1. 寝落ちの本ポッドキャスト
  2. 129森鴎外「高瀬舟」
2025-05-13 28:36

129森鴎外「高瀬舟」

129森鴎外「高瀬舟」

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サマリー

森鴎外の短編「高瀬舟」では、財人が罪を犯し島流しとなり、彼を護送する同心との心の交流が描かれています。喜助という罪人が不思議な態度で高瀬舟に乗る様子が、彼の過去や内面的な葛藤を浮き彫りにしています。商兵衛は生活の苦しさや家族との関係を振り返り、彼の心の内を深く掘り下げる様子が描かれています。また、彼の弟の病気に対する思いと、それによる兄弟の絆や葛藤が重要なテーマとして浮かび上がります。「高瀬舟」では、兄が弟を殺す理由とその罪の重さについて深く考察されています。物語を通じて、苦しみからの解放という視点が浮かび上がり、哲学的な問いかけが行われます。

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寝落ちの本ポッドキャスト。
こんばんは、Naotaroです。
このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、
それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
エッセイには面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。
作品はすべて青空文庫から選んでおります。
ご意見・ご感想・ご依頼は、公式Xまでどうぞ。
寝落ちの本で検索してください。
また、投稿本もご用意してあります。
リクエストなどをお寄せください。
そして最後に、番組フォローもどうぞよろしくお願いします。
高瀬舟の概要と歴史的背景
さて、今日は、森鴎外さんの高瀬舟です。
森鴎外さんのを読むのは、すごい久しぶりだと思うな。
森鴎外さん、本名・林太郎。
東京大学医学部に入学し、陸軍軍医となる。
明治17年から5年間ドイツに留学し、衛生学を学ぶ。
舞姫・歌方の木・板・セックス・アリスなどに、
そのドイツ時代の鴎外を見て取ることができる。
陸軍軍医総監へ地位を上り詰めるが、
創作の意欲は衰えず、高瀬舟。
これを今日読みます。
安倍一族などの代表作を発表する。
ということで、高瀬舟ですね。
文字数は9200文字。
どのくらいでしょうか。
30分いかないと思いますね。
100年以上前の人なんで、
怖いですね、文章の運びがどうなっているか。
どんな筆運びになっているか。
読みづらいんじゃなかろうかとかね。
どんな感じでしょうか。
ひとまず、寝落ちまでどうぞお付き合いください。
それでは参ります。
財人と同心の対話
高瀬舟。
高瀬舟は京都の高瀬川を上下する小舟である。
徳川時代に京都の財人が遠投を申し渡されると、
本人の親類が老屋敷へ呼び出されて、
そこで戸間漕いをすることを許された。
それから財人は高瀬舟に乗せられて大阪へ回されることであった。
それを護送するのは京都の町奉行の配下にいる同心で、
この同心は財人の親類の中で主だった一人を
大阪まで同選させることを許す官令であった。
これは神へ問ったことではないが、いわゆる大目に見るのであった。
黙拠であった。
当時遠投を申し渡された財人は、
もちろん重い戸賀を犯したものと認められた人ではあるが、
決して盗みをするために人を殺し、
火を放ったというような童惑な人物が多数を占めていたわけではない。
高瀬舟に乗る財人の下半は、
いわゆる心得違いのために思わぬ戸賀を犯した人であった。
ありふれた例を挙げてみれば、
当時、相対司といった上司を図って、
相手の女を殺して自分だけ生き残った男というような類である。
そういう財人を乗せて、
入合の鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は、
黒ずんだ京都の町の家々を両岸に見つつ、
東へ走って鴨顔を横切って下るのであった。
この船の中で、
財人とその親類の者とは夜通し身の上を語り合う。
いつもいつも悔やんでも帰らぬ繰りごとである。
御相の役をする同心は、そばでそれを聞いて、
財人を出した親戚県族の悲惨な境遇を細かに知ることができた。
