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その、哺乳類でオスが子育てをする種っていうのは、ごく一部なんです。
すべての哺乳類で、メスは子育てをしていて、子供に栄養を与えたり、温めたり、危険から守ったりしています。
でも、大半の種では、オスは子育てに直接は参加しません。
ライオンなんかで有名なんですが、むしろ血の繋がらない子供を攻撃して殺す、いわゆる子殺しが見られる動物もいます。
これに対して、ごく少数、全体の3から5%の種では、オスも子育てをしています。
マーモセットっていう猿とか狼なんかの犬科の動物が有名なんですが、こういった動物の一部では、そのオス自身の子供の育児ではなくて、他の子供に対しても育児行動が見られるんです。
つまり、親族とか群れの仲間の育児を助けるようなこともあるわけなんですね。
人間も、この数パーセントに含まれるオスが子育てを行う哺乳類の一つということもできます。
ただし、こういった動物でも全てのオスが子育てを行うわけではないんですね。
積極的に育児を行う個体もいれば、全く何もしない個体、あるいは子殺しを行うオスもいるっていう風に、オスの子育て行動には個体差が見られる場合があります。
しかし、この違いの理由っていうのはよくわかっていません。
というか、オスの子育て行動の神経的な仕組みについては、まだわかってないことが多いんです。
メスの子育て行動については、ここ数十年で結構研究が行われていて、比較的多くのことがわかってきています。
まず、メスの子育て行動には脳の中の思想下部の一部が重要であることがわかっています。
思想下部っていうのは脳の奥にある小さな領域で、体の状態とか本能的な行動を調節する指令等にあたるような部分です。
その中に内側視作前夜と呼ばれる領域があって、英語ではメディアルプレオプティックエリア、MPOAと呼ばれます。
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この領域がメスの子育て行動に重要で、この場所でオキシトシンとかプロラクチンっていう伝達物質が働くことがわかっているんです。
しかし、オスの子育てについてはメスほどはわかっていません。
動物の研究っていうのはモデル生物と呼ばれる、実験上都合のいい限られた種類の動物を使って行われることが多いんです。
哺乳類だとマウスとかラットが使われることが多いんですが、遺伝子を改変したり、体の中で何が起きているのかを調べるためのツールがたくさんあって、研究するのに便利なんです。
先ほどのメスの子育て行動についても、マウスやラットを用いた研究を中心に解析が進んできました。
でも、これらの月種類のオスはあんまり子育て行動をしないんですね。
通常、オスのマウスは子供のマウスを攻撃します。だから子殺しをするんです。
交尾をした後の一定の期間はオスは子殺しをしなくなるんですが、交尾をしてしばらくした後に自分の周りにいる子供のマウスは自分の子供である可能性が高いので、これは子孫を残すために適応的な行動変化になります。
でも、そのようなオスでも通常はそれほど養育を行うわけではないんです。
ただ、子ネズミとオスを長く一緒にいさせることで、人工的に子育て行動を引き起こすことができることが報告されています。
こういった誘導したオスの子育てについての研究というのはあって、その結果オスでも思想株のMPOAが子育て行動に関与するということが示されています。
でもこれは人工的な経営なんです。人を含め自然に起こるオスの子育て行動がどのようにして起こるのかについてはあまりよくわかってないんです。
またオスでは子育てをする者、無関心、子殺しまで個体差があるわけなんですが、これがどのようにして生じるのかについてもわかっていないわけです。
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今日はアフリカシマネズミという、あまり実験モデルとしては一般的ではない動物を使って、この点を調べた研究を紹介します。
ポッドサイエンティストへようこそ、サトシです。
今日紹介するのはプリンストン大学のフォレスト・ロジャースらによって行われた研究で、2024年2月のネイチャーに発表されたものです。
アフリカシマネズミはアフリカ南部に生息する小型のゲッシ類です。
シマ模様があるのでシマネズミと呼ばれます。
あまり神経科学の実験で使われることのない動物なんですが、よく使われるマウスやラットとは違って、オスが子育てに関与します。
