ハイパーデフレーションの影響
ノト丸
えーと、今回取り上げるのはですね、架空の物語シリーズ、四本が解ける六つの夜明け、そのまあ衝撃的な最終話、第六話、〈マイナスの金貨〉です。
提供いただいた資料に見ると、そのお金っていう概念自体が消えちゃうっていう、そういう世界の結末が描かれてるんですよね。
ブク美
へー、あの最終話ですね。非常にしさに富む内容です。
ノト丸
物語の舞台が2037年、世界はハイパーデフレーションの真っ只中で、物の値段が毎週2%も下がっていく。
はいはい。
そうなると、もう誰もお金を使わなくなって、経済がなんていうか、完全に凍りついちゃってる感じなんですよね。
ブク美
まさに資本主義の終わり、みたいな状況が描かれているわけですね。
そしてこの最終話が探求するのは、その凍てついた世界で生まれる全く新しい価値の形。
そして、貨幣経済っていうものが終わるっていうのはどういうことなのか。
価値とは何か。社会を動かす原動力って本当は何なのか。
そういう根源的な問いを突きつけられますよね。
ノト丸
いや、本当に。では早速この最終話の世界に深く入っていきましょうか。
ブク美
はい、ぜひ。
ノト丸
まず描かれているのは、あの深刻なデフレスパイラルですよね。
物価が下がり続けるからみんなお金を使わない、貯め組む。
資料によると銀行金利がマイナス8%。
預けてるだけでお金が減るのに、それでも物価下落には追いつかないっていう。
ブク美
うーん、すごい状況ですね。
ノト丸
だからもう、貯蓄こそが正義だ、みたいな、ちょっと倒側した感じになってるんですよね。
ブク美
そうですね。その結果として都市はゴーストタウンみたいになって、経済活動が完全に止まってしまう。
主人公のダン、彼は経済史の研究者ですが、その彼が目の前にするのが、価値を保存しようとすればするほど、
皮肉なことに価値を生み出す活動自体が消えてしまうっていう現実です。
うわー。
経済の血流がもう完全に止まっちゃった状態なわけですよ。
ノト丸
そんな絶望的な状況の中で、ダンはある友人から、金が腐る場所があるって聞くんですね。
ブク美
それで北の森の共同体に向かう。そこで出会うのがリーフ。リーフっていう地域通貨。これがまた、なんというか、すごく奇妙で。
ノト丸
ええ、あれは面白い仕掛けでしたね。
ブク美
発行から90日で価値がなくなって、最後は文字通り堆肥になっちゃうっていう。
ノト丸
そうなんです。リーフは成分解製のポリマーでできていて、バイオクロックが内蔵されている。
だから、溜め込んでいても物理的に価値が失われてしまう。
だから人々は、その価値が消える前に消費するか、他の人に渡すかせざるを得ない。
ブク美
なるほど。文字通り腐ることで強制的に流通を促す。
ノト丸
ダンのいた都市とはもう全く逆の経済がそこにはあるわけですね。
ブク美
まさに、これは現実の世界でも議論されることがある。
減価する貨幣、いわゆるデマレージっていう考え方を物語の中で極端な形で表現したものと言えますね。
ノト丸
ああ、なるほど。
ブク美
価値の保存機能よりも流通させる機能こそが大事なんだと。
そういう思想が根底にある。価値観の転換を迫るシステムなわけです。
ノト丸
それでダンは、研究者の道を捨てて、その共同体で働き始めるんですよね。
新しい価値の形
ブク美
ええ。
ノト丸
古いリーフを集めてきて堆肥にして苗木を植える。
なんか彼にとってはそれが初めて意味のある仕事だって感じだと資料にありますね。
ブク美
大きな変区ですね、彼の中で。
ノト丸
そしてある日、世話をしていた若きの根元からDJ N0-MINTって刻まれた小さな送信機を見つける。
ブク美
はい、ここからがクライマックスですね。
ノト丸
物語が一気に終焉に向かいます。
ブク美
その送信機のカウントダウンがゼロになって微弱なパルスが放たれる。
ノト丸
その瞬間。
ブク美
世界中のあらゆる銀行口座、証券口座、電子マネー、つまり電子的なお金の残高を示す表示が一斉にブラックアウトする。
ノト丸
うわ。
ブク美
貨幣という物語が終わった瞬間として描かれていますね。
ノト丸
東京の超高層マンション、テキサスの共同組合、それから港区のデータセンター。
ブク美
そう、世界中のどこであっても、場所も状況も関係なく、本当に一斉に。
ノト丸
お金っていう、私たちが共有していた幻想のインターフェースが同時に消滅した。
ブク美
いや、本当に劇的で、同時に恐ろしいほどの静けさを感じさせる描写ですよね。
デジタルな資産を示す数字が全部消えて、資本の喧騒がピタリと止まった世界。
あとに残ったのは深い静寂と、暖が植えたあの若木の葉が風にそよぐ音だけだった。
ノト丸
古い世界の崩壊の音と、新しいまだ名前のない世界の産声みたいな。
ブク美
そういうふうにも解釈できますね。根源的な価値とは一体何なのか、改めて考えさせられます。
ノト丸
まさに資本が解ける6つの夜明け、その最終話にふさわしい強烈な幕引きでした。
私たちが当たり前のように価値があるって信じているお金というシステム。
それがもし本当に消え去ったら、考えさせられますね。
ブク美
さてここで、これを聞いているあなた自身にもちょっと考えてみてほしい問いがあります。
もし明日、あなたがこれは価値があるんだと思う信じて疑わないものが、突然その形も意味も失ってしまったとしたら、
あなたはその次に何を価値あるものとして見つけ出して、そして何を心の拠り所にして生きていくでしょうか。