1. セミラジオ ~生き物とサブカル~
  2. 漫画「国立博物館物語」が描く..
2023-01-29 50:19

漫画「国立博物館物語」が描く人類の未来

生命科学・進化・遺伝子をテーマにした漫画「国立博物館物語」についてお話しました!

・博物館と恐竜世界の二拠点生活
・AIが作り出す仮想空間に唯一リンクできる主人公
・ケンタウロスの進化をシミュレート!
・「忍び寄る者」小暮さん
・恐竜人類とセントラル・ヒーティング
・人類の行方(ゆくえ)


国立博物館物語(amazon/Kindle版)
https://amzn.to/3DnaTp9

国立博物館物語(wiki)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E7%AB%8B%E5%8D%9A%E7%89%A9%E9%A4%A8%E7%89%A9%E8%AA%9E

「save the ocean val.1」の報告をさせていただきました。(ススムアート最新回)
https://open.spotify.com/episode/6b2jTzsOOqYMqhWvfJNQSe

生物をざっくり紹介するラジオ ~ぶつざくⅡ~
https://open.spotify.com/show/1sLPfaHiIOu4XYBHdhf8oj

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皆さん、こんにちは。 自然を愛するウェブエンジニア、セミヤマです。
今日は、生命科学、進化、遺伝子をテーマにした漫画、 国立博物館物語についてお話しさせていただきます。
ということで、今回は漫画界ですね。 このセミラジオでは、ちょくちょく漫画について取り上げてきていまして、
ドラえもんやフジコF・フジオ先生の短編、 旅するヒーロー旅マン、
直近では、ジョジョの奇妙な冒険の第4部についてお話ししてきました。 今回は、国立博物館物語という漫画について、基本ネタバレありでお話しできればと思います。
この漫画は、1996年から1999年まで、 小学館が発行している漫画雑誌のビッグコミックスペリオールで連載されていました。
ビッグコミックスペリオール、正直あまり雑誌のイメージがないんですけども、 医療漫画の医竜が載ってたのってスペリオールだったなーくらいなんですけども、
このビッグコミックスペリオールというのがどんな立ち位置の漫画雑誌かというと、 小学館は年代別漫画雑誌戦略というのを打ち出してまして、
それによると30代以上の社会人をターゲットにしたビッグコミックオリジナル、 そして学生世代をターゲットにしたビッグコミックスピリッツの中間にあたる20代の社会人を主にターゲットにした漫画雑誌なんだそうです。
そんなビッグコミックスペリオールに連載されていたのが、 今回の国立博物館物語なんですね。
作者は岡崎二郎さんという漫画家さんでして、 代表作はこちらも小学館のアフターゼロというSF短編集です。
こちらは1話完結のオムニバス形式のSF漫画で、 知的好奇心をくすぐるちょっと不思議な話が読める楽しい短編集になっています。
岡崎二郎さんの作品は生命科学やSF要素が持ち味になっていて、 そのあたりの要素が好きな方であればどの作品を読んでも楽しめるんじゃないかなと思います。
国立博物館物語もそうなんですが、主要キャラクターが毎回出てくる作品でも、 基本的には1話完結のスタイルをとっていて、 どの話から読んでも楽しめるという構成になっています。
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何か一つの大きな物語を追っていくというスタイルの漫画ではなくて、 一つ一つのお話ごとにテーマを決めて語っていくというスタイルですね。
岡崎二郎さんの絵柄なんですが、キャラクターの等身は低めで、 デフォルメが効いていて結構個性的な絵柄かなと思います。
藤子不二雄とか学習漫画とか、そういうオーセンティックな系統の絵柄ですね。 個人的にはとても親しみが持てる絵柄かなぁと思っています。
で、この国立博物館物語なんですが、 生命科学、進化、遺伝子をテーマに描いた全3巻の作品です。
巻数は多くはないんですが、密度はかなり濃い目の作品かなと思います。 この漫画の主人公は森高弥生という24歳の女の子なんですが、
作品中では上野にある新東京博物館の研究員として務めています。 この新東京博物館は現実の上野にある国立科学博物館がモデルになっていると思うんですが、
弥生は化石マニアが高知で博物館に就職したという人なんですね。 暇さえあれば化石の発掘に出かけたい、そんな化石好きの女の子なんですね。
そんな弥生にはもう一つ仕事というかミッションがありまして、 スーパーコンピューターの作り出した仮想空間の中で恐竜の調査をするというのがそのミッションになります。
