石川啄木の紹介
寝落ちの本ポッドキャスト。こんばんは、Naotaroです。 このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
作品はすべて青空文庫から選んでおります。 ご意見ご感想ご依頼は公式Xまでどうぞ。
寝落ちの本で検索してください。 また別途投稿フォームをご用意しております。リクエストなどをお寄せください。
それから、まだしてないよというそこのあなた、ぜひ番組のフォローもよろしくお願いします。 それから最後に、おひねりを投げてもいいよという方、概要欄にリンクを貼っておきました。
どうぞご検討のほどよろしくお願いします。
さて、今日は、 石川啄木さんの
一握の砂です。刺繍ですね。
働けど働けどの人ですね。 じっと手を見るの人ですね。小学校の国語の教科書に載ってたんでしたっけ?
中学校でしたっけ? 記録が曖昧ですが、載ってましたね。有名なやつはね。
それも今回のやつに入ってます。 詩なので少しゆっくりめに読むと思います。
ということで寝落ちにはいいと思いますよ。
詩の朗読
文字数は 23,000字なので、1時間ちょいなんですけど、普通のペースだと
ゆっくり読みそうなので、1時間半ぐらいになるのかなという気がしています。
どうかお付き合いください。 それでは参ります。
一握の砂 函館なる彦宮崎大志郎君
同国の友文学師花明近大地共介君 この衆を涼君に捧ぐ
世はすでに世のすべてを涼君の前に示し尽くしたるもののことし したがって涼君はここに歌われる歌のいちいちにつきて最も多く知る人なるを信ずればなり
また一本を取りて亡き子真一に賜く この衆の後本を書紙の手に渡したるは何時の生まれたる朝なりき
この衆の功量は何時の役時となりたり しかしてこの衆の見本ずりを世の得したるは何時の仮装の夜なりき
著者 明治41年夏以後の作一千余衆衆より551衆を抜きてこの衆に治む
集中5章 環境の雷雨するところ愛地下記を訪ねて仮には勝てるのみ
秋風の心よさには明治41年秋の記念なり 我を愛する歌
東海の小島の磯の白砂に我泣き濡れて蟹と戯る 本に伝う涙のごわず一躍の砂を示し人を忘れず
大会に迎えて一人78日 泣きなんとすと家を入れにき
痛く寂しいピストル入れぬ砂山の砂を指もて 掘りてありしに人よさに嵐来たりて気づきたる
この砂山は何の墓園 砂山の砂に払い初恋の
痛みを遠く思い譲る日 砂山の裾に横たわる竜木にあたり見回し
もの言いてみる 命なき砂の悲しさよサラサラと握れば指の間より落つ
しっとりと涙を吸える砂の玉涙は重きものにしあるかな 大という字を100余り砂に書き死ぬことを止めて帰り来たれり
目を覚ましてなお起き出ぬこの癖は悲しき癖ぞ母よ咎むな 一暮れの土によだれし泣く母の似顔を作りぬ悲しくもあるか
おかげなき室に我あり父と母 壁の中より杖つきていず
戯れに母を背負いてその余り軽きに泣きて散歩歩まず 氷山と家を出ては氷山と帰りしくせよ友は笑えど
ふるさとの子の咳するたびに書く 咳のいずるや止めばはかなし我が泣くを乙女ら聞かば山犬の月にホイルに
だりと言うらむ いずくやらむかすかに虫の泣くごとき心細さを今日も覚える
糸くらき穴に心を吸われてゆくごとく思いで疲れて眠る 心よく我に働く仕事あれそれを仕遂げて死なんと思う
込み合える電車の隅に一時困る 夕べ夕べの我の愛しさ浅草の世の賑わいに紛れ入り
紛れ入れきし寂しき心 愛犬の耳切りてみぬ哀れこれもものに生みたる心にかあらん
鏡取りあたう限りの様々の顔をしてみぬ 泣き飽きし時涙涙不思議なるからそれをもて洗えば心をどけたくなれり
呆れたる母の言葉に気がつけば茶番を端もて叩き手ありき 草に寝て思うことなし我がぬかに
ふんして鳥は空に遊べり 我が髭の下向く癖が憤怒卸しこの頃憎き男に似たれば 森の奥より重声聞こゆ哀れ哀れ
自ら死ぬる音のよろしさ 大木の幹に耳当て小半日
片木川をばむしりてありき 鯖狩りのことに死ぬるや鯖狩りのことに行くるや
寄せ寄せ問答 稀にあるこの平なる心には時計の鳴るも面白く聞く
ふと深き恐れを覚えじっとしてやがて静かに舗装をまさぐる 高山の頂に上り何がなしに帽子を振りて下り来たしかな
どこやらにたくさんの人が争いてくじ引くことし 我も引き出し
怒る時必ず一つ鉢を割り 999割手品増し
いつも会う電車の中の子男の過度あるまなこ この頃気になる
鏡屋の前に来てふと驚きぬ 見すぼらしげに歩むものかも
何となく汽車に乗りたく思いしのみ 汽車を下りしに行くところなし
空き家に入りタバコ飲みたることありき 哀れただ一人いた気ばかりに
何がなしに寂しくなれば出て歩く 男となりて三月にもなれり
柔らかに積もれる雪にほてる方 渦むるごとき恋してみたし
悲しきは 悪なき利子の一年をもて余したる男にありけり
でも足も部屋いっぱいに投げ出してやがて 静かに置き換えるかな
桃と背の長き眠りの試し事あくびしてまし 思うことなしに
腕組みてこの頃思う大いなる敵目の前に 踊り入れよと
手が白くかつ大な力ひぼんなる人と 言われる男に愛しに
心よく人を褒めてみたくなりにけり 利子の心に埋める寂しさ
