1. 小島ちひりのプリズム劇場
  2. #003 絶望を夢に見る人
2023-11-04 07:44

#003 絶望を夢に見る人

脚本・出演:小島ちひり
収録・編集:三木大樹(有限会社ブリーズ)

noteに本文を掲載中。
https://note.com/child_skylark

【小島ちひり】
劇作家・脚本家。朝ドラと猫をこよなく愛する。
https://twitter.com/child_skylark

#ラジオドラマ #モノエフ朗読 #引っ越し #マンション
---
stand.fmでは、この放送にいいね・コメント・レター送信ができます。
https://stand.fm/channels/647871ce590eb774d1da4879

サマリー

その日、彼はいつも通り午後のワイドショーを見ています。美人アナウンサーの夫と20代モデルとの不倫が笑えると感じています。

引っ越し業者との出会い
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、さまざまな人がいることをテーマにお送りいたします。
美人アナウンサーの夫、20代モデルと不倫。笑える。男なんか信じるからそうなるんだよ。
その日、私はいつも通り午後のワイドショーを見ていた。
まだ薄ぼんやり肌寒く、薄手のカーディガンを着ていた頃だった。
ピンポーンと、玄関のチャイムが鳴った。
はい、はい。
私は何か注文でもしていたっけ?と思いながら、インターホンに出た。
はい、何でしょう。
すると、男の声で、
お忙しいところすみません。本日同じフロアに引っ越してきた松江と申します。ご挨拶させていただけますでしょうか。と言われた。
ああ、そういえば管理会社からそんな連絡が来ていた。
やれやれ、面倒なこと。と思いながら、玄関の扉に向かう。
無愛想にして面倒なことになるのはさすがに嫌だし、ちゃんと笑顔を取り繕って扉を開けた。
そこには三十代くらいの夫婦と三、四歳くらいの子供がいた。
はじめまして、松江です。こちら、本の気持ちですが。と、男がご挨拶、松江、と書かれたのしに包まれたタオルを差し出してきた。
まあ、ご丁寧に、どうも。と、勤めて漢字よく答えた。
子供は女に抱かれ、けげんそうな表情でこちらを見ている。
無愛想な子供だな、と思いながら。
あら、可愛いお子さんね。と、心にもないことを言った。
女は嬉しそうに、ありがとうございます。ほら、ゆうすけ、ご挨拶して、と子供に言ったが、
子供は母親の肩に顔を押し付け、そっぽを向いてしまった。
男が、すいません、緊張しているみたいで、と、へらへらと笑った。
それから四か月ほどたった頃だった。
買い物から帰ってきてエレベーターを降りると、また松江家に引っ越し業者が来ていた。
ちょうど松江夫妻が玄関から出てきたので、
どうしたの?まさか引っ越すの?と尋ねると、
夫のほうが残念そうに、実は急に単身赴任することになっちゃって、と言った。
私が驚いていると、妻のほうが、すいません、おさがわせしちゃって、と申し訳なさそうに言った。
夫のほうは、と言っても半年ぐらいで戻ってくる予定ですし、
妻と子供はこのまま残りますから、今後ともよろしくお願いします、と言って、くったくなく笑った。
ママー、と玄関から子供が出てきた。
ああ、ごめんごめん、と言って、妻のほうが子供を抱き上げた。
夫のほうが、ほら、ゆうすけまかんださんにちゃんとよろしくお願いしますってしてごらん、と言うと、
子供は私に向かって、ぺこっと一瞬頭を下げた。
引っ越してきた時の反応とは大違いだ。
私の過去と松江家の未来
妻のほうも嬉しそうに笑った。
まるでフィクションのような家族だと思った。
その日の夜、見たくもない夢を見た。
私は二十代前半で、最初の支店にいた頃だ。
有志家の二歳上の男と付き合っていた。
男が転勤することになり、私は仕事を辞めついていくつもりだった。
しかし男は、向こうでの生活が慣れたら呼ぶから、と言って一人で行ってしまった。
私は若かったので、いつ呼ばれてもいいようにと待っていた。
男が転勤して三ヶ月後、私は驚かせようとこっそり男が働く支店に向かった。
そして、就業後、出てくるところを待ち伏せしていると、
男は女と腕を組みながら出てきた。
私は驚きのあまり声をかけられなかった。
その一ヶ月後、男は転勤先の女と結婚することになったと聞いた。
女はその土地の資産家の娘だった。
男は退職し、妻の実家の会社を追い出そうだ。
男を信用してはならない。
あれから四十年間、守り続けてきた私の心情だった。
ギリラ豪雨の後、天気が落ち着いたので買い物に出かけた。
その帰り道に松江家の妻と息子に会った。
息子はすっかり私に慣れたようで、変なポーズをしながら挨拶をした。
私は親切心から妻のほうに、
男は浮気するから気をつけたほうがいい、と収告した。
すると、妻は顔を真っ赤にして、
夫はそんな人じゃありません、と言い返してきた。
あんなに必死に否定するなんて、もう夫の浮気に気がついているのかもしれない。
かわいそうに。
男を信じても幸せになんかなれないのに。
足早に去った松江家の親子は、しばらく行くと写真を撮り始めた。
よく見ると彼らの向こうに虹が見える。
あの写真を夫に送るのだろうか。
くったくのない松江家の夫の笑顔が脳裏に浮かぶ。
もしかしたら、あの人は浮気しないのかもしれない。
柄にもなく、そんなふうに思った。
いかがでしたでしょうか。
感想はぜひ、ハッシュタグプリズム劇場をつけて、各SNSにご投稿ください。
それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように、小島千尋でした。
07:44

コメント

スクロール