所詮、町奉行のシラスで表向きの公共を聞いたり、
役所の机の上で口書きを読んだりする役人の夢にも
伺うことのできぬ境遇である。
同心を務める人にもいろいろな性質があるから、
この時、ただうるさいと思って耳を覆いたく思う冷淡な同心があるかと思えば、
またしみじみと人の哀れを身に引き受けて、
役柄ゆえ景色には見せぬながら、
無言のうちにひそかに胸を痛める同心もあった。
場合によって非常に悲惨な境遇に陥った財人とその親類と、
特に心弱い涙もろい同心が裁量していくことになると、
その同心は不覚の涙を禁じ得ぬのであった。
そこで高瀬船の御相は町部業所の同心仲間で不快な職務として嫌われていた。
いつの頃であったか。
たぶん江戸で白川洛王公が征兵をとっていた関西の頃ででもあっただろう。
四恩院が桜が入合の金に散る春の夕べに、
これまで類のない珍しい財人が高瀬船に乗せられた。
それは名を喜助といって、
三十歳ばかりになる住所不上の男である。
もとより老屋敷に呼び出されるような親類はないので船にもただ一人で乗った。
御相を命ずられて一緒に船に乗り込んだ同心羽田勝兵衛は、
ただ喜助が弟殺しの罪人だということだけを聞いていた。
さて老屋敷から桟橋まで連れてくる間、
この痩せじしの色の青白い喜助の様子を見るに、
いかにも辛病に、いかにもおとなしく、
自分をば公義の役人として敬って、
何事につけても逆らわぬようにしている。
しかもそれが罪人の間に往々見受けるような恩順を装って献成にこびる態度ではない。
勝兵衛は不思議に思った。
そして船に乗ってからも、
他に役目の表で見張っているばかりでなく、
絶えず気づけぬ挙動に細かい注意をしていた。
その日は暮れ方から風が止んで、
空一面を覆った薄い雲が月の輪郭をかすませ、
ようよう近寄ってくる夏の暖かさが、
両岸の土からも川床の土からももやになって立ち上るかと思われるようであった。
下郷の町を離れて鴨川を横切った頃からは、
辺りがひっそりとして、ただ辺崎に咲かれる水のささやきを聞くのみである。
夜船で寝ることは罪人にも許されているのに、
気づけは横になろうともせず、
雲の濃淡に従って光の増したり減したりする月を仰いで黙っている。
その額は晴れやかで、目には微かな輝きがある。
勝兵衛はまともには見ているが、
始終気づけの顔から目を離さずにいる。
そして不思議だ不思議だと心の内で繰り返している。
それは気づけの顔が縦から見ても横から見てもいかにも楽しそうで、
もし役人に対する気兼ねがなかったなら、
口笛を吹き始めるとか鼻歌を歌いだすとかしそうに思われたからである。
勝兵衛は心の内に思った。
これまでこの高瀬船の裁量をしたことは幾度か知れない。
しかし乗せてゆく罪人は、
いつもほとんど同じように目も当てられぬ気の毒な様子をしていた。
それにこの男はどうしたのだろう。
輸産船にでも乗ったような顔をしている。
罪は弟を殺したのだそうだが、
よしやその弟が悪い奴でそれをどんな行き係になって殺したにせよ、
人の情としていい心持ちはせぬはずである。
この色の青い痩せ男が、
その人の情というものが全く欠けているほどの世にも稀な悪人であろうか。
どうもそうは思われない。
ひょっと気でも狂っているのではあるまいか。
いやいや、
それにしては何一つ辻褄の合わぬ言葉や挙動がない。
喜助の心情と未来
この男はどうしたんだろう。
勝兵衛がためには木助の態度が考えれば考えるほどわからなくなるのである。
しばらくして勝兵衛はこらえきれなくなって呼びかけた。
木助、お前何を思っているのか。
はい。
と言って辺りを見まわした木助は、
何事かお役人に見とがめられたのではないかと気づかうらしく、
出前を直して勝兵衛の景色をうかがった。
勝兵衛は自分が突然問いを発した動機を明かして、
役目を離れた大隊を求める言い訳をしなくてはならぬように感じた。
そこでこう言った。
あ、いや、別に訳があって聞いたのではない。
実はな、
俺はさっきからお前の島へ行く心持ちが聞いてみたかったんだ。
俺はこれまでこの船で大勢人を島へ送った。
それはずいぶんいろいろな身の上の人だったが、
どれもどれも島へ行くのを悲しがって、
見送りに来て一緒に船に乗る親類の者と夜通し泣くに決まっていた。
それにお前の様子を見れば、どうも島へ行くのを苦にしてはいないようだ。
一体お前はどう思っているのだい?