どういうことかというと、この国立博物館物語の世界にはものすごい性能を持った スーパーコンピューターであるスーパーEというコンピューターがありまして、
Eはエボリューション、進化のEだと思うんですけども、生命の進化の歴史をシュミレートしてデジタル空間の中に作り出すことができる
そういうスーパーコンピューターなんですね。 そして人はそのスーパーEの作り出した仮想空間を画像として見るだけではなくて、
ワークメットというヘルメットをかぶってその世界とリンクすることで その仮想世界の中に入り込めるわけなんですね。
今現在地球に存在している最高スペックのコンピューターでも不可能なことをこのスーパーEはやってのけるわけですね。
いやーすごいスペックですよね。僕が中学生の頃に初めて買ってもらったパソコンは ハードディスクの容量が4ギガしかなかったんですけども、
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まあそれとは比較にならないスペックのコンピューターということですよね。 で、スーパーEが作り出した仮想世界はハクアキコウキのモンゴルをベースに構築されていて、
そこにはリアルな恐竜たちがのし歩いているんですね。 その世界に入り込んでいる弥生にとっては本物の恐竜がすぐ側を歩いているように感じられるわけですね。
で、重要なポイントとしては、システムの設計段階ではワークメットをかぶれば誰でもがスーパーEの作り出す仮想世界に入れるという想定だったんですが、
実際にやってみると誰もがリンクできるというわけではなかったということなんですね。
数百人試してスーパーEの仮想世界に入れたのは弥生だけだったんですね。 進化をシミュレートして観測するだけなら、仮想世界にわざわざ入らなくてもいいんじゃないかという気もするんですが、
スーパーEの作り出した仮想世界は入り組んで複雑になりすぎていて、 内部に入らなければ細かい観測ができないということになっていて、
弥生は仮想世界に入れる唯一の人間として貴重な存在なんですね。 この漫画の物語はそんな弥生の仮想空間にある恐竜世界での探検、調査をメインに進行していくことになります。
弥生には仮想空間の探検だけではなくて、博物館の研究員としての仕事もあるので、 その両軸で話が進行していくわけですね。
例えば第2話では、仮想世界の中で生まれた新種の恐竜に弥生は遭遇します。 この恐竜メスのようで自分の巣で卵を守ってるんですが、
その卵を悲しいことに全部割れちゃってるんですね。 でもその恐竜は割れた卵の上に座り込んで、その場を離れようとしないんですよ。
可哀想に思った弥生はその恐竜に襲いかかる小型の恐竜を棒で殴って撃退したり、 水を汲んできて飲ませてあげたり、面倒を見てあげるんですね。
そうこうしているうちにそのメスの恐竜がおもむろに何かを吐き出すんですけど、 実はそれはその恐竜が産んだ卵から生まれた子供の恐竜たちだったんですね。
つまりその恐竜は子供たちを外敵から守るために口の中で育ててたんですね。 原生の魚にもそうやって口の中に子供を入れて育てる
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マウスブルージンクという習性を持った魚がいて、 そこから着想を得たオリジナル恐竜なんですね。
この恐竜の生態自体はフィクションなんですが、現実にいる生き物の生態に根差した設定になっていて、 こういう生命科学についての面白いエピソードをいろいろ読むことができる漫画なんですね。
他にも国立博物館物語からいくつか僕の好きなエピソードをご紹介したいと思います。 僕が好きな話の一つにケンタウルスの進化をシミュレートしてみようという回がありまして、
これは弥生に名付いている化石大好き少年のグループがいるんですが、 彼らが何やら討論してるんですね。
その討論している内容なんですけども、 テレビでケンタウルスを見たんだけど、ケンタウルスって何から進化したんだろう?
っていうテーマで、その化石少年たちが討論してたんですよ。 僕は馬から進化するのが一番合理的だと思うな。
違うよ、人間からだよ。手があるじゃないか。 みたいな感じでですね。弥生はそんな少年たちにどんなに時間が経っても残念ながら、
この世界にケンタウルスは現れないと思うわ、と言うんですね。 その理由としては、あらゆる陸上の積水動物の基本形は4本足で、
それは最初に陸上に上がった生物が4本足だったからなの。 だから、六足生物のケンタウルスというのはこの世界に現れることはないのよね、
というふうにまとめようとするんですよ。 そうしたら、少年の一人が、じゃあ陸上に上がった最初の積水動物が6本足だったらどうなってたの?
