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2024-10-31 19:09

S2E21 麻薬の依存性をもたらす2つの作用

麻薬に依存性をもたらす報酬としての作用(ポジティブな強化)と不快な退薬症状(ネガティブな強化)が、別のメカニズムなのかを調べた研究です。

論文

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07440-x 

参考

https://www.nature.com/articles/d41586-024-01361-5

サマリー

このエピソードでは、麻薬の依存性についてのメカニズムが探られています。特に、ポジティブな強化とネガティブな強化の2つの作用が、フェンタニルのような麻薬にどのように影響を与えるかが詳しく説明されています。麻薬依存に関する研究では、ポジティブな強化とネガティブな強化が異なる神経回路によって起こることが示されています。特に、フェンタニル依存のマウスを用いた実験を通じて、変動体の神経がネガティブな反応に関与していることが明らかになっています。

麻薬の定義と依存の問題
今日は、麻薬の依存性について話していきたいんですね。
広い意味で麻薬っていうと、コカインとかタイマが含まれるんですけど、通常はモルヒネやヘロインのような血脂っていう植物から取れる鎮痛作用を持つ薬物や、それに似た合成薬物のことを指します。
麻薬は危険な薬物っていうイメージがあるわけなんですけど、頭痛薬のようなものよりも鎮痛作用がずっと強いので、医療上どうしても必要な薬物で、手術時とかがんの痛みに使用されています。
しかし、よく知られているように麻薬には依存性があります。
日本では他の薬物の依存症に比べて麻薬の依存はかなり少ないんですが、アメリカでは近年麻薬が社会問題になっています。
この背景なんですが、1990年代にオキシコドンなどの新しい麻薬性鎮痛薬が開発されたんです。
これがモルヒネのような従来の麻薬よりも依存性が低いと謳われていたために、非常に多くの人に処方されたんです。
でも実際はその依存性は高く処方された多くの人が依存症になりました。
最初はこういった処方薬の乱用が多かったんですが、より安価なヘロインに流れて、違法に麻薬を使用する人が多くなります。
さらにその後、より強力な作用を持つフェンタニルという麻薬性鎮痛薬が、ブラックマーケットを通じて外国から大量に供給されるようになります。
その結果、多くの人がフェンタニルを違法に使用するようになったんです。
麻薬性鎮痛薬の最も危険な副作用が呼吸の抑制です。
フェンタニルはこの作用も強く、毎年多くの人がオーバードースによる呼吸停止で亡くなっています。
2022年の統計では、この1年間に7万人以上が亡くなっているんです。
これはとんでもない数字で、過去の薬物問題、例えば80年代のコカインなんかを遥かに超える深刻な危機となっていて、その収束も全く見えていません。
依存を引き起こす作用
なぜモルヒネやフェンタニルのような薬物に依存性があるかですが、2種類の作用によるものだと考えられています。
1つはポジティブな強化です。
麻薬を使うと幸せな感覚、多幸感というのがあるんですけど、これは脳において快楽に関わる報酬系を刺激するからだと考えられています。
脳の中の腹側被害やVTAと呼ばれる場所にはドーパミンを作る神経があります。
麻薬がそこからのドーパミンの放出を引き起こすことが多幸感をもたらすという考えがあります。
そしてそのような多幸感を得るために麻薬を求めるというのがポジティブな強化です。
もう1つはネガティブな強化で、これは禁断症状あるいは対薬症状と呼ばれるものと関係があります。
麻薬を繰り返し使用していると、麻薬に体が慣れて麻薬が切れた時に不快な身体症状が現れるようになります。
この症状を対薬症状と言うんですが、これは麻薬を取ればなくなるので、だから麻薬を求める。これがネガティブな強化になります。
さて、この2つの作用を麻薬がどのようにして引き起こしているのかですが、ポジティブな強化については有力な仮説があります。
VTAのドーパミン神経は通常はドーパミンを放出しないように抑制されています。
麻薬はこの抑制を解いてドーパミンを放出させる。その結果幸せな感覚があるという仕組みです。