喜助はにっこり笑った。
ご親切におっしゃってくださってありがとうございます。
なるほど、島へ行くということは他の人には悲しいことでございましょう。
その心持ちは私にも思いやってみることができます。
しかしそれは世間で楽をしていた人だからでございます。
京都は結構な土地ではございますが、
その結構な土地でこれまで私の追い出して参ったような苦しみは、
どこへ参ってもなかろうと存じます。
お上のお慈悲で命を助けて島へやってくださいます。
島は良しや辛いところでも鬼の住むところでもございますまい。
私はこれまでどこといって自分の居ていいところというものがございませんでした。
この度、お上で島にいろとおっしゃってくださいます。
そのいろとおっしゃるところに落ち着いていることができますのが、
まず何よりもありがたいことでございます。
実際に私はこんなにか弱い体ではございますが、
ついぞ病気を致したことはございませんから、
島へ行ってからどんな辛い仕事をしたって、
体を痛めるようなことはあるまいと存じます。
それから今度島へおやりくださるにつきまして、
二役物の帳目をいただきました。
それをここに持っております。
こう言いかけて喜助は胸に手を当てた。
煙灯を押せつけられる者には、帳目二役堂を使わすというのは当時の掟であった。
喜助は言葉を継いだ。
お恥ずかしいことを申し上げなくてはなりませんが、
私は今日まで二役物という大足をこうして懐に入れて持ったことはございません。
どこかで仕事に取り付きたいと思って仕事を訪ねて歩きまして、
それが見つかり次第骨を押しまずに働きました。
そしてもらった税にはいつも右から左へ人手に渡さなくてはなりませんなんだ。
それも現金で物が買って食べられるときは、私の苦面のいい時で、
大抵は借りた物を返してまた後を借りたのでございます。
それが卯に入ってからは仕事をせずに食べさせていただきます。
私はそればかりでもお上に対してすまないことをいたしているようでなりません。
それに卯を出るときにこの二役物をいただきましたのでございます。
こうして相変わらずお上の物を食べていてみますれば、
この二役物は私が使わずに持っていることができます。
お足を自分の物にして持っているということは、私にとってはこれが初めでございます。
島へ行ってみますまではどんな仕事ができるかわかりませんが、
私はこの二役物を島でする仕事のもとでにしようと楽しんでおります。
こう言って木助は口をつぐんだ。
省兵衛は、「ああ、そうかい。」とは言ったが、聞くことごとにあまり意表に出たので、
商兵衛の苦悩
これもしばらく何も言うことができずに考え込んで黙っていた。
省兵衛はかれこれ所老に手の届く年になっていて、もう女房に子供を四人産ませている。
それに老婆が生きているので家は七人暮らしである。
平成、人には隣職と言われるほどの賢役な生活をしていて、
居類は自分が役目のために生きるもののほか、寝脇しかこしらえぬくらいにしている。
しかし不幸なことには妻をいい信頼の商人の家から迎えた。
そこで女房は夫のもらう縁前で暮らしを立ててゆこうとする善意はあるが、
豊かな家に可愛がられて育った癖があるので、
夫が満足するほど手元を引き締めて暮らしてゆくことができない。
ややもすれば月末になって感情が足りなくなる。
すると女房が内緒で里から金を持ってきて長尻を合わせる。
それは夫が釈在というものを毛虫のように嫌うからである。
そういうことは所詮夫に知れずにはいない。
商兵は御節句だと言っては里方から物をもらい、
子供の七五三の祝いだと言っては里方から子供に衣類をもらうのでさえ心苦しく思っているのだから、
暮らしの穴を埋めてもらったのに気がついてはいい顔はしない。
格別平和を破るようなことのない羽田の家におりおり波風が起こるのはこれが原因である。
商兵は今喜助の話を聞いて喜助の身の上を我が身の上に引き比べてみた。
喜助は仕事をして給料を取っても右から左へ人手に渡してなくしてしまうと言った。
いかにも哀れな気の毒な境界である。
しかし一転して我が身の上を返り見れば彼と我との間に果たしてどれほどの差があるか。