雨ふれば我が家の人誰も誰も沈める カオス雨晴れよかし
高き寄り飛び降りるごとき心もて この一生を終る術なきか
この日頃密かに胸に宿りたる 悔いあり我を笑わしめざり
閉雷を聞けば腹立つ我が心あまりに 我を知るが悲しき知らぬ家
叩き起こして逃げ来るが面白かりし 昔の恋しさ
ひぼんなる人のごとくに振る舞える 後の寂しさは何に肩組む
大いなる彼の体が憎かれき その前に行きて物を言うとき
リズムには役に立たざる歌人と 我を見る人に金借りにけり
遠くより笛の音聞こゆ唸られて あるゆえやらん涙流るる
それもよしこれもよしとてある人の その気軽さを欲しくなりたり
死ぬことを自薬を飲むがごとくにも 我は思えり心痛めば
道端に犬長々とあくび死ぬ 我も真似しぬ羨ましさに
真剣になりて竹持て犬を打つ 承二の顔をよしと思えり
大なもの重き唸りの心地よさよ 哀れこのごとく物を言わまし
氷菌のふさがなりし友の死顔の 青き疲れが今も目にあり
気の変わる人に仕えてつくづくと 我が世が嫌になりにけるかな
涼のごとく虚しき空に踊り出て 消えゆく煙見ればあかなく
心よき疲れなるかな息もつかず 仕事をしたる後のこの疲れ
空寝入り生あくびなどなぜするや 思うこと人に悟らせぬため
箸とめてふっと思いぬようやくに 世の習しになれにけるかな
朝早く今季を過ぎし妹の恋ぶみ めける文を読めりけり
しっとりと水をすいたる海面の 重さに至る心地覚ゆる
死ね死ねと己を怒りもだしたる 心の底の暗き虚しさ
獣めく顔あり口を開けたてす とのみ見ていぬ人の語るを
親と子と離れ離れの心もて静か に向かう気まずきや謎
かの船のかの航海の船客のひとり にてありき死にかねたるは
目の前の貸皿などをかりかりと 噛みてみたくなりぬもどかしき
かなよく笑う若き男の死にたらば 少しはこの世寂しくもなれ
何がなしに息切れるまで駆け出して 見たくなりたり草原など
新しき背広など着て旅をせんしかく 今年も思いすぎたる
ことさらに灯火を消してまじまじ と思いていしはわけもなきこと
浅草の両雲角の頂に腕組し日の 長き日記かな
尋常のおどけならんやナイフ持ち 死ぬまねをするその顔その顔
こそこその話がやがて高くなり ビストルなりて人生終わる
時ありて子供のように戯れす恋 ある人のなさぬ業かな
とかくして家をいずれば日光の 暖かさあり息深く吸う
疲れたる牛のよだれはたらたら と千万年もつきざるごとし
道端の霧石の上に腕組みて空を 見あぐる男ありたり
何やらん穏やかならぬめつきして 鶴橋を打つ群れを見ている
心より今日は逃げされり病やる 獣のごとき不平逃げされり
おほどかの心きたれり歩くにも 腹に力のたまるがことし
ただ一人仲間ほしさに来て寝たる 宿屋のヤグの心よさかな
友よさは小敷の癒さ糸をなかれ 飢えたるときは我もしかりき
新しきインクの匂いせん抜けば 飢えたる腹にしむが悲しも
悲しきは喉の渇きをこらえつつ よざむのヤグにじじ困るとき
一度でも我に頭を下げさせし人 みな死ねと祈りてしこと
我に二死友の二人を一人は死に 一人は牢をいでて今病む
感情の深淵
余りある妻を抱きて妻のため思い 煩う友を悲しむ
打ち明けて語りて何か損をせし ごとく思いて友と別れぬ
どんよりと曇れる空を見ていし に人を殺したくなりにけるかな
人並みの妻に過ぎざる我が友の 深き不平も哀れなるかな
誰が見ても取りどころなき男来て 威張りて帰りぬ悲しくもあるか
働けど働けどなお我が暮らし楽 にならざりじっと手を見る
何もかも行く末のこと見ゆるごとき この悲しみは拭いあえずも
とある日に酒を飲みたくてならん ごとく
今日我せちに金を掘りせり 水晶の玉を喜びもてあそぶ
我がこの心何の心ぞこともなく かつ心よく越えてゆく
我がこの頃の物足らんかな 大いなる水晶の玉を一つ欲し
それに向かいて物を思わん うぬぼるる友にあいづちうちて
いぬ 施をするごとき心に
ある朝の悲しき夢のさめ際に 鼻に入りきし味噌を煮るかよ
コツコツと空きしに石を刻む音 耳につききぬ家にいるまで
何がなしに頭の中に崖ありて 日ごとに土の崩るるごとし
遠方に電話の鈴の鳴るごとく 今日も耳鳴る悲しき日かな
赤じみし合わせの襟を悲しくも 故郷のくるみやくる匂いす
死にたくてならん時あり羽ばかり に一目を避けて小飽き顔をする
一体の兵を見送りて悲しかり 何ぞ彼らの憂い投げなる
国人の顔絶えがたく癒しげに 目に映る日なり家にこもらん
この次の休みに一日寝てみんと 思い過ごしぬ見とせこの方
ある時のわれの心を焼きたての パンに煮たりと思いけるかな
たんたらたらたんたらたらと 雨だれが痛む頭に響く悲しさ
ある日のこと部屋の正常を張り 変えぬその日はそれにて心なご
みきこうしてはおられずと思い 立西が表に馬の稲無岸まで
気ぬけして廊下に立ちぬあらら かにドアをおせしにすぐ空き屍
じっとして黒旗赤のインクすい 固く乾ける海面を見る
誰が見てもわれを懐かしくなる ごとき長き手紙を書きたき夕べ
うすみどり飲めば体が水のごと 透き通るてう薬は無きか
いつも睨むランプに飽きて三日 ばかり
