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ブルーオンブルー 原作 篠木 美穂
脚色 ファンシーコー
あの日、私の心はとてもブルーで、自分のことがとても嫌いだった。
沢子さん、今日バイト代入ったんで、晩飯どうですか?
サークル仲間で、一学年下の新一から付き合ってくれと言われたのは一月前だった。
返事は保留にしてある。
まだ二人だけで会ったことはない。
私は学食でミックスサンドを頬張りながら、OKのスタンプを送った。
続けて送られたのは予約したお店のURL。
生田神社のそばのオシャレな創作イタリアンのお店。
これはきっと返事の最速だ。
何が食べたいか考えておいてくださいね。
店のメニューを見た。
どれもこれも美味しそう。
だけど私は一つの写真に釘付けになった。
それは、雨色に輝くスペアリブ。
うん、考えとく。
そうメッセージを返す。
午後の講義は上の空だ。
私は私がしようとしていることで頭がいっぱいで、
私は私がますます嫌いになって、心の中が青色に染まっていく。
だって仕方ないじゃない。
新一君は優しいから、はっきり言えないかもしれないから。
ごめん、少し遅れちゃった。
全然、何する?
これがいい。
スペアリブ、美味しそうですね。
俺、スペアリブ、ナイフとフォークで食べたことないや。
私も。
食前酒、前菜、スープ、次々と並べられていく。
私たちは緊張してうまく喋れない。
隣の年の差カップルは楽しそう。
羨ましい。
スペアリブのブラウンソース煮込みが隣のテーブルにやってきた。
大人の二人はナイフとフォークで上品に食べている。
それでね、この間通販でワンピース買ったんですよ。
そしたら思ってるのと違ってて。
ああ、そういうのありますよね。
やっぱり実物見ないと分かりませんもんね。
咳
さあこさん、大丈夫ですか?
大丈夫。ちょっと喉に引っかかっただけだから。
さあこさん、はい水。
ありがとう。
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あのね、しんいちくん。
私、男の人と付き合ってもすぐに振られるの。
理由はいつも一緒。思ってたのと違うって。
そんなことなんで。分からないな。
分かるわよ。
メイン来ましたよ、スペアリブ。
おいしそう。
え?
私はナイフもフォークも使わずにスペアリブを握りしめて被りついた。
しんいちの目が見開かれる。
隣の年の差カップルも驚いて私を見ている。
すみません。これが私なんです。私じゃないけど私なんです。
普段はいたって普通なんです。
でも男の人と二人になると緊張のあまり無口になる。ぎこちなくなる。挙動不審になる。
そして人を試すような嫌な女なんです。
あの写真を見た時からずっとこうしようと思っていました。
ごめんなさい。ごめんなさい。でもこれで言いやすくなったでしょ。
思ってたのと違うって。
おお、沢子さん。威勢がいいですね。
俺も手で言っちゃお。
え?ちょっとやめなさいよ。
自分でやっといて面白いな、沢子さん。
口に物を入れたまま喋らないでよ。
店から出ると夜風が気持ちいい。
石畳の上を駅の方へ向かう。
新市の足が止まった。私も止まる。
言っていいんだよ。思ってたのと違うって。
言いやすくなったでしょ。
思ってたのと違うでしょ。
思ってた通りです。
え?
思ってた通り。可愛らしい人です、沢子さんは。
沢子さん、返事欲しいんだけど。
え?
返事ください。
味、緊張してて全然わからなかったから、
もう一度一緒に行きたいな。
空を見上げた。
ブルーアワーの空に星が瞬いた。
出演、沢子、ヨッシー、
新市、東美、
男、ファンシー、
女、ヤイネーでお届けしました。