自分も神からもらう縁枚を右から左へ人手に渡して暮らしているに過ぎぬではないか。
彼と我との相違は、いわばソロ版の桁が違っているだけで喜助の有難がある二百文に相当する貯蓄だにこっちはないのである。
さて桁を耕えて考えてみれば張目二百文を出も喜助がそれを貯蓄と見て喜んでいるのに無理はない。
その心持ちはこっちから指してやることができる。
しかしいかに桁を耕えて考えてみても不思議なのは喜助の欲のないこと、足ることを知っていることである。
喜助は世間で仕事を見つけるのに苦しんだ。
それを見つけさえすれば骨を押しまずに働いてようよう口をのりすることのできるだけで満足した。
そこで老に入ってからは今まで得がたかった職がほとんど天から授けられるように働かずに得られるのに驚いて生まれてから知らぬ満足を覚えたのである。
張目はいかに桁を耕えて考えてみてもここに彼と我との間に大いなる間隔のあることを知った。
自分の縁前で立ててゆく暮らしは折々頼むことがあるにしても大抵水筒があっている。
手一杯の生活である。
しっかりそこに満足を覚えたことはほとんどない。
常は幸いとも不幸とも関絶に過ごしている。
しかし心の奥にはこうして暮らしていて不意と親父が御免になったらどうしよう、大病にでもなったらどうしようという疑苦が潜んでいて、
おより妻が里方から金を取り出してきて穴埋めをしたことなどがわかるとこの疑苦が意識の敷居の上に頭をもたげてくるのである。
弟の悲劇
一体この間隔はどうして生じてくるだろう。
ただ上辺だけを見て、
それは気づけには身に軽類がないのにこっちにはあるからだと言ってしまえばそれまでである。
しかしそれは嘘である。
よしや自分が独り者であったとしてもどうも気づけのような心持ちにはなられそうにない。
根底はもっと深いところにあるようだと生兵衛は思った。
生兵衛はただ漠然と人の一生というようなことを思ってみた。
人は身に病があるとこの病がなかったらと思う。
その日その日の食がないと食ってゆかれたらと思う。
万一の時に備えるたくわえがないと少しでもたくわえがあったらと思う。
たくわえがあってもまたそのたくわえがもっと多かったらと思う。
核のごとくに先から先へと考えてみれば人はどこまで行って踏み止まることができるものやらわからない。
それを今目の前で踏み止まって見せてくれるのがこの気づけだと生兵衛は気がついた。
生兵衛は今さらのように脅威の目を見張って気づけを見た。
この時生兵衛は空を仰いでいる気づけの頭から豪光が差すように思った。
生兵衛は気づけの顔を守りつつまた
気づけさんと呼びかけた。
今度はさんと言ったがこれは十分の意識をもって故障を改めたわけではない。
その声が我が口から出て我が耳に入るや否や
生兵衛はこの故障の不温等なのに気がついたが今さらすでに出た言葉を取り返すこともできなかった。
はいと答えた気づけもさんと呼ばれたのを不審に思うらしく
恐る恐る生兵衛の景色をうかがった。
生兵衛は少し間の悪いのをこらえて言った。
いろいろなことを聞くようだが
お前が今度島へやられるのは人を殺めたからだということだ。
俺についでにその訳を話して聞かせてくれんか。
気づけはひどく恐れ入った様子で
かしこまりましたと言って小声で話し出した。
どうもとんだ心違いで恐ろしいことを致しまして
何とも申し上げようがございません。
後で思ってみますとどうしてあんなことができたかと
自分ながら不思議でなりません。
全く夢中で致したのでございます。
私は小さい時に二親が自益で亡くなりまして
弟と二人後に残りました。
はじめはちょうど軒下に生まれた犬の子に不憫をかけるように
町内の人たちがお恵みくださいますので
近所中の走り使いなどを致しまして
上も小声もせずに育ちました。
次第に大きくなりまして職を探しますにも
なるだけ二人が離れないようにと致して
一緒にいて助け合って働きました。
去年の秋のことでございます。
私は弟と一緒に西陣の織り場に入りまして
空引きということを致すことになりました。
そのうち弟が病気で働けなくなったのでございます。