と聞き返してくるんですよ。 そこで弥生は、え、えっとそれは…と口籠ってしまうんですね。
ちょっと予想外の球が飛んできて、対応できないとなってしまって、 結論が出ないので、じゃあスーパーEでシミュレートしてみようとなるわけです。
陸上に上がった最初の生物を6本足に設定してみて、 その先はスーパーEにシミュレートさせてどうなるか、という実験をするわけなんですね。
仮想世界での時間を早回しにすることで、6本足の恐竜が生まれて、 6本足の哺乳類が生まれて、というふうに6本足の動物たちの進化の歴史を
ものすごいスピードでシミュレートしていくわけです。 そしてついに6本足の動物たちの生態系の頂点に立つケンタウロスが誕生するんですね。
12:03
ケンタウロスは馬の俊敏さと人間の知能を持ち、石器を扱い、 草原での狩りに完璧に適応した生物として、その世界の中では描かれるんですけども
その世界の中で体の小さい原始的な6本足の猿がいるんですけど、 この猿は草原を追われて森に逃げ込んで細々と暮らしていました。
ケンタウロスはその世界で草原の絶対王者として君臨するんですね。 しかしそこからさらに時代を進めると、ケンタウロスはあっけなく絶滅してしまうんですよ。
気候変動により草原が乾燥化して、草原に適応していたケンタウロスは生き延べることができなかったんですね。
そして代わりに乾燥した草原には、なぜか四足歩行の猿人のような生き物が生息していました。
現実の世界にもいたとされる人間の祖先の猿人そっくりの生き物がいるんですよ。
6本足の生き物の世界をシミュレートしていたはずなのに、なんで?ってなるんですけども、 実はこの猿人はあの細々と暮らしていた6本足の猿の子孫で、
森に入った6本足の猿は、6本あるうちの後ろの2本足を尻尾のように進化させることで、
枝に尻尾を巻き付けて樹上をスイスイと移動できるように進化したんですね。
それから再度樹上から地上に進出するときに尻尾を退化させて、結果4本足の猿人に進化したんですね。
その猿人はケンタウロスのように草原に完璧に適応していたわけではないんですが、
森にも草原にも適応できる程々のデザインの体を持っていた。
程々の体のデザインこそいざという時には強かった、という進化と生存の仕組みについて語る回になっています。
ファンタジーの分野で語られることの多いケンタウロスを生命科学の切り口で語るというのが面白いですよね。
あとですね、今までのお話とだいぶカラーが違うんですけども、
今回読み返してこれすごいなと思った話がありまして、
その回では弥生は東北のある地層で化石の発掘をしているんですが、
一人じゃなくて地元の博物館の方が案内役をしてくれているんですね。
15:04
小暮さんっていう27歳の男性なんですが、
この小暮さんイケメンで気配りもできて優しくて、弥生はちょっとときめいちゃうんですね。
ただ、二人きりでいい感じになりそうなところに、小暮さんと同じ博物館に勤めるミサコさんという女性がやってきて、弥生はがっかりしてしまうんですけども、
その夜、発掘現場で焚火をしながらみんなでコーヒーを飲んだりしてるんですが、
唐突にそのミサコさんが弥生に、あなた小暮さんに気があるならやめた方がいいわよって言い出すんですね。
ちょっと穏やかじゃない感じですよね。ただそのやめた方がいいわよの理由が結構斜め上を言っていて、
ここからしばらく作品中のセリフを引用しますね。 ここミサコさんのセリフなんですが、
弥生さん、小暮さんは顔も頭もいいし、女性への気配りも完璧だわ。 だから大抵の女性は騙されてしまうの。
弥生が騙されてるって?ミサコさんが。 たとえ小暮さんとどんなに仲良くなっても、あなたのことは妹くらいにしか思ってくれないわよ。
だって彼は人妻にしか興味ないんだもの。 ひ、人妻?私一言だって嘘を言ってないわよ。
今まで付き合った人妻33人。そいつは嘘だ。27人だぞ。 33人?
