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2024-02-29 09:52

手紙 四 /宮沢賢治

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作品名:手紙 四
著者:宮沢賢治

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手紙四 宮沢賢治
私はある人から言いつけられて、 この手紙を印刷してあなた方にお渡しします。
どなたか、ポーセが本当にどうなったか知っている方はありませんか?
チュンセがさっぱりご飯も食べないで、毎日考えてばかりいるのです。
ポーセはチュンセの小さな妹ですが、 チュンセはいつも意地悪ばかりしました。
ポーセがせっかく飢えて、水をかけた小さな桃の木になめくじを炊けておいたり、
ポーセの靴にカブトムシを飼って、二つ木もそれを隠しておいたりしました。
ある日などは、チュンセがクルミの木に登って、青い実を落としていましたら、
ポーセが小さな卵型の頭を濡れたハンケチで包んで、
「兄さん、クルミちょうだい?」 なんて言いながら、大変喜んで出てきましたのに、
チュンセは、「そら、とってごらん。」と、
まるで怒ったような声で言って、 わざと頭に実を投げつけるようにして泣かせて返しました。
ところがポーセは11月頃、 にわかに病気になったのです。
おっかさんもひどく心配そうでした。 チュンセが言ってみますと、
ポーセの小さな唇はなんだか青くなって、 目ばかり大きく開いて、
いっぱいに涙をためていました。 チュンセは声が出ないのを無理にこらえて言いました。
「オイラ、なんでもくれてやるぜ。 あの銅の歯車だって、
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欲しけややるよ。」 けれども、
ポーセは黙って頭を振りました。 息ばかり、
スースー聞こえました。 チュンセは困ってしばらくモジモジしていましたが、
思い切ってもう一遍言いました。 「雨行き取ってきてやろうか。」
ポーセがやっと答えました。 チュンセはまるで鉄砲玉のように表に飛び出しました。
表は薄暗くて、みぞれがびちょびちょ降っていました。 チュンセは松の木の枝から
雨行きを両手にいっぱい取ってきました。 それからポーセの枕元に行って、
皿にそれを置き、 サジでポーセに食べさせました。
ポーセはおいしそうにみさじばかり食べましたら、 急にぐたっとなって、
息をつかなくなりました。 おっかさんが驚いて泣いて、ポーセの名を呼びながら、
一生懸命ゆすぶりましたけれども、 ポーセの汗で湿った毛の頭は、
ただ、ゆすぶられた通り、動くだけでした。 チュンセは原稿を目に当てて、
虎の子供のような声で泣きました。 それから春になって、
チュンセは学校も6年で下がってしまいました。 チュンセはもう働いているのです。
春にクルミの木が、みんな青いふさのようなものを下げているでしょう。 その下にしゃがんで、
チュンセはキャベジの床を作っていました。 そしたら、
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土の中から、一匹の薄い緑色の小さなカエルが、
ヨロヨロと、はって出てきました。 カエルなんざ、つぶれちまえ!
チュンセは大きな角石で、いきなりそれを叩きました。 それから昼過ぎ、
枯草の中でチュンセがトロトロ休んでいましたら、 いつかチュンセはぼーっと、
黄色な野原のようなところを歩いて行くように思いました。 すると、向こうにポーセが、
しもやけのある小さな手で目をこすりながら立っていて、 ぼんやりチュンセに言いました。
兄さん、 なぜあたいの青いおべべ咲いたの?
チュンセはびっくりして跳ね起きて、 一生懸命そこらを探したり、
考えたりしてみましたが、 何にもわからないのです。
どなたかポーセを知っている方はないでしょうか。 けれども、私にこの手紙を言いつけた人は、
人が言っていました。 チュンセはポーセを尋ねることは無駄だ。
なぜならどんな子供でも、 また畑で働いている人でも、
汽車の中でリンゴを食べている人でも、 また歌う鳥や歌わない鳥、
青や黒やのあらゆる魚、 あらゆる獣も、あらゆる虫も、
みんなみんな昔からのお互いの兄弟なのだから、 チュンセがもしもポーセを本当にかわいそうに思うなら、
大きな勇気を出して、 すべての生き物の本当の幸福を探さなければいけない。
それはナムサダルマプフンダリカサスウトラというものである。
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チュンセがもし勇気のある本当の男の子なら、 なぜまっしぐらにそれに向かって進まないか。
それからこの人はまた言いました。
チュンセはいい子供だ。
さあ、お前はチュンセやポーセやみんなのために、 ポーセを尋ねる手紙を出すがいい。
そこで私は今これをあなたに送るのです。
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