つまり麻薬が結果的にドーパミンの放出を促進するという考えなわけですが、他の仮説というのもあって完全には結論が出ていない状態です。
そしてネガティブな強化の方、不快な退薬症状についてですが、こちらはさらにはっきりしていません。
ポジティブな強化と同じように、VTAのドーパミンが関わっていて、これが退薬症状にも関わっているというシンプルな考えもあるんですが、よくわかっていないというのが現状です。
研究の実験と結果
多くの死者を出し、さらにそれ以上の多くの人の生活を壊している麻薬依存の問題を解決するのには、脳の中でどのように依存が引き起こされるのかを理解することが不可欠です。
今日は麻薬依存のメカニズム、特にネガティブな強化に関わる神経回路を明らかにした研究を紹介します。
ホットサイエンティストへようこそ、サトシです。
今日紹介するのは、ジュネーブ大学のファブリス・ショーダンらによる研究で、2024年5月にNatureに発表されたものです。
この研究では、マウスで合成麻薬フェンタニルの依存とその対薬症状を調べているんですが、マウスも麻薬依存になることがわかっています。
実験の条件としては、まずマウスにフェンタニルを5日間、量をどんどん増やす形で投与していきます。
そしてその後、ナロキソンという薬物を投与します。
ナロキソンは麻薬の効果を打ち消す作用を持っていて、人では麻薬のオーバードーズによって危険な状態の時に投与して、そこから回復させるという目的で使われています。
この実験では、ナロキソンを投与することで、フェンタニルの効果をなくして、対薬症状を引き起こすために使われているわけです。
実際、マウスにフェンタニルを投与すると、その効果で運動量が増加するんですが、ナロキソンを投与すると運動量が減って、動かないことが多くなったということです。
さらに、ジャンプをするというのが見られました。
対薬症状としてジャンプが見られるのはマウスでは一般的で、不快感によるものだと考えられているようです。
ですから、今回の実験条件でも対薬症状がちゃんと見られているということになり、このジャンプがどれだけ起きたかを対薬症状の指標として用いていきます。
この条件のマウスを使って、まず依存と対薬症状が起きている時に脳のどの部分が働いているのかを調べました。
神経細胞で活動が起きると働き出す遺伝子があるんですが、それがどこで働いているかを検出する手法があるので、
フェンタニルを与えた時、そしてさらにナロキソンを与えた時にどこで検出されるか調べたわけです。
まずフェンタニルだけ与えた時に、VTAで活動が見られることが分かりました。
ここは報酬系をなす神経回路の一部でドーパミン神経があるわけです。
だからすでに考えられていたように、麻薬でドーパミン神経が働くということが確認されました。
これに対してフェンタニル投与の後にナロキソンを与えて、対薬症状を引き起こした状態では、
変動体っていう別の場所での神経の活動が見られました。
変動体は感情にとって重要な場所で、変動体の中でも特にストレスや恐怖みたいな負の感情に重要な部位で神経の活動が見られていました。
この結果からフェンタニルへの反応には報酬系のVTAが、
対薬症状には変動体が関わっていることが考えられます。
次は実際にこれらの領域がフェンタニルと関わっていることを調べるための実験を行っています。
これらの領域にフェンタニルが作用しているのであれば、
ここにあるフェンタニルと反応する分子、受容体とフェンタニルが作用しているということになります。
そこでこれらの脳の部位だけで受容体を働かないようにしたときにどうなるかを調べれば、これらの部位の作用がわかるわけです。
ウイルスを局所的に感染させることでこういったことができるので、
実際に麻薬の受容体をVTAもしくは変動体で働かなくする実験を行いました。
まず、VTAで麻薬受容体を除いた場合ですが、フェンタニルに対する反応自体が減っていました。
だからこの領域がフェンタニル自体が起こす作用、つまりポジティブな強化に関わっていると考えられます。
逆に変動体で麻薬受容体を除いた場合には、対薬症状としてのジャンプが減っていました。
だから変動体は対薬症状、ネガティブな強化に関係していると考えられます。
最初に話したように、麻薬のもたらす多効感などの反応とそれによるポジティブな強化については、
VTAを含む報酬系の神経回路が関与することが有力な仮説としてあったわけで、
今回の実験でもフェンタニルの作用にVTAが関わっていることが示されたわけです。