ろうそくの火に舌しめるかな 人間の使わぬ言葉ひょっとして
われのみ知れるごとく思ふ日 新しき心を求めて名も知らぬ
町などきょうもさまよいてきぬ 友がみなわれより偉く見ゆる
日よ 花を買い来て妻と親しむ
何すればここにわれありや時に 書く
家をとろきて部屋を眺むる 人ありて電車の中に唾を吐く
それにも心痛まんとしき 夜明けまで遊びて暮す場所が欲しい
家を思えば心冷たし 人がみな家が持つという悲しみ
よ 墓にいるごとく帰りて眠る
何か一つ不思議を示し人みなの 驚く暇に消えんと思う
人という人の心に一人ずつ囚人 がいてうめく悲しさ
叱られてわっと泣き出す子供心 その心にもなりてみた気かな
盗むという事さえ足と思い得ぬ 心は悲し隠れがもなし
花垂れし女のごとき悲しみを 弱き男の感ずる日なり
庭石に旗と時計を投げ打てる 昔のわれの怒り愛しも
顔はかめ怒りし事があくる日は さほどにも泣き寂しがるかな
秋の心情
苛立てる心よなれば悲しかり いざいざ少しあくびなどせん
女あり我が言いつけにそむかじ と心を砕くみれば悲しも
不甲斐なき我が日の下の女らを 秋雨のように罵りしかな
男と生れ男と混じり負けており 軽がゆえにや秋が身にしむ
我が抱く思想を忘れて金なきに 因する事し秋の風吹く
くだらない小説を書きて喜べる 男哀れなり初秋の風
秋の風今日よりはかのふやけたる 男に口を聞かじと思う
果ても見えぬまっすぐの街を歩む ごとき心を今日は持ち得たるかな
何事も思う事なく忙しく暮らせ し一日を忘れじと思う
何事もかねかねと笑い少しへて またもにわかに不平つのりく
他そ我にピストルにても撃てよかし 伊藤のごとく死にてみせなん
やとばかり桂首相にて取られし 夢みて覚めぬ秋の夜の二時
煙一病のごと至強の心湧く日なり 目に青空の煙かなしも
ふるさとへの思い
小野が尚ほのかに呼びて涙せし 十四の春に帰る術なし
青空に消えゆく煙さびしくも 消えゆく煙我にし煮るか
彼の旅の汽車の車掌がゆくりなくも 我が中学の友なりしかな
ほとばしるポンプの水の心地よさよ しばしは若き心もてみる
死も友も知られせめにき謎に煮る 我が学業の怠りのもと
教室の窓より逃げてただ一人 かの城跡に寝に行きしかな
小塚田のお城の草に寝ころびて 空にすわれし十五の心
悲しみといわば言うべきものの味 我のなめしはあまりに早かり
晴れし空仰げばいつも口笛を 吹きたくなりて吹きて遊びき
夜寝ても口笛吹きぬ口笛は 十五の我の唄にしありけり
よくしかる死ありきひげのにたる より
ヤギと名づけて口真似もしき 我と共に小鳥に石を投げて遊ぶ
交尾大儀の子もありしかな 城跡の石に腰かけ金星への
好みを一人味わいしこと その後に我を捨てし友もあのころ
は 共に踏み読み共に遊びき
学校の図書蔵の裏の秋の草 気なる花咲きし今もな知らず
花散ればまず一先に四郎の服 着て家いずる我にてありしか
今は亡き我の恋人の弟と 仲良くせしを悲しと思う
夏休み果ててそのまま帰りこぬ 若き英語の教師もありき
ストライキ思い入れても今は早 わが血踊らず密かに寂し
森岡の中学校のバルコンの手すり にもう一度我を寄らしめ
神ありと言い張る友を時伏せし 彼の道端の栗の木の下
西風に内丸王子の桜の葉笠こそ 塵を踏みて遊びき
その神の哀独の諸余多方は今は 流らずなりにいけるかな
石一つ坂を下るが如くにも我 今日の日に至り尽きたる
憂いある少年の目に羨みき小鳥 の飛ぶを飛びて歌うを
ふわけせし御水の命も悲しかり かの皇帝の木柵の下
限りなき知識の欲に燃ゆる眼を 姉は痛みき一恋振るかと
双方の章我にすすめしとも早く 功を知りづきぬ貧しさのため
おどけたる手をつきお菓子と我の 身はいつも笑いき白額の詩を
詩が際に身を過ちし人のこと語り 聞かせし詩もありしかな
その神の学校一の怠け者今は真面目 に働きており
田舎めく旅の姿を三日ばかり都 に晒し帰るともかな
薔薇島の松の並木の街道を我と 行きし乙女妻を頼みき
目をやみて黒き眼鏡をかけし頃 その頃よ一人泣くを覚えし
我が心今日もひそかに泣かんと すとも皆己が道を歩めり
先んじて恋の甘さと悲しさを知り し我なり先んじて追ゆ
今日来たればとも涙垂れ手を振り て酔いどれの如くなりて語りき
人込みの中を分け来る我が友の 昔ながらの太き杖かな
身よげなる年賀の文を書く人と 思い過ぎに来見とせばかりは
夢醒めてふっと悲しむ我が眠り 昔の如く安からんかな
その昔秀才の名の高借りし友老 にあり秋の風吹く
近目にておどけしい歌を読み入れ し
茂雄の恋も悲しかりしか我が妻の 昔の願い音楽のことにかかりき
今は歌わず友は皆ある四方に知り 行ぬ
その後やとせ名挙しもなし我が 恋を初めて友に打ち明けし
夜のことなど思い譲る日糸切れし 多古の如くに若き日の
心軽くも飛び去りしかな
ふるさとのなまり懐かしい停車場 の人ごみの中にそう聞きに行く
病ある獣の如き我が心ふるさと のこと聞けばおとなし
ふと思うふるさとにいて日ごと 聞きし
雀の鳴くを見とせ着飾り
友と恋の回想
亡くなれる死がその昔給いたる 塵の本など取り入れてみる
その昔小学校の正屋根に我が投げ しまりいかにかなりけむ
