこんな不安も浮かんできます。
どんな不安でしょう。
もし、私が住んでいるアパートを大屋さんが見知らぬ巨大企業にポンと売却してしまったらどうなるんでしょうか。
ああ、オーモナーチェンジですね。
新しいオーナーがやってきて、今日からここうちの持ち物だから明日出てってね、と言われたら、私どうやって闘えばいいんですか。
とても現実的な疑問ですね。そこで登場するのが対抗要件という法的ルールです。
対抗要件ですか。
はい。これは新しいオーナーなどに対して、私にはここを借りる正当な権利があると主張するための盾となるものです。
なるほど、盾ですね。
ただ、原則としてですね、不動産の権利を第三者に主張するには、法務局という役所で登記という複雑な手続きをしなければならないんです。
うわあ、登記ですか。なんだか処理もたくさん必要そうですし、費用も時間もかかりそうですよね。
SNSで言うところの公式マークの青いチェックをわざわざ申請するみたいで、すごく面倒な気がします。
まさにその通りです。賃貸アパートに住むためだけにわざわざ大屋さんに頼み込んで登記をする人なんて、現実にはほとんどいません。
そうですよね。
それでは借り手が守れないということで、借地釈迦法は信じられないほどシンプルな特別なルールを用意しました。
え、どんなルールですか。
それはですね、建物の引渡しを受けていること、つまり鍵をもらってその部屋に住める状態にあること、たったそれだけで完璧な対抗要件になるんです。
おお、わざわざ青いチェックマークを申請しなくても、ほら私パスワード知ってるし、今ログインして使ってますけど、という事実だけで最強の防御の盾になるんですね。
ええ、そういうことです。
これは本当に安心感がありますね。
そうですね。そしてですね、借り手を守るルールとしてもう一つ、退去の時に絡む増削買取請求権というものがあります。
増削買取請求権ですか。
はい。例えば、あなたが大谷さんの同意をきちんと得て、慈悲で部屋に真新しいエアコンを取り付けたとしますよね。
はい、慈悲でエアコンを。
退去する時に、このエアコン大谷さんの方で直で買い取ってくださいと請求できる権利のことです。
えっと、自分で勝手に付けたものなのに、大谷さんに買い取ってもらえるんですか。退去の時にお小遣いがもらえるみたいで最高じゃないですか。
そう思いますよね。しかしここには大きな罠が存在しています。
罠ですか。
はい。これまでお話ししてきたように、釈迦釈迦法は、借り手に不利な約束は全て無効とするほど強力な借り手保護の法律ですよね。
ええ、強烈に守ってくれています。
ところが例外的に、珍しくですね、この増削買取請求権だけは特約で排除することが可能なんです。
えっと、なんでですか。あんなに過保護なくらい借り手を守ってくれる法律なのに、ここだけ貸す側の方を持つんですか。
はい。事前の説明を少しでも怠ると、更新がないという特約そのものが完全に無効になってしまうんです。
え、じゃあその契約はどうなっちゃうんですか。
定期建物賃対策としては認められなくなり、ただの普通建物賃対策に格下げされてしまいます。
わあ。
つまり、正当自由がなければ永遠に解約できない、あの最強のサブスクリプション状態に逆戻りしてしまうわけです。
うわあ、紙一枚忘れただけで、大屋さんは物件を取り戻せなくなるリスクを背負うことになるんですね。ルールの厳格さが骨身に染みます。
そうなんですよ。
定期契約では他にも大屋さんが触れあがるような厳しいルールはあるんですか。
はい。終了の通知義務というものがあります。
終了の通知義務。
契約期間が1年以上の定期建物賃対策の場合、大屋さんは期間満了の1年前から6ヶ月前までの間にもうすぐ契約が終わりますよという通知を仮手にしなければなりません。
もし大屋さんがうっかりその期間を過ぎてから、あ、来月で終わりだから出ててねって言ったらどうなるんですか。
期間満了の日が来てもすぐには追い出すことができなくなります。
追い出せないんですか。
ええ。忘れていたことに気づいて慌てて通知をしたとしても、その通知をした日からさらに6ヶ月間は仮手は堂々と住み続けることができるんです。
なるほど。
いきなり放り出されて路頭に迷うことがないよう、仮手が次の家を探すための時間を法律が強制的に確保するわけです。
とことん立場が弱くなりがちな仮手側をガードしているんですね。
ええ、徹底しています。
では、逆に仮手の側から途中で解約したいという場合はどうなるんですか。
定期契約で大屋さんも期間満了まで貸すつもりでいるんだから、仮手も勝手には解約できないんですよね。
原則としてはおっしゃる通りです。途中で解約することはできません。
やっぱりそうですよね。
しかし、ここにもまた仮手を救済するための特別な抜け道が用意されています。
抜け道があるんですか。
はい。建物の用途が居住用であり、かつ床面積が200平方メートル未満であること、そして転勤、療養、親族の介護といったやむを得ない事情がある場合に限り、特例として中途解約が可能になります。
なるほど。あくまでどうしてもそこに住み続けられない深刻な事情がある個人の生活を守るための緊急脱出ボタンなんですね。
その通りです。
200平方メートル未満という制限があるのも、豪邸に住むような余裕のある人や巨大なオフィスを借りる企業ではなく、一般の生活者を守る意図がはっきりと見えますね。
ええ。契約の確実性を求める大屋さんの期待と、予期せぬ人生のトラブルに見舞われた借り手の保護、その両方のバランスをギリギリのところで保つための非常に細やかな配慮と言えるでしょう。
いやあ、本当に、今日は本当に脳に汗をかくような濃密な深掘りでしたね。