1. ポッドサイエンティスト
  2. S2E4 ヒトの脳で本当に起きて..
2024-06-06 19:39

S2E4 ヒトの脳で本当に起きていること

社会的な判断をするときに、ドーパミンとセロトニンがどのように働いているかを、ヒトの脳に電極を入れて調べた研究の話です。


論文

https://www.nature.com/articles/s41562-024-01831-w

参考

https://www.nature.com/articles/s41562-024-01832-9


DIME 7月号

https://www.amazon.co.jp/dp/B0D2LRBFYZ


ポッドサイエンティスト X(旧Twitter)アカウント

https://x.com/podscientist

00:02
脳の中でドーパミンが働いてどうなるとか、セロトニンが働いてどうなるとか、そういう話をよく聞きますよね。
これらの物質っていうのは、神経伝達物質って呼ばれるものなんです。
脳の中にはたくさんの神経細胞があるんですけど、細胞同士が連絡を取り合っていて、そのおかげで複雑な情報処理ができるんです。
この連絡、情報の伝達に働いているのが神経伝達物質なんです。
だから、ドーパミンとかセロトニンを作る神経細胞がいて、そこから放出されるわけですね。
それが別の細胞に情報を伝えるということになります。
例えば、ドーパミンは報酬に関わると言われるわけなんですけれども、それはつまり報酬と関係あるような刺激があったときにドーパミンが放出されて、その結果行動の変化につながるというようなことを言っているわけです。
でも、こういう知識はほとんどは動物を使った実験によって得られたものなんです。
だから、人間の脳の中で本当は何が起きているのかはよくわかっていない面があるんですね。
動物が生きていく上で、基本的な部分は人でもその他の動物でも同じだろうけど、
例えば社会的な関わりみたいな複雑な状況で、実際にドーパミンやセロトニンが何をしているかは人で調べないと本当のところはわからないわけです。
人の研究だと、ファンクショナルMRIみたいなイメージングの研究だったり、製薬はあるんですけど、薬を投与してこれらの神経電達物質の働きを強くしたり弱くしたりするという研究があります。
でも、こういった手法は時間的・空間的な解像度があまり高くなくて、細かいところまではわからないという問題があります。
薬を使った実験は、確かにドーパミンとかセロトニンが関わっているということを示すことはできるんですけど、
例えば脳の中ではどのタイミングで放出されているのか、どれだけ放出されている量が変化しているのかみたいなことはわからないわけです。
03:08
だから、人の脳の中で起きていることは、動物実験と限られた人での実験で状況証拠を積み重ねて推測していくということになります。
当然、人の頭を開いて電極を差し込んで測定するなんていうことはできないので、これは仕方がないわけです。
でも、何事にも例外はあるわけで、今日は人の脳に電極を差した状態で、社会的行動を調べるタスクを行ってもらって、その時のドーパミンとセロトニンの放出を測定した研究を紹介します。
ホットサイエンティストへようこそ、佐藤です。
今日紹介するのは、バージニア工科大学のセス・バテン・ラニュール研究で、2024年2月にNature Human Behaviorに掲載されたものです。
研究のためだけに脳を開くようなことはできないんですが、この研究では、他の目的で意識を持ったまま脳の手術を行う必要のあった人で、その手術の際に実験を行わせてもらうという形で行われました。
もちろん稀なんですけど、こういうのは時々行われるタイプの研究で、手術としてはパーキンソン病患者に心部脳刺激装置を埋め込む時に行われました。
パーキンソン病というのは、脳のドーパミン神経が足りなくなる病気で、運動に異常が生じるものなんですけど、薬での治療がうまくいかない時に、神経を直接刺激する装置を脳内に埋め込みます。
この手術では、装置が適切に設置されていることを確認しながら行う必要があるので、患者が覚醒した状態で行われます。
それで手術中でも意識がある状態なわけで、こういった研究が可能なんです。
この装置は脳の中の支障下核というところに埋め込むんですけれども、このすぐ近くの酷質と呼ばれる部位まで電極を入れて、神経伝達物質の測定をしています。
06:14
だから、研究のためだけに脳に穴を掘っているというわけではないんです。
この酷質というのは、ドーパミン神経があるところで、特に今回測定を行った酷質盲腰部という場所は、ドーパミンもセロトニンも放出される場所です。
今回使っている電極が、ドーパミンセロトニンの放出をリアルタイムで測定できるという優れた装置で、この部位の伝達物質の変化を測定していきました。
患者さんが行ったタスクですけれども、アルティメータムゲーム、もしくは究極の選択ゲームと呼ばれるもので、社会的な公平性への反応を調べるためによく行われるものです。
内容としては、2人が参加して20ドルを山分けするというものです。
この2人をAとBとすると、片方の人Aは20ドルを自分ともう1人Bとの間に自由に割り振ることができます。
例えば、自分は12ドル、Bには8ドルとかすることができるわけですね。
次に、Bはその金額を知らされて選択ができます。
受け取るという選択をしたときは、その金額8ドルを受け取れるし、Aも残りの12ドルを受け取れます。
でも、このオファーを断ることもできて、その場合はどちらも0ドルとなって、お金を受け取れないということになります。
これを繰り返すというゲームなんですけど、相手のことを考えなければ、Bは毎回受け取った方が得なはずなんですね。
でも実際は、金額が20%以下、4ドル以下だと断ることが多いということが既に示されています。
そういうオファーであれば不公平だという気持ちになるというのはわかると思います。
今回の研究では、Bの役、受け取るかどうかを決める役を電極を繋いだ参加者にやってもらっています。
さらに工夫があって、参加者にはAの役については、人間がやっていると伝えているバージョンと、コンピューターで決めていると伝えるバージョンの2種類をやってもらっています。