ふるさとの他の道端の捨て石よ 今年も草に渦漏れ知らん
別れ居れば妹愛しも赤木用の下 田など星と喚くこなりし
二日前に山の絵見しが今朝になり て
にわかに恋しふるさとの山
飴売りのチャルメラ聞けば失いし 幼き心拾えるごとし
この頃は母も時々ふるさとのこと を言い出ず秋に入れるなり
それとなく国のことなど語り入れて 秋のように焼く餅の匂いかな
かにかくに渋谷村は恋しかり思い出 の山思い出の川
田も畑も売り手酒飲み滅びゆく ふるさと人に心よする日
哀れかの我の教えし子らもまた やがてふるさとを捨てていずる
らん
ふるさとを入れきし子らの愛相手 喜ぶに勝る悲しみはなし
石をもて終るるごとくふるさと を入れし悲しみ消ゆる時なし
柔らかに柳あおめる北上の岸辺 目に見ゆ泣けとごとくに
ふるさとの孫威の妻のつつましき 串巻なども懐かしきかな
かの村の陶器所に来てはいやみて まもなく死にし男もありき
小学の主席を我と争いし友の営む 基鎮宿かな
千代じらも長じて恋し子をあげぬ 我が旅にしてなせしごとくに
ある年の盆の祭りに絹かさん踊る といいし女を思う
うすのろの兄と片輪の父もてる 三太は悲し夜も踏みよむ
我と共に栗毛の小馬走らせし母の 亡き子の盗み癖かな
大型の皮膚の模様の赤き花今も 目に見ゆむつの日の恋
その名さえ忘られし頃氷山とふる さとに来て咳せし男
意地悪の大工の子なども悲しかり 戦に出しが生きて帰らず
肺をやむ極童子主の僧侶の嫁取り の日の春の来かな
宗次郎にお金が無きて久時おり 大根の花白き夕暮
正針の役場の初期の木の触れし 噂に立てるふるさとの秋
我がいとこ野山の狩りに飽き死の 地
酒飲み家売り病みて死にしかな ファリ行きて手を取れば泣きて
静まりき酔いて暴れしその神の友 酒飲めば刀を抜きて妻を追う
教師もありき村を追われき 年ごとに肺病病みの増えてゆく
村に迎えし若き医者かな 蛍がり川に行かんという我を
山路に誘う人にてありき 馬齢書の薄紫の花にふる
雨を思えり都の雨に 哀れ我がノスタルジアは金のごと
心に照れり清くしみらに 友として遊ぶものなき小悪の
巡査の子らも哀れなりけり 艦小鳥泣くひとなれば怒るという
友の病の如何になりけん 我が思うこと多方はただしかり
ふるさとの頼りつける明日は 今日聞けば彼の幸薄き山目人
汚き恋に身を射るという 我が為に悩める玉を沈めよと
賛美歌唄う人ありしかな 哀れ我の男の如き魂よ今は何処
に何を思うや 我が庭の白き筒子を薄付きの世に
折り行きし事な忘れそ 我が村に初めて言えすクリストの
道を解きたる若き女かな 霜深き黄魔の腹の停車場の朝の
虫こそすずろなりけり 汽車の窓遥かに北にふるさとの
山見えくれば襟をたたすも ふるさとの土を我が踏めば何が
なしに 足軽くなり心おもれり
ふるさとに入りてまず心痛むかな 道広くなり橋も新しみも知らぬ
女教師がその髪の我が学び屋の 窓に立てるかな
彼の家の彼の窓にこそ春のよう 秀子と共に河月ひけれ
その髪の振動の名の悲しさよ ふるさとに来て泣くはそのこと
ふるさとの停車場道の川端の くるみの下に小石ひろえり
ふるさとの山に向かえて云う事なし ふるさとの山はありがたきかな
秋風の心よさにふるさとの空 遠みかも高き矢に一人上りて
憂いて下るこうとして珠を欺く 精進も秋悔いというにものを思
えり 悲しきは秋風ぞかし稀に飲み
わきし涙の滋に流るる 青にすく悲しみの珠に枕して
松の響きを世もすがら聞く 神寂しい七山の杉日のごとく
染めて日入りぬ静かなるかな そう読めば憂い知るというふみ
たける 古人の心よろしも
物なべて浦はかなげに暮れゆきぬ 取り集めたる悲しみの日は
水たまり暮れゆく空と暮れない の日も浮べぬ秋さめの後
秋たつは水にかもにる現れて 思い事ごと新しくなる
憂いきて丘に登れば名も知らぬ 鳥ついばめり赤き薔薇の実
秋の辻四筋の道の御筋へと吹き ゆく風の跡見えずかも
秋の声まずいち早く耳に入る かかるさが持つ悲しむべかり
眼になれし山にはあれど秋来れば 神休まんと賢みてみる
我が名さん事世に尽きて長き日を 各種も哀れ物を思うか
さらさらと雨落ち来たり庭の物 濡れゆくを見て涙忘れぬ
ふるさとの寺の未老に踏みにける お串の蝶を夢に見しかな
試みにいとけなき日の我となり 物言いてみん人あれと思う
はたはたときびの離れるふるさと ののきば懐かし秋風吹けば
すれあえる方の暇より二十日にも 幹というさえ幹に残れり
宮陽は今も昔も淡雪の玉でさしま く夜にしお揺らし
かりそめに忘れてもみまし石畳 春おうる草に埋もるるがごと
その昔ゆりかごに寝て余たたび 夢に見し人かせつに懐かし
かんな月岩手の山の初雪の 眉に迫りし朝を思いぬ
ひでり雨さらさら落ちて千載の 秋のすこしく見られたるかな
秋の空閣僚として影もなしあまりに 淋し
カラスなど飛べうごの月ほどよく 濡れし屋根がわらの
そのところどころ光る悲しさわれ 飢えてある日に穂先大振りて
飢えてわれを見る犬のつらよし いつしかに
泣くということを忘れたるわれ 泣かしむる人のあらじか
黄泉としてああ酒の悲しみぞ われに来たれる立ちてまいなむ