父親として子育てもするんですが、自分の子供でない個体に対しても舐めて毛づくろいをしたり、覆いかぶさって温めるように寄り添うっていう養育行動を行うんです。
このような行動はマウスの場合みたいに誘導してやる必要がなくて、シマネズミの場合は交尾経験のないオスでも自然に自発的に子育て行動を示すんです。
また個体差もあって子育て行動を行うオスもいれば無関心なオスもいるし、子供に攻撃を行うオスもいるんです。
この違いはどのように生まれるのかを調べるっていうのがこの研究の目的になります。
野生のシマネズミの生活なんですが、社会性のある動物でいくつかの異なる社会的環境で生活します。
オスとメス両方がいる群れで生まれて、そこでずっと生活する個体もいるんですが、オスはそこから出ていくこともあります。
で、出ていった後に一匹で行動するかというと必ずしもそうではないんですね。
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資源の豊富さとか個体の密度っていう環境条件によって一匹で行動する場合とオスが何匹か集まって群れになる場合があります。
さて今回の研究ですが、野生のシマネズミではなくてシマネズミを飼育して実験しています。
オスを飼育するときに単独で飼育するのとオス数匹を一緒に飼育するパターンを用意しておいて、野生でのシマネズミのオスの生活を模した環境を作っています。
どのように育児行動を測定したのかですが、飼育していたオスを一匹別の部屋に移動します。
そこに生後数日の子供のシマネズミを一匹置いて、オスがどのような行動をとるかを録画します。
そのビデオを見て、どれくらい子供を舐めるかとか、覆いかぶさったかを測定して、それを育児行動の指標とします。
それとは別に、子供に対して攻撃をするかもリアルタイムで観察していて、攻撃が起きたときにはそこで実験を終了にしています。
この実験をやって、まず、攻撃経験がないオスでも育児行動をすることが確認されました。
ただし、全てのオスが育児行動をするわけではなくて、個体差が見られました。
一部のオスは子供に対して無関心で何もしなかったですし、さらに一部は子供に対して攻撃をすることも示しています。
野生の状態を模して一匹で飼育されるオスと、数匹のオスを一緒に飼育している群れのオスがいたわけなんですけれども、この2つの条件を比較すると違いがあることがわかりました。
群れで育ったシマネズミのオスは、子供を攻撃する個体とか無関心な個体が多かったんです。
でも単独で育った個体では攻撃をする個体は全くいなくて、半分以上が子育て行動を示したんです。
というわけでシマネズミのオスは育児行動をするんだけど、これには個体差があるということがまずわかって、この個体による違いっていうのは一部は育ってきた環境によるものだっていうことがわかったっていうことになります。
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次に育児行動に関係する脳の領域を調べていきます。
このために子供のシマネズミがいるときにオスの脳のどの部分が働いているのかを調べていったんです。
神経細胞が活動すると特定の遺伝子、フォスっていうのの発現が増えるっていう場合があって、この遺伝子が働いていた場所を調べればどの神経細胞が活動していたのかがわかるんです。
それで子供と一緒にいたときにこの遺伝子が働いている量が増える領域を探しました。
その結果、いくつかの領域でフォスが増加しているっていうことがわかったんです。
その中でもMPOAは育児行動の違いと強く対応していたんです。
子育てを行うオスと無関心あるいは子供を攻撃するオスを比べてみたら、子育てを行うオスの方がMPOAでの活動が大きいっていうことがわかったんです。
先ほど触れたようにこの領域はメスの育児行動と関係がある領域なんですね。
なのでシマネズミのオスの育児行動でもメスと同じ領域が関わっているっていうことがわかったんです。
次に育児を行うオスと子供を攻撃するオスではMPOAの何が違っているのかを調べました。
このためにこの領域で遺伝子の働きにどのような違いがあるかを網羅的に解析したんです。
つまり育児をするしないで発原量に違いがある遺伝子を探していきました。
そうしたら一つの遺伝子で特に大きな違いが見られたんです。
これがアゴウチと呼ばれるものなんですけれども子殺しをするオスではこのアゴウチが大幅に増加していました。
アゴウチっていうのはもともとは動物の体の色を調節する遺伝子として見つかったものでメラニンの生成を制御することが知られています。
