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2021-08-18 06:08

ラジオドラマ「フルコースの後で」

脚本:ファンシーコウ
原作:ファンシーコウ
提供:BEKKO Books

00:03
フルコースの後で 脚本 1c 高
都市街もなく恋をした 私は今年50になる
恋愛年齢は関係ないと他人は言うがそんなことは決してない 世間体というものがある
いやそれは言い訳だ 私は私に自信がない
ベルトの上にお腹の贅肉が乗ってしまったし 朝起きた時枕が臭い
物忘れが酷く冗談が面白くない 自分が人生のピークを過ぎて下り坂にいることを意識せずにはいられない
仕事ばかりで結婚はしていないずっと一人だったしこれからも一人なんだろうと思っていた 元町のコーヒースタンドに彼女はいた
エスプレッソに砂糖を添える本格的な店だ 彼女はエチオペアのドリップを飲んでいた
カップを鼻に近づけ香りを数秒楽しんだ後 そっと口に含んだ
それはコーヒーをこよなく愛するものの所作 私は思わず
このコーヒー美味しいですよねと声をかけた はい
だって 静かで
穏やかな声だった 私たちは約束をするわけでもないのによく同じ時間に見せに行き
コーヒーを楽しんだマスターがドリップする豆は新鮮でお湯をポトリと落とすたびに 引いた豆が大きく膨らむ
私たちはその様子を見つめこれから味はコーヒーの香りと苦味を想像し 期待を膨らませる
そんなひと時が私にとって何者にも買いがたい時間になった 彼女のいない時間はなんだか寂しく咲き込んでしまい
彼女に会えば仕事の疲れなど吹っ飛んだ それは恋ですよ
マスターはそう言うが 恋だなんて
私は首を横に振った 彼女は30を少し過ぎたくらいで
目一個と変わらない コーヒーの趣味があるただの若い友人だ
映画が好きで本が好きで 家庭作業をしているただの友人だ
そう思うのにますます彼女を意識するようになった 彼女が進めた小説を読み dvd を借り
ホームセンターの園芸コーナーで足を止めた タバコを止めダイエットを始めた
仕立てのいいスーツを着るようにした コロンはつけない
せっかくのコーヒーの香りを邪魔してしまうからだ 恥ずかしながらやはり私は
恋をしていたのだ今度食事でもどうですか 若い頃は自然に出てきた誘い文句をようやく口に出せたのは出会ってから
03:09
1年以上経ってからだった私も誘いしようと思ってたんです お話ししたいこともあったので
不調点になるとはこういうことだろうか 私は友人がやっているおしゃれだが気取らないイタリア料理店を予約した
ガラスのエスプレッソカップをプレゼント用に買った 友人は私の恋心を知っていて希望通りの気取らず楽しいコースを用意してくれた
食前酒前菜 スープ
皿が出てくるごとに緊張も解けメインの頃にはいつものように穏やかで楽しい 会話ができた
隣には学生らしきカップルがいたお互い意識し合っていてういういし 食後のコーヒーが出てきて
私は渡すかどうか迷っていたプレゼントを取り出そうとした あの
実は私今度結婚するんです あ
ああああああああああああああ 結婚
あ結婚ああへ 誰と
職場の人と 彼もコーヒーが好きなんですよ同じものが好きなら年齢は飛び越えられるよって
言ってくださったから 私思い切って告白したんです
彼 7つも年下だったから
ああああああ そうですか
青をおめでとうございます あああ実はねここに来る前にとても素敵なエスプレッソカップを見つけてきましてね
結婚祝いにプレゼントします いいんですか
もちろん おめでとうございます
お幸せに彼女を駅まで送って元町を歩いた いつものコーヒースタンドはいつものように空いていた
マスターは私の顔を見ると エスプレッソコンパナを出してくれた
いつものエスプレッソに生クリームが乗っていた マスターは小さく頷いた
含むと甘さと苦さがくっきりと分かれて口の中に広がった 恋の味だった
出演 男 トウミ
女 ヤイネ マスター ファンシーでお届けいたしました
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