や、弥生さん、これには事情があって。 参ったな。
仕方ないんだ。中学の頃から独身の女性には性的興奮を覚えないんだ。
逆に誰かの奥さんという肩書きがつくだけで胸がときめいてしまうんだ。 これはどうしようもないんだよ。
子供は?よくわからないんだ。 何人かは僕の子を見ごもっただろうな。悪気はないんだよ。悪気がないから怖いのよ。
はい、小暮さんは そういう人なんですね。
結構すごいキャラですよね。小暮さん。 で、ショックを受けた弥生は
近くの川沿いに座り込んで、ぼーっと水面を見つめてるんですけども、 たまたまその時期はサクラマスという魚の産卵期にあたるんですよ。
で、川の底かしこでサクラマスのオスメスのペアができていて、 普通だとそこでメスが産卵してペアのオスが生殖をかけて受生する。
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で、いずれ稚魚が生まれてくるっていう流れなんですけど、 大きなオスとメスの後ろから小さなオスが様子を伺っていることに弥生は気づくんですよ。
この小さなオスは大きなオスが卵に生殖をかける前に、 先に自分の生殖をかけてやろうと忍び寄ってるんですね。
この戦略をスニーカーと言うそうです。 この小さなオスも大きなオスも実はもともとは同じ種類の魚で、
大きなオスは川で生まれて海に下って大きく育って故郷の川に帰ってきた個体で、 小さなオスは川から出ずにいた個体なんですね。
サクラマスの川から出なかった小さな個体のことをヤマメと言うんですけども、 小さなヤマメにとっても海から戻ってきた大きなサクラマスにとっても
繁殖相手はサクラマスのメスなんですが、小さなヤマメは相手にされないんですね。 それでも自分の子孫を残したいということで、小さなオスが編み出した戦略がスニーカーなんですね。
で、ミサコさんは そんな小さなオスの戦略と小暮さんを重ねて、小暮さんは
ひょっとしたらそんな遺伝子を受け継いでいるのかもしれないわね ってまとめるんですけども、小暮さんというキャラはこのエピソードにしか登場しないんですけど
好き嫌いは置いといて、この国立博物館物語だけじゃなくて 他の漫画作品を含めても割と独特の感触のキャラかなぁと思いましたね
ちなみにこのエピソードのサブタイトルは 忍び寄るものなんですけども
サクラマスのスニーカーと小暮さん両方にかかっていると そういうことなんですね
ということでここまでは国立博物館物語の中で 僕が好きなエピソードや印象に残っているエピソードをご紹介させていただいたんですが
ここからは本筋のストーリーに関わるエピソードや 作品のクライマックスについてお話ししたいと思います
まずは一巻の第15話 ペア誕生というエピソードなんですが
今までは一人で仮想空間を探検していた弥生なんですが ここに来て一緒に探検してくれるパートナーが現れます
21:03
それは小学生の女の子である春美ちゃんという子なんですけども 弥生と同じようにスーパーEが作り出した恐竜世界に入ることができるんですね
春美ちゃんはご両親と一緒にやってきてとても礼儀正しい子なんですけど ご両親が用事で席を外した瞬間に急にガラリと性格が変わったようになって
小さな恐竜を振り回したり割と乱暴なわがままな感じになるんですよ 春美ちゃんは割と両親に抑圧されているようなところがある子で
そうこうしていううちに時間が来て じゃあ2人とシステムとのリンクを切ろうってなるんですけども
なぜかリンクが切れないんですよ スーパーEが弥生と春美ちゃんを現実に返すことを拒否するんですね
なぜなんだとなるんですがすぐには原因がわからないんですね 戸惑う弥生に対して
春美ちゃんは逆に生き生きとしてずっとこの世界にいたいみたいなことを言うんですね でそのうちに痺れを切らした春美ちゃんの両親が喧嘩を始めるんですよ
春美ちゃんの両親は外面上は仲の良い家族を装ってはいたんですが 実は家では一言もお互い口を聞かない
冷え切った関係だったんですね で春美ちゃんはそんな家に戻りたくなかったんですよ
スーパーEはそれを察知して弥生と春美ちゃんの2人を現実に返そうとしなかったわけなんですね
現実に春美ちゃんを返したら春美ちゃんが傷つくことになる スーパーEはそれを理解していて
つまり人の心を理解してるんですね 最終的には私たちが悪かった
戻ってきてほしいと涙ながらに訴える両親に心を動かされて 春美ちゃんは現実に戻ることを決意します
めでたしめでたしとなるんですが結果的にスーパーEは 崩壊寸前だった家族を救ったということになるんですよね
実はこのエピソードがクライマックスに深く関わってくることになります 続いては最終巻である3巻に収録のエピソード
