小島ちひりのプリズム劇場
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、さまざまな人がいることをテーマにお送りいたします。
弊社への応募理由をお聞かせいただけますか?
どこの会社に行っても必ず聞かれる。
当たり前だ。自分が会社側でも聞く。
でもそんなの決まってるじゃないか。
募集していたから。
それ以外に何があるんだ。
向こうから見て、俺が特別魅力的じゃない人間であるように、
俺にとって魅力的な会社なんてない。
やりたいこともない。
何が得意なのかもわからない。
よくわからないことのために一生懸命になりたくない。
だけど働かなくちゃ生きていけない。
だから就職しようとしている。
ただそれだけだ。
御社を首謀したのは御社の経営理念に共感したからであり、
面接官の目から俺への興味が消えたのがわかった。
経営理念なんて当たり障りのないことを言う俺の話はもういらないようだ。
こんな面接で何がわかるというのだろう。
結局口がうまいやつが勝つということなのか。
それでいいのか。
そう思うが、会社に必要なのはそういうやつなんだろう。
会社は社会じゃない。
会社はそれぞれ自分勝手な集団で、
だから世の中に対して何の義理もないし、
社員に対して親切にする必要もない。
だから別に喜んで働きたいという会社なんてなかなかない。
メディアで取り上げられるような働きやすさを売りにしているような会社はごく稀だし、
だからこそメディアに取り上げられるし、
そんなところに選ばれるのは志と能力の高い人間で、
俺のような凡人が選ばれることはない。
ほとんどは社員のことなんて何とも思っていない会社と、
会社に対する反応と自己の軸を持つこと
俺みたいな何の魅力もない人間が惰性でマッチングするんだ。
なかなか苦戦しているみたいですね。
ええ。
まあ。
面接の予定がなくなってしまい、途方に暮れた俺はキャリア開発家にやってきた。
よそから来ているアドバイザーが何やら面談してくれるらしい。
何か行きたい業界とかやりたい業種とかありますか?
特には。
じゃあ逆にNGは?こういうのは嫌だなとか。
残業が多いのは嫌ですかね。
分かります。俺も残業嫌い。
あと。
あと?
こう、会社に忠誠を尽くすみたいなのがどうも苦手です。
ああ、なるほど。
そんなこと言っている場合じゃないですよね。
そうですね。会社に入っちゃうと会社の命令は、
そうですね。会社に入っちゃうと会社の命令は絶対になっちゃうからね。
それに何となく抵抗を感じるのは分からなくはないですよ。
子供っぽいですよね。
いいんじゃないですか。ちゃんと自分の中でジャッジを持っているってことでしょ。
そうですかね。
会社は自分勝手なだけで正しいわけではありません。
だから自分の軸はちゃんと持っていないといけませんよ。
そういうものですか。
それに一つの会社で長く働かなくちゃいけない時代でもないですし、
どうせ辞めるし、ぐらいの気持ちでもいいんですよ。
そんなネガティブな。
会社は自分勝手ですからね。こっちも自分勝手でいいんですよ。
アドバイザーはにやりと笑った。
これぐらいのふてぶてしさが俺も欲しいと思った。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。