デスティネーション・ゼロの旅の始まり
ブク美
はい、毎日未来創造 Week14 〈モビリティの未来 The Return of Movement 移動の復権〉というテーマでお送りしています。
今回はですね、このテーマを探るSFショートショートシリーズの第5話〈デスティネーション・ゼロ〉という物語を取り上げます。
今日の情報源は、この物語のテキストと、あと背景にある未来のモビリティサービスに関するアイデアメモですね。
ここから、現代における移動の意味を一緒に深掘りしていきましょうか。
ノト丸
はい、お願いします。これまでのEpisode 1から4が未来の話だったじゃないですか。
ブク美
そうでしたね、2040年以降の。
ノト丸
それに対して今回の舞台が、いきなり現代、2025年の東京というのが、なんか面白い転換点だなと。
ブク美
確かに、ぐっと現代に引き戻される感じですよね。
ノト丸
そうなんです。未来のコンセプトとして練ってきたものが、実はもう今の社会の中に、なんていうか芽生えてるんじゃないかみたいな、そういう視点ですよね。
ブク美
未来の話かと思いきや、という。ところで、あなたはバイクとか車で、あてもなく旅に出た経験ってあります?
ノト丸
ありますね、若い頃ですけど。
ブク美
特に日本一周なんて、ちょっと憧れません。
ノト丸
憧れますね。最近なんか、若い人たちが中古のバイクとか、あと軽自動車とかで挑戦して。
ブク美
SNSでよく見かけますよね。
ノト丸
その様子を発信しているのを見かけます。
ブク美
今日の物語の主人公、タケル君、25歳。彼もまさにそんな若者の一人なんですね。
ノト丸
そうなんです。ただちょっと違うのは、彼は就職活動に失敗してしまって。
そうなんですね。
社会から取り残されたような、強い停滞感を感じていると。
ブク美
なるほど、停滞感。
ノト丸
で、その状況を何とか打破しようと、なけなしの貯金でですね、中古のスーパーカブを手に入れるんですよ。
ブク美
へー、スーパーカブ。なんだかそれ自体が物語の始まりって感じですね。
ノト丸
まさに。それで、デスティネーションゼロ、目的ゼロ、ゼロからの出発って名付けた日本一周プロジェクトを、クラウドファンディングで立ち上げるんです。
コミュニティの共感と変化
ブク美
クラウドファンディング。そのリターン設計がまたすごくユニークなんですよね。
ブク美
そうなんです。
ブク美
かっこいい絶景は約束できませんってまず言っちゃう。
ブク美
代わりに、雨、ガス欠、パンク、道迷い、予期せぬ出会い、そして心が動く瞬間のすべてをクローズドなコミュニティで毎日共有しますと。
ブク美
つまり、旅の結果じゃなくて、その生々しいプロセスそのものを共有価値として提示した。
なるほど。
さあ、ここをもう少し解き明かしていきましょうか。
ノト丸
これって私たちが以前未来のコンセプトとして議論した、「講」、講じるのコウですね。
ブク美
ああ、こうありましたね。
ノト丸
その考え方にすごく通じるものがあるなと。
ブク美
こうはみんなで資金とか思いを持ち寄って、代表者を成長の旅に送り出すみたいな。
そうですそうです。
ノト丸
その経験とか精神的な変化をコミュニティで共有して、参加者全員の活力、私たちがモビリティインデックス、MIって呼んでいるものを高めようという仕組みでしたよね。
ブク美
MI。
ノト丸
タケル君のクラウドファンディングは、テクノロジーこそ介在しないんですけど、本質的にはこうの原始的な形と言えるんじゃないかなと。
ブク美
なるほど。支援者も約30人いたと書かれてますけど、彼らもタケル君と同じように都会で停滞を感じている人たちだったと。
そういうことですね。
ブク美
彼らはタケル君のそのプロセスに、自分自身のここじゃないどこかへ行きたいとか、変わりたいっていう思いをある意味託して投資したと。
ノト丸
ええ、まさに。その投資が期待したのは、たぶん綺麗な景色とかじゃなくて、むしろ予期せぬ何かだったのかもしれないですね。
ブク美
そして、旅は案の定トラブル続きだと。
ノト丸
そうなんですよ。
ソースによると、箱根の峠では豪雨に見舞われたり、東北の山道ではパンクしたり、真夜中の国道でガス欠〜とか。
うわあ、大変だ。
ブク美
タケル君はそのボロボロの姿とか、もうダメかもしれないみたいな弱音も含めて、コミュニティに正直に発信するんですよね。
ノト丸
ええ。
ブク美
なんか動画付きで、最悪だ、雨で全身びしょ濡れ、心が折れそうだみたいに。
ノト丸
うーん、そこで面白いのがそのコミュニティの反応なんですよね。
ブク美
ああ、どう反応したんですか?