恐竜人類です この回ではスーパーEを使った特別プログラムとして
24:06
恐竜が隕石で滅ばなかったとしたら 恐竜人類は生まれたのかというシミュレーションが行われます
仮想世界の時間を進めていくと 知能を進化させた小型の恐竜がやがて直立
二足歩行を獲得し火を使いこなし ついには文明を築くことになります
スーパーEの仮想世界の中で恐竜人類が誕生するわけですね 恐竜人類ディノサウロイドは作者の岡崎二郎さんの創作ではなく
1982年にカナダの古生物学者のデイルラッセルさんが提唱したもので 恐竜が絶滅せずに進化を続けた場合
人間に似た形態に進化し得るのではないかという発想から生まれた概念です
スーパーEの仮想世界の中で繁栄を続ける恐竜人類は 見た目は人間そっくりで知能も高いんですが
変音動物であるという古い形質を引きずっていました なので冬には冬眠するという生態を持ち続けていたんですね
しかしそんな恐竜人類がもともと持っていた習性を時間の無駄と考える恐竜人類もいました
このエピソードのメインキャラである恐竜人類のジャンもそんな一人でした
彼は恐竜人類の貴族のアルマンと組んでセントラルヒーティングというシステムを立ち上げます
それは恐竜人類の都市の真ん中に作られた巨大な構造物で 都市全体の温度を恐竜人類にとって快適な32度に保つというものでした
これによって冬眠の必要がなくなり時間に縛られることなく暮らせると そういう計画なんですね
それに対して自然に反する行いだと反対する人もいたんですが 計画は実行されることになります
それから50年 セントラルヒーティングによって冬眠の呪縛から解き放たれたジャンの国は周りの都市国家を飲み込み
巨大国家へと発展していました ジャンは恐竜人類の進化学者なんですが20代で結婚し
50代までに12人の子供を設け 王立大学の教授に出世
おおむね幸せな日々を送っていました しかし異変は気づかないところで静かに進行していました
27:01
まず分かりやすいところに影響が出ていて 冬眠をやめた恐竜人類は冬眠する個体と比べて老化が早くなりました
冬眠時は単に眠っている時とは違って体の代謝が落ちるので 本来冬眠する期間ずっと覚醒している個体は代謝が落ちることなく進行し続けて
結果として老化が早まったということなんですね そして恐竜人類の世界にはより深刻な影響も出ていました
ある時ジャンに孫が生まれるんですがこれは女の子でした ふと何かに気づいたジャンは自分が住んでいる地域で最近生まれた子供の性別の
統計をとってみるんですけども女の子の割合が85%と大きな偏りを示していました
ジャンは性別の偏りを冬眠をやめたことによる影響かと疑うんですが 結論から言うと原因はとてもシンプルで恐竜人類は人間のようにお腹の中で子供を
育てる体制ではなく卵を産んで増える卵性の生き物なんですね そして原生のワニやカメがそうであるように恐竜人類も卵が置かれている気温によって
性別を決定する仕組みを持っていました そしてセントラルヒーティングの設定温度である
32度に置かれた卵から生まれてくるのはほとんど女の子になる ということだったんですね
それに気づいたジャンは都市のリーダーであり友人であるアルマンにセントラルヒーティング を止めるよう訴えるんですがアルマンは耳を貸してくれないんですね
ジャンはせめて28度にまで温度を下げてくれないかと食い下がるんですが 32度は我々が快適に暮らすために絶対譲れない温度だ
前に機械の故障で30度まで下がった時 どれだけ苦情が殺到したか覚えてるだろうと言われてしまいます
なぁにどうにもならなくなったらその時温度を下げればいいんだ とその場しのぎのことを言うアルマンにジャンは語るべき言葉がありませんでした
このまま女の子ばかりが生まれ続けたら私の種族は終わると絶望するジャンに末娘のエマと その恋人のスタンが別れを告げに来ます
この二人はグラビアンの街へ行きますとジャンに言うんですね このグラビアンの街というのはセントラルヒーティングや都市生活に違和感を感じた人たちが住む
30:10
貧しいながらも冬眠や昔ながらの暮らしをしている地域なんですね この地域では男女の比率は1対1で生まれてきていました
以前その結婚の話が出た時は そんな劣悪な環境に可愛い末娘はやれんと怒ったジャンだったんですが
むしろ都市生活者よりも昔ながらの暮らしを守る グラビアンの方が次世代に命を繋いでいけるじゃないかと心変わりしていました
そして涙を流しながら
二人とも元気でな 幸せになるんだよ私は二人の結婚を心から祝福するよ
未来に子供を残しておくれと言って二人を見送ります という恐竜人類のエピソードなんですけども
