事件の背景と影響
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、さまざまな人がいることをテーマにお送りいたします。
ここで、ニュースをお伝えいたします。
今朝、男が自宅で同居する両親を視察する事件が起こりました。
男は42歳の無職で、近所の人の話によると、見かけたことがないと言われています。
ひえー、怖い世の中だなあ。
俺はテレビでニュースを見ながらつぶやいた。
この犯人の男は働いたことがないって話だが、ずっと自分を養ってくれた両親を殺してしまって、この先どうするつもりなのだろう。
あ、でももうこの先なんてないのか。あとはずっと牢屋の中か。
オタクがさあ、このサービス使うと客が増えるって言うから登録したのにさあ、全然増えないじゃん。
登録料だけ取られてこっちはマイナスだよ。どうしてくれんの?
大変申し訳ありません。
申し訳ありませんじゃなくてさあ、ちゃんと払った分の仕事をしてほしいって言ってるだけなんだけど。
その、社に戻ってマーケティング部に確認いたします。
確認します確認しますってさあ、もう半年以上こんな感じよ。本当にどうにかできんの?
申し訳ありません。
中川さんのお店を出て角を曲がると、俺はなんだかがっくりと肩の力が抜けてしまった。
うちの会社は飲食店のポータルサイトを運営しているが、最近明らかに集客力が落ちている。
しかしマーケティング部は具体的な対策案が出せず、
俺たち営業が日々利用してくれているお店の人たちから怒られる毎日になってしまっている。
俺は悪くないのにさあ、なんだ謝らなくちゃいけないわけ?
それが営業のお仕事ですから。
いいですよね、瀬川さんは営業事務だから謝らなくていいですもんね。
何言ってるんですか?
営業たちがいない間にかかってきたクレームの電話で謝っているのは私ですよ。
そうなんですか?
自分だけが辛いなんて思わないでください。
そう言って瀬川さんはパソコン画面に視線を戻した。
まだ集客ができていた頃は、みんな喜んでサイトに出てくるようになっていた。
まだ集客ができていた頃は、みんな喜んでサイトに登録したいって言ってくれたのに、世知辛いもんだ。
小原美月と言います。よろしくお願いします。
岩下裕作です。よろしくお願いします。
それでは1分トークスタートです。
周りは気合を入れてめかし込んだ男女が少しそわそわしながら話している。
ここは婚活パーティー。
妙にキラキラしているが、妙に緊張感のある空間だ。
あの、岩下さんはどんなお仕事を?
僕は営業をやっています。
大変なお仕事ですよね。
そうなんですよ。自分は悪くないのに謝らなくちゃいけないし。
まあ、それは大変ですね。分かってもらえます?
いや、でも分からないだろうな。
男の人はそうやって、毎日大変な思いをされながらお仕事されて、本当にすごいですね。
そう、そうなんですよ。男の仕事は女性の仕事より責任が重いですからね。
それでは皆様、カップリングが成立した方は、お渡ししたカメにお相手の番号が書いてあります。一斉に開きましょう。せーの。
おそろおそろ開くと、12番と書いてあった。
え?
振り向くと、美月さんがこちらを向いてにっこりと笑った。
そうそう、だから新しい彼女ができそうだからさ、安心してよ。
どんな人なの?
家に帰ると、お袋から着信があったので、折り返してとりあえず美月さんのことを報告することにした。すっげえ可愛い人。
おいくつの人?
えっと、プロフィールには32歳って書いてあったかな。
32?年上じゃない。
でもすっごく可愛いんだって。
お仕事は?
たしかオフィスビルの受付って書いてあったかな。
だめよそんな人。男に媚びを売る仕事でしょ。
何言ってんの?受付って来社した人の対応をしたりする人のことだよ。
男にチヤホヤされてニコニコする仕事でしょ。
母さん、なんか変なドラマでも見たの?
とにかくその人はだめよ。20代の人にしなさい。
電話はブツッと切れた。
まったく、母さんは勝手だ。せっかくあんな美人とマッチングしたのに、何た断りの連絡を入れよう。
うちのお兄ちゃんが将来人を殺すかもしれないから結婚できないって言ってるの?
ふと、真由美と別れた時のことを思い出す。
真由美のお兄さんは自称シンガーソングライターで、実際はニートとして真由美の実家で暮らしていた。
結婚するつもりだったが、そのことを母さんが懸念して別れることになった。
俺はベッドに寝転がり、テレビをつける。
先日起きた同居の両親の殺人事件ですが、その後男は両親から働くよう言われ、
嫌気が刺して殺したと供述していることが分かりました。
ひえー、勝手なやつだな。
こういう事件を見ると、母さんは、
こういう事件を見ると、真由美と結婚しなくてよかったと思う。
うっかり殺人犯の親戚になってしまうところだった。
営業職の苦悩
でも真由美はいいやつだった。料理もうまかったし、明るいやつだった。
顔は正直美月さんの方が可愛いが、でも真由美と一緒にいるのは楽しかった。
大変申し訳ありません。
だからさ、岩下さん、謝ってほしいわけじゃないって言ってるじゃない。
今、マーケティング部が試作の準備をしておりますので。
もういいよ。
え?
だからさ、もう今月で登録やめようと思って。
そんな、あの、登録料、安くしますから。
安くしてもらったところでさ、お客さん一人でも増えなかったらさ、それでもマイナスじゃん。
そこをなんとか。
ごめんね。もう決めたことだから。
顧客を一見失い、どん寄りした気持ちで車に戻ると、さらにショックな報告をされた。
え?瀬川さん退職するんですか?
あと1ヶ月はいますから、引き継ぎちゃんとやるんで安心してください。
そういう問題じゃなくて。
岩下さんはどうするんですか?
え?引き継ぎですか?
いえ、なんでもありません。
引き継がれたところで、俺ジムとかできないんですけど。
知っています。岩下さんの金融ミス、ずっと直してきたの私ですから。
だって、それが瀬川さんの仕事でしょ?
瀬川さんは無表情で俺のことを見た。
確かに、私の仕事は営業の方のお仕事をサポートすることです。
その中にミスの修正が入るかどうかは解釈が分かれるところだと思いますが、
私の解釈では、入りません。
俺は、瀬川さんが何を言っているのかよくわからなかった。
あなたは、ご自分が泥船に乗っていることに気がついていないんでしょうね。
瀬川さんの用意してくれたマニュアルを読んだが、正直よくわからなかった。
いかがでしたでしょうか?
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それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。小島千尋でした。