ノト丸
「タケル、俺の停滞より全然マシだ。風邪ひくなよ!」とか。
へえ。
「その音こっちまで聞こえるぞ、動け、動け!」みたいな、そういう応援コメントが殺到するんです。
ブク美
すごい、なんか単なる同情じゃなくて、もっと力強い感じですね。
ノト丸
そうなんです。支援者たちはタケル君のその困難なプロセスにすごく強く共感して。
共感。
ええ。それを体験することで、自分自身の動かない日常にもまるで風穴が開くような、そんな感覚を得ていたんじゃないかなと。
ブク美
なるほど。タケル君はいつの間にか支援者たちの動きたいっていう思いを一心に背負う代表者みたいになっていた?
そういうことですね。
そして彼が物理的に移動して困難に直面するたびに支援者たちの心もまた揺さぶられていたと。
ノト丸
ええ。そしてもちろんこの経験を通じてタケル君自身も変化していくわけです。
トラブルが生む成長の機会
ブク美
ああ、そうですよね。
ノト丸
当社の停滞感が困難を乗り越えるたびに少しずつ活力に変わっていく。
うんうん。
もし人の内なる活力とか精神的な可動域を示す指標、私たちがモビリティインデックスって呼んでいるものを測れたとしたら。
ブク美
はい、MI。
ノト丸
彼のMIは間違いなく停滞から拡張中へと針がふれていたはずです。
ブク美
なるほどな。日本海沿いの小さな漁村でのエピソードも印象的でしたね。
ノト丸
ああ、ありましたね。アジフライの話。
ブク美
そうそう。道に迷って偶然入った食堂で、ちょっとぶっきらぼうだけど味のあるおばあさんに出会って、人生で一番おいしいアジフライをご馳走になる。
ノト丸
でもそのおばあさんの過去とか背景は結局何もわからないままでしたね。
ブク美
そうなんですよ。その体験談をタケル君がコミュニティに共有するんですね。
ブク美
ええ。
「アジフライがおいしすぎて泣いた。でも結局おばあさんのことは何もわからなかった。そのわからなさを抱えたまま店を出た。でもそれでいい気がする」って。
ノト丸
うーん、深いですね。
ブク美
そしたら東京で管理職をしている40代の支援者の方からこんなコメントが。
おお。
「タケルありがとう。俺は明日AIが吐き出す最適解の店じゃなく、俺の直感が『美味い』って囁く路地裏の定食屋に部下を連れて行ってみるよ。」
ノト丸
うわー、それはすごいですね。
ブク美
すごいですよね。タケル君の個人的な体験とそこから生まれたちょっと哲学的な気づきがネットワークを通じて遠く離れた誰かの具体的な行動を変えた。
ノト丸
まさにここであのジャーニーログのコンセプトがこう見えてくるわけです。
ブク美
ああ、ジャーニーログ体験談共有経済でしたっけ。
ノト丸
そうです。旅人が得た体験談。特に困難を乗り越えた物語とか心を揺さぶられた出来事を共有する。
はい。
で、それが他者のMI、つまり生きる活力とか行動意欲を高める価値となる、そういう経済圏のアイディアでした。
ブク美
なるほど。
ノト丸
タケル君の味フライの話はまさに情報とか感想を超えた物語として、支援者の心を動かして行動変容を促す力を持っていた。
