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寝落ちの本ポッドキャスト、こんばんは、Naotaroです。
このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、
それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
エッセイには面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。
作品はすべて青空文庫から選んでおります。ご意見ご感想は、公式Xマでどうぞ。
さて、今日はですね、黒島伝治さんの
「鍬と鎌の五月」というテキストを読もうと思います。
黒島さんはですね、小土島生まれの小説家で、代表作に
「渦巻ける鳥の群れ」という作品があるそうです。
テキスト後半にですね、バツバツバツと、
音を表現し得ない表現があるので、ピー音で読みたいと思います。
それでは参りましょう。
鍬と鎌の五月 農民の五月祭をかけという話である。
ところが僕はまだそれを見たことがない。 昨年参院地方で行われたというA君の手紙である。
それがどういう風だったか僕はよく知らない。 そこで困った。
全然知らんことやなかったことは確にも書きようがない。 本当らしく空想ででっち上げたところで。
そんなものには三文の値打ちもありゃしない。 で以下は労働祭のことではない。
5月1日に農村であったことである。 香川県は全国で最も弾圧のひどい土地だ。
第1回の普通選挙に大山さんが立候補した。 その時協力だった農民組合が叩き潰された。
そのままとなっている。 何にもしない人間を一つの警察から次の警察へ、
次の警察からまたその次の警察へ たらい回しに拘留して、
体重が7キロも10キロも減ってしまった例がいくらでもある。 会合が許されない。
僕の友人は労働歌を歌っていて、 ただそれだけで1年間美好につきまとわれた。
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ちょっと距離の家へ帰っていると、もうスパイが鍵付けて家のそばに張り込んでいる。 出て歩けば美好がついてくる。
それが結婚のことで帰っていてもそうなのである。 親父の官力のお祝いのことで帰っていてもそうなのである。
カカアをもらってカカアの親元へ行っていると、 スパイはその門の中へまでのこのこ入ってくる。
金儲けと財産だけしか頭にないカカアの親や兄弟が、 どんな疑心を僕に対して起こすかは言わずとも知れた話である。
スパイは僕らの結婚やお祝い事までも妨害するのだ。 僕はもしいつか親父が死んだら、
ことして親父の礼を弔わなければならない。 ことして親父の葬儀をしなければならない。
その時にでもスパイは小うるさく僕の背後につきまとって墓場にまでやってくるだろう。 西山も帰るとスパイにつきまとわれる仲間の一人だ。
その西山が胸を悪くして、とある町、 仮に王子とするから帰っていた。
彼は元若手の組合員だった鍋谷や宗康や後藤の顔を見た。 それから彼らの小学校の先生だった
63の、 これも先生を辞めてから若い者よりももっと元気のある運動者となった藤井に会った。
どの顔にも元気がない。 組合が現存していた時代の元気がからきしなくなってしまっている。
それに西山が驚いたのは、彼らの興味が他へ動いていることだ。 ごつごつした貴重めな藤井先生まで野球ファンとなっていた。
慶応B機で試合の中継放送があると、わざわざ隣村の時計屋の前まで自転車で聞きに出かけた。 5月1日の朝のことである。
今自分、王子では中野島公園のあの橋を降りて、 赤い組合端とたくさんの労働者がどんどん集まっていることだろうなと西山は考えた。
彼は無本気を起こして何かしでかしてみたくなった。 百姓が鎌や桑を担いで列を作って、
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示すに威力の意図書いてG運動、いわゆるデモをやったらどんなもんだろう。 彼は宗康と後藤を誘い出した。
3人で藤井先生をも誘いに行きかけた。 おやお揃いでどこへ行くんだい?