09:15
まずゲームの結果なんですけれども、人間が相手だと思っている時の方が、コンピューターが相手だと思っている時よりもオファーを断った割合が高かったということです。
金額が少ない時に不公平だと思って断るわけなんですけど、相手が人間の場合はそういう社会的規範を求めるわけですが、コンピューターの時はそうではないということで、この感覚も多くの人が理解できるのではないかと思います。
このゲームをしている時に脳の中のドーパミンとセロトニンがどうなっていたかですが、ドーパミンの放出は人間相手の時の方がコンピューター相手の時よりも高かったけど、セロトニンはどちらも同じだったということです。
だから、相手によって反応を変えているわけなんですけど、そのプロセスにドーパミンが関わっているかもしれないということです。
さらに、オファーされた金額と神経電達物質の関係も調べています。
まずセロトニンですが、オファーされた金額が高ければセロトニンの放出が多く、金額が少なければセロトニンも少ないという結果で、セロトニンは金額そのものに反応しているということでした。
ドーパミンの方はどうだったかというと、金額そのものとはあまり相関がありませんでした。
でも、今の金額と一つ前の金額の違いに関係があって、一つ前のオファーの金額との差額が大きければドーパミンが放出され、少なければ少ないという結果だったんです。
セロトニンの方はこの金額とは関係がなかったということです。
というわけで、ドーパミンとセロトニンはどちらも放出に関係があるんだけど、違う要素に反応しているということがわかったわけです。
12:01
セロトニンは放出の量そのものに関係があったけど、ドーパミンは放出が増えたか減ったかに反応しているということなんです。
動物の研究などから、ドーパミンは放出の予測誤差、リワードプレディクションエラーと関係があるとされています。
これはつまり、これくらい放出があるだろうと思っているのと、実際の放出のずれに反応してドーパミンが放出されているということです。
今回の研究では、ドーパミンが人の脳の中でまさにこのような反応を示すということが確認されたわけです。
今回の研究についてはいくつか限界もあります。
まず一つは、パーキンソン病患者で研究が行われている点です。
パーキンソン病はドーパミンの神経が減っていく病気なので、ドーパミンの反応がちゃんと測れているのか、健康な人でも同じなのかというのは疑問が残ります。
極端にドーパミンが減っている患者で行われているわけではないし、個人の中での放出量の変化を見ているので大丈夫だろうと論文中に記述がありました。
さらに過去の研究で、ドーパミン欠損で起きるパーキンソン病と別の原因で起きる運動障害の患者との比較をしていて、ドーパミンの放出には大きな違いがないという結果もあるんです。
でも実験の機会が限られているので確認の難しいところになります。
さらに、パーキンソン病の治療のための装置を入れる場所を今回の実験で測定しているという都合から、ある特定の場所だけを調べているわけです。
ここは運動にとって重要な場所で、報酬などに関わる主要な部分ではないという問題があります。
でもドーパミンとかセロトニンというのは比較的少ない部位から脳の広い範囲に作用するというものなので、どこでも同じタイミングでこれらの神経伝達物質が働いているという可能性はあります。
15:01
でもこれも確認が必要な点になります。
さらに今回の研究というのは4人の参加者だけからデータを集められたという参加者の少なさもあります。
これは様々な理由で非常に困難な実験なので、これはどうしようもないところで、そもそもこんな風に実験が実現して、生きている人間の中で神経伝達物質の動きを見るなんていうことが可能になっているということが驚くべきことなんです。
病気の治療のための手術と一緒に行われたとはいえ、この研究に参加することに同意したパンキンソン病患者の人たちっていうのは全く必要のないリスクをとっているわけなんです。
科学の発展のためっていう、言ってみれば理他的な目的で協力しているっていうことに論文の著者らは大きな感謝を示していて、この参加者こそがこの研究のヒーローであると述べていました。
ちょっと驚くようなことがあったのでご報告です。
DAIMUっていう雑誌があるんですが、先日発売された7月号で音声メディアの特集をやっていたんですね。
それでいくつかのポッドキャスト番組を紹介してたんですけれども、そこに当番組も少し紹介されていたんです。
他に載っていたのはラジオ局の番組とか賞を受賞した番組がほとんどで、全く有名でない当番組も載っていてちょっと驚いたわけです。
そんなふうに普通に本屋に売っているちゃんとした雑誌に載るなんてありがたいことで、DAIMUの編集部と当番組をピックアップしてくださった大人の皆さんに感謝を申し上げたいと思います。
やっぱり皆さんがこの番組を聞いているからっていう面もあると思うので、改めて皆さんいつもありがとうございます。
これが2024年の7月号のDAIMUで、発売日が5月16日だったんですね。
多分まだ書店にあると思いますし、Amazonとかオンラインストアなら他に電子版もあるので興味のある方はぜひチェックしてみてください。
18:01
リンクを載せておきます。
というわけで、喜ぶべきニュースがあったのでご報告でした。
ただ、この番組は録音をしてから配信されるまで結構間があるので、Podcastの方ではかなり遅れた報告だったんですね。
この番組の旧TwitterXのアカウントがあって、番組情報を発信してますので、そこでは即時で見ることができます。
なので、もしXを使っているのであればそちらもフォローしていただければと思います。
アカウント名がアットポットサイエンティストで、これもリンクを小ノートに載せておきます。
ここでは番組情報の他にも個人的な考え事とか、スペースといってライブの音声配信機能を使って、
科学とは必ずしも関係ない話なんかもしてますので、もし興味があればお願いします。
今日はこれで終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。
19:39

コメント

スクロール