いとど泣くその傍らの石に気をし 泣き笑いしてひとり物言う
力なくやみし頃より口すこし 飽きて眠るが癖となりにき
人ひとり潤に過ぎざることをもて 対岸とせし若き過ち
ものえずるその柔らかき上目をば めずとことさらつれなくせんみや
かくばかり熱き涙は初恋の日にも ありきと泣く日またなし
長く長く忘れし共に逢うごとき 喜びをもて水の音を聞く
秋の夜の鋼の色の大空に火を吐く 山もあれなど思う
岩手山秋はふもとの散歩をの のにみつる虫を何と聞くらん
父のごと秋はいかめし母のごと 秋はなつかしいえ持たぬ子に
秋くればこうる心のいとまなさよ よもい寝がてにかり多く聞く
長月も半ばになりぬいつまでか かくも幼くうちいでずならん
思うということいわぬ人のおくり きし忘れなぐさもいちじろかり
し 秋の雨に酒ぞりやすき弓のごと
このごろ君のしたしまぬかな 松の風よひる響きぬ人問わぬ
山のほこらの石馬の耳に ほのかなるくちきの香りそがなか
の 竹の香りに秋ややふかし
しぐれふるごと木落として小鶴 たいぬ人によくにし森の猿ども
森のおく遠き響きす木のうろに 薄ひく種樹の国にかもきし
世のはじめまず森ありて半身の 人そがなかに火や守りけん
はてもなく砂打ちつづく御火の野 に
積みたまう神は秋の神かも 雨土にわが悲しみと月光と
あまねき秋の夜となれりけり 裏がなしき夜の物の音漏れくる
を 広がごとくさまよいゆきぬ
旅のこのふるさとにきてねめる がに
詩の導入と啄木の感情
ぎに静かにも冬のきしかな 忘れがたき人びと
1 潮かおる北の浜辺の砂山の
かのはまなすよ今年も避けるや 頼みつる年の若さを数えみて指
を見つめて旅がいやになりき 見たびほど汽車の窓より眺めたる
町の名などもしたしかりけり 函館の床屋の弟子を思いいでん
耳そわせるが心よかりし わが跡を追いきて知れる人もなき
へんどにすみし母と妻かな 船によいて優しくなれる妹の
めみうつがるの海を思えば 目を閉じて正真の句をずしていし
友の手紙のおどけかなしも 幼きとき橋の欄間に草塗りし
かなしも友は悲しみてしき おそらくは生涯つもあを迎え
じと笑いし友よ今もめとらず 哀れかの眼鏡の縁をさびしげに
ひからせていし女きをしよ 友われに飯を与えきその友に
そめきしわれのさがの悲しさ 函館の青柳町こそ悲しけれ
友の恋唄やぐるまの花 ふるさとの麦の香りを懐かしむ
女の眉に心ひかれき 新しき洋書の紙の顔をかぎて
一途に金を欲しと思いしが 白波の寄せてさわげる箱立ての
大森浜に思いしことども 朝な朝な品の俗歌を歌いいずる
枕時計をめでし悲しみ 漂白の憂いを除してならざりし
倉庫の字の読み方さかな いくたびかしなんとしてはしなざりし
我が越し方のおかしく悲し 箱立ての牡牛の山の反復の
日の唐歌も半ば忘れぬ むやむやと口の中にて尊げの
ことをつぶやく小敷もありき 取るにたらん男と思えというごとく
山に入りにき神のごときとも 巻煙草口にくわえて波あらき
磯のよぎりに立ちし女よ 演習の暇にわざわざ汽車に乗りて
問いきし友と飲める酒かな 大川の水の表を見るごとに
行くうよ君の悩みを思う知恵と その深き慈悲とを持ちあぐみ
なすこともなく友は遊べり 志得ぬ人々の集りて酒のむ場所が
我が家なりしかな 悲しめば高く笑いき酒をもて
門をげすという年上の友 若くして酢人の父となりし友
こう泣きがごとく酔えば歌いき さりげなき高き笑いが酒とともに
我が腹渡にしみにけらしな あくびかみ夜汽車の窓に別れたる
別れが今は物足らんかな 雨にぬれし夜汽車の窓に移りたる
山あいの町の灯火の色 雨強く降る夜の汽車の絶え間なく
しずく流れる窓ガラスかな 真夜中のくっちゃん駅に降り行きし
女のびんの古き傷跡 札幌にかのわき我のもて行きし
しかして今ももてる悲しみ アカシアの並木にポプラに秋の
風 服が悲しとにきに残れり
しんとして幅広き町の秋の夜の トウモロコシのやくる匂いを
我が宿の姉と妹の居酒屋に 所屋杉行し札幌の雨
石狩りの美国といえる停車場の 柵に干してありし赤き桐かな
悲しきは小樽の町を唄うこと 亡き人々の声のあらさよ
泣くがごと首ふるばせて手の層 を見せよと云し駅舎もありき
いささかの銭借りて行きし我が 友の後姿の肩の行きかな
夜あたりのつたなきことをひそ かにも誇りとしたる我にはあらん
名がやせし身体はすべて無本気 の塊なりと云われてしこと
かの年のかの新聞の初行きの記事 を書きしは我なりしかな
椅子をもて我を唄んと身構えし かの友の酔いも今はさめつらん
曲げたるも我にてありき争いの もとも我なりしと今は思えり
殴らんと夕に殴れと爪よせし昔の 我の愛おしきかな
なれ見たびこの喉に剣を擬したり と彼国別の字に云えりけり
争いて痛く憎みて別れたる友を 懐かしく思う日も来ぬ
哀れかの眉の飛出し少年よ弟と 呼べば二十日に笑みしが
我が妻に着物縫わせし友ありし 冬早く来る植民地かな
平手もて吹雪に濡れし顔を拭く 友共産を主義とせりけり
酒飲めば鬼の如くに仰かりし大いなる 顔よ悲しき顔よ
空太に入り手新しき宗教を始めん と云う友なりしかな
