2025/05/17
サマリー
航空自衛隊の練習機墜落事故に関する報道では、搭乗員を「もの」として扱う表現が問題視されています。言葉の選び方が人々の感情に与える影響を考慮する重要性が強調されています。
墜落事故の報道
おはようございます。花火鑑賞士、気象予報士の鶴岡慶子です。
この配信では、花火や天気、言葉に関することなどをお話ししています。
毎朝更新している、声の日記です。今日も最後までお付き合いください。
今日は、あるニュースを見ていて、「いや、その言葉はどうなのかな?」と、胸の奥の方で、ちょっとザワッとしたことをお話しします。
事故の内容自体は、とっても重くて深刻なものです。
航空自衛隊の練習機が愛知県犬山市の池に墜落して、搭乗していた2人が行方不明になっているというものです。
機体の一部が見つかって捜索が続けられている中で、こんな表現が報道で使われました。
それはニュースの速報でアナウンサーが読んだ原稿だったんですが、「搭乗員らしきものを発見、収容したということです。」と読まれました。
さらに防衛大臣の会見の様子が映し出されて、そこでも、「搭乗員らしきもの。」と本人の言葉で語られていました。
これを受けての原稿だったと思うんですが、この搭乗員らしきものという表現。
報道する側として、あるいは発表する側として、もしかしたら慎重に言葉を選ぶ、選んだからこそ使ったという言い方だったのかもしれないんですけれども、
ということである意味、誠実であろうとした表現だったのかもしれません。
ただ、人らしきものではなく搭乗員らしきものということは、すでにその行方不明になっている2人のことを特定していますし、
さらにそれがらしきものという表現であれば、それはやはりものとして扱ってしまっているように聞こえてしまいました。
もちろん現場で発見されたのが遺体の一部だったのかもしれないんです。
外見で判断が難しい状況だったのかもしれない。それは想像ができますし、ニュース速報であったということ。
まずそれニュース速報として、第一項としてまず出しましょうということだったのかもしれない。
それでもなお、私だったらどういうかなとその時にいろいろ考えて、人間の体の一部が見つかったと。
そして搭乗員である可能性があるというような、そういった言い方はできなかったのかなと思いました。
事故で命を落とした可能性がある人に対して、その人らしきものという表現であることの痛みって、
これはその人を知っている方だったりとか、その人の帰りを待っている方々、その言葉にどう感じるんだろうかと思いました。
例えば私たち人間は命を終えた時に、それは1人2人とは言わないんですよね。1体2体っていう言い方をします。
なので自衛隊という特殊な組織、例えば人命救助に行った時に、それは体であるという、既に人ではなくてものという、
そういう感覚というかそういう慣例になっているのかもしれないんですが、報道する時には今回のことに限らずですけれども、
その業界その業界の慣例である表現をそのまま報道に載せるっていうことは、
一般の私たちにとっては馴染まないことも多いにあると思います。
搭乗員らしきもの、その人らしきものと言っていることですから、
物扱いというところに、しかもその言葉がスッと流れていってしまったことに非常に違和感を感じました。
言葉の影響
思い出すのは東日本大震災直後の報道です。
あの時は各放送局の言葉選びというのは非常に慎重でした。
遺体という言葉をなるべく避けて、行方不明者の確認が続けられていますとか、
安否の確認が取れていませんというようなギリギリの表現をしていた記憶があります。
それは多分誰かの名前を叫びながらテレビを見ている人たちがいるという想像力が、
言葉の選び方に反映されていたからなんじゃないかなと思います。
そしてもう一つ、報道で使われる言葉というのは、日常の私たちの言葉にも非常に影響を与えるということなんですね。
ニュースで使われる言葉がそのまま社会の語彙になってしまうという一面があります。
だからこそ、たとえ正確性を重視するような報道であったとしても、
人の尊厳という観点を忘れてほしくないなって思いました。
ここまでお話をしてきて、私は言葉にフィルターが必要だってすごく感じるんですね。
そこを素通りしてアナウンサーが喋ることになるんだっていう、
単なるチェックじゃなくて、それを聞いた人がどう感じるかっていう感性のフィルターって大事だなって思います。
報道現場にはスピードが求められますし、まして今回はニュース速報でした。
事実を冷静に伝える姿勢というのも必要です。
でもその一方で、人の命に関わるニュースであればあるほど、
言葉が与える痛みの大きさもきっとはかり知れないものがあるなって思います。
言葉は感情の温度を持っているものだと思うんですね。
なのでその温度を見失わないでいたいなって思います。
それではまた明日。
05:30
コメント
スクロール