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他に食欲とか肥満との関係も知られているんですがこれまで子育てみたいな行動に関係するっていう話は全くなかったので意外な結果だったんです。
ただし育児をしないオスでアゴウチが増えているからといってこれが必ずしも育児行動と関係があるかはまだわかりません。
アゴウチが育児とは関係なくて育児を制御しているものは別にあるっていう可能性もあるわけです。
そこでアゴウチによって育児行動が変化するのかを直接検証しています。
具体的にはウイルスを使ってアゴウチ遺伝子をシマネズミの脳に入れてMPOAで人工的にたくさんのアゴウチを作らせるっていうことをしています。
しかも同じ個体での影響を調べるためにまず1回子育てをするかをテストしてからウイルスを導入してしばらくしてから再度そのオスをテストしています。
これによってもともと子育てをするオスではどうなったかとか無関心だったオスではどうなったかっていう風に調べることができるわけです。
子殺しをするオスではアゴウチが多かったっていう話でしたからアゴウチは子供への攻撃を増やす因子である可能性が想像できるわけです。
これを踏まえて結果です。
まずもともとは無関心だったオス子育てはしないんだけど攻撃もしないオスでアゴウチを作らせた場合には子供を攻撃するオスが増えました。
だからアゴウチを増やせば子育てでも攻撃でもない言ってみれば中間の状態にいたオスを攻撃側にシフトするっていう結果だったわけです。
次はもともと子育てをしていたオスですがこの場合はアゴウチを増やすと子育て行動が一部減ったんですが攻撃は増えていませんでした。
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だからアゴウチによって子育てから無関心に近づいたんだけど攻撃までにはならなかったっていう結果だったわけです。
以上の結果をまとめるとアゴウチを作らせると子育てから無関心、無関心から攻撃への方向にオスの行動が変化したということになります。
この実験ではウイルスを使ってアゴウチの量を変化させていますからアゴウチ自体に行動を攻撃側へシフトさせる作用があるっていうことが示唆されたことになります。
先ほど少しアゴウチは食欲に関係があるって言いました。
だとするとアゴウチが多いオスでは単に空腹を感じているから攻撃的だったっていう可能性も考えられます。
そこでこの研究ではエサを減らしたり空腹状態と満腹状態を比べたりをしたんですね。
しかしエサの量を変えてもアゴウチの発言とか子育て行動は大きくは変わらなかったんです。
なので少なくとも調べた範囲では食欲は子育て行動には関係なさそうだっていうことを示しています。
ですからシマネズミのオスではアゴウチが子育てに関わるっていうことが明らかになったわけです。
以上の結果をまとめるとまずシマネズミのオスは哺乳類としては珍しく子育て行動を示します。
しかしこれには個体差があって無関心な個体や子殺しを行う個体もいたわけです。
この違いは少なくとも部分的には育ってきた環境で決まっていて単独で育ったかそれともオス数匹の群れで育ったかで変わるっていうこともわかりました。
また子殺しを行う個体ではアゴウチっていう遺伝子の発現が増えていてこれが行動を攻撃の方にシフトさせているっていうことも示唆されたんです。
ただしこのシマネズミで見られたことが他の動物、マウスとか人でも起きているかはまだわかりません。
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またアゴウチ以外の因子も関わっている可能性も残されています。
オスが子育て、特に自分の子供ではないこの養育を行う動物は哺乳類では少ないですが人はその一つだと言えます。
そのような動物でのオスの育児行動には個体差が見られることがあります。
しかし代表的なモデル生物であるマウスやラットのオスは通常はあまり子育てを行わないのでこの神経的な仕組みを調べるのには限界がありました。
そこを調べたっていう点で今回のアフリカシマネズミの研究はユニークで価値のあるものです。
そしてこの研究の結果、生育環境により一つの分子に違いが生まれ、この分子には育児行動を変化させる作用があることがわかりました。
子供の生存を分ける重要な行動の選択が一つの分子的なスイッチでも代わり得ることを示した研究でした。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。