収まれる世の事なさに飽きたり と云いし頃こそ悲しかりけれ
共同の薬や開き儲けんと云う友なり き詐欺せしと云う
青白き頬に涙を光らせてしおば 語りき若き秋人
こう置いて雪の吹き入る停車場 に我見送りし妻の眉かな
敵として憎みし友とやや長く手 おば握りき別れと云うに
揺るぎずる汽車の窓より一先に 顔を引きしも負けざらんため
故郷への思い
見ぞれふる石狩野の汽車に読みし 鶴毛えねふの物語かな
我がされるのちの噂を思いやる 旅では悲し死にに行く事
別れきてふと瞬けばゆっくり泣く 冷たき者の頬を伝えり
別れきし煙草を思うゆけどゆけど 山のおとおき雪の野の汽車
薄赤く雪に流れて入日陰荒野の 汽車の窓を照らせり
腹すこし痛み出しをしのびつつ 長路の汽車に飲む煙草かな
乗り合いの砲兵士官の剣の鞘 がちゃりとなるに思いやぶれき
名のみ知りて縁もゆかりもなき 土地の
宿屋やすけし我が家の事
すれなりし彼の大義手の口あける 青き寝顔を悲しと思いき
今夜こそ思う存分泣いてみんと 泊まりし宿屋の茶のぬる魚
水蒸気列車の窓に花のごといて しおそむるあかつきの色
豪となる小枯らしの後河来たる 雪まいたちて林をつめり
空ちがは雪に埋もれて鳥も見えず 岸辺の林にひとひとり行き
石墨をてきとしともとし雪の中に 長き一生を送る人もあり
いたく汽車につかれてなおもきれ ぎれに思うわ我の愛しさなりき
歌うごと駅の名呼びし乳はなる 若き駅夫の眼をも忘れず
雪の中しょしょに屋根見えて 煙突のけむり薄くも空に迷えり
遠くより笛ながながと響かせて 汽車いまとある森林にいる
何事も思うことなく日一日汽車 の響きに心をまかせぬ
最果ての駅に降り立ち雪あかり 淋しき町に歩み入りにき
しらしらと氷かがやき一どり泣 く
くしろの海の冬の月かな氷たる インクの瓶を火にかざし
涙ながれぬ灯火のもと顔と声それ のみ昔に変わらざる
共にも合いき国の果てにて哀れ かの国の果てにて酒飲みき
悲しみの檻をすするごとくに 酒飲めば悲しみ一時にわきくる
寝てゆみみんをうれしとわせし 出しぬけの女の笑い身にしみき
栗屋に酒の凍る真夜中我が酔い に心痛めて歌わざる女ありし
がいかになれるや子やっこと伊志 女の柔らかき耳たぼなども忘れ
がたかり寄りそいて深夜の雪の 中に立つ女の目ての温かさかな
死にたくはないかといえばこれを 見よとのんどの傷を見せし女かな
芸事も顔も彼より優れたる女足 様に我を言えりとか
前といえば立ちて毎日おのずから 握手の酔いにたうるるまでも死ぬ
ばかり我が酔うを待ちていろいろ の悲しき事をささやきし人いか
にせしといえば青白き酔いざめ の表に敷いて笑みを作りき悲しき
はかの白玉のごとくなる腕に残 せしキスの跡かな酔いて我がうつ
むく時も水ほしと眼ひらく時も 呼びしななりけり火をしたう虫
のごとくに灯火の明るき家に通い なれにききしきしと寒さに踏め
ば板きしむ帰りの廊下のふいの 口づけその膝にまくらしつつも
我が心思いしはみな我のことなり さらさらと氷のくずが波になる
いその月夜のゆき帰りかな死にし とかこの頃聞きぬ恋がたきさい
あまりある男なりしがととせまえ に作りしという唐歌をいわえば
唱えき旅に追いしとも数ごとに 花がぴたりと凍りつく寒き空気
を吸いたくなりん波もなき二月 のわんに白ぬりの外国線が低く
浮べりさみ線の糸のきれしを果樹 のごと騒ぐ小ありき大雪のように
神のごと遠く姿をあらわせるあかん の山の雪の明物国にいてみなげ
せしことありという女のさみに 唄える夕べエビ色の古き手帳に
残りたるかの相引きの時とところ かな汚れたる度吐く時の気味悪き
思いに至る思い出もあり我が部屋 に女なきしを小説の中のことか
と思いいずる日老闘さ長くも声 をふるわせて唄うが如き旅なり
しかな
二いつなりけん夢にふと聞きて 嬉しかりしその声もあわれ長く
聞かざり穂の寒き琉璃の旅の人 として道とぐほどのこといいし
のみさりげなくいいし言葉はさり げなく君も聞きつらんそれだけ
のこと冷ややかに清きな名刺に 春の日の静かに照はかかる思い
にならん世の中の明るさのみを 吸うごとき黒き瞳の今も眼にあり
かの時に言いそびれたる大切の 言葉は今も胸に残れど真白なる
ランプの傘の傷のごと琉璃の記憶 消しがたきかな箱立てのかの焼け
跡を去りし世の心残りを今も残 しつ人が云う瓶のほつれのめで
たさを物書く時の君に見たりし バレー書の花咲く頃となれりけり
君もこの花を好きたもうらん山の 子の山を思うが如くにも悲しき
時は君を思えり忘れおればひょっと したことが思い出の種にまたなる
忘れかねつもやむと聞き家しと 聞きて四百里のこの他に我はう
つつ泣かりし君ににし姿を町に 見る時の心踊りをあわれと思え
彼の声をもう一度聞かばすっきり と胸やはれむと今朝も思える忙しき
暮らしの中の時よりのこの物思い 誰のためぞもしみじみと物討ち
語る友もあれ君のことなど語り いでなむ死ぬまでに一度会わんと
云いあらば君もかすかにうなず くらむか時として君を思えばやす
かりし心にはかに騒ぐ悲しさ別れ きて年を重ねて年ごとに恋しく
なれる君にしあるかな石狩の都の 外の君が云えりんごの花の散り