その頃私どもは北山の掘ったて小屋同様の所に根を食いを致して
神谷川の橋を渡って織り場へ通っておりましたが
私が暮れてから食べ物などを買って帰ると
弟は待ち受けていて
私を一人で稼がせては済まない済まないと申しておりました。
ある日いつものように何心なく帰ってみますと
弟は布団の上につっぷしていまして
周りは血だらけなのでございます。
私はびっくり致して手に持っていた竹の皮包みや何かを
そこへおっぽり出してそばへ行って
どうしたどうしたと申しました。
すると弟は真っ青な顔の両方の頬から顎へかけて血に染まったのを上げて
私を見ましたが物を言うことができません。
息を致すたびに傷口でヒューヒューという音が致すだけでございます。
私にはどうも様子がわかりませんので
どうしたんだい血を吐いたのかいと言ってそばへ寄ろうと致すと
弟は右の手を床について少し体を起こしました。
左の手はしっかり顎の下の所へ押さえていますが
その指の間から黒い血の塊がはみ出しています。
弟は目で私のそばへ寄るのをとどめるようにして口をききました。
ようよう物が言えるようになったのがございます。
すまないどうぞ勘にしてくれ
どうせ治りそうもない病気だから早く死んで少しでも兄貴に威厄がさせたいと思ったんだ。
笛を切ったらすぐ死ねるだろうと思ったが息がそこから漏れるだけで死ねない。
深く深くと思って力いっぱい押し込むと横へ滑ってしまいました。
歯はこぼれやしなかったようだ。
これをうまく抜いてくれたら御音は死ねるだろうと思っている。
物を言うのが切なくっていけない。
どうぞ手を貸して抜いてくれというのでございます。
弟が左の手を緩めるとそこからまた息が漏ります。
私は何と言うようにも声が出ませんので黙って弟の喉の傷を覗いてみますと
何でも右の手に紙そりを持って横に笛を切って
それでは死にきれなかったのでそのまま紙そりをえぐるように深く突っ込んだものと見えます。
絵がやっと2寸ばかり傷口から出ています。
私はそれだけのことを見てどうしようという思案もつかずに弟の顔を見ました。
弟はじっと私を見つめています。
私はやっとのことで
待っていてくれ。お医者を呼んでくるから。
と申しました。
弟は恨めしそうな目つきを致しました。
また左の手で喉をしっかり押さえて
医者が何になる。
あ、苦しい。早く抜いてくれ。頼む。
というのでございます。
兄弟の絆
私は途方に暮れたような心持ちになってただ弟の顔ばかり見ております。
こんな時は不思議なもんで目が物を言います。
弟の目は早くしろ早くしろと言ってさも恨めしそうに私を見ています。
私の頭の流れはなんだか不思議です。
それにその目の恨めしそうなのがだんだん険しくなってきて
とうとう仇の顔でも睨むような
憎々しい目になってしまいます。
それを見ていて私はとうとう
これは弟の言ったとおりにしてやらなくてはならないと思いました。
私は仕方がない。
抜いてやるぞ、と言いました。
しかし私は
弟の目を見つめています。
弟の目を見つめています。
弟の目を見つめています。
私は仕方がない。
抜いてやるぞ、と申しました。
すると弟の目の色がカラリと変わって
はれやかにさも嬉しそうになりました。
私は何でも一思いしなくてはと思って
膝をつくようにして体を前へ乗り出しました。
弟はついていた右の手を離して
今まで喉を抑えていた手の肘を床について横になりました。
私は紙添いの絵をしっかり握ってずっと引きました。
このとき私の家から閉めておいた表口の扉を開けて
近所の婆さんが入ってきました。
留守の間弟に薬を飲ませたり
何かしてくれるように私の頼んでおいた婆さんなのでございます。
もうだいぶ家の中が暗くなっていましたから
私には婆さんがどれだけのことを見たのだか分かれませんでしたが
婆さんはあっと言ったきり
表口を開け話にしておいて駆け出してしまいました。
私は紙添いを抜くとき
手早く抜こう、まっすぐに抜こうということだけの用心はいたしましたが
どうも抜いたときの手応えは
今まで切れていなかったところを切ったように思われました。