麻薬依存の研究
しかし、よくわかっていなかったネガティブな反応については、報酬系とは別の神経回路によって起きていて、
変動体が重要であることがここまでの実験で示されたわけです。
さて、フェンタニルを与えられたマウスでは、ナロキソンによって対薬症状が起きている状態では、
変動体の神経が活動するっていうことでした。
しかし、この変動体の活動が確かにマウスにとって不快なものであるかはわからないので、最後にそれを調べる実験をしています。
もし不快な対薬症状がこの変動体の神経の活動によって引き起こされるのであれば、
変動体の神経を人工的に刺激してやれば、ナロキソンを投与していなくてもマウスは不快なはずです。
人工的な刺激、具体的には光で神経をONにできるタンパク質があるんですね。
それで、これを変動体の神経だけで作るマウスを作成しました。
こうすれば、実験者が好きなときに変動体の神経をONにしたりOFFにしたりすることができるわけです。
さらに、変動体の神経がONになることがマウスにとって不快なのかを調べるために、
ONの状態とOFFの状態を選ばせる実験を行っています。
あらかじめフェンタニル依存になったマウスを部屋に入れるんですけど、
部屋を区切って半分の場所にいるときには神経がONになって、
残りの半分にいるときにはOFFになるように自動的にスイッチがコントロールされるようにしました。
この状態でどちらの場所にマウスが移動するかを調べました。
なんかすごいことをしているなと思うと思うんですけど、そうなんです。
今はこんなすごいことができるようになってきています。
この結果ですが、神経がOFFになる場所をマウスは好んだんです。
これでフェンタニル依存のマウスは、変動体の神経がONになるのが不快だと考えることができます。
さらにダメ押しの実験をしていて、このスイッチをマウス自身がレバーを押してコントロールできるようにしました。
いつも神経がONになるようにしておいて、マウスがレバーを押しているときだけ神経がOFFになるようにしたんです。
そうしたらマウスは学習をしてレバーを押すようになったという結果でした。
そういうふうにわざわざレバーを押すということは、マウスにとってそれが意味があること、
つまり変動体の神経がONだと不快で、OFFにすると柔らぐのだと理解することができます。
他にもいろいろな実験をしているんですけれども、今回の研究では少なくともマウスでは、
麻薬依存のポジティブな強化は報酬系の神経回路によって起こり、ネガティブな強化、退薬症状は変動体の神経によって起きることが示されたわけです。
麻薬の鎮痛作用と依存の理解
つまりポジティブな強化とネガティブな強化は別の場所で起こるという興味深いことを明らかにしています。
また最近麻薬の鎮痛作用がどの神経回路で起きるかがマウスで明らかになっています。
これが麻薬依存とは別の場所であることが示されているんです。
麻薬の鎮痛効果は医療上非常に重要なので、これは残したまま依存に関わるところを止めるようなことができれば理想的なわけです。
今回の研究では、それを行うためには報酬系だけをターゲットにすればいいわけではなくて、ネガティブな強化は別の場所で起こることを示して、別のターゲットを明らかにしています。
これによって依存についての理解を一歩進めていて、依存症の予防と治療に将来つながる研究だったわけです。
今日はお知らせがあります。
もうすぐなんですけど、11月の2日、3日に東京下北沢のボーナストラックというところでポッドキャストウィーケンドっていうイベントがあるんです。
それの3日、日曜日に少し行こうと思っています。
ポッドキャストリスナーの人でそれに行くっていう人多いと思うんですね。
この番組のリスナーの人で行くっていう人がいれば、ご挨拶できればと思っております。
なんですけど、特にブースを出したりしてるわけではないので、お互い見つけにくいと思うんですね。
なので、もし興味がある人がいれば事前に連絡していただけると嬉しいです。
XのDMかお便りフォームの方へよろしくお願いします。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。
最後までお付き合いありがとうございました。
19:09

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