下駄屋の前を通って四つ角を折れたところで、 うどん屋にいたスパイがひょっこり立って出てきた。
スパイはうどん屋でうどんを食って金を払わない。 お湯屋の風呂に入って風呂せんを払わない。
煙草屋で煙草を借りてそのまま借りっぱなしである。 うどん屋もお湯屋も煙草屋も。
商売のちょっとした手落ちにケチをつけられて、 罰金沙汰にせられるのが怖い。
そこでスパイに借りられ、食われた者は大金請求もよくせずに、 だまって食われ損をしているのだ。
山の根、薪を積むとて言っているんだよ。 胸安が気を利かした。
スパイは疑い深けな目で三人を眺めた。 そしてついてきた。
こいつはクソ、何もできなくなっちゃったなと西山は思った。 彼はちょっと何かやるとすぐ検査や束縛騒ぎをするここの警察をよく知っていた。
三人は藤井先生の家へ行くことができなくなった。 胸安は薪を積みに行くという真実味を装うため、途中で猫車を借りて引っ張って、
山へ行く坂の道を登り出した。 今日はどうするにもだめだよ。
彼の目は二人に語った。 オレンジの薪を積む手伝いでもしてくれろよ。
スパイは三人が集まったのを何か企んでいると睨んでいた。 この男は藤井先生がワイ村で教えていた頃の生徒だ。
そのくせ昔の先生に対してさえ、今は官権としての権力を振り回して威張っていた。 そして旧恩師に対するような態度がちっともなかった。
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運動をやっている者は先生だって誰だって悪いというような調子だ。 側で見てもその顔が憎かった。
彼は三人の後から山の根の運び出した薪を散り散りに放り出してある畑のところまでついてきた。 三人はしようがなかった。
そこで薪積みを始めた。 スパイはタバコ屋でせしめてきた朝日というタバコを吸って、なかなか去ろうとしない。
薪は百姓にとって売るにはあまりに安かった。 それで2年分もあるのだが、自分の家に焚き物とするとて、畑の続きの荒らしたところへ高く積み重ねて、
腐らないように屋根を作りつけて囲っておくのだ。 よいしょ、よしきた。よいしょ、よしきた。
宗康はネスをつかんで下げてくる薪を 一羽一羽積み重ねていった。
西山は下駄を履いていた。 50羽ほど運んだ頃、
プスリとその花を切ってしまった。 片足を引き出した。
細長い長矢のように積み重ねられていく薪は、 背丈ほどの高さになった。
宗康は後藤と西山とが下から両手で差し上げる薪束を その上から受け取った。
彼が歩くと薪の束は崩れそうにゆさゆさと揺れた。 ちょっと手伝えよ、そんなにひなたぼっこばかりしとらんで。
後藤はスパイにからかった。 遊んどって月給がもらえるんだから、そんなべらぼうな仕事はないだろう。
スパイは苦笑した。 よいしょ、よし来た。よいしょ、よし来た。
薪は積み重ねられて、だんだんに家ほどの高さになってきた。
五月の太陽はうらうらと照っていた。 笹やどんぐりや雑草の青い葉は、現れたように清々としている。
「おいおい、こいつ居眠りをしているよ。」 しばらくして後藤は西山の耳元へ来て囁いた。
見るとスパイは日当たりのいい、積み重ねられた薪の南側に腰を下ろして、 うつらうつら老虎いでいた。
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人の邪魔をしながら、いい気になっていやがるんだと西山は思った。 彼は何か胸にムラムラとするものを感じた。
「やったろうか。」 彼は後藤に囁いた。
うむ。 後藤の目はうなずいた。
彼はゆさゆさ崩れそうに揺れる薪の上を歩いている胸安に手で合図をした。 胸安が揺れる薪の上から降りてくると、
三人はスパイが居眠りをしているのとは反対の北側へ集まった。
そして、家のような渦高い薪の体積にぐいと力を入れた。 薪はなだれのように、居眠りをしているスパイの頭上をピーした。
ぐしゃっと人間の体が、 ピー音が薪の崩れ落ちる音に混じった。
危ない危ない。 薪が一人手に崩れちゃったよ。
三人は大声を上げて人に聞こえるように叫んだ。 それが命令における彼らのせめてもの心の慰めだった。
1930年4月 1970年発行
筑波諸坊 黒島伝寺全集 第3巻より読み終わりです。
最後、怖い。
1930年と言いますから、昭和は5年、第一次世界大戦が終わって15年ぐらい経ってるのかな。
ですかね。
今思えばこのタイトルの桑と鎌というのも、
共産党とかの旗に使われる農具の象徴を指しているのかもしれませんね。
5発ということで命令の関わるのを読んでみました。 怖かった。
それでは今日はこのへんで、また次回お会いしましょう。 おやすみなさい。