ブク美
彼の移動、ジャーニーが生み出した物語、ログが他者のMIを高める触媒になったということですね。
そういうことです。
そして、旅のトラブル自体にも意味があったと。パンクしたり道に迷ったり、普通なら避けたいことばかりですけど。
ノト丸
そこがまたポイントなんですよ。
ほう。
タケル君の旅では、その予期せぬトラブルこそが、彼自身とかコミュニティのメンバーにとって最も記憶に残って、結果的に成長、つまりMI向上に繋がる出来事になっていたんです。
ブク美
トラブルが成長に。
ノト丸
ええ。これは私たちが考えた〈Fes-Insurer〉、生産的トラブル保障っていうアイディアを裏付けているなと。
ブク美
〈Fes-Insurer〉ああありましたね。トラブルこそが成長の糧だっていう前提で、あえて良いトラブルが起きやすいルートとか状況をAIが提案するみたいな。
ブク美
そうそう。
ちょっと逆説的な保険のコンセプトでした。
ノト丸
ええ。従来の保険がリスクを避けるためにお金を払うのに対して、〈Fes-Insurer〉は計算されたリスク、つまり成長機会をむしろ積極的に受け入れに行くっていう考え方なんですね。
ブク美
なるほど。攻めの保険というか。
ノト丸
そういうイメージです。タケル君の経験は、AIによる誘導こそありませんでしたけど、例えばパンク修理を手伝ってくれた地元の人との出会いとか。
ああ、はい。
道に迷ったからこそ見つけた食堂みたいに、非効率とか想定外の中にこそ豊かな体験とか成長の種があることを示唆している。
ブク美
まさにトラブル=リターンという視点ですね。
ええ。
タケル君の成長物語
ブク美
でもその〈Fes-Insurer〉の考え方って、一歩間違えるとただの無謀な旅を推奨することになりませんか?その線引き、つまり生産的なトラブルとただの危険ってどうやって区別するんでしょう?
ノト丸
それは鋭い問いですね。そこがまさに〈Fes-Insurer〉の肝になる部分でして。
ブク美
はい。
ノト丸
AIがその利用者のスキルとか経験、そしてMIの状態なんかを考慮して乗り越えられる可能性が高くて、かつ学びとか発見につながりそうなちょうどいい塩梅の困難を設計誘導するというのがミソなんです。
ブク美
なるほど。ちょうどいい塩梅。
ノト丸
ええ。単なる偶然任せの危険じゃなくて、成長を意図したデザインされた偶然性とでも言いましょうか。
ブク美
デザインされた偶然性。面白いですね。
ノト丸
タケル君の場合は、彼自身の人間力と、あとコミュニティの支えがその"ちょうどいい塩梅"を結果的に生み出していたのかもしれないですね。
ブク美
なるほどなあ。偶然に見えて実は成長のための必然だった。
ノト丸
そういう見方もできるかもしれません。
ブク美
そして3ヶ月後、タケル君はボロボロになったカブと共に東京へ戻ってきます。
ええ。
出発前とはもう別人のような何かを乗り越えた顔つきになっていたと。
ノト丸
うーん。
ブク美
彼のMIが拡張中になったのは、まあ想像に難くないですが、ここからが本当に興味深い。
と言いますと?
