いちです。おはようございます。このポッドキャストは、僕がメールでお送りしているニュースレター、スティームニュースの音声版です。
スティームニュースでは、科学、技術、工学、アート、数学に関する話題をお届けしています。
スティームニュースは、スティームボート乗組員のご協力でお送りしています。
改めまして、いちです。このエピソードは、2023年7月14日に収録しています。
実は、事情があって、2度目の収録になります。
今週はですね、僕、前から疑問に思っていたことを調べていたんですね。
それは何かというと、とんかつという料理が、いつから和食になったのかということなんですが、
これを調べていく過程で、人文学と自然科学の関係について、改めて見直す機会になったんです。
というわけで、今週はですね、とんかつとEイコールMC二乗という話題について、スティームニュース第138号からお届けしたいと思います。
とんかつあるいはかつれつ、オムライス、かきフライ、えびフライ、はやしライスなど、日本を代表する洋食を次々と発明したと言われている洋食店があります。
それが銀座のれんがていです。
この説は広く信じられているため、ある程度の5年齢以上の方は一度は聞かれたことがあるのではないでしょうか。
実際、三代目れんがてい店主木田光一は、彼の父である二代目がとんかつあるいはかつれつを発明した経緯を次のように説明しています。
日本人の間に肉食料理が流行したのは日露戦争後のこと。
当時私どもの店では父源二郎が豚肉のコートレット、すなわちかつれつに腕を振っておりました。
しかし肉料理が人気を呼ぶにつれ、豚肉をソテーしてオーブンで仕上げる本格的コートレットは手間がかかり、お客様が立て込む昼食時にはとても間に合いません。
そこで肉を天ぷらのようにフライにしてみました。
コートレットより淡白な味が受けたのでしょうか。これが大当たり。
新しく漬け合わせた生キャベツの千切りもよく合うというわけで、
以来フライ式ポークかつれつと生キャベツの組み合わせが日本中に広まったのでございます。
いい話に聞こえますね。ただしこれが真実ならばなのですが。
近代食文化研究会による書籍、なぜ味はフライでとんかつはカツか。
先ほど引用した木出しの説明が何一つ正しくないことを綿密な調査によって裏付けています。
文献調査というのは文献からわかることを一つ一つ積み上げて矛盾点を炙り出して、
膨大な情報の中から一つの道筋を見つけていく作業なのだと、僕はこの本を読んで改めて感じました。
とても科学的に見えますよね。そこでふと思い浮かんだのが、
じゃあ人文科学は科学なの?という疑問。
このエピソードではそんな疑問について、僕なりに考えたことをお話ししていきたいと思います。
どうぞ今回も25分間お付き合いいただければ幸いです。
よく知られている通り、僕たちの長さの単位メートルは、
星底投照、地球の赤道から北極天までの距離の1000万分の1と決められました。
実はこの定義が採用される前に試みられた幻のメートルの定義があります。
それは振り子を使って長さを決める方法でした。
天井からぶら下げた振り子の揺れが片道1秒の時、振り子の長さを1メートルとしようとしたんです。
ガリレオガリレイが発見した通り、振り子の周期は振り子の長さだけで決まります。
振り幅とか重さとかは関係ないんです。
この幻のメートルの定義は、メートル砲導入を主導したフランスの国民議会の理念に寄り添うものでした。
王様の足、すなわちフィートの長さを使わなくて良くなるからです。
また古代エジプトで使われていたダブルキュビットという長さと1メートルが近いことも、メートルが実用的な単位であることを後押ししました。
ただ残念なことに振り子の周期が地域によって一定ではないことが後にわかったため、この定義は見送られました。
精密に計測すると、パリとロンドンでは振り子の周期がわずかに異なったんです。
その結果、近い値として石堂から北極天までの距離の1000万分の1が選ばれました。
高校で物理を習ったよ、まだ覚えているよという方にはですね、ご説明申し上げても良いかと思います。
パリとロンドンでは地表面での重力加速度がわずかに異なるから振り子の周期が変わってくるということなんですね。
メートル砲が導入された1790年にはまだアルベルト・アインシュタインは生まれていません。
アルベルトは26歳の時に真空中の光の速さが不変であることを発見しています。
もしアルベルトが、そうですね、120年ほど早く生まれていたら、国民議会にこう教えてあげられたでしょう。
皆さん、偉大なるガリレオが発見した通り、長さは時間によって決めることができるのです。
1秒間に光が進む距離は一定なのですからな。
実際、現在のメートルの定義は、1秒間に光が進む距離の2億9979万2458分の1とされています。
なんだかスッキリしない数字ですね。
そこで一部の物理学者は長さの単位にメートルを使わずに光秒、ライトセカンドを使います。
光が1秒間に進む距離を1光秒とするんですね。
1ナノ光秒がおよそ30センチメートル一尺ですから、こちらも使いやすいのではないかなと僕は思います。