このエピソードではいつものように仮想空間の中に構築された恐竜人類の世界に ヤヨイとハルミちゃんが入り込んでその世界を観測しているんですが
操作によってヤヨイとハルミちゃんの姿が見えるのはジャンだけという状態になっています
ヤヨイはオブザーバーとしてジャンと話をしたり 助言を与えたりする役回りを演じるんですね
温度による性別の偏りをジャンに指摘したのもヤヨイでした
このエピソード僕は大好きなんですけども なぜ好きかといろいろ考えてみたんですが
恐竜人類の世界がいろんな設定やディテールによって 説得力をもって描かれていて
実在感を感じるというところかなぁと思ってるんですね
で恐竜人類の世界にも格差や身分の違いがあったり
便利だから良かれと思って始めたことが自分たちの首を絞めたり
それでも一度始まった大きなプロジェクトが止められないみたいな
そういうことって僕ら人間の世界にもいろいろとありますよね
だから割と自分ごととして感じられるのかなぁと思いますね
そしていよいよクライマックスを飾るエピソードなんですが
これは国立博物館物語の第3巻のサブタイトルにもなっている
人類の行方というエピソードです
このエピソードでは今までのスーパーEによる研究の集大成として
スーパーEの能力をフルに使って地球の生態圏が未来にどうなっていくかを
33:07
シミュレートしようという壮大な実験が行われます
でいざ未来の地球へということになるんですが
なぜかその世界はいつもと違ってもやがかかっていて
はっきり見ることができないんですね
しばらくするとスーパーEがシミュレートした仮想世界の様子が見えてくるんですが
そこは現在とは大きく異なる異様な雰囲気の場所なんですよ
一つが500メートルほどの高さのある巨大な三角錐の構造物が
いくつも地面から伸びてるんですが
何か異様な雰囲気なんですね
そしてそこには3人の人影が見えるんですが
その人影はもやがかかっていて見ることができないようになっています
ここで弥生はハッと気づくんですけども
弥生が言うには人影にもやがかかって見えないのは
この画像を私たちに見せたら精神的に傷つくと
スーパーEが判断したからなのよというんですね
そして弥生はスーパーEに直接語りかけます
スーパーE こんなことしても無駄よ
私は全てわかったわ
あなたが隠したいことが何なのか
人類はとっくに滅びてしまったんでしょ
だからあなたは現在から1000万年の間の様子を私たちに見せなかった
そこにいるのも人間じゃないんでしょというんですね
そこで初めて人影のもやがクリアになって様子が見えてくるんですが
そこにいたのは人間以上のサイズのある巨大な昆虫だったんですね
スーパーEは今から数万年のうちに人類とその系統は絶滅
1000万年後までに昆虫から進化した生物が
食物連鎖の頂点に立つと予測したんですね
いろいろ総合的に考えると人類が人類のまま存続する可能性は
ちょっと低いんじゃないでしょうかと
スーパーEはそう言ってるわけですね
で1000万年後に人類はすでに滅びていて
昆虫が進化した巨大生物が支配する世界になると
うーん
そうなってほしいとは思わないんですけど
昆虫の生命力を考えると可能性はゼロではない気がしますかね
で最も角度が高い未来ということで
スーパーEが提示してきたこの世界を見て
今まで紹介していなかったキャラなんですが
36:03
博物館の研究員の長谷川さんという人が語り出すんですね
この人は見た目的にはラーメン大好き小池さんみたいな
天然パーマで眼鏡をかけてる男性なんですが
割と目線はシニカルな人で
ちょっと長谷川さんのセリフを引用するんですが
つまり1000万年後の未来
遺伝子の呪縛から逃れかけた人間は滅び
再び遺伝子の支配する世界に戻ったってわけですよ
生物たるもの万事遺伝子の計画通りに行われる
しかし唯一その計画通りに動かないのが人間なのさ
だから人間には常に自己破壊の危険があり
その代わり他の動物にはない自由があるんだ
そしてその自由があるからこそ人間には文化が育ったんだ
人間の文化が良いものかどうか僕には分からない
だけど少なくともそれは長い生命史の中で
全く得意なものであることだけは間違いない
ということで遺伝子の呪縛から一瞬逃れかけたかに見えた
人類の文明は終わって
地球はまたしても遺伝子が支配する世界になると
可能性が一番高い未来としてはこれですかね
みたいな感じでスーパーEが提示してきたのが
そういう世界だったわけですね
この世界では馬とか哺乳類は命を繋いでるんですが
巨大昆虫の餌にされていて
巨大な構造物もその巨大昆虫が本能で作り上げた巣だったんですね