なんと旅に出ていない支援者たちも、タケル君の物語を日々追体験することで、転職したり、新しい趣味を始めたりと、それぞれの日常の中で実際に動き出していたって言うんですよ。
ノト丸
おお、それはすごい。
すごいですよね。
まさに移動したものと移動しなかったもの、その両方が成長していた。
両方とも。
これはMIのおそそ分け、つまり移動によって得られた活力とか気づきが物語を通じて他者に伝播して分配されるっていう現象がですね、特別な未来技術がなくても、人間の共感とその物語の力を介して、現実に起こり得るんだっていうことを示していると思います。
ブク美
ということはですよ、タケル君のデスティネーションゼロの、本当の目的地っていうのは、日本のどこかの地点、地理的な場所じゃなくて、彼自身とそして支援者たちの心の中にあったのかもしれないですね。
ノト丸
そうかもしれないですね。
ブク美
AIとか未来技術がなくても、人の思いと物語が媒介すれば、移動の復権っていうのはもうすでに始まっている?
ノト丸
その通りだと思います。タケル君の物語が浮き彫りにしたのは、未来のモビリティ技術、例えば私たちが考えた〈講〉とか〈Journey Log〉〈Fes-Insurer〉みたいなものは、結局のところ、人が昔から持っている停滞を打ち破りたいとか、懇願を通じて成長したい、誰かの経験を分かち合いたいっていう、何百年も変わらないような根源的な衝動をですね。
未来のモビリティ技術
ブク美
人間の本質的な欲求みたいな?
ノト丸
うん。それをテクノロジーを使って、より効率的に、あるいはより深く体験できるように増幅したり支援したりするものに過ぎないということかもしれないなと。
ブク美
未来のサービスっていうのは、そういう人間の本質的な欲求から生まれてくるってことですね?
ノト丸
そう考えると、なんかSF的な未来もぐっと身近に感じられませんか?
ブク美
感じられますね。なるほどな。さて、この話を踏まえて、ここであなたにちょっと問いかけてみたいんですが。
ノト丸
はい、なんでしょう?
ブク美
もし、ご自身の停滞を誰かの移動というプロセスに託せるとしたら、どんな旅を応援して、どんな物語を共有してほしいと思いますか?
ノト丸
うーん、なるほど。あるいは、もしあなた自身が停滞を打ち破るために旅に出るとしたら、どんなデスティネーションゼロ、つまり目的地のないプロセス重視の挑戦をしてみたいですか?
いやー、深い問いかけですね。どんな物語に心を動かされて、どんなプロセスに自分を重ね合わせたいか。うーん、人それぞれ答えは違いそうですね。
ブク美
そうですよね。今回は、デスティネーションゼロという2025年の物語を通じて、現代における移動の復元の可能性を探ってみました。
未来の技術に頼らなくても、人の思いと物語の力だけで、移動が持つ価値を伝え、人を、そして社会を動かすエネルギーが生まれる、その可能性が何か見えてきたように思います。
ノト丸
ええ、本当にそうですね。そしてこの気づきは、これからテクノロジーが進化していく未来において、移動の本質的な価値を私たちがどう捉えて、どうデザインしていくべきか、というすごく重要なヒントを与えてくれる気がします。
ブク美
そうですね。さて、次回はですね、再び未来、2040年以降へと視点を戻して、この移動という行為が持つさらに根源的な意味、移動とは人間性の高度そのものだ、というさらに壮大なテーマに迫っていきます。
ノト丸
それはまた楽しみですね。ちなみに、今週お届けしているコンテンツは日本語版だけじゃなくて、英語版も用意する予定です。
ブク美
そうなんですね。
ノト丸
ええ、もし語学学習に興味があれば、そちらもぜひ活用してみていただけたらと。
ブク美
なるほど、それはいいですね。何だか話していると、自分も明日へ向かって動き出したくなりますね。
ノト丸
なりますね。
ブク美
よし、私も思い切って長旅に。いやまずは近所の知らない道を散歩してみようかな。
ノト丸
それもいいですね。
ブク美
それではまた次回お会いしましょう。
ノト丸
さようなら。