1905年、アルベルト・アインシュタインは特殊相対性理論を発表します。
そして特殊相対性理論の理論的規決として一つの式を導き出します。
これがEイコールMC二乗という式です。
Eはエネルギー、Mは質量、Cは高速です。
もし長さの単位にメートルではなく光秒を全面的に採用していたらどうなっていたでしょうか。
光は1秒に1光秒だけ進みますから高速は1です。
アルベルトの有名な式は次のように簡単に書けます。
EイコールM。
もし日本語で書くとこうなります。
エネルギーイコール質量。
信じられないような式ですが、どうやらこの関係は正しいようなんですね。
というのもいくつもの実験と、そして悲しいことですが、実践で確かめられているからです。
アルベルトアインシュタインは本人曰く文献調査と試作だけでこの式に達しました。
彼は実験をしませんでしたし、初期に行われた重要な実験についても関心を払いませんでした。
そのため特殊相対性理論の真の発見者ではないとさえ非難されたことがあります。
しかしアルベルトが自ら実験をしたかどうかと、EイコールMという式が成り立つかどうかは無関係です。
実際多くの実験がEイコールMという式の正しさを示しています。
それらの実験は16から17世紀のイギリスの哲学者フランシス・ベーコンの言葉を借りるならば、
自然を拷問にかけるような方法で行われています。
極限まで自然を追い込んで剥除をさせるようなやり方という意味なんですね。
これらの実験の最初期のものは、アメリカの計算機科学者バネバー・ブッシュによって主導され、
物理学者ロバート・オッペンハイマー率いるチームによって発生されました。
アルベルトが理論を打ち立て、オッペンハイマーが実証してみせたと言っても良いでしょう。
アルベルトは従来の理論の矛盾を一つずつ取り除き、可能な限り完璧な理論を組み立てました。
彼の理論は大変に強固なもので、芸術的とさえ言われています。
オッペンハイマーらの実験は、アルベルトの式が実験とよく一致していること、すなわち正確であることを示しました。
科学にはこのように強固な理論と正確な検証が必要なんです。
宇宙がどういうわけか数学という大変に不自由な言葉で書かれていることは、アルベルトにとって有利にも不利にも働いたでしょうが、方法論はだいたいトンカツの本と同じなんです。
このような人文学と自然科学を分けるもの、それは自然科学が自然を拷問にかけるという点にあります。
それでも自然科学者が拷問にかけられるのは地球の貧乏までです。
全宇宙でくまなく実験することはできません。それは施策の力で補うしかないです。
このような意味において、人文学は自然科学と似ている部分があります。
宇宙の果てでEイコールMが正しいかどうかを実験できないように、今から19世紀へ戻って当時のトンカツ作りを見ることもできません。
両方とも手に入る証拠に立脚して推測するしかないんです。
僕がもし人文学は科学かと聞かれたら、違うと答えるでしょう。
実験によって正確さを担保できないものを僕は科学と呼ばないからです。
ただし、実験は普遍的な正確さを担保するのかと聞かれたら、それにも違うと答えます。
結局、人文学も自然科学もどちらも真理へ到達しようとする試みの一種に過ぎないのかもしれません。
というわけで、スティームニュース第138号の音声版セカンドテープをお送りしました。
僕は依然として人文学を人文科学と呼ぶことは単に語呂合わせ以上の意味がないんだというふうに思っているのですが、
ただ真理を探求するという意味で自然科学が絶対的なものかというとそうでもないんじゃないか。
同じように、砂上の楼閣であるという点は同じではないかな。
同じは言い過ぎにしても、実験というものがそこまで普遍的なものというふうには言えないんじゃないかという立場を持っているので、
一部の自然科学者が唱えるように人文学は科学じゃないからねという言い方にも少し反論をしておきたいなと思った次第なんですね。
さて、このsteam.fmエピソード141で若干言い訳気味にお話をさせていただいた僕が抱えているイベントなのですが、
まずこのエピソード142の配信日、2023年7月15日は長崎大学のオープンキャンパスがあります。
もしリスナーの方でオープンキャンパスに参加するよという方がいらっしゃったらこそりお声掛けください。
そしてですね、来週は、これはもう10年以上取り組んでいる日米先端工学シンポジウムというシンポジウムの運営があります。
これは日本を代表する、そしてアメリカを代表する45歳以下の工学系研究者を一箇所に集めて、丸3日間缶詰にして新しいエンジニアリングを生み出そうという試みです。
前例工学アカデミー、そして日本工学アカデミーがバックアップしているイベントです。
こちらの報告なんかもね、このsteam.fmでお送りしていきたいなと思っています。
最後にもう一つご紹介です。
僕が主催しているTEDxデジマED2023というイベントを8月13日に開催します。
残席ほんとわずかなんですが、どうしても参加したいという方、僕宛にメッセージを送り届ければ折り返しご連絡いたします。
聞いてくださってありがとうございました。イチでした。
ご視聴ありがとうございました。