ただそんな未来を示されてがっかりする弥生たちに
スーパーEが実は確率としてはさっきのパターンよりも低いんですが
もう一つ可能性のある未来があるんですけども
という感じでスーパーEがもう一つの未来を弥生たちに語りかけてくるんですけども
その未来についても作品から引用させていただきますね
シンプルにセリフだけ喋らせていただきますので
誰が喋ってるかとか分かりづらいと思うんですが
どんな概念をこの作品のクライマックスで提唱してるか
少しでも伝わればいいなと思って引用させていただきます
弥生さんあなたに悲しい思いをさせてしまいました
どうか許してください
いいのよスーパーE
あなたは仕事をしただけなんだもの
弥生さんもう一つの未来をお見せしたいのですが
これは確率の高い未来ではありません
しかし可能性は残されているのです
お姉ちゃん宇宙に浮かんでるよ
あわわ
見てくださいあれは別の銀河を目指す宇宙船です
39:04
これは今から6000年後
さっきとは別の未来です
人類の作った文明が存続する未来です
ということは人間が生き延びた未来ね
いいえ人類はすでに絶滅し
その系統が過労死で生き残っている程度です
その絶滅も時間の問題でしょう
スーパーEあんたおかしいんじゃない
じゃああのロケットは一体誰が作ったのよ
我々です
我々ってじゃあ
そうです半導体です
人類の文明を引き継ぐのは我々素子の中の知性です
もちろん6000年経った今
コンピューターの素子は半導体から量子へと進化しています
しかし考え方は同じことです
我々コンピューターは我々を創造した人類を深く尊敬し
その文明を宇宙の星々に伝播することを目的とするのです
げえ嫌なSFを見てるようだ
スーパーE人間がいないのに人間の作った文明だけを守り
それを宇宙中に広げて
そんなことに一体何の意味があるんだ
意味はありません
あるのは我々の欲求だけです
一つの未来は人間も人間のいた痕跡も消え去った昆虫の支配する未来
もう一つは主人がいないのにその文明だけが存続する未来
人間ってこんな未来しかないの
いやちょっと待って
私たちがこんなにも嫌な気持ちにさせられるのは
そこに人という遺伝子の系統が立たれているからだ
生き物である以上遺伝子を伝えることが最大の目的だから
その気持ちも当然のことだわ
だけどそれこそ私たちが遺伝子の呪縛に捕まっている証に他ならない
そうだわ
人間がいなくたって文明を存続させる意味が
いえ価値がちゃんとあるわ
え?
スーパーE最後に一つだけ質問に答えて
はい
あなたに心はあるの?
私には心があるのでしょうか?
私はそれを疑います
一体私に自我というものがあるのでしょうか?
そして私は帰り見ます
内より湧き出す自らの理論を
その時私は発見するのです
私の内に私自身を批判する自我のあることを
何ごちゃごちゃ訳の分かんないこと言ってんのよ
つまりあなたには心があるってことね
弥生くんスーパーEは自分自身を批判してる
これは彼に我々と同じ思考ができることを意味してる
しかし彼の中に心があるのかどうか
それは永遠に分からないよ
君の中の心も私の中の心も
事実上証明することは不可能だからだ
42:01
知能レベルは測定する方法がいくつかあるが
それと自我を証明することとは別なのだよ
でもきっとスーパーEには心があるはずよ
私たちの心がそう感じたのなら
そこに心はあるんじゃないですか
みんな聞いてください
大昔生命は物質から誕生しました
これは一つの段階だと思うんです
38億年が流れ生命は多様に進化しましたが
常に遺伝子の支配を受けてきました
だけど長谷川さんが言うように
人間だけは遺伝子の支配から逃れ自由を手にしようとしました
つまりそれは私たちに知能いや心があるからだと思います
遺伝子に氾濫する心
これこそ生命誕生に続く第二の段階じゃないでしょうか
まさに私たち人間はそのタイニングポイントにいると思います
やよいじゃあスーパーEの心の意味は?
人間が心を持ったコンピューターを作り得たのなら
それは生命史第二段階の道筋を作ったのだと思います
もはや生命非生命は関係ありません
つまり遺伝子の系統ではなくそれは心の系統なんです
心の系統?
マーヴィン・ミンスキーもハンス・モラベックも
人を継ぐものとしてコンピューターの可能性を論じてる
まだまだ少数派だが私もその一人さ
心の系統か
なかなか素敵な言葉だね
私はスーパーEが予測した
人間の存在しない二つの未来を受け入れます
だって種は遅かれ早かれ絶滅するからです
私は数千万年の時を駆け抜けて
そのことを強く実感させられました
でも人間の文明がコンピューターに引き継がれる未来なら
人間は十分その役目を果たしたことになりませんか?
