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ボイスドラマ セザンヌ 林檎とオレンジ
週末の美術館
ざわめきがつこなく、落ち着いた空間に、マリアの優しい声が響きます。
まず、絵の真ん中に、白い皿に盛られた林檎が描かれているわ。
林檎の色は赤や黄緑色で、一つ一つがすごく存在感があるの。
その右側には、少し色褪せた白い布がかけられていて、その上にオレンジが山のように積み上がっている。
オレンジは、さわやかな黄色と少し赤みがかった色が混ざり合って、とても生命力にあふれているように見えるわ。
林檎とオレンジ、色の対比が美しいんだろうね。
そうなの。そして、画面の左側には、ぐしゃぐしゃになった白い布が置かれていて、その上にもいくつかの林檎が転がっている。
まるで今、そこに誰かが置いたばかりみたい。
トミーは目を閉じて、マリアが話す言葉をじっくりと心に刻みます。
この絵の不思議なところは、それぞれの物の視点が少しずつずれていること。
テーブルの奥は、なんだか斜めになっていて、手前の方は平たいに見える。
だから奥行きがあるように見えるのに、同時に少し違和感を感じるの。
へえ、面白いね。どうしてそうなっているんだろう。
セザンヌは、一つの視点ではなく、複数の視点から物を捉えれようとしたと言われているわ。
だから、まるで私たちが見ている世界を、そのままキャンバスに閉じ込めたみたいに見えるの。
マリアは、絵の背景について話し始めます。
テーブルの奥には、壁にかけられた青い布が描かれている。
そしてその奥には、茶色い線で描かれた、なんだかゴツゴツした風景が見えるわ。
おそらく、セザンヌが住んでいた南フランスの風景だと思う。
でも、その村の風景も、はっきりとした形ではなく、ぼんやりと描かれていて、まるで夢の中の出来事みたい。
果物の鮮やかさに対して、背景はぼんやりしているんだね。
そうね。この絵には、人も描かれていないし、風景もはっきりとしない。
でも、だからこそ、この絵の主役であるリンゴとオレンジが、より一層際立って見えるの。
トミーはマリアの説明を静かに聞きながら、心の中で様々な色と形を想像します。
もしよかったら、少しだけたそ見てみる?
いいの?ありがとう。
マリアはトミーの手を取り、そっと絵の前に近づけます。
トミーはマリアの指が描く空間の形をゆっくりとたどります。
ここがリンゴ、そしてこっちがオレンジ、ここのゴワゴワした布の感じ。
トミーの顔に柔らかな笑みが浮かびました。
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マリアの言葉と指先から伝わる感触が、トミーの心に鮮やかな色彩と形を描いていくのでした。