てやあらん長き文見とせのうちに 見たび聞ぬ我の書きしはよたび
にかあらん手袋を脱ぐ時手袋を 脱ぐてふとやむ何やらん
心かすめし思い出のありいつしかに 情を偽ること知りぬひげを立てし
もその頃なりけん朝の湯の湯船の 淵にうなじのせゆるく息する物
思いかな夏くればうがいぐすりの 病ある歯にしむ朝のうれしかり
けりつくづくと手を眺めつつ思い 出んキスが上手の女なりしが
淋しきは色にしたしまん眼のゆえ と赤き花など買わせけるかな
新しき本を書きて読む余波のその 楽しさも長く忘れん
旅なのか帰りきぬれば我が窓の 赤きインクのしみも懐かし
古文書の中に見出し汚れたるすい 取り紙を懐かしむかな
手にためし雪のとくるが心地よく 我が寝飽きたる心にはしむ
うすれゆく少女の日陰そうを見つつ 心いつしか暗くなりゆく
ひやひやと世は薬の蚊の匂う 医者の住みたる後の家かな
窓ガラス塵と雨とにくもりたる 窓ガラスにも悲しみはあり
むとせほど日ごと日ごとにかぶり たる古き帽子も捨てられんかな
心よく春の眠りをむさぼれる 目に柔らかき庭の草かな
赤レンガ遠く続ける高部への紫 に見えて春の日流し
春の雪銀座の裏の三階のレンガ づくりに柔らかにふる
汚れたるレンガの壁に降りて溶け 降りては溶くる春の雪かな
目をやめる若き女の寄りかかる窓に しめやかに春の雨ふる
新しき木の香りなど漂える深海町の 春の静けさ
春の町土上にかける女名の門札などを 読みやりくかな
そことなくみかんの皮のヤクルごとき 匂い残りて夕べとなりぬ
賑わしき若き女の集まりの声聞き 生みて寂しくなりたり
どこやらに若き女の死ぬごとき 悩ましさあり春の溝れふる
コニャックの酔いの跡なる柔らかき この悲しみのすずろなるかな
白き皿拭き手は棚に重ね入る 酒場の隅の悲しき女
乾きたる冬の王子のいずくやらん 石炭酸の匂いひそめり
赤々と入り火うつれる川端の 酒場の窓の白き顔かな
新しきサラドの皿の酢の香り 心しみて悲しき夕べ
空色の瓶よりヤギの血を継ぐ 手の古いなど愛し借りけり
姿見の息の曇りに消されたる 酔い潤みのまみの悲しさ
石川啄木の詩の世界
人しきり静かになれる夕暮れの 栗屋に残るハムの匂いかな
冷ややかに瓶の並べる棚の前 歯せせる目を悲しとも見き
やや長きキスをかわして別れきし 深夜の町の遠き火事かな
病院の窓の夕べの炎じらき 顔にありたる淡き見覚え
いつなりしかかの大川の湯泉に 毎し女を思い出にけり
ようもなき文など長く書きさして ふと人恋し町に出てゆく
湿らえる煙草を吸えばおおよその 我が思うことも軽く湿り
鋭くも夏の来たるを感じつつ 雨後の小庭の土の香を嗅ぐ
涼しげに飾り立てたるガラス屋の 前に眺めし夏の夜の月
気にくると夕に溶く大きい白シャツの 袖の汚れを気にする日かな
落ちつかぬ我が弟のこの頃の目の 潤みなど悲しかりけり
どこやらに杭打つ音し大桶を転がす 音し雪降り出ぬ
人気なき世の事務室にけたたましく 電話の鈴の鳴りてやみたり
目覚ましてややありて耳に入り来たる 真夜中すぎの話し声かな
見ておれば時計止まれり座るるごと 心はまたも淋しさにゆく
朝朝のうがいの城の水薬の瓶が 冷たき秋となりにけり
なだらかに麦の仰める丘の根の 小道に赤きお串ひろえり
浦山の杉風の中にまだらなる日陰 入る秋の昼過ぎ
港町とろろと泣きて輪を描く 飛びをあすせる潮曇りかな
小春日の雲ガラスにうつりたる 鳥かげを見てすずろに思う
人ならび泳げるごとき家々の 高ひくの軒に冬の日の舞う
京橋の滝山町の新聞社 日ともる頃の忙しさかな
よく怒る人にてありし我が父の 日ごろ怒らず怒れと思う
朝風が電車の中に吹き入れし柳 の一葉手に取りてみる
ゆえもなく海が見たくて海に生きぬ 心痛みてたえがたき日に
平なる海につかれてそむけたる 眼をかき乱す赤き帯かな
今日愛し町の女のどれもどれも 声にやぶれて帰るごとき日
汽車の旅とあるの中の停車場の 夏草の花のなつかしかりき
朝まだきやっと間に合いし初秋 の旅での汽車のかたきパンかな
彼の旅の夜汽車の窓に思いたる 我が行く末の悲しかりしかな
ふと見ればとある林の停車場の 時計止まれり雨の夜の汽車別れ
きて明かりおぐらき夜の汽車の 窓にもてあそぶ青きりんごよ
いつも来るこの酒店の悲しさよ 夕日赤々と酒に差し入る
白きはす沼に柵ごとく悲しみが 酔いの間にはっきりと浮く
壁越しに若き女の泣くを聞く 旅の宿屋の秋のかやかな
取り入れし小僧の合わせの懐かしき 匂い身にしむ初秋の朝
気にしたる左の膝の痛みなどいつ か治りて秋の風吹く
うりうりて手赤汚きドイツ語の 辞書のみ残る夏の末かな
ゆえもなく憎みし友といつしかに 親しくなりて秋の暮れゆく
赤髪の拍子手ずれし黒巾の踏み を氷の底にかざす日
売ることをさしとめられし本の 著者に道にて会える秋の朝かな
今日よりはわれも酒など煽らん と思える日より秋の風吹く
大海のその片隅につられ鳴るしま じまの上に秋の風吹く
うるみたる目と目の下のほくろ のみいつも目につく友の妻かな
いつ見ても毛糸の玉をころがして 靴下を編む女なりしが
エビ色の長い巣の上に眠りたる 猫ほのじらき秋の夕暮れ