歯が外の方へ向いていましたから
外の方が切れたのでございましょう。
私は紙添いを握ったまま
婆さんの入ってきてまた駆け出していったのを
ぼんやりして見ておりました。
婆さんが行ってしまってから気がついて弟を見ますと
弟殺しの理由
弟はもう息が切れておりました。
傷口からは大層の血が出ておりました。
それから年寄り衆がおいでになって
役場へ連れて行かれますまで
私は紙添いをそばに置いて
目を半分開いたまま
死んでいる弟の顔を見つめていたのでございます。
少しうつむき加減になって正米の顔を下から見上げて話していた木助は
こう言ってしまって視線を膝の上に落とした。
木助の話はよく常理が立っている。
ほとんど常理が立ちすぎていると言ってもいいくらいである。
これは半年ほどの間
当時のことをいく度も思い浮かべてみたのと
役場で問われ町部業所で調べられるその度ごとに
注意に注意を加えてさらって見させられたのとのためである。
常米はその場の様子を目の当たりに見るような思いをして聞いたが
これが果たして弟殺しというものだろうか
人殺しというものだろうかという疑いが
話を半分聞いたときから起こってきて
聞いてしまってもその疑いを解くことができなかった。
弟は紙反りを抜いてくれたら死なれるだろうから抜いてくれと言った。
それを抜いてやって死なせたのだ。
殺したのだとは言われる。
しかしそのままにしておいてもどうせ死ななくてはならぬ弟であったらしい。
それが早く死にたいと言ったのは苦しさに耐えなかったからである。
木助はその苦を見ているに忍びなかった。
苦から救ってやろうと思って命を絶った。
それが罪であろうか。
殺したのは罪に相違ない。
しかしそれが苦から救うためであったと思うと
そこに疑いが生じてどうしても解けぬのである。
奉行様の判断
精兵衛の心の中にはいろいろに考えてみた末に
自分よりも上の者の判断に任すほかないという念。
大取り邸に従うほかないという念が生じた。
精兵衛は奉行様の判断をそのまま自分の判断にしようと思ったのである。
そうは思っても精兵衛はまだどこやらに不倫を知ぬ者が残っているので
なんだか奉行様に聞いてみたくてならなかった。
次第に更けてゆく朧ように
沈黙の人二人を乗せた高瀬船は黒い水の表を滑っていった。
1938年発行 岩波文庫
山椒座由 高瀬船
より独了 読み終わりです。
はい。うーん。
食卓殺人的なことね。
自殺人って言うんだっけ?
いや食卓だっけ?
頼まれて殺すやつ。
本人に壊れてやっちゃうやつは
なんて言うんでしたっけね。
食卓であってるかな。
なんかありましたよね。
作家の先生で一人いましたよね。
大昔。
川に樹水自殺された。
川で樹水自殺された。
西辺進む先生ってそうじゃなかったかな。
違ったかな。
あの人の最後の準備に関わった人が
包丁。自殺包丁かなんかで
罪に問われたんじゃなかったかな
という記憶がぼんやりありますけどね。
今回の高瀬船の弟くんとは
ちょっとシチュエーションが違いますけど。
そうですか。
なんとも寂しさのある文章でしたね。
そうですか。
明るい話して終わろうか。
どうしようかな。
今収録は
5月11日日曜日の午前11時ですが
今日NHKマイルカップという競馬があるんですけど
東京競馬場芝1600mですね。
ここのレースの
誰にしようかな。
ちょっとお待ちくださいね。
競馬新聞を見ます。
16番里野カルナバル
この馬が来ると予言しておきます。
来ます。
これ配信は火曜日なんで
答え合わせをぜひ見てください。
当たったか外れたか。
1着はないかな。
2着ぐらいには来そうな気がするんだけどな。
神目線でお楽しみください。
当たってたら褒めてください。
外れてたら笑ってください。
では終わりにしましょうか。
無事に寝落ちできた方も
最後までお付き合いいただいた方も
大変にお疲れ様でした。
といったところで
今日のところはこの辺で。
また次回お会いしましょう。
おやすみなさい。
28:36

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