00:07
ウミベノマイゴ 村山籌子
海辺へ着いた時には 海岸の砂は人で真っ黒になっていましたので
お母さんは吉尾さんに 迷子にならないようにね
それから いくら面白くっても
あんまり長く水の中に入っていると 体に毒ですからね
と言いましたが 吉尾さんはもう海の中へ飛び込んでしまいました
そのうちにお母さんは眠くなったので パラソルの下でぐっすり眠り込みました
迷子だ迷子だ とあたりが急に騒がしくなったので
お母さんは目を覚ました 迷子ですお心当たりの方はありませんか
と書いた大きな旗を持って 小さな男の子の手を引いた海水浴場の番人が
向こうから歩いてくるのが見えました その迷子の様子のへんてこりんなことと言ったら
水の中にむやみと長く浸かっていたと見えて 頭の毛は一本一本逆立ち
顔も体も真っ青 唇は紫色
吉尾さんのお母さんはおかしくなって あらまあなんて変なお子さんだろう
まるでカッパのお化けみたいだわ と言いました
周りの人たちはみんな笑いました 本当に
吉尾さんのお母さんの言った通りなんですものね でも吉尾さんのお母さんはその迷子をどこかで見たことがある子だと思い
03:02
ました そして
はてな どこのお子さんだったか知らん
としっきりに頭をひねくって考えました 暑いお日様の光で迷子の体も頭も
頭の毛もやっと普段の通り 人間の子供らしく生き生きとしてきました
吉尾さんのお母さんは急に飛び上がって あらあら誰かと思ったらあなたは吉尾さんじゃないの
本当にどうもお騒がせしてすみませんでした ありがとうございますありがとうございます
と番人にお礼を言って 吉尾さんを受け取りました
周りの人はとてもおかしかったのですけれど やっと我慢して笑いませんでした