細々とそこらそこらに虫の鳴く 昼の野に来て読む手紙かな
夜遅く戸をくり寄れば白きもの 庭を走れり犬にやあらん
夜の二時の窓のガラスを薄赤く 染めて音なき果樹の色かな
哀れなる恋かなと一人つぶやき て与葉の日よけに澄み添えにけり
真白なるランプの傘に手を当てて 寒き夜にする物思いかな
水のごと体を浸す悲しみにネギ の皮などのまじれる夕べ
時ありて猫の真似などして笑う 味噌汁の友の一人済かな
清はなる石膏のごとく恐れつつ 深夜の街を一人散歩す
皮膚がみな耳に手ありきしんとして 眠れる街の重き靴音
夜遅く停車場に入り立ちすすわり やがて出行きん坊を泣き男
日がつけばしっとりと夜霧降りて おり長くも街をさまよえるかな
もしあらば煙草めぐめと寄りて くる
後なし人と深夜に語る 荒のより蛙ごとくに帰りきぬ
東京のよう一人歩みて 銀行の窓の下なる敷石の下にこぼ
れし青インクかな ちょんちょんととある小屋部に
頬じろの遊ぶを眺む雪の矢の道 十月の朝の空気に新しく息すい
染めし赤んぼのあり 十月の三病院の湿りたる長き廊下
の雪帰りかな 紫の袖たれて空を見上げいるしな
びとありき公園の午後 幼子の手触りのごとき思いやり
公園に来て一人歩めば 久しぶりに公園に来て共に会い
固く手握り口戸に語る 公園のこの間に小鳥遊べるを眺めて
しばしいこ行けるかな 晴れし日の公園に来て歩みつつ
我がこの頃の小鳥絵を知る 思い出の蚊のキスかとも驚きぬ
プラタルの葉の尻手触れしよ 公園の隅のベンチに二度ばかり
見かけし男この頃見えず 公園の悲しみよ君のと継ぎ手より
すでに七月帰しこともなし 公園のとある木陰のステイスに
思いやまりて身をば寄せたる 忘られぬ顔なりしかな今日を待ち
に 堀に惹かれてえめる男は待ちすれば
二尺ばかりの明るさの中をよぎ れる白き画のあり目を閉じて口笛
かすかに吹きてみぬ 寝られぬ夜の窓にもたれて我が
友は今日も母なき子を置いて 彼の城跡にさまよえるかな夜
遅く勤め先より帰りきていま死に してゆ子を抱けるかな二人越え
今はの際にかすかにも亡き死という に涙さそわる真っ白なる大根の
根のこゆる頃生れてやがて死に しこのありおそわきの空気を散
着し方ばかりすいて我が子の死に 行きしかな死にしこの胸に注射
の針を刺す医者の手元に集まる 心そこ知れぬ謎に向いてある如し
死時の額にまたも手をやる悲しみ の強く至らぬ淋しさよ我が子の
体冷えてゆけども悲しくも夜は 来るまでは残りいぬ生き切れし
この肌のぬくもり1967年発行周詠 写日本文学全集12国木田どっぽ
石川徳木集より独りを読み終わり です
500いくつの句を全部読み上げました はい好きなやつがね前の方にあったん
だけどどれだったか忘れたな どれでしたかね最後このなんか知って
切り取り切り取りだからわかんない けど続けて同じ人の死を続けて
もと歴史が垣間見えていいですね そっか
息子さんなくなっちゃったんだね 序文に言ってますもんね序盤にまた
1本を取りて亡き子真一に貯むく と言ってますね
その後 この刺繍の
出版社に渡したき渡した時は君の生まれ た朝だったねそれから出版量は君の
薬に対等だったね それからこれを見本釣りが出た時は
君の仮装の夜だったねというのを最初に 言ってますね
寂しいねー どれだったかな僕好きだったやつ
ちょっと探していきます序盤の方だったんだ けどこれだったかなぁ
なんか読み下しててをと思ったのはこれ だったような気がします
死にたくてならん時あり歯ばかりに一目を 避けて怖き顔をする
はいこれだったような気がします 居酒屋に行って
一人トイレに行って 用たしたと鏡の前で自分と対面する
ときあるじゃないですか彼はにも前の自分 とその時
いつもと違う顔をしてみるのわかるな と思ってね
トイレに行ってやっぱり みんなの前で見せている顔と
こう内面的な内面の自分と向き合う時と みたいなこう切り替えてスイッチ
シャシャっとやってっていうのがまあこれは あるよねという感じがしますね
石川拓僕って自殺なの ちょっと調べてこよう
違いました結核により満26歳で死亡2と 書いてありましたなるほど若くしてなく
ちょいちょいキスが出てきたなぁ ねぇキスを歌にしてましたねー
色男ですね
そうですか はい
有名なくがいくつか混ざっていたと思います が
全部をちょっとねさらうってことはなかった と思うので
いい経験をさせてまいりました皆さんも そのように感じていただければとても嬉しい
です それから区と区の間に間がすごくあるたっ
ぷり取りましたので眠くなったんじゃない でしょうか
1時間半で終わるかなと思ったら文字数的 には1時間で終わるようなんですよ
山区と区の間の間を通るから1時間半かな と思ったらまあ結局に時間かかってますね
えっ よっしゃ
内面的葛藤と悲しみ
ということで終わりにして参りましょうかね 味はいかがだったでしょうか
無事に落ちてきた方も最後までお付き合い いただけた方も大変にお疲れ様でしたと
いったところで今日のところはこの辺で また次回お会いしましょう
おやすみなさい