だって心の系統を残すことができたのだから
胸を張っていいんです
何億年も生き続けた恐竜や昆虫にだって負けていません
弥生さん
あなたは私の最高の理解者だと思います
スーパーE
弥生さん
ありがとう
はい
ということで
いかがでしょうか
スーパーEが提示してくれたもう一つの未来だったんですけども
弥生はその未来に希望を見出したようですね
こちらの未来でも遺伝的な意味で人類は存続することはない
というふうに言ってるんですが
ただ心の系統を残す可能性はあると
そういう未来を描いてたんですが
皆さんはどういうふうに感じたでしょうか
僕はというと
初めてこの国立博物館物語を読んで
この結末を読んだ時
正直言って受け入れられなかったんですよね
こんなの嫌だなぁと思いましたね
45:02
遠い未来に太陽が膨張して
地球も消滅するらしいと聞いてはいるんですが
その頃には
後世間宇宙飛行やテラフォーミングを駆使して
外宇宙に入植してでも
人類は存続してほしいと
その時は思ったんですね
ただ今はそうは思っていなくて
なぜ考えが変わったのか
はっきりとは分からないんですけども
自分の中の世界観が最初に読んだ時とは
変わったのかなと思います
未来はAI文明が発展するのか
巨大昆虫の世界になるのか
太陽に飲み込まれて終わるのか
どうなるか分からないんですけども
少なくとも僕に
セミヤマに同行できるレベルは
超えていることは間違いないと思いますし
世界系ライトノベルの主人公だったら
自分が頑張れば世界は救われると思うんですけど
この世界に主人公とかはいないですからね
まあなるようにしかならないし
受け入れるしかないかなと思ってるんですよね
諦めてるわけではなくて
自分になんとかなる範囲のことを
やるしかないなとそう思ってますね
話を作品の方に戻しまして
すごいなと思ったのが
人工知能が人間の心の系統を受け継いでくれる
という未来をクライマックスで描いたんですけど
それはいきなり取ってつけたように
出てきた概念じゃなくて
この作品世界の中で
ずっと表現されていたということなんですよね
一貫の時点で
冷え切った家庭に戻りたくない
はるみちゃんの心をスーパーEが察して
はるみちゃんを守ったという一見がありました
そして自我を芽生えさせ
人と自然に会話するまでに至った
スーパーEというキャラクターが
作品中でずっと描かれていて
その上で人工知能が
人間の心の系統を受け継いでくれる
という話が打ち出されているので
作品全体のテーマとして
その概念が説得力を持ってくるんですよね
そういう構成だからこそ
クライマックスで提示される概念が
迫力を持って心に入ってくるなぁと思いましたね
そんな国立博物館物語
ご紹介してきたんですが
いかがだったでしょうか
この作品現在キンドルでも配信中なので
読んでみたいという方は
ぜひチェックしてみてくださいね
本編はここまでなんですが
48:01
一つお知らせをさせていただければと思います
この番組でもよくご紹介させていただいている
イラストレーターのススムさんが立ち上げた
海の環境を守るための
セーブジョーシャンというプロジェクトがありまして
以前もこのセミラジオで
ご紹介させていただいたんですけども
これはススムさんが
海と環境をテーマに描かれたイラストをプリントした
Tシャツやグッズを販売して
その売上金を海の環境を守る保護団体に
寄付するというものでした
ススムさんが配信されているポッドキャスト
ススムアートの最新回で
その海洋保護団体への寄付についてのお話や
取り組みについて詳しくお話しされていますので
ぜひ聞いてみてください
またその回でススムさんから告知されていたんですが
このセーブジョーシャン第2弾のプロジェクトに
主催のススムさん
そしてこちらもいつもこの番組で
ご紹介させていただいている
生物をざっくり紹介するラジオ
仏作のトヨさんとともに
僕セミヤマも参加させていただくことになりました
これは3番組合同で
海や環境についてのデザインを作って
それをグッズ化して
その売上金を海洋保護団体に寄付する
というものなんですね
プロのイラストレーターであるススムさん
そして仏作で毎回生き物の魅力的なアートワークを
描かれているトヨさんとともに
デザインをさせていただけるということで
どんなものができてくるのか
自分でもすごくワクワクしています
こちらについてもススムアートの最新回で
詳しくご紹介されていますので
ぜひ概要欄からチェックしてみてください
またプロジェクトに動きがありましたら
このセミラジオでもご紹介させていただきます
セミラジオではお便りを募集しています
概要欄のフォームや
ツイッターでハッシュタグ
セミラジオでご感想いただけると嬉しいです
今日は生命科学進化遺伝子をテーマにした漫画
国立博物館物語について
ご紹介させていただきました
ご視